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おっさん、迷いを断つ
しおりを挟む「ふう……
おっさんには堪えるな、これは」
生体エネルギーである闘気は、通常は無色透明な蒸気みたいなものだ。
しかしどういう理屈なのか【気と魔力の収斂】により魔力と融合した闘気は金色の輝きを放って俺の身体から立ち昇っている。
博識なリアに以前聞いた話だと、この輝きこそがこのスキルの真骨頂で、使用者の身体能力を爆発的に高めるだけでなく――魔術や特技などで齎されるありとあらゆるバッドステータスを跳ね除けてくれるという。
ただ相反する性質を持つ闘気と魔力を完全に調律するのは至難の業であり、確かS級でも数えるほどしか遣い手がいなかった筈だ。
更に付け加えるなら燃費の悪さだ。
今こうして【気と魔力の収斂】を維持しているだけで、莫大な量の闘気と魔力を消費している。
まだまだ俺が未熟なのもあるが、これでは実戦で扱うのは難しいだろう。
全力発動して10分も持たないのでは前衛を支える者として不安定過ぎるのだ。
しかし得られる恩寵を考慮すると破格の性能である。
前衛職究極の闘技法という名は伊達ではない。
ただ現在のレベルでは扱い切れないのも確かだ。
今後の用法としては要所要所の切り札として短時間発動させるのが無難だな。
俺はゆっくり呼吸を整えながら【気と魔力の収斂】を収束していく。
そして心配しながら様子を窺っていた皆に安心させるように手を振り、俺が抱いた感想を話してみる。
手本である師匠がいたとはいえ、初施行にしては結果は上々だっただろう。
口々に賛辞や感嘆をもらす一同。
その中で何故かフィーだけが浮かない顔をしている。
気になった俺は訊いてみることにした。
「どうかしたのか、フィー?」
「ええ」
「なんだ?
遠慮せずに言ってみてくれ」
「率直に申し上げてよろしいです?」
「ああ、構わない」
「ガリウス様が新たなる躍進を遂げたのは非常に誉れ高き事だと思います。
主も『パワーアップ出来る時は、しておいた方がいい』と申されますし」
「……随分具体的な神様だよな、いつも」
「まあ御利益を考えれば当然なんでしょうけど。
ただ……ガリウス様が力を得た段階が――
あまりにも早過ぎる気がして」
「早過ぎる?」
「――ええ。
力には常に対価が伴います。
ここにきてガリウス様のクラスチェンジに次ぐ急なパワーアップ。
わたくしにはそれが何か必要に迫られて得たものに思えて仕方ないのです。
ただの考え過ぎなら良いのですけど」
「それは……」
「わたくしの根底にあるのは悲観主義(ペシミズム)ですもの。
ガリウス様と出会ってから――
神の御許に到ってから――幾らか改善はしました。
でも根付いた芯までは変わっていません。
だからこそ考えてしまうのです。
ガリウス様の得た力とその意味に」
「ん。納得――
フィーの意見を支持する。
鶏が先か卵か先かを議論する気はない。
けど――力には意味がある。
時にそれは因果を遡る。
シアやカエデでなくガリウスが覚醒した意味……きっといつか判明する」
「そうか……」
「まっ深く考えても仕方ない。
一寸先は闇。
理屈で考えても答えは出ない。
それにフィーは肝心な事を忘れている」
「――あら、なんでしょう?」
「ガリウスは常識に対する反常識――型破り。
どんな事態も何とかしてきた。
だから賢者としては恥ずべき根拠のない意見だけど……
絶対、大丈夫。安心して」
「おっさんだしね!」
「わん!」
「確かにガリウス殿ならどんな窮地でも笑って潜り抜けそうですな」
「フフ、そうですね。
心から納得しちゃいますわ」
「まったく信用されてるんだかされてないんだか。
だが――先の事を考え過ぎても仕方ないしな。
今は俺達に出来る事を地道にやっていこう。
ほら、こうしてる間に次のお客さんがきたようだぞ」
「了解!」
遥か遠方の通路に見えるのは様々な獣の姿が入り混じった奇怪な二体の合成獣。
犬の貌から生える象の鼻、河馬の巨体に虎の四肢。
猿の貌から生える魚の鱗、牝馬の胴体に蛙の手足。
狂気に魅入られ造形にしたキメラとしか言い様がないそいつらは俺達を見つけると口元から涎を垂らし突進し始める。
手に手に武器や魔杖を構え迎撃に入る俺達。
確かにフィーの言う通り力の入手に関してご都合主義的な流れを感じる。
ただそれは今を生き抜く俺達には考えても仕方無い事だ。
ならばまずは目の前を敵を斃し少しでも前を進む事を目指そう。
刀の柄に手を添え俺は迷いを断ち切り駆け出す。
戦闘に関わらない余計な思考は全て排除する。
先制して放たれるリアの攻撃術式にフィーの支援法術。
魔法剣を発動するシアに共に併走するカエデとルゥ。
高揚していく身体とは裏腹に水面の様に研ぎ澄まされていく精神。
いつも以上に周囲がよく視え、とてもクリアーな感じだ。
合成獣たちは揃って屈強で厄介な力を持っているに違いない。
しかし、負ける気は一切しなかった。
そして――それはすぐさま現実のものになるのだった。
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