勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、庇い立てる

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「わっわっ
 いったいなに!?」
「きゃうん!?」 
「これは未知の経験」
「くっ……立ってられませんわ」
「落下物に注意するでござる!」

 身体を揺さぶる激しい揺れ。
 まるでダンジョン自体が咆哮しているかのようだ。
 立つ事さえ困難な状況に俺を含む一同は狼狽する。

「まさか地震だと?
 そんな……ありえない!」

 ミズキの指摘はもっともだ。
 基本ダンジョン内はオーソドックスな迷宮型や様々な地形を内包するフィールド型などに分かれるも、天候が変動する事はない。
 地形効果による環境の変化はあったが、地殻は安定しており、地震などの天災が起きたことはなかった。
 ――これまでは。
 俺が思い浮かべたのは、ダンジョンに出没する敵が飽和状態になった時に起きるというスタンピードだ。
 溢れ出た妖魔が周囲の全てを蹂躙していく、まさに地上に降臨した悪夢。
 ダンジョン内で発生の瞬間に立ち会った者は未だいないが――
 もしかしたらこれはそれに繋がる前兆なのではないか?
 ふと、そんな予感が脳裏をよぎった。
 悪い勘だけはかなり的中率が高いのが俺だ。
 外れてくれる事を祈るしかない。
 幸いこの揺れは一過性なものだったらしい。
 徐々に揺れが収まっていく。
 ダンジョン内では逃げ場がないから大惨事になるところだ。
 本来なら安堵すべきなのだろうが……
 俺の中の第六感が最大音量で警鐘を奏で始める。
 先程の比じゃない。
 俺の全存在が拒絶するような何かが起きる――

「警戒しろ、皆!
 この後に何か――」

 地震に気を取られていた為か警戒が疎かになっている一同に俺が警告を発した時――それが回廊の奥より姿を覗かせた。
 それは形容するなら巨大な黒い汚泥。
 創世神話の始原の海にあったという混沌としか言いようのない醜悪な塊。
 粘液状の躰からは常に飛び出た何か動物の手足が揺れ動き無数の触手が蠢く。
 這いずるように移動した痕からは酸に焼かれたような煙が立ち上っていく。

「あれだ、ガリウス!
 私が遭遇した敵は!」

 戦斧を構えながらミズキが叫ぶ。
 こいつがミズキ達のパーティを壊滅に追いやったヤツか。
 負傷者を抱えたまま戦える相手じゃないのは一目見て分かった。
 最低でも階層主――下手をすれば迷宮主に相当する。

「ミアとミイを連れて離脱しろ、ミズキ!
 この先でレティスが例の台座ごと待機している。
 台座まで行けば海を経由して脱出できる筈だ!」
「お前はどうするんだ!?」
「仲間と共に残って足止めする!
 あいつの移動速度はかなりものだ、このままだと追いつかれる!」

 俺達が注視する前でそいつは厭らしく躰を歪め加速する。
 おそらく次の獲物――俺達を見つけたからだ。
 その勢いはかなりもので、器用に粘液状の躰を蠕動させて近付いてくる。
 逃走に移っても完全に逃げ切れるかは五分五分以下。
 ならば少しでも足止めした方が全員が逃げ延びる確率が上がるはずだ。

「道中の敵は掃討してきたが完全に安全じゃない、気をつけろ!」
「すまん、恩に着る」
「ルゥ、カエデ!
 お前達はミズキ達の撤退バックアップを頼む。
 一緒に連いて行って露払いしてやってくれ!」
「わん!」
「承知でござる!」

 ミアとミイを軽々背負ったルゥが元気良く返答する。
 天候操作を含む精霊力をある程度扱えるルゥなら、女性二人分の重さくらいなんでもないだろう。
 何せ開拓村では野牛や猪すら仕留めて持ち帰ってきたくらいだ。
 戦闘力の面を含め安心できる。
 そこに【迷宮探索】スキルを持つカエデが同行すれば万が一はあるまい。
 ここで押し問答しても時間が無意味なのを悟ったのか迅速に行動に移すカエデ。
 拙者も残りまする! とか無駄なやり取りがないのがいい。
 こういった割り切りの良さが今迄俺達のパーティには抜けていたところだな。
 後ろ髪を引かれる様に去っていくミズキを強引に促しながら駆け抜ける一行。
 あの調子なら5分もしない内にレティスと合流できるだろう。
 俺は残ったいつもの面子に謝りながら抜刀し戦闘準備に入る。

「三人ともすまないな、貧乏くじを引かせて」
「何を言ってるんだか、おっさん」
「わたくしたちを信頼するからこそ残したのでしょう?
 むしろ光栄ですわ」
「ん。悪い気はしない」

 俺の謝罪に三人は不敵な笑みを浮かべ応じる。
 まったく誰に似たんだか……本当に頼りになる奴等だ。
 急速接近してくる汚泥……面倒だから神話に倣って始原の混沌ショゴスと呼ぶが、そいつとの接敵に備え各々が支援法術、術式を展開していく。
 神の恩寵と魔術が身体能力を向上させる中、俺は拭えない不安感に襲われる。
 何だろう、何か根本的な事を間違えているような……
 その疑問はリアが障壁術式を展開した瞬間に氷解した。

「隔絶なる障壁【フォースフィールド】」

 リアがショゴスと俺達を隔てるように展開したのは絶対障壁の高位魔術だ。
 使用する魔力にもよるが理論上はどんな攻撃も防ぐことができる優れた防御術。
 一先ずこれを展開し様子を見ようとしたリアの判断は間違いじゃない。
 だが、俺の予感が間違いじゃなければ――
 この胸の不安が当たっているならば――それは悪手。
 俺は術式を展開し終えて極度の集中から解き放たれたリアを咄嗟に突き飛ばす。

「ガリウス!?」

 驚きに尻餅を付き俺を見上げるリア。
 だがその顔が更なる驚愕に彩られる。

「ぐっ……くそっ!」
「おっさん!?」
「ガリウス様!?」

 リアが立っていた位置――
 咄嗟にリアを突き飛ばした位置にあった俺の左腕が、消失していた。
 絶対障壁を物ともせず貫いてきたショゴスの触手によって。
 高速でショゴス本体に巻き戻されや咀嚼するように融合されていく俺の左腕。
 危なかった……クラスチェンジで身体能力が向上していなかったらリアが同じ目に遭っていただろう。
 瞬時に動けた自分を褒めてやりたい。
 激痛のあまり吐き気がする身体を叱咤し刀を構える。
 よろける俺に駆け寄り支え、肩先から喪失している箇所へと手を伸ばすフィー。
 高位法術なら失った四肢を再生、復元する事も可能だ。
 同じく心配そうに駆け寄ろうとするシアと庇われた事に泣きそうになるリアを警告の言葉で制止する。

「俺は大丈夫だからあいつから目を離すな!」
「今、回復法術をかけますから――」
「頼む、フィー。
 形だけでいいから動かせようにしてくれ。
 それと油断するなよ、二人とも。
 真の脅威は、魔力障壁すら貪り喰ったあいつの触手攻撃じゃない。
 あいつの――ショゴスの真の恐ろしさは――」

 警句を言い掛けた俺の目前で恐れていたことが遂に始まる。
 不気味に蠢き何かを吐き出すショゴス。
 それを見た三人は驚きと困惑のあまり彫像のように固まる。
 ショゴスが吐き出したもの――
 それは気色の悪い汚泥で形成された、まさに俺自身そのものだった。





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