勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、心を焦がす

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「ミズ……キ?」

 窮地の俺を救う為、弾き飛ばした俺の代りに槍衾(やりぶすま)になったミズキ。
 ビキニアーマーをからかわれつつも……
 見る者を魅了してやまなかった均整の取れた身体。
 よく鍛えられた柔らかな肢体が、血に染まりながらゆっくり崩れ落ちていく。
 俺は咄嗟に手を伸ばし抱き留める。
 軽かった。
 まるで体重を感じさせないくらいに。
 悪夢の中の一シーンとのような、どこか非現実的な認識の剥離。
 そう、ショゴスに接敵していた筈の俺達。
 それが今やヤツから数十メートルも離れている状況にすら理解が追い付かない。
 何故? どうして?
 疑問に対する答えはすぐに出た。
 ミズキの手に浮かぶ神秘的な紋章。
 それが薄く輝き、そして消えていくのを確認した。
 アレは確か同階層の任意地点まで高速移動させる緊急用のセーフティ術式。
 不覚を取った場合に立ち直れる用、高い奉納点を支払えば龍神に授けられる力。
 俺達も取得するかどうするか散々迷い、奉納点の高さから諦めたものだ。
 そうか、ミズキ達はこれを手に入れていたのか。
 転移を阻害する迷宮内でも、唯一移動系として発動する力。
 だが――それはあくまで事前に定めた任意地点までの移動手段。
 無理に力を発動すればその効力は永続的に喪われるとの解説があった。
 それを使ってまで……戻ってきたというのか?
 いったいどうして!?
 恐る恐る腕の中のミズキを見下ろす。
 ポニーテールに纏められていた長髪はすでに解け乱れている。
 いかなる時も意志の強さを感じさせる柳眉とは裏腹に、蠱惑的な輝きを放っていた瞳は閉じられている。
 美人というよりはハンサムな印象を与える美貌。
 その美しい顔が今は苦悶に歪んでいた。

「ミズキ――どうして!?」

 訊きたい事はいっぱいあった。
 何故、ここに来た?
 何故、俺の身代わりになった?
 ――仲間は? ――傷口は?
 何故何故何故何故何故――????
 言葉にならない疑問が渦を巻き、思考が定まらない。
 焦りを含んだ俺の声に震えながら眼を開くミズキ。
 今にも泣きそうな俺の顔を見て幸せそうに微笑む。

「よかった……無事、なんだな」
「馬鹿! お前の方がボロボロじゃないか!」

 怒鳴りつけ、収納スキルで取り出したポーションをミズキに掛ける。
 焦燥に駆られる俺。
 通常ならすぐに気化反応し、瞬く間に傷を癒してくれるはずのポーション。
 それが――作用しない。
 まるでただの溶液みたいにミズキの身体を流れ落ちるのみ。
 俺はその理由を知っている。
 知っているからこそ認めたくない。
 彼女がもう……助からない、なんて。
 ポーションは残された生命力を活性化して傷を癒す。
 それが反応しないという事は……つまりミズキは……
 やめろ、変な事を考えるな!
 諦めるんじゃない俺……そうだ、掛けるのが駄目なら飲ませればいい!
 焦りに震える手で口元に持っていこうとする。
 しかし首を振り拒否するミズキ。
 そこには何かを悟ったような聖人の様な崇高さがあった。

「そんなことをしても……無駄だ……
 身体の中の……命の灯が消えたのが分かる……
 私はもう……ここまでのようだ……」
「馬鹿、何を言っているんだ!
 こんなのが傷の内に入るか!
 待ってろ、すぐに何とかするから!」
「自分の身体の事だ……
 自分が一番よく分かっている……
 もう、助からないよ……」
「くそっ……なんで……
 そうだ、神の奇跡――法術なら!」

 頼りになる回復法術のエキスパート。
 教団きっての癒し手こと聖女フィーナ・ヴァレンシュア。
 一縷の望みを懸け彼女の方を向く。
 しかしフィーは足止めされていた。
 他ならぬ俺の模倣体らによって。
 こちらの窮状を察知し、隙を見て遠隔で法術を掛けようとするも絶妙な立ち位置に模倣体の邪魔が入り法術を発動出来ない。
 くそっあいつら、銀冠の延長到達範囲を正確に把握してやがるのか。
 ならば――仲間の助けが間に合うことを信じ、俺は俺に出来る事を為すのみ。
 応急処置スキルで可能な治癒を施しながら命の灯を伸ばそうと声を掛ける。

「しっかりしろ、ミズキ!
 何でこんな無茶をしたんだ!?」
「貴様に救われて……仲間を逃す事が出来て……
 最後に残ったのが貴様の安否だった……
 おかしな話だが……借りを返さなくっちゃと……
 そう、思ったんだ……」
「馬鹿……大馬鹿だよ、お前は。
 そんなこと気にしないでいいのに」
「貴様に貰った命だ……
 貴様に……ううん、ガリウスを護る為に使いたかった。
 これは私の……我儘だな」

 血の気の引いた蒼白のミズキは満足そうに俺を見る。
 紅に染まった手を躊躇う様に俺の頬に伸ばし、愛おしそうに撫でる。

「ちゃんと間に合ったんだ……
 褒めてもいいぞ……?」
「ああ。すごい奴だよ、お前は。
 だから死ぬな! 諦めるな!」
「そんな一生懸命な貌は初めてだな……
 それにこうして抱き締められて……
 フフ、まるでおとぎ話のお姫様みたいだ。
 正直悪くない、な……」
「ミズキ!」
「ガリウス……お前ならやれるだろ?
 あいつを……ダンジョンマスターを斃せ。
 誰よりも強いお前ならきっと……」

 言葉の途中で頬から滑り落ちる手。
 俺はその手を咄嗟に握り締める。
 ピクリとも動かないミズキ。
 死ぬ……このままじゃあと数分もしないうちにミズキは死ぬ。
 何とかしなければならないのに……焦燥のみが胸を占めていく。
 そして現実は非情だ。
 せめてもの抵抗として、――ミズキを抱きかかえフィーのもとに赴こうとした俺の前にショゴスが立ち塞がる。
 邪魔が入ったとはいえ、先程の百手剣生攻撃でも俺を殺せなかった事に危機感を持ったのだろうか?
 胎内に溶け込み改めて生み出された無数の腕は――剣を持っていなかった。
 その代わりに指先に燈るのは無数の魔力光。
 地属性・水属性・火属性・風属性。
 俺の扱える初歩的な基礎魔術の数々――とはいえ、数が数だ。
 俺が得意とする同時発動を標的に叩き込めば大魔術に匹敵する威力になる。
 無論、その標的とは俺に間違いない。
 皮肉な事に、抱えた事によりこのままではミズキまで巻き添えにしてしまう。
 最悪の状況だ。
 あれらが放たれれば即死は必至。
 幾条かは樫名刀で斬り伏せられるが数の暴力には負ける。
 ならば何か手を……と思うが、何もない。
 何も――思いつかない。
 このまま……アレを喰らったら死ぬ。
 俺はいい。
 ショゴスと対峙した時から覚悟は出来ている。
 だが――ミズキは?
 こんなおっさんを助ける為、自らを省みず助けに来てくれた勇敢な女性。
 彼女を巻き添えにしていいのか?
 それに――皆は?
 幸せにすると誓った筈の婚約者達。
 彼女らは一流の冒険者であり一流の素体だ。
 ショゴスが見す見す取り逃がすはずがない。
 俺が死んだ後、残された彼女らは俺の姿をした模倣体によって捕獲――生きたままヤツに取り込まれるという、死ぬよりおぞましい目に遭わされるに違いない。
 だというのに――伏して運命の時を待つというのか?
 これが因果と、抗う事なく家畜の様に処断されるのを受け入れるのか?
 ――ふざけるな!
 何が因果だ……何が運命だ……
 理不尽な不条理を運命というなら――俺は変えてやる。
 定められた因果へと反逆し、嘲笑う言葉で馬鹿にしてやる!
 心を焦がす激情。
 燃え上がる憤怒で決意したその時――

「座して服従し、盲目的に祈るのではなく――
 己が傷つく事を躊躇わず、定められし因果への反逆を志すというのか……
 ふむ――気に入ったぞ、その魂」

 全てが凍り付いたように静止した世界で――
 いずこからか不思議な声が聴こえた。
 


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