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おっさん、致命的失敗
しおりを挟む「ジェクト……ジェクト・トルーパーか」
「おっ?
その様子だと一応、知ってくれてるみたいだな」
「知らない奴の方がモグリだろ。
あの悪名名高きヒャッハー海賊団を単騎で壊滅せしめた男。
この業界も狭いんでな……すぐ噂になるさ」
「おいおいマジかよ。
光栄だな、今王都で一番ホットな【英傑】……
かのガリウス・ノーザンに名前を覚えてもらうってのはよ」
「お前……」
俺の言葉に伊達男は苦笑しながらオーバーアクション気味に肩を竦める。
その仕草も粋で、妙に漢の色香が漂う。
端正なマスクと相まって女性客人気が高いのも頷ける。
伊達男の正体は三回戦でイゾウ先生と戦ったジェクト・トルーパーだ。
悪逆非道の限りを尽くしたヒャッハー海賊団の本拠地へ単身乗り込み、たった一人で皆殺しにした男。
キャプテンの愛称で親しまれており、キャプテンジェクトの名は近海の海賊共にとっては災厄とも称される程。
そんな男が何故俺に?
確かにここは交流を深める場であるが、接点がない。
訝し気な俺の視線を感じたのだろう。
ジェクトはニヤリと男臭い笑みを浮かべ愚痴を交えながら話し始める。
「ったくよ……
イゾウの爺さんが参加してるかもと思って出てみりゃトンだ無駄足じゃねえか。
もう少し遊んでみたかったが、体調不良なら仕方ねえ。明日も試合だしな。
けどまあ――お前と会えたのは幸運だったよ、ガリウス」
「幸運?」
「ああ、そうだ。
――いったい何者だ、お前?
不安定な足場で戦う事を常とするオレが瞠目せざるを得ない体幹のブレなさ。
はっきり言って有りえねえ領域に足を突っ込んでるだろ、それ。
体幹は全ての身体機能可動の根底になるもんだ。
各種戦闘技術、間合いを制する歩法、回避に繋がる体捌き。
化け物レベルだぞ……その全てがよ。
背筋が凍るわ、マジで。
気になって調べて見りゃ~冒険者ギルドで20年以上の経歴を持つ叩き上げ。
最近活躍目覚ましい魔剣の勇者のお目付け役だって言うじゃねえか。
イゾウの爺さんの下で剣を学んだこともあるとも聞いたしよ。
オレと大して変わらない年齢でどうやればそこまで鍛えられるのか知りたいね……可能なら直接手合わせを交えながら」
挑発的にこちらをねめつけながら語るジェクト。
この妙に絡みつく熱い視線と言動……先生との試合でも薄々感じてたが、カエデと同じ戦闘嗜好症(バトルジャンキー)だな、さては!?
この種の手合いは例え戦ってやっても満足する事がなく延々付き合わされる。
最初に毅然と断るか違う方針を示さなきゃならないだろう。
それにドラナーが戻るまでシャドウの様子を見なくてはならないし何より美味い酒をもっと堪能したい。
俺の事をキラキラした瞳で見てくるリーガンには悪いがな。
なので日和った俺はクラスの違いについて解説してみた。
「手合わせ以前にクラスの違いもあるだろう。
イゾウ先生にジェクトが及ばなかったのは何も技量の差だけじゃない。
単純に得意とするクラス分野の差もある」
「あん? どういうことだ?」
「イゾウ先生は【剣聖】……直接戦闘ではトップクラスに秀でたクラスだ。
これは剣の腕前をバックアップしてくれるだけじゃなく、得られるスキルの恩恵にも関わってくる。
ジェクトは自分が負けた理由を覚えているか?」
「いや、覚えてない。
気付いたら地べたを這いずり回っていた」
「あれは先生の持つ剣聖特有スキル【剣圏】によるものだ。
究極的に剣士は【圏士】……自身の間合いが全てなんだが……先生の【剣圏】は視界内に収まるもの全てを斬り伏せる破格のスキルだ。
更にタチ悪い事にイゾウ先生は【観の眼】という、自身を俯瞰的視覚で捉える事が出来るスキルも兼ね備え持つ。
この二つを組み合わせると――どうなるか?
単純に先生を中心に半径30メートル内が全て攻撃対象範囲になる。
さすがにジェクトも全方位同時攻撃を捌く事は無理だろう?」
「そりゃ確かに無理だが……
何だよ、じゃあ【船長】のオレが幾ら鍛えたとしても……イゾウの爺さんには追い付けねえってのか? ガッカリだな」
「いいや――それは違う。
ジェクトのクラス【船長】は文字通り海上でこそ本領発揮される。
海というか……水の地形効果を得られる環境なら、おそらく先生に並ぶ強さを発揮出来るはずだ。
自身の得意とするフィールドに戦いを持ち込むのも兵法の一つ。
そういう意味ではクラス性能の差が露骨に出てしまうとも言えるが」
「なるほどな――でもちょっと口惜しい気はするぜ」
「実戦は何が起きるか分からない。
あくまで一要因としての話だ」
「そういうもんか?」
「ああ」
「ならばやっぱお前と腕試しをしてみてえわ。
直接刃を交えてねえと馬鹿だから分からなくてな。
先に話してたリーガンには悪いが、付き合ってくれ。
大丈夫、明日の試合に影響は残らねえように配慮するからよ」
「いや、それは――」
「ふむ……ガリウス君の指摘は最も。
ただ――聞き捨てならないな。
クラスの性能の違いが戦力の決定的差ではあるまい。
ならばそれをガリウス君に教えるべく一戦を交えるのも一興」
「興味深いことしてるじゃねえか。
オレっちも混ぜてくれよ」
諭す様に語ってもジェクトの賛同は得られず。
むしろ嬉々として会話に参入してくる【聖騎】シャリスに【闘鬼】シブサワ。
ケーキを口いっぱい頬張りながら、やれやれ……といった表情でシャドウが俺を見上げ呆れている。
程良く氷が解けたグラスを傾けながら俺は自身の会話選択肢を致命的に間違えた事を自覚するのだった。
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