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おっさん、迷宮に挑む⑭
しおりを挟む「ふむ……やはりな。
再転移先は各階層の開始点になるのか」
翌朝。
昨晩宴会後に快眠――美味しい朝食を頂き準備を整えた俺達は、ハイドラントの見送りの下、降魔の塔攻略への探索を開始した。
天空ダンジョンともいうべきこの塔への侵入方法は非常に限られており、転移の魔法陣を生み出す鈴型魔導具以外は皆無と言っても過言ではない。
ここでネックになっていたのが、もし再アタックを仕掛けた場合、どこに転移するのだろうかという事だ。
融通が利かない仕様ならダンジョンの出発点、草原エリアだろう。
気が利いた仕様なら既に攻略済みの階層まで転送してくれるだろうが……
実はここで怖い落とし穴が一つあったのだ。
単純に各階層のスタート地点に戻されるならいい。
意外と思われるかもしれないが、冒険者にとって一番厄介なのは――転移をした地点に再度戻れる仕様なのだ。
何故かといえば答えは明白で、余力があってその場を脱したのなら問題はないのだが……偶に緊急避難的に転移を決行しなくてはならないケースがあるからだ。
モンスターハウスで逃げ場がない時や、全滅を免れないような凶悪な罠に嵌った場合などがこれに該当する。
すると――どうなるか?
若干のコンディション差はあるも、勿論同じ目に遭うのだ。
俗に言うリスタートキルというヤツである。
こうなると詰みの状態であり、最早どうしようもない。
大人しく攻略を諦めるか力技で強引に乗り切るかの二択になる。
なのでこうやって第二階層の開始点へと戻って来れたのは、費やした攻略時間の無駄を気にしなければ幸運な方だ。
それに今回は前回の反省を踏まえた秘密道具がある。
「ぱんぱかぱ~ん♪
お手軽簡単、伸縮自在脚立ぅ~」
迷路ともいうべき城塞エリアの出発点。
レイナに頼んで急いで用立てしてもらった物を設置する俺。
場の雰囲気を盛り上げようと明るく言ったのに何故か三人の眼が冷たい。
はて、蔑みを超えて憐みすら感じるぞ。
心なしか俺を見上げるルゥの視線すら死んでる気がする。
お、おかしいな……
昨日頑張ってあれほど好感度を上げたのに反映されていない気が……
はっまさか――これが北方地域における伝説、氷雪の魔狼ことフェンリルの隠された力なのか!?(違います)
場の雰囲気を変える為に咳払いを一つし、設置具合を確かめる。
溶接部も上手く稼働しており荷重が掛かっても不具合はなし。
これなら俺達が乗っても問題なさそうだ。
「よし、じゃあ試してみるか?」
「その前にガリウス――
ひとつだけいい?」
「何だ、リア?」
「正気?」
「失礼な奴だな、お前は。
昨日ちゃんと説明しただろう?」
「確かに概要の説明は受けた。
けど、こんな方法は聞いてない――」
「飛行呪文による移動は無数にある射撃装置の的にしかならない。
かといって通常通り攻略してこの迷路の様な城塞を抜けるのは骨だ。
狭いので殲滅系の魔術は使いづらく――先が見えないからいつ会敵するのか気が休まらない。
ならば、どううするか?
答えは簡単だ。
馬鹿正直に進む必要は無い。
この迷路の様な構造を逆手にとって――【壁の上】を渡って行けばいい」
そう、俺の出した打開案は迷路の掟破り――ショートカットである。
城塞エリアを隔てる壁は、城塞という名に相応しく、ちょっとやそっとじゃ壊れない程の耐久性がある。魔術で壁をぶち抜きながら進めないのもその為だ。
じゃあ、壊せないなら別な方面でアプローチしてやればいい。
壁の高さは5メートル以上。
けど、決して登れない程じゃない。
そして壁と壁の間も同じくらいの幅だ。
壁の上に乗ってさえしまえば、後はこの用意した脚立を活用する事でゴールまで一直線に進めるのである。
無論これは敵に下から狙われないようにする必要があるが、サーチに優れたルゥのお陰で事前に安全なルートを通れるようになった。
件の射撃装置の狙いは上空を主体としてるので、壁上くらいの高さまでフォローしていないのは確認済である。
ならさっさと飛行呪文で壁上に移れば良かったかと思うだろうが、低空で長時間の移動には不向きなのだ、飛行魔術は。
術式を維持してる間は魔術が使えないし接敵されると脆い。
あれはあくまで攻撃の届かない上空を高速で短時間で突っ切る使用のみに限る。
まあ何にせよこれで準備は整った。
運動神経が並のリアも脚立ほどの幅があれば問題なく移動出来るだろう。
掻い摘んで上記の内容を説明するとリアは苦笑している。
「やっぱり……ガリウスはユニーク。
普通の冒険者はこんな事を考えない。
与えられた課題をいかに攻略しようかと考える」
「それが駄目なんだと師匠から学んだぞ、俺は。
発想の転換――課題のもたらす結果から逆算しろ、とな。
この場合はさ、要はゴールすればいいんだろう?
なら壁の上を渡っていくのが一番早いからな」
「そう言い切れるのが貴方の強さ。
あたしには無い視点。
だからこそ惹かれるんだと思う」
「こらこら、リア。
ガリウス様を口説くのは後にして下さいね」
「そうだよ、敵が来ない内に早く行こう!
ルゥが見張ってくれてる今なら簡単だよ」
「よし、じゃあ行くぞ!
昨日の罰としてシアが面倒な脚立移動担当だ。
他は警戒と索敵。
ルゥがいるからって気を抜くなよ!」
「「「了解(わん)!」」」
三人と一匹の声がシンクロし唱和する。
最初はおっかなびっくりだった脚立による壁移動も、回数をこなす程に上達していき無駄が省かれていく。
幸い射撃装置は作動しないままだ。
懸念事項がない今、純粋に移動だけに専念できるのが嬉しい。
こうして俺達は従来なら半日は掛かるであろうルートを――
モノの一時間も掛からずに制覇していくのだった。
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