勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、見上げ呟く

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「ふう……
 飲んだ後は夜風が気持ちいいな」

 伯爵の別荘である館からこっそり忍び出た俺は、月を見上げながら一人呟く。
 俺達の成長ぶりに何か思う所があったのだろうか。
 感情的になり号泣するカエデを慰める為、先程まで皆で飲んでいたのだ。
 食に対するウォルターのこだわりは酒の取り揃えにも及んでおり、急な宴会要請にも関わらず出された数々の銘酒と名酒。
 美味なツマミを手に、一同でそれらを大いに楽しませてもらったのだ。
 皆は特にこの沿岸部諸島で造られたという地酒が一番気に入ったようだ。
 パエリア等にも使われる米を原材料とした大吟醸酒で、口当たりが良くさっぱりしているのにフルーティで飲みやすいと、まことにけしからんお酒2号である。
 まあパカパカ手酌で飲み干す一同を諫めながら俺も楽しんだのだが。
 カエデもこういった酒宴は初めてだったのだろう。
 最初はびっくりしていたみたいだが、酒杯を勧められる境遇を受け入れてからは緊張しながらも楽しんでいたようである。
 三人との関係も良好で何とかパーティの一員としてやっていけそうだ。
 
「じゃあ――俺は俺で自分の仕事をするとしよう」

 しばし別荘から歩き、襲撃をするのに相応しい薄暗い森林へと近付く。
 忘れずに帯刀してきたとはいえ、カシナートブレードの重さが少し頼りなく感じるのは気のせいだろうか?
 いや、そうではない。
 幾度もあったこういった事にまだ俺が不慣れなだけだ。
 息と共に意識を深く沈めていく。
 闘争に不要な感覚は排して獣の様に気配を探り目を凝らす。
 動き。
 後方から近付く存在に抜刀し掛けるも、それが見知った気配と判明し気を抜く。

「驚かせて申し訳ござらん」
「カエデか……」

 後方の茂みから現れたのは、完全武装のカエデだった。
 その手に握られているのは苦無と呼ばれる短刀。
 冷たい刃からは拭い切れない濃厚で新鮮な血の匂いが漂う。
 
「ガリウス殿――
 別荘を囲む様に展開していた不審者共は拙者が片付けました」
「ああ、そのようだな。
 本当は俺が出向こうと思っていたんだ……助かる」

 最悪の場合、カエデが敵に回る事もある。
 これまでの流れが全て俺を油断させる罠である事も考慮しなくてはならない。
 決して警戒を緩めず、どこか困惑した顔で話し掛けてくるカエデを迎える。
 幸い俺の懸念は外れた様でカエデは本気で戸惑ってるようだった。
 ただ、納得がいかないのだろう。
 意を決したように俺の瞳を見定めると口を開く。

「少し――訊いても良いでござるか?」
「俺で答えられるなら」
「あいつらは――何者でござるか?
 足の運び、気配の殺し方。
 アレは明らかに拙者と同じ、闇の世界の住人特有のもの。
 奴等の所持していた武具を確認したところ、法術でも解毒しにくいタイプの毒が塗られておりました。
 もしかして奴等は――」
「――正解だ、カエデ。
 どこの貴族か冒険者か、あるいは王国勢力かは知らん。
 ただ――俺達を目障りに思う奴等に依頼された暗殺者だ。
 最近派手に動いたからな。
 今夜辺り仕掛けてくると思ったら――案の定だったな」
「暗殺者……」
「ん? ああ、安心してくれ。
 君の所(盗賊ギルド)の奴等じゃない。
 マウザーの奴とは手打ちになってるからな。
 月々の依頼料が振り込まれてる内は事前告知を寄越してくる筈だ。
 親しき仲でも礼儀なし。
 告知だけで制止しないのがあいつらしいが」

 苦笑する俺に怪訝そうにカエデが眉をひそめる。

「いったい何故でござる?」
「――さあな。
 活躍目覚ましい俺達が気に喰わないのか、勇者であるシアの政治的な価値か。
 あるいは聖女であるフィーを利用した教団権威の失墜か、魔導学院の最年少賢者であるリアから機密情報を聞き出すのか。
 どれが理由なのかは襲撃者共にしか分からん。
 大体口を割らせる前に死ぬか逃走するしな」
「もしかして昼間のレジャーも」
「――ああ。
 ダンジョン制覇後で油断してるよ、というアピールだな。
 ご丁寧に武装解除までして見せて。
 まあ、あいつらには本気で休養してもらったが――俺は違う。
 あいつらを守る陰の護衛として行う、囮というより釣り野伏に近い」
「何故そのような……」
「政治的にも派閥的にも色々難しいパーティなんだよ、ウチは。
 特に転職の儀で勇者になったシアの存在が大きい。
 魔王相克といってな。
 勇者がいるから魔王が生まれるのか魔王がいるから勇者が誕生するのか。
 鶏と卵理論のようだがどちらが先かは分からん。
 ただ――抑止力として常に勇者は生まれる。
 だからこそシアの存在は大きい。
 政治的な意味合いだけでなく、人類サイドの手札的にもな。
 シアを――俺達を邪魔に思う奴等は思いのほか多いのさ」
「ギルドマスターからある程度の情報は伺ってからパーティに合流致しましたが……まさかそのような裏事情があるとは」
「俺がクラスチェンジの総本山――
 ランスロード皇国の賢皇リヴィウス様から仰せつかったのは唯一つ。
 皆を守れ、だ。
 手段は俺に任せるというので好き放題させてもらってるがな。
 あと火消しと呼ばれる陰のガード達には気を付けろよ?
 冒険で死ぬ分には彼らは手出しして来ない。
 そこに政治的な意図は無く、ただパーティの力不足だからだ。
 だが――こういった街中だと各諜報機関を相手に視えない戦いをしている。
 皇国直下だから俺達に関わる事はないと思うが――
 有害認定されたら全力で排除に掛かって来るからな、気をつけろよ」
「肝に命じるでござる。
 しかしこの事は――」
「ああ、あいつらは知らない。
 知らなくていい。
 こういった汚い闇の一面を把握するのは――俺だけでいい。
 あいつらにはただ……
 前を、前だけを向いて進んで欲しい」
「畏まりました。
 それがガリウス殿希望ならば拙者はその意を汲むまで」
「助かる。
 知った以上、今後はカエデも協力してくれると嬉しい。
 さすがに俺だけでは手が回らなくなってきたからな」
「御意。
 しかしガリウス殿――」
「なんだ?」
「賢いお三方の事。
 もしやある程度気付いておられるのでは?」
「かもな。
 ただ――それでも俺は続けたいんだ。
 例えそれが俺のエゴだとしても、な」

 どこか物言いたげなカエデの視線を断ち切り夜空を見上げる。
 煌々と柔らかな蒼白い光を燈す月。
 無慈悲な夜の女王は、今宵も変わらず美しい輝きを下界へ注ぐのだった。
 
 
 


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