勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、過去を翻る

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 父は昔、高名な冒険者だったらしい。
 寄る年波に体力の限界を感じ引退、知り合いがいた村に移り住んだのだと。
 だがそれは口実で――
 父が冒険で不在中、母が病に倒れ亡くなったのが主な原因だと俺は思う。

「あの人は忙しい人なのよ……
 私は大丈夫だから、ガー君も許してあげてね」

 息を引き取る間際――
 こんな病床の母を放ってまで冒険に明け暮れる父。
 父に憎しみを懐き掛けていた俺だったが、母は優しく諭してくれた。
 子供心にどれだけ理解できたか分からない。
 ただ――母が父を愛しているのだけは分かった。
 そしてそんな母を、父も愛していたという事を。
 やがて……物言わぬ躯となった母。
 近所の人達が葬儀の準備を進める中、やっと帰還した父の顔は蒼褪めていた。
 溢れんばかりの憎悪で罵ろうとした俺も尻込みする程の憔悴っぷりだった。

「すまないが……少しだけ二人きりにしてくれ」

 そう周囲に頼み込み――半日母と部屋に閉じこもった父。
 部屋から出て来た時、父の顔は幽鬼のように痩せこけていた。
 母の葬儀は淡々と進み滞りなく埋葬された。
 墓石の前で跪き涙する父。
 俺は広かった父の背中がひどく小さく見えた。











 冒険の拠点であった都から村に移り住んで、父は変わった。
 俺と一緒にいる時間が増えた。
 今までは型と基礎練習しか許してくれなかった剣術も――
 実戦を交えた本格的なものへと移行していった。

「ガリウス……残念だがお前には秀でた才能がない。
 しかし――決して弱音を吐かず、愚鈍なほど苦しい修行に打ち込める実直さ。
 それは戦士として何より得難い素質だと私は思う。
 どんな優れた才能も磨かねば光らん。
 お前はこれからも努力を怠ることなく精進していくがいい」

 まるで今までの時間を埋めるかのような濃密な修行。
 休息の時間以外は、ほとんど鍛錬を繰り返す苛烈な日々。
 自警団の相談役として招かれた責務がそうさせたのか。
 早くに母を亡くした俺を憐れんだのか。
 あるいは母を看取れなかった自戒の念か。
 父の自暴自棄ともいえる愛憎を受け、俺は少しずつ強くなっていった。










 事件は俺が10歳の時におきた。
 真夜中に村の外扉が叩かれ、傷だらけの少女が倒れていたのだ。
 少女は自警団の詰所でもある俺の家に運び込まれ、村の薬師の手当てを受けた。
 意識を回復した少女は事情を説明してくれた。
 少女の一家は行商人だったらしい。
 街道沿いに村を目指していたものの、あと少しで日が暮れてしまったとのこと。
 そこで強引に村を目指せば良かったのだろうが――
 夜間の強行軍は危険だと少女の父は判断した。
 街道には妖魔避けの結界もある為、大丈夫だろうと思ったのだろう。
 しかし一つだけ少女の父は忘れていた。
 この世で最も危険で残虐な獣、即ち人間の襲撃者を。
 夜半寝静まった一家を襲う野盗達。
 少女は父が乗せてくれた馬に必死に跨りここまで来たそうだ。
 震えながら語る少女を宥め、父と数人の弓手達は様子を見に行った。
 結果は酷いものだった。
 少女の父と弟は身体を滅多刺しにされ惨殺。
 少女の母と姉は身体を辱められた上で首を絞められていたという。
 その残虐な有様に帰還した父はすぐに村長へ報告し、防衛体制を整えに行った。
 激動の成り行きに呆然とする俺と少女を残して。
 俺より幾つか年嵩の少女の顔は無表情だった。
 俺は温かいミルクを飲ませ、少女を客間の寝台で休むよう誘った。
 少女は無抵抗に応じ、目を閉ざした。
 一連の事態に疲弊していたのか――すぐに寝入る少女。
 俺はそれを見届け自室のベッドに入った。











 ――嫌な予感がした。
 跳ね起きた俺は少女の寝ている客間のドアをノックする。
 数秒待つも返事はない。
 慌てて開け放つと少女はいなかった。
 机に「ありがとう」のメモだけを残して。
 急ぎ詰所の装備を確かめる。
 皮鎧と小剣が一式無くなっていた。
 まさかと思いつつ俺も装備を整える。
 愛用の鉄剣と硬革鎧。
 軽量化の魔術が付与された子供には過ぎた武具。
 間に合ってくれと願いつつ――俺は父に習った追跡術を駆使し、少女を追った。
 やがて辿り着いた村の外れにある森の中。
 そこに少女はいた。
 幼き日の俺の母と同じ、物言わぬ躯となって。
 華奢なその手には小剣が握られ、血に塗れた野盗の死体も転がっていた。

「何で……
 どうして待てなかったんだ!!」

 父が――村の皆がきっと少女に代わって仇を取ってくれただろうに。
 無力感に跪く俺。
 ああ、あの時の父もこんな感じだったのか。
 終わってしまった事態に対して何も出来ないというのは……
 こんなに辛く苦しいのか。
 俺がもっとしっかりしていれば――力があれば、少女を止めれたのに。
 ふと――眼差しを上げる。
 絶命している少女の口元。
 そこには運命を知り――
 それでも自らの手で選択を為し得た者だけが知る満足げな笑みが浮かんでいた。
 少女は俺が離れ一人でいた間、何を考えたのだろう?
 そこに不安や恐怖は無かったのだろうか?
 俺には分からない。
 ただ思うのは俺の力の無さ。
 力が――俺に全てを守る力さえあれば、この少女を守れたのに!!
 烈火のごとき怒りと激しい力への渇望が俺の中でうねりをあげる。
 衝動が闇となり俺の心を覆っていく。
 しかし少女のくれた「ありがとう」の一言が……
 沈み堕ちそうになる俺の心を照らし、優しく引き上げる。
 鬩ぎ合う絶対矛盾
 相反する価値観。 
 この日を境に幸福だった俺の少年期は終わりを告げたのだろう。






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