勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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喪失、らしいです

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「わたしの名はパンドゥール。
 偉大なる魔神皇様に仕える6魔将の一人『恐影のパンドゥール』。
 以後、お見知り置きを♪」
「ふざけるな!
 マリーを……
 私の妻を返せ!!」
「母さんを返せ!」
「母様を返して!」
「何を言ってるの、あなたたち。
 今はわたしがあなたたちの妻で……母なのよ?」
「戯言をほざくな!
 ならば力づくでも取り戻すのみだ」
「あら、わたしに暴力を振るえるの?」
「必要と在れば、な」
「それは……本当?
 ホントにそんな覚悟があるの?」
「何だと」

 母様の身体を借りたパンドゥール。
 無防備に近づいてくると、小首を傾げながら尋ねます。

「ねえ、カル?」
「ぐっ」

「ねえ、ミスティ?」
「ちっ」

「ねえ、シャス?」
「くっ」

「ねえ、ユナ?」
「母様……」

「ほらね、お優しいあなたたちは何も出来ない。
 反対にわたしは」

 母様の指先に鋭い闇色の円錐が集います。
 弄ぶように宙を舞う円錐。
 私達の事を狙っています。

「こうやっていつでもあなたたちを殺す事ができる……
 これって、素晴らしいことだと思わない?」

 森に響き渡る嘲笑。
 優雅な母様の顔を醜く歪ませます。
 まるで、尊厳を打ち壊す様に。
 家族である皆と結ばれた大事な絆……
 その想い出すら、穢していく様に。

 私の中で、
 何かが弾けました。

「母様を……」
「ん?
 な~に、ユナ?」
「母様を……
 愚弄するなあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 頭が白濁するほどの激怒。
 言葉すら形になりません。
 私はただ本能の命じるまま指を突き出します。
 樹の精霊王……
 樹聖霊トレエンシア様の加護が宿った指輪の嵌った指を。
 私の身体から迸る闘気。
 それは指輪のある一点に集約されると激情をカタチにしていきます。

「それはまさか聖霊の!?」

 驚愕に顔を歪めるパンドゥール。
 その目前に美しい容姿をした半透明の少女が現れます。
 何か術を使おうと手をかざすパンドゥール。
 しかし少女は眉を顰め怒りの表情を浮かべると、
 間髪入れずその内部に侵入します。
 途端余裕ぶった表情が崩れ、パンドゥールは苦悶し始めます。

「くっ……聖霊の分霊存在による心的干渉、ですって?
 まだ全てを支配下においた「皆、逃げて」ないのに……
 ここは残念だけど「わたしは本当に幸せだったわ」一端引くしかないわね……」

 パンドゥールの足元に影の扉が現れます。
 影を利用したゲートでしょうか?

「それじゃ今日はこれまで。
 名残惜しいけど、続きはまたいつか。
 ではまたお会いしましょう……」
 
 ゲートに身を躍らすパンドゥール。
 姿が消え去る間際に聞こえた「愛してる」の言葉。
 果たしてそれはどちらの言葉だったのでしょうか?
 私には分かりません。
 何もかも分かりません。

「ユナ!」
「しっかりしろ、おい!」

 混濁し、迷走する意識。
 空白化してゆく思考の中、
 脳裏に浮かぶ母様が哀しそうに微笑みます。

「母様……」

 悠奈である私にとって本当の意味での母ではありません。
 でも彼女はユナティアである私にとって、
 紛れもなく本当のお母さんでした。

「悠奈」
 
 でなく

「ユナちゃん」

 と優しく呼ぶ声はもう聞けないのです。
 薄れゆく視界の中、次々と堪え切れない涙が流れていくのが分かります。
 倒れていく私を、父様が抱き留めてくれたのが最期の認識。
 私は幼児の様に母を求め、泣きながら意識を無くしていくのでした。















 この日を境に、
 私、ユナティア・ノルンは……
 何にも代え難い大事な『母』を失いました。

 
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