勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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決意、らしいです

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 あれから数週間が経ちました。
 世間的に母様は誘拐の後、行方不明という扱いになりました。
 父様が四方八方に手を尽くしても所在が掴めなかったからです。
 しかし母様の不在に、普段なら騒ぎ立てであろう者達も今回は沈黙してます。
 何故なら……父様の話を聞いた村人達によって母様は、
 村の子供と家族を命を賭して守った母。
 と認識されたからです。
 その勇敢さに狭い村社会は浮足立つように囃し立てます。
 母様の銅像を作ろうかという意見を真剣に議論してる程です。
 やっと村に受け入れられた母様。 
 それは母様の望みだったでしょう。
 でも……そんな名誉より……
 私は、母様に傍にいて欲しかった。
 これからもあたたかい笑顔で皆と共にあって欲しかった。
 ただただ、そんな後悔ばかりが心を過ぎります。


 やがて私は家に籠る様になりました。
 心配したワキヤ君やクーノちゃん、コタチちゃん達だけでなくゴランおじさんやジャレッドおばさん達など親しい人達が元気づけに来てくれます。
 果てはどこから聞いたのか、深夜に一角馬のリューンまで来てくれました。
 だけど私の心は空虚のまま。
 皆の励ましが空しく響く気がします。
 父様や兄様達も色々声を掛けてくれますが、
 心の整理には時間が必要と思ってくれたみたいです。
 ……本来なら、自分達こそ慰めて欲しいでしょうに。
 その事が分かっていながら応じない私。
 私は……悪い子です。
 倦怠や諦めにも似た感情が私の心を覆っていきます。
 このままならあと数日で私は壊れるでしょう。
 自覚していながら……私は何もせずにいました。
 その、運命の夜までは。








 月が優しく万物を見下ろす深夜。
 励ましの言葉をわざわざ告げに来てくれたリューンが去って行きます。
 私は見送る訳でもなく、ただボーっと外を見ていました。
 ただふと、母様の部屋に行きたくなりました。
 リューンの助言もあった気がします。
 満足に食べて無い為か自分でも驚くほど痩せ細った身体。
 私は幽鬼のようにふらつきながら母様の部屋に入ります。

「母様……」

 家族皆の希望で、ここは母様がいなくなった日からそっくりそのままです。
 いつ母様が戻って来てもいい様に、と。
 掃除は兄様達がしてるのか埃もなく綺麗でした。
 様々な小物に溢れた内装。
 無感動に見渡す私。
 その時、机の上に編み掛けの毛糸と編み棒が放置されてるのに気が付きました。

「あっ……」

 私は亡者の様にそれに手を伸ばします。
 知りたい。
 母様が、何を想い何をしていたのかを。
 生まれて初めて、心のそこからそう願った瞬間、

(……は寒がりだから)

「え?」

 毛糸に触れた指先から、声が聞こえました。
 ここにいない筈の……
 一番聞きたい、母様の声が。
 こ、これはいったい……

「ようやく発動か……」

 その声は!?
 慌てて振り向いた私。
 月光が差し込む窓に腰掛け座っていたのは、
 どこか皮肉めいた雰囲気を漂わす、世捨て人風の賢者。
 ナイアル様でした。
 どうしてここに!?
 三年も音信がなかったのに……
 愕然とする私に、ナイアル様は鷹揚に頷き返答します。

「汝の疑問は尽きぬだろう。
 だが我に問い掛けても全ては答えられぬ。
 何故なら、今ここにいる我は本体ではない。
 汝の内なる力に宿った残留思念体に過ぎぬからだ」
「残留……? 力?」
「そうだ。悠奈よ。
 我が汝に贈ったギフトを忘れたのか?」
「あ、確か……」
「そう。<リーディング>能力だ。
 汝が心より知りたいと思った事を知覚する力。
 霊的な啓示によって、個人の深層心理や、過去の事象・体験等を読みとる力だ。
 大体、疑問に思わなかったのか?
 この世界の言語や文字を学びもせずに使いこなす自分に。
 汝は無意識の内に発動していたのだ
 自覚したのはつい今しがただろうがな」
「そうだったんだ……だから」

 積年の疑問が氷解しました。
 何故異世界なのに苦も無く会話し、勉強できるのだろうか、と。
 それはこのリーディング能力のお蔭だったのです。
 ナイアル様に転生させてもらったものの、
 ずっと私は放置されていたのかと思いました。
 けど違いました。
 支援の形は違えど、こうして見守ってくれてたのです。
 その事実に頑なだった心が罅割れていきます。

「無論読み取るだけでは何にもならん。
 創造の理念を鑑定し、
 基本となる骨子を想定し、
 製作に及ぶ技術を模倣し、
 成長に至る経験に共感し、
 蓄積された年月を再現する。
 それには本来途方もない時間が掛かるが……
 汝は、それを解決する術を持っている」
「あ、まさか……」
「そう……汝が生まれつき持つ、果て無く成長する力。
 終わりなき栄光<エンドレス・グローリー>とでも名付けようか?
 それならばすぐに完成に到る筈だ。
 そこまでの過程を大幅に短縮できるのだからな。
 悪用されれば恐ろしい力となるだろうな。
 だが、悠奈よ。
 今汝が望むのはそんな雑事ではあるまい」
「はい」
「ならば願え。
 汝は何を知りたいのかを。
 何を想い、何を読み取りたいのかを」

 厳かに告げるナイアル様。
 そんな事は決まってます。
 私が知りたい事、それは……
 編み物を手に、強く……
 どこまでも強く、私は願います。
 その瞬間、視界が一気に飛びました。
 幻視される風景。
 母様が揺り椅子に揺られながら編み物をしてます。
 優しい顔をして真剣に。
 何を想っているのでしょうか?
 疑問に思った私に、母様の想いがダイレクトに伝わってきます。
 

(ユナちゃんは寒がりだから、マフラーがいいかしら。
 女の子だし……可愛いのを作らないと)
(シャスティアには絶対手袋ね。
 弓の訓練は指を傷めるし、凍えちゃう)
(ミスティにはセーターかな? 
 反抗期だろうし、あんまり子供っぽいのは……う~ん)
(あら、大変。カルの分が足り無さそう。
 残念だけど、今年は靴下で誤魔化しちゃおうかな……)

 母様の想い。
 母様の感情。
 母様の技術。
 その全てが奔流となって私の心に流れてきます。

(みんな喜んでくれるかしら……
 優しい旦那様に、
 素直で可愛い子供達。
 わたしは……本当幸せ者ね。
 みんな、いつもありがとう。
 愛してる)

 私は……私達は、こんなにも愛されていたのでした。
 母様の編み物を胸に私は号泣します。
 母様がいなくなってから初めて泣きました。
 激情が押さえ切れず子供みたいに。
 母様の思い出に囲まれ、
 いつまでも……いつまでも……




 やがて感情を全て吐き出した私に、ナイアル様が問い掛けます。

「気持ちの整理はついたか?」
「はい」
「ならばどうする?
 悲嘆に明け暮れ、そこで座して母を待つか」
「いえ、動きます」
「ほう」
「私はまだ幼いです。
 鍛え、学び、そして探します。
 母様を……再び、私達の元に迎える為」
「それにはどうする?」
「情報が必要です。
 幸い、ここフェイムは冒険拠点の一つ。
 ここに情報収取を行う拠点を作ります」
「妙案だな」
「まあ、趣味と実益を兼ねて……
 メイド喫茶を開こうかと(てへ★)」
「ぐっ……汝は凹まぬのだな」
「私が泣いても母様は戻ってきません。
 ならば私は私に出来る最大限の事をします。
 父様や兄様達が努力してるように」

 そう、私が悲劇のヒロインをやってる間にも、
 父様は商人や冒険者時代のネットワークを活用し母様の行方を追ってます。
 兄様達は各々の方法で母様を救うべく頑張ってます。
 こんなとこでウジウジしててもどうにもなりません。
 ならば私は私に出来る最大限の努力を積み重ねていきます。
 いつの日か、母様と再会する為。
 ありし日の団欒を、取り戻す為。

「世界を揺るがしかねない力を私利私欲の為に使う……
 フフ、悠奈よ。
 汝は悪女よのぅ……」
「いえいえ。
 思い付きで世界を動かす邪神、
 ナイアル様程ではありません」
「言うではないか……くくく」
「うふふふふ」

 誰もいない母様の部屋。
 皆が寝静まった深夜。
 私とナイアル様はまるで悪代官と商人のような漫才をしながら、
 誰が見ても不審者な笑いを上げるのでした。










 母様を取り戻す。
 転生して以来、初めて心からやりたい事が出来ました。
 勿論メイド喫茶も忘れてません。
 私の目標は最終的には各地に拠点を置いたネットワーク形成。
 いうなれば情報ギルドの作成です。
 その為ならこの身を粉にして頑張ります。
 悲劇のヒロインはもう飽きました。
 ユナティア・ノルンの闘いは、今始まったばかりなのですから。
 見ていて下さいね、母様。
 ユナはやる時はやる子ですよ?
 だから……いつか母様を取り戻せたらまた頭を撫でで下さい。
 優しく「ユナちゃん」って語り掛けて下さい。
 目元が熱くなるのを堪え、私は家族に謝りに部屋を出ます。
 お世話になった方々にもお礼を言いに行かなければなりません。
 母様の愛した家族と、居場所を守る為にも。
 清々しい朝日が差し込む早朝。
 私は新しい人生の一歩を踏み始めました。













 



 ……そうして、いつしか4年の月日が流れました。




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