勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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謝罪と追及みたいです

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 命の恩人である私とゆっくり話がしたいというネムレスさんの要望もあり、皆は出ていきます。
 こういった成り行きは想定の範疇だったので動揺はありません。
 私が色々と尋ねたい事があるように、おそらく彼からも切り出したい事があるでしょうから。
 そしてそれはなるべくなら家族にも聞かれたくない内容なのです。
 母様の想い出に満ちた診察室。
 一人残された私はベット脇の椅子に腰掛け、ネムレスさんと向かい合います。
 彼は何を言う訳でもなく、
 ただ、じっ……と私の事を見詰めてきました。
 何でしょう。
 無表情ですが端正な彼の面差しに、言い難い気恥ずかしさを覚えます。
 私は意味も無くエプロンドレスのフリルをいじったりモジモジしてしまいます。

「あの……」

 沈黙に耐えかねた私が声を掛けた瞬間、

「この間は……本当にすまなかった。
 重ねて言うが、仮にも命の恩人に対し失礼極まりない態度だった。
 申し訳ない」

 意を決した様に語り、頭を下げるネムレスさん。
 何を言われるのかと身構えてた私にとって、逆に肩透かしな感じです。

「あ、その……いえ、
 私なんて別に大したことしてないです。
 全部父様やファル姉様が対応してくれましたし」
「そんな事はない。
 意識の無いわたし……いや、俺を見捨てず、更に救おうとした。
 君のような若輩者がただ当たり前の様に善を為す。
 遺憾ながら、それは極めて稀有な事なのだよ。
 普通は関わり合いにならないよう忌避するものだが」
「だってそれは……」
「それは?」
「母の、母様の教えですから。
 救いを求める人に救いの手を。
 私が心から尊敬する母様の言葉です」
「成程……君の母君は一廉(ひとかど)の人物らしい。
 娘である君を見てれば、その人柄が知れる」
「フフ。母様の事を褒められるのは……
 自分が褒められるより嬉しいです」
「そうか。だが世辞ではない。
 素直な感想だ」
「ありがとうございます」
「……だが、これだけは聞いておきたい。
 再度君の口から確認したいが、いいかね?」

 前哨戦は終わり、いよいよ核心に迫るらしいです。
 この返答次第でどうなるか予想が尽きません。
 私は汗ばんだ手をこっそりエプロンドレスごと握ります。

「……はい」
「君は、転生者なんだね?」
「はい」
「その経緯と目的を聞いてもいいかな?」
「構いませんが。
 えっと……笑いませんか?」
「ああ」
「本当に?」
「大丈夫だ。
 他言はしないし、笑わない」
「約束ですよ?」
「二言はない」
「ではまず、何から話せばいいのやら……
 そうですね、まずは経緯ですか。
 実は、私はこことは違う世界の人間です」
「それは分かる」
「え?」
「俺は守護者として降臨する際<魂の在り方を視る>力を付与される。
 だからこそ転生した者が一瞥で判別できる」
「そうでしたか」
「人の魂は輪廻・転生する。
 留まる事なき円環だ。
 けど稀に異界からの不純物……異界転生者が交じる。
 強大な力を持つ存在達の手に依ってな。
 それが穏やかなる魂ならいいが、
 時に劇物のように世界に波風を立てる事がある。
 俺の使命はそういった者を見極め……
 場合によっては始末する事だ」
「なるほど……だから最初、私を警戒したんですね?」
「ああ。君が該当者かどうか不明だったからな」
「該当者?」
「喋り過ぎたか。
 気にするな。続きを聞かせてくれ」
「はい。えっと……
 私はその世界で何不自由ない生活を過ごしてました。
 けど、ふとした事で命を落としたのです。
 消えゆく私という存在。
 孤独感と寂しさに恐怖しました。
 そんな私でしたが、ナイアル様という方に救って頂き、
 この世界へと転生したのです」
「ナイアル……這い寄る混沌か。
 面倒な真似を」
「え?」
「ああ、独り言だ。気にしないでくれ。
 ナイアルに導かれたと言ったな?
 ならばその目的はなんだ?
 返答如何によっては俺は君の敵に回らなくてはならん」

 ゴクリ。
 ネムレスさんから放たれるプレッシャー。
 喉の奥が勝手に鳴ります。
 様々なシュチエーションを想定し、回答を用意しました。
 けどネムレスさんの気迫は私に嘘を許しません。
 私は思い切って素直に思いの丈を打ち明ける事にしました。
 運命という言葉は嫌いですが、もう仕方ありません。
 賽は投げられたのです。

「私がこの世界に転生した目的。
 それは……」
「それは?」
「か、可愛いメイド服を着て……
 メイド喫茶で働く事です!!」

 やった、やりましたよ!
 まるで想い続けた人に告白するように、毅然と宣言しちゃう私。
 けど……あれ?
 願望を吐露し高揚する私とは別に、
 何だかネムレスさんが固まってるような?

「あの~ネムレスさん?」
「あ、ああ。すまん。
 その……もう一度いいかね?」
「ですから! 
 メイドとして、メイド喫茶で働きたいんです!」
「あ~……真面目に?」
「大真面目です!」
「本気で?」
「本気です!!」

 呆気に取られた様なネムレスさん。
 普段の厳しさが消え、幼さが垣間見えます。
 ちょっと可愛いなと思っちゃいました。
 しかし不遜な事を考える私の前でネムレスさんは俯き、
 その肩は小刻みに揺れていきます。
 最初は小さな呼吸音が徐々に大きくなっていきました。
 笑い声という、明るく健全なモノに。

「ネムレスさん!」
「ククク……いや、すまない。
 き、君を馬鹿にしてる訳じゃないんだ。
 君の魂を視るに君が嘘を言ってない事は分かる。
 だが邪神と関わりながらその内容は予想外過ぎてね……ぷふ」

 口元を押さえ笑いを堪えやがったです。
 そっぽを向き痙攣するこの男。
 絶対笑わないというから真面目に話したのに……
 もう知りません!

「ああ、そんなに怒らないでくれ。
 どうやら俺の標的は君じゃないようだ。
 疑って悪かった、ユナ」
「あ、今私の名を……」
「ん? 君はユナだろう?
 カルからもそう紹介を受けたぞ」
「まあそうですけど……
 いきなり呼ばれたからびっくりしたんですよ、ネムレスさん」
「呼び捨てでいい」
「え?」
「敬称はいらん。ネムレスでいい」
「じゃあ……ネムレス」
「何だ?」
「どうしてあんな傷を?
 守護者と言うからには、かなり強いと聞きましたが」
「ああ、それか。
 何せ判別する間もなく出会いがしらに不意打ちされたのでね。
 一人ならともかく手練れの連携を前に逃走するのが精一杯だった。
 完全に余裕がなかったみたいだな」
「貴方ほどの人が逃げるだけで精一杯?
 いったいどんな化け物なんです?」
「バケモノ、か……
 確かにあやつ等の在り方はもう人とは呼べないのかもな」
「?」
「何故なら俺が今回遣わされたのは……
 高位魔族に異世界転生してきた、
 奴等の言う魔神皇と呼ばれる者を滅ぼすことなのだから」

 その言葉に、
 欠けたピースがピタッ! と嵌る感触がしました。

 
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