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おっさん、謙虚に感謝
しおりを挟む「おお――久しいな、ガリウスよ。
まずは海底ダンジョン制覇おめでとう。
余の期待通りの働きであったぞ」
「伯爵の仰る通り――まことに大儀じゃったな」
ハイドラントと共に入室した大使館の執務室にはノービス伯爵とレイナがいた。
良い生地を使い丁寧に縫い込まれているが、飾り気のない服装は質実剛健を地で行く二人に相応しい。
精霊都市の名代として多忙なのだろう。
黒檀の大机上には今にも零れ落ちそうなほど書類が重ねられており……俺達が入室するまで二人は書類仕事に追われていたようだ。
伯爵は書類にサインする手を休めて俺に声を掛け、わざわざ立ち上がり俺の方へ来ようとする。俺は慌てて臣下の礼を取ろうとするが伯爵に止められた。
「良い。
お前は余の頼みを聞いてくれたのだ。
それにこれからお前はS級になろうとする存在。
ならば余の臣下でなく対等の立場で話すべきだ」
「それでは――」
「伯爵がこうまで言ってるのだ。
その意を汲んでやるのが大人の態度じゃぞ、ガリウス」
「……分かりました。
ここはレイナに倣い態度は改めます。
ただ俺個人として伯爵には敬意を払いたい。
それは構いませんね?」
「固い男じゃのう~」
「だが、それが良い。
余の眼は曇ってはいないようだ」
「しかしちょっと違和感が」
「なんだ?」
「俺はまだS級に叙せられてはいませんよ?」
「ふむ、それも先程冒険者ギルドへの根回しが済んだところじゃ。
二週間後、王都で行われる叙任式でお前は正式にS級となる
そして名実ともに勇者パーティとしてもSランク認定を受ける」
「なっ――」
「根回しというのは聞こえが悪いな。
ギルドは個人の上げた功績を厳粛に管理し評価している。
お前の蓄積してきた努力がきちんと認められただけだ。
余は認定決定に掛かる時間を削減する為の後押しをしただけよ。
無論、お前のパーティへの評価も同様。何もズルい事はあるまい?」
「いや、しかしですね――」
「高レベル冒険者には権力者とのコネクションも必要じゃ。
何よりお前は精霊都市の危機をも救った英雄。
これぐらいはさせてもらっても非難は受けまい」
「同感だな。
謙虚もいいがこれぐらいは世渡りの必要事項として受け入れよ」
「了解しました。
ただ――深く感謝致します」
「うむ。その心掛けは大事だ。
誰かに何かをしてもらったら感謝する事。
当たり前のことだがこれが中々出来ないものが多くてな。
これからも長い付き合いになると思うが……初心を忘れないでほしい」
「はい」
「さて、ガリウスよ――お前にわざわざ王都まで出向いて貰ったのは他でもない、例のトーナメントの件だ」
「レイナから伺いました。
復活した魔族へ反旗を翻す勇者隊を結成するとか」
「ああ。
半年前に突如復活を遂げ、人族に侵攻を始めた魔族。
稀人の召喚術師の手によって生み出された聖獣や魔獣らによって、どうにか戦線を支えてはいるが……駄目だな。
このままではあと数か月で人族は追いつめられる」
「話には聞きましたが……やはりそこまで劣勢なのですね?」
「お主も知っておるじゃろう?
奴等は魔神と同じ、位階障壁を纏う。
雑兵をいくら集めても傷一つ与える事は出来ん。
ならば障壁を貫通可能な術師の出番なのじゃが……死線が飛び交う危険な前線に術師を出すのは憚れる。
実際のところ、魔術協会や魔導学院から派遣された魔術師らの中にも殉職した者が続出しておってな……問題になっておるのじゃ」
「そこでだ、ガリウス。
トーナメントへの参加と共にお前に頼みたい事があるのだ」
「何でしょう? 自分に出来る事ならば」
「豪族の娘を勇者に。
孤児の娘を聖女に。
見習の娘を賢者に。
素質に恵まれたとはいえ、彼女らを的確に導いたお前の卓越した育成能力……
それを余は買っている。
任命式までの二週間、明日からで構わぬ。
お前には我が配下の軍を鍛えてもらいたい」
人の好い笑顔で無理難題を告げるノービス伯爵。
お澄まし顔のレイナにハイドラント。
驚いた様子はなく、既に承知済みのようだ。
つまりここまでがハイドラント訪問から今回の仕込みだったのだろう。
無論、俺に拒否権はない。
断れば伯爵の名誉を損ねるし恩義もあるからな。
だが巧いやり方だ……これが上流階級の社交術、策謀というヤツか。
頭痛が増してきたのを感じながらも、巧妙な手法に俺は感心するのだった。
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