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新米の面倒を見る事になったおっさん冒険者34歳…… 実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていく⑩
しおりを挟む「GLUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAA!!」
耳を劈(つんざ)く様な、けたたましい雄叫びを上げて土煙と共に再び強襲を仕掛けてくるゴブリンライダー【亜種】。
遠く迂回し助走した事によって勢いに乗ったその突進は凄まじくて――並大抵の壁役では防ぎきる事は出来ないだろう。
リアの話ではパーティ最硬を誇るフィーの【聖壁】でも今のレベルじゃ無理、との話だった。
ぶつかった瞬間に抵抗はあるも――いずれは喰い破られる、と。
防ぎ切る事が出来ない壁……ならばこうするのみ!
「主よ、我らに聖なる護りの導きを――【聖壁】プロテクション!」
「GYAAAAAAAAAAA!?」
奴は驚いただろう。
勢いに任せた突進――それが突如左右に展開され、突如挟まれた不可視の障壁によってルートが固定されたのだから。
残念ながら【聖壁】で奴を正面から受け止める事は出来ない。
けど――逆説的に考えれば、正面からでなければある程度は硬度を保持できる。
先程も見せたけど奴の一番の厄介なところはその機動力だ。
どんな策も攻撃も縦横無尽に回避されたらおしまい。
だからこそ三角形状態で奴を囲み、進行方向を固定する必要があった。
しかしフィーは本当にスゴい。
この作戦の肝でもあったけど――普通なら2メートルがやっという障壁展開を、その十倍である20メートル近く……しかも二枚同時展開しているんだから。
ボクは神様の恩寵である祝祷術(法術)のことはよく分からないけど……それがいかに規格外の力であるかは分かる。
さすがは聖女見習いだな~って感心してしまう。
「きますわよ、リア!」
「ん。任せて――【加速】アクセラレータ」
フィーの警句を受けて猛進し近寄るゴブリンライダー【亜種】目掛けて放たれるリアの魔術。身構える奴だったが、その効果は予想外だっただろう。
さらに奴は加速したのだ――その速さは最早爆速と言っても過言じゃない。
攻撃魔術は当たれば確かにダメージとなる。
しかし仕留めきれない場合は無防備な姿を晒す事にも繋がる。
何より有害な魔術は抵抗【レジスト】する事が可能なのだ。
おっさんいわく気合を入れて魔力を高める事で効果を打ち消すらしい。
だから先程手持ち最速である【稲妻】の魔術で仕留められなかった時点でリアは攻撃魔術による止めを諦めた。
そこで代わりに放ったのが補助呪文である。
不思議な事に補助呪文や回復呪文は、喩え敵対者から受けてもそれが有害なもので無い限り無条件で作用するとおっさんの講義から学んだ。
敵に支援なんて学院のセオリーにない事だと、リアは呆れていたけれど。
でも――それを活用したのがこの策だ。
突進中の奴に加速補助呪文を掛けて制御不能にする。
攻撃魔術には抵抗できたかもしれない奴も、自身に有効に作用する補助呪文までは防ぎようがなく――さらにその余波までは考えが及ばなかっただろう。
自分の身に置き換えてみれば何が起きたか分かる。
全力疾走中に急に背中を押されればどうなるか――?
無論、こうなる。
意図せぬ急加速にバランスを崩し、前のめりになるゴブリンライダー【亜種】。
そしてそこはフィーの【聖壁】よって描かれた三角形の終点。
制御不能なまま折り重なった不可視の障壁に頭から突っ込む。
勢いを緩和しながら――甲高い衝撃音と共に悲鳴を上げる障壁。
あと数秒もせずに【聖壁】は崩壊し、奴は自由を取り戻すだろう。
まあ残念だけど……そうはならないんだけどね!
動く事によってリアの掛けてくれた【姿隠し】インビジビリティの効果が失われていくのを気にもせず――ボクは祖父が扱ってきた長剣を構える。
そしてこの数か月で習得した唯一の武技を放つ。
動いている相手に当てるのは、至難な腕前だけど――リアがお膳立てしてくれたこの万全の機会を逃すほどアホじゃない!
「闘技【スラッシュ】!」
ボクの放った必殺の一撃は無防備に急所を晒す奴の肢体を易々と斬り裂いた。
流血と共にドウッ、っと地面に倒れ伏すゴブリンライダー【亜種】。
そう――奴は最後まで知らなかっただろう。
普通の盾や障壁魔術とは違い、神の恩寵である【聖壁】は味方の攻撃を遮る事はない――つまり素通りになることを。
小鬼殺しの冒険譚で有名なこの策は今回見事にその戦果を挙げた。
「やったね、二人とも!
これでおっさんに自慢――」
「馬鹿、シア!」
「まだ生きてますわ!」
えっ――? 焦燥を孕んだ二人の警句が耳に届くよりも早く――ボクは足元を掴まれ地面に引きずり倒された。
目の前に迫るゴブリンライダー【亜種】の顔。
息も絶え絶えなのに――
今にも死にそうなのに――
必死な形相でボクを見つめ――怨嗟のこもった拳を振り上げる。
次の瞬間、揺れる視界。
熱さのこもった頬とじんわり広がる鉄の味。
酩酊するように定まらない思考の中、奴に殴られたと把握する。
早く態勢を立て直して……そう、まずは反撃を……
考えがまとまり動くより先に――殴られ続けてしまうボク。
身体が委縮して動かない。
脳が正常な思考を紡げない。
痺れていく全身に濃密に迫った死の匂いを感じる。
痛い――ううん、怖い
怖い恐いこわいコワイ。
助けて……ねえ助けてよ、おっさん!
何で助けてくれないの?
どうしてボクがこんな目に遭うの――?
このまま……死んじゃうの、ボク?
そんなの――嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやだああああ!!
追い詰められ、最後に残ったのは純然たる殺意。
生き延び明日を掴み取りたいという確固たる意志。
脳裏に響く「是」という温かい言葉と心に灯る輝きに満ちた力の波濤。
刹那、恐怖を乗り越える圧倒的な闘志がボクを支配し――
気が付くと目の前には無残な屍を晒す奴の死体があった。
そして両腕には必死になってボクを抱え止めるリアとフィーの姿。
「ぼ、ボク……」
「もういい、シア。十分」
「貴女はよくやりましたわ、シア。
だから力に――破壊の衝動に身を任せてはいけません」
「だ、だって……こんな筈じゃ」
「いいや、二人の言う通りだ。
それはお前を救いもするけど――傷付けもする諸刃の刃でもある」
「おっさん……」
どこに潜んでいたのだろう?
いつの間にかボク達の前にはガリウスさんが姿を現していた。
そしてボク達を苦渋を堪えた労りの瞳で見回すと――何も言わず、大きな双腕を広げ抱き締めてくる。
「わっわっわ、おっさん――」
「ん。苦しい」
「せ、積極的過ぎですわ――ガリウス様」
「すまない、お前達」
「えっ?」
「どういう……意味?」
「ですの?」
「見守ってはいた。
だがギルドの規定とはいえ――本当にギリギリまでお前達を静観した事だ。
もっと早く介入しても良かった……だが、お前達の成長の躍進を妨げると思うと一歩が踏み込めなかった。本当にすまない」
閉眼し真摯にボク達へ謝罪するおっさん。
今更ながらその掌に爪が食い込み出血している痕があるのを確認する。
事態を収める力があるのに――後輩の成長の為、手助けを自粛する。
目の前で苦しむ姿を静かに見つめながら。
それはどれほど、もどかしく――歯痒い思いなのか。
おっさんに見放された、見返してやると思っていた自分が恥ずかしい。
「ごめん、おっさん――ごめんなさい」
「何がだ?」
「ボク、もっと強くなるから――強くなってちゃんと支えるから」
だからそんな貌で泣かないで?
傷ついた少年の様に――涙を流さずに慟哭するおっさんに胸が締め付けられる。
ボクの心の叫びは二人とも一緒だったのだろう
思い思いの言葉を告げ、おっさんの幅広い胸板へ皆で身を寄せる。
安心感と共にほんのり漂うおっさんの体臭に生きているという事を実感する。
思い返せばこれが初めて自身の想いを自覚した瞬間だったのかもしれない。
こうして――ボク達の初討伐依頼は終わりを告げた。
きっとそれは淡い幻想に彩られた少女期の終わりでもあったのだろう。
それからボク達は戦い――鍛え抜いた。
幸運にもこの時に宿した心の燈火は――勇者の守護神とも言われる無限光明神の加護でもあり――ボクはいつの日かクラスチェンジを経て勇者となった。
魔法剣を習得し【魔剣の勇者】とも称されるようになった。
おっさんの名に恥じぬよう、勇者たる振る舞いと行動を心掛けて。
それでも……救えぬ人はいた。
間に合った事も間に合わなかった事もあった。
そして時折耳にする――おっさんについての話。
ボク達がいるから、おっさんが輝けない。
小娘らの面倒にかまけていなければガリウスはA級――
否、S級に至るかもしれない器だというのに。
酒場の隅で囁き合うような他愛もない噂話。
おっさん自身が気に病むこともない与太話。
でも積み重なったそれは呪言となり……やがては【呪い】へと成り果てる。
だからボクはおっさんにバレぬよう、秘密裏に二人を招集する。
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「あのさ、話があるんだけど聞いてくれる?
ボクは馬鹿だけど――ボクなりによく考えてみたんだ。
おっさんはこのままじゃボク達の世話役として活躍が埋もれちゃう。
本当はおっさんこそ英雄になるべき人なのに。
おっさんはそれでいい、って言ってくれるのは絶対分かるけど……
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だからね、凄く辛い提案なんだけど……
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