勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

文字の大きさ
25 / 89

覚悟、らしいです

しおりを挟む
「まずいですね、兄さん……」

 ミスティ兄様の捨て身のギャク(本音?)により、幾分か落ち着いた私達。
 そんな私達を見て苦笑し、優しく宥めてくれながらシャス兄様が手長ゴブリンの死体に近付いていきます。
 手頃な木の枝を手に取ると、何やら調べ始める兄様。
 そうしてすぐに発したのが警戒の言葉です。
 何がまずいのでしょう?
 私は声を掛けられたミスティ兄様の方を向きます。
 ミスティ兄様もいつになく難しい顔で思案してます。

「やっぱ『斥候型』か?」
「ええ、十中八九間違いありません」
「ってことは近くに本隊か最低でも小隊規模の群れ……か。
 一刻も猶予がないな」
「ええ」

 真剣な趣きで相談し合う兄様達。
 いったいどういう事でしょう?

「あの、兄様……」
「ああ、ユナ。
 会話に置いてけぼりにしてごめんね。
 でも、ユナも君達も大事なことだから聞いてほしい」

 シャス兄様が皆を集めて話し始めます。

「このゴブリンは斥候といって、群れに先だって偵察するのが任務なんだ。
 しかも敏捷性に優れたこいつを惜しげもなく使う以上、かなりの大きさの」
「え? じゃあ……」
「うん。この近くに間違いなく群れの本隊が潜んでいる。
 おそらく数は50~200匹。
 このままだと遭遇する可能性はかなり高い」
「兄様達でも対応は難しいですか?」
「ユナはボク達を英雄か何かと勘違いしてない?
 確かにノルン家の血筋の者として恥じない修練は積んでるけどね」
「数は力だ、ユナ。
 よく覚えておけ。
 突出した個人の力は確かに厄介だ。
 だが団結した集団の力はいつでも強大だ。
 具体的にいうなら俺一人で20、シャスで10はいける。
 だがそこで終わりだ。
 力を使い果たし囲まれて殺される」
「兄さんの概算は悲観的ですが、
 そのくらいの方が戦場では生き残りやすいでしょう。
 いいですか、ユナ。
 彼我の戦力差を冷静に測り対応するのも戦う上で重要なのです」
「はい、兄様」
「ま、馬鹿正直に相手をしてやる事もないんだけどな」
「ふえっ?」
「外道には外法……正攻法だけじゃない」
「使うんですか?」
「ああ、仕方ない。
 非戦闘員が多過ぎる。
 後は頼めるか?」
「大事な妹です。
 一命に賭けても」
「お前は英雄叙述詩の見過ぎ。
 どこの騎士様だよ」
「兄さん程じゃありませんよ。
 上位精霊との交渉(コンタクト)はまだまだ力量(レベル)不足でしょうに」
「な~に、最悪腕一本くらいだろ。
 全然惜しくはないさ」
「強がりを言って」
「大事なお前らを守る為だからな。
 それぐらいは覚悟してるさ」
「……お願いします、兄さん」
「ああ。……そこで見てろ」

 何やらシャス兄様と話し合ったミスティ兄様は私達から離れていきます。
 見上げる程大きな大木の前に来た兄様は、おもむろに上着をはだけると程よい筋肉のついた腕を出します。
 そのまま木に手を置き瞑想する兄様。
 どこか余裕のあった表情は消え、真摯な眼差しで忘我の域に入ります。

「あのシャス兄様……ミスティ兄様は何を?」
「しっ……今は黙って見守ってください。
 ボク達を無事に守り抜くと決めた、兄さんの覚悟を」
「え?」
「兄さんは精霊魔術の禁忌、サクリファイスを使おうとしてます」
「な、なんですかそれ?」
「簡単にいえば生贄です。
 精霊魔術は本来自分のレベル以下の精霊としか交渉出来ません。
 聖霊の寵愛を受けた兄さんでも原則それは変わらない。
 ですが精霊魔術には編成される前のドルイドマジックな一面もあります」
「それは何です?」
「生贄や供物を捧げることにより上位精霊の助力を得る。
 兄さんは自分の身を捧げようとしてる」
「!!」
「上手くいけば髪の毛数本。
 悪ければ身体のどこか。
 大いなる力にはね、ユナ。
 常に代償が必要だということを覚えておいて下さい」
「やめさせないと!」
「どうしてですか?」
「だって兄様が!!」
「ユナ、兄さんは全てを覚悟の上でああやってるんです。
 それをとやかく言う権利は……
 たとえ弟や妹でもないんです」

 私は悔しくて分からず屋のシャス兄様を睨もうとしました。
 そして気付いてしまいました。
 淡々と私に解説するシャス兄様、その掌がきつく握られ血が滲みだしてるのを。
 私は何て浅はかだったのでしょう。
 シャス兄様だってミスティ兄様にこんな事をさせたくないのに。
 本当ならすぐにでも止めたいに決まってます。
 けど、出来なかった。
 何故なら私達の身の安全……命が係ってるから。
 
(何て……無力なんでしょう……)

 自分の力不足に泣きそうになります。
 でも、泣いても何も変わりません。
 私は毅然とした瞳で前を見据えると、ミスティ兄様の無事を祈るのでした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ
ファンタジー
過労で倒れた社畜女子シオンの転生先は、まさかの魔王城。 無邪気に暴虐無人な上司(魔王)のもとで便利屋事務員としてドタバタな日々を過ごすうちに、寡黙な悪魔レヴィアスの思わぬ優しさに惹かれはじめていた。 ある日、突然変異したモンスターの暴走によって魔王城での生活は一変。 ーーそれは変異か、陰謀か。 事態を解明するために、シオンたちは世界各地で奔走する。 直面したことのない危険や恐怖に立ち向かうシオンは、それを支えるレヴィアスの無自覚で一途な愛情に翻弄されて……? 働くことでしか自分を認められないシオンが、魔王城で働く魔物たちの心をほぐしながら自分の価値を見つけていくファンタジーお仕事じれ恋ストーリー。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...