勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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深く反省しちゃうみたいです

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「え~と……改めて御挨拶するのも何ですけど、
 こうして向き合い話すのは初めてなので。
 ユナです。
 今日は貴女とお喋りがしたくて、この場を設けさせて頂きました」
「(コクコク)」
「貴女の事は何と呼べばいいですか?」
「?」
「私達は共にユナティアという存在を形成する要素だと思います。
 貴女と寄り添い合い、紡いできた7年間を振り返ってみるに。
 でも互いに一緒の名前では呼び合うのに不便なので。
 だから便宜上ティアと呼びたいのですが……構いませんか?」
「(コクリ)」
「ありがとう、ティア!
 今日はね、いえ……ずっと言いたかった事があるんです」
「?」
「あの時、4年前の忌まわしいあの瞬間、
 力を貸してくれて……本当にありがとう。
 貴女がいてくれなかったら、私は立ち直れずに絶望に屈してたかもしれない」
「……」
「母様を失う苦しみは貴女も一緒だったと思います。
 けど私の呼び掛けに応じた貴女が母様に巣食うパンドゥールを押さえつけてくれたから最後に言葉を交わす事が出来ました。
 深く深く……感謝致します」
「(コクコク)」
「でも、私は我儘なんです。
 母様を……取り戻したいんです。
 陽だまりの様なあの団欒、
 愛しき日々をこの手にしたいんです!
 だからティア、もう一度私に力を貸して下さい!
 母様の無事を確かめさせてください!」

 私の魂の叫びに、
 ティアは凄く申し訳なさそうな顔で首を(フルフル)と振り、拒否をします。

「何故ですか!?」
「(それは……駄目)」
「え?」

 詰め寄る私に、初めてティアの声が脳裏に響きます。
 感情が籠らない、どこか機械的な印象を受けますが……
 耳に心地よい澄んだ声色でした。

「ティア……?」
「(ユナの気持ちは分かる。
  ティアも早く母様を取り戻したい。
  でもティアが力を使えば使う程、ユナの魂をすり減らしてしまう。
  そんな事をティアは望まない)」
「……私なんて、どうなっても!
 母様さえ戻ってくれば!」
「(それ以上言ったら、喩え恩義あるユナでもティアは怒る。
  貴女は消えゆくティアに光明をもたらしてくれた恩人。
  ティアは凄く感謝してる。
  聖霊の恩恵とはいえ、こうしてお話しできるのも奇跡みたい。
  だけど自暴自棄な意見には賛同できない)」
「あっ……」
「(貴女がよく兄様達に説いてきた事。
  もし貴女が欠けたら残された家族はどう思う?
  ティアは哀しいし、きっとみんなだって哀しい。
  貴女は貴女自身を含め周囲を幸せにしなきゃ駄目)」
「……うん。そうだね」
「(それとティアには遠慮しなくていい。
  素の貴女、悠奈だって充分素敵。
  自慢していい)」
「え? そ、そんなこと(あたふた)」
「(フフ……そこで動揺するのが未熟な証拠。まだまだ)」
「は、はうぅ~」

 すっかりティアに手玉に取られる私。
 最初の頃感じた神秘的な印象がドンドン薄らいでいきます。
 まあよく考えれば強制的に私の思考をなぞらえてきた様なもんですし、
 単純な私の思惑など分かりやすいかもしれません。
 それからはひとしきりティアにお説教の時間となりました。
 何せもう一人の私が相手なので反論できず分が悪過ぎます。
 常に寄り添うといえば聞こえがいいですが、常時監視されてるとも言い換えられます。
 普段ティアは意識の奥底にいるので問題はないですけど、こうして顕在化するとプライバシーも個人情報の保護もあったもんじゃありません。
 あられもなく心を暴かれ、駄目だしされる。
 そんな嵐の様な一刻が過ぎるのを項垂れながらじっと待ちます。

「(……という訳で、ユナは無自覚な小悪魔ぶりはやめるべき。
  その内策士策に溺れるのが筋)」
「深く反省致しております」
「(うん。素直なのは大事。
  ポイント高い。
  だからこれはご褒美)」
「え?」
「(母様を救うのには機会と力が足りない。
  ティアとユナもまだまだ頑張らなきゃならない。
  けど姿を見るのなら可能)」

 驚愕する私の前でティアが目を閉ざし意識を集中させます。
 やがて中空に浮かぶ3D画像の様なヴィジョン。
 そこに映し出されたのは……

「母様……」

 眼から溢れ、頬を伝う涙。
 自然と流れるそれを私は止める事が出来ません。
 薄暗い部屋で豪奢な椅子に座る道化師服の女性。
 半面が仮面で覆われてますが間違いありません。
 それはここ4年思い描いてきた母様の姿でした。
 眠っているのか閉眼し、生気がない顔をしていますが、微かに揺れ動く胸。
 確かに生きてます!
 それだけでこの数年が報われる気がしてきました。
 思わずヴィジョンに手を伸ばす私。
 その瞬間、映像は電源を切ったテレビの様に霧散してしまいます。

「ティア! お願い、もう一度!」

 焦燥すら抱き振り返った私が見たもの、
 それは先程までの元気な姿は何処へ行ったのか、
 憔悴し今にも消えてしまいそうなティアの姿でした。

「ティア!」
「(大丈夫……ちょっと無理をしただけ)」
「何でそんな!?」
「(ユナの喜ぶ顔が見たかったから。
  母様の様子を窺うくらいなら通常は可能。
  ただ……予想外の事態が起こりつつある。
  だからこんなに疲弊してしまった」
「どういうこと……?」
「(母様の内面世界に潜行させた私の分霊存在を以て心的干渉し、
  パンドゥールの洗脳術式に対抗させ鎮静し、意識を眠らせてきた。
  ……けど、それも限界。
  というより、強引に打ち破られようとしている)」
「それってつまり」
「(うん。目覚めの時が近い。
  また暗躍し始めるかもしれない。
  パンドゥール……いえ、魔神皇達が)」
「そう、ですか」
「(ティアは力を蓄える為、再度ユナの中で微睡みに戻る。
  今度奴に遭遇したら、何が何でも母様を取り戻す為)」
「私も同じ思いです」
「(ユナは強い。
  眩しいくらいの真っ直ぐさが誇らしい。
  ティアはユナと話せて良かった。
  また呼んで?
  ……母様を救う、その時に)」
「はい!」

 力強く応じた私の声が聞こえたのか、
 ティアは最後に優しく微笑むと、その姿がゆっくり消えていきます。
 分かれた半身が私の心へと戻って来る感触。
 私は目を閉ざしそれを受け入れながら語り掛けます。
 感謝と、誓いとを籠めて。


(おかえりなさい、ティア。
 母様の事を守ってくれてありがとう。
 これからも……よろしくね)
 


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