勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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「貴方って最低だわ」

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「貴方って……最低だわ」
「残念だが、そのセリフは師匠に言われ慣れているよ」
「あら、開き直り?」
「言い訳はしない。
 ただ……故意じゃなく、偶然である事だけは信じてほしい」
「説得力って言葉の意味を知っているのかしら? 信じられないわ」

 軽蔑を通り越し――最早嘲弄といってもいい程に冷え切った眼差しと声に対し、俺は自己を弁解する事を放棄しながらも事故である事は固く主張する。
 しかし出会い頭に押し倒し――あまつさえ胸元に顔を埋めた行為を客観的に判断した場合、どんな人権派弁護官が熱弁を揮っても満場一致で有罪確定だろう。
 彼女との初邂逅は最悪だった。
 およそ男女の巡り逢いというシチュエーションの中でも特筆すべき程に。
 何故なら女性と付き合った事がない上に鈍感な俺でも……これがどのくらい酷いレベルなのか身体の下で怒りに震える少女を見るまでもなく理解できるからだ。
 この怒り具合は機嫌を損ねた時の師匠すら遥かに凌駕するだろう。
 名匠が身命を注いだ芸術作品みたいに整った容貌が蔑み睨んでくるのを目前にしながら、俺はどうしてこの様な事態になったかを溜息混じりに思い返すのだった。















「ふむ……
 私の下に来て、どのくらい経ったガリウス?」
「今聞きますか、それを」

 精魂尽き果てて地面に倒れ伏す俺。
 疲労困憊で呼吸が出来ず、張り付いた喉が新鮮な酸素を求め喘鳴する。
 周囲に散らばるのは羊程の体躯を持つ大蟻【ジャイアントアント】らの死骸。
 小鬼【ゴブリン】や豚鬼【オーク】よりかは幾分マシだが、妖魔としては低級な方であり鍛錬を積んだ俺なら問題なく倒せるランクだ。
 ただ――その数が問題だった。
 数えるまでもなく優に百は超えているだろう。
 師匠の命令で大蟻討伐を命じられた俺。
 不甲斐ないとはいえ弟子の成長を見せつける良い機会である。
 張り切って共に現地に赴いたものの……
 まさか巣穴ごと潰せ、という意味合いとは思わなかった。
 そうだよな……成人(15歳)の祝いに良い所に連れて行ってやるとか言って、紅帽子妖魔【レッドキャップ】の狩場に連行する人だもの。
 こういった事態を想定しなかった自分の浅はかさを呪うべきだな、うん。
 何かも忘れて思わず放心したくなる。
 とはいえ――現実は残酷で過酷である。
 生き残る為には戦わなくてはならない。
 倒しても倒しても仲間を呼び、巣穴から溢れ出て来る大蟻達。
 個々の力は弱くとも数は暴力だ。
 俺を囲み四方八方から襲い来る強靭な牙に爪に高濃度の蟻酸。
 最初は考える余裕があったが、後半はほとんど本能で戦っていた気がする。
 覚え立ての【魔現刃】の力もあったとはいえ……よく生き残れたな自分。
 神に赦しを請う罪人のように突っ伏し命の尊さを噛み締める俺。
 汗に塗れたその背に豊かな尻を椅子代りに乗せながら師匠――EXランク冒険者【七聖】が一人【放浪する神仙】ことファノメネルは尋ねて来たのだった。

「あの~師匠」
「なんだ、馬鹿弟子?」
「重いので……どけてくれませんか?」
「役得だと思って受け入れろ」
「いや、意味が分からないんですが」
「ん? お前は虐げられて喜ぶタイプじゃなかったのか?
 私の課す修行にグダグダと文句は言うのに、修行自体は真面目に取り組むから、てっきり被虐趣味なのかと思っていたのだが」
「んな訳ないでしょうが!」
「世の中にはそういう性癖【ドM】の奴もいる」
「いや、俺は至って普通【ノーマル】ですし!」
「うるさいぞ、童貞。
 そういう一端の口は、女を抱いてから言え」
「ぐっ……人が気にしている事を(このドSが)」
「ん~? 聞こえんな。
 それで……お前を弟子にして、どのくらい経った?」
「霊峰での大規模討伐戦後に行き倒れていた所を師匠に拾われて……
 かれこれ3年になりますかね」
「もうそんなに経っていたのか。
 だという大蟻程度で四苦八苦するレベルとは……
 馬鹿弟子のあまりにも遅い成長速度に呆れ返ってしまうな」
「はいはい……不甲斐ない弟子で申し訳ございません」
「まあまあ。そうやさぐれるな、ガリウス。
 今のは少し言い過ぎたかもしれん。
 確かにお前は私が弟子にしてきた中でもトップクラスに才能がない」
「慰めですか? それとも追い打ちの蔑み?」
「話は最後まで聞け。
 お前より才能を持った者は沢山いた。
 だが――お前ほど真摯に修行に取り組んだ者はいなかった。
 お前に秀でた才はないが……
 飽く事無く努力できるという事、そして何より最果てが無いという事。
 それは何にも勝る資質だと私は思う。
 いったい何がお前をそこまでさせるんだ?」
「それは……」

 俺の脳裏を幼い頃の記憶が過ぎる。
 単身盗賊に挑み、死んでしまった少女の残影。
 自らの無力さと世界に対する怒りに打ちのめされた灼熱の追憶。
 平穏な少年時代に終わりを告げたあの日の残滓が未だ熾火を上げている。

「深く詮索はせんよ。
 お前にも色々な事情があるだろうからな」
「……すみません、師匠」
「ふん、気にするな。
 思う様にいかないのが人生――だからこそ楽しいというものよ。
 人気名酒の購入予約や弟子の成長も然りな」
「いや――凄くいい話に聞こえるけど……
 それ同系列に語るのはおかしくないですか? マジで同じレベルです?」
「とはいえ――だ」
「誤魔化してるし」
「正直――お前を鍛えるのにも飽きてきた」
「身も蓋もない事を……」
「それにそろそろ私も本業である冒険稼業に戻らなくてはならない。
 組合からの厄介な依頼が溜まってきたのでな。
 だからガリウス――私からの卒業試験としてお前にある任務を課す」
「任務?」
「うむ。お前にはこれから、とある少女の護衛に就いて貰う。
 任期は一年――少女と一緒に大陸を巡れ。
 何より死ぬ気で彼女を守り通してみせろ」
「了解です、師匠。
 不肖このガリウス……精一杯護衛を務めたいと思います。
 だから……まずは背中からどいて頂けませんか?
 就任前に窒息死しますから、マジで」

 俺の心から懇願に対し、視えないというのに師匠は明らかに不敵に笑った後――
 その全体重を乗せて潰しに来るのだった(ぐえっ)。




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