勇者の系譜とやらに異世界転生した私ですが、そんな事など関係なくメイド喫茶で働いてます

秋月静流

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心踊っちゃうみたいです

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 ファル姉様に御挨拶し自室に戻った私は、汗で汚れた身体を軽く温水で清拭し、パジャマに着替えます。
 ベットに腰掛け足を延ばし、強張った体を伸ばしていきます。
 このまま泥の様に眠りこけ、朝まで思うままに惰眠を貪りたいという欲求が湧き上がりますが……
 まだ駄目です。
 私には為すべき事が一つ残ってます。
 しかもかなり重要な。
 疲労した身体に鞭を打って、強引に意識を覚醒。
 襲い来る睡魔を辛うじて堪えます。

「また御力を借りますね、ナイアル様」

 ベットの上に正座し直し、深呼吸。
 忘我の域まで精神を統一させ、意識を研ぎ澄ましていきます。
 渦巻く気と魔力が淡い燐光を帯び蒸気の様に立ち昇っていくのを感じながら、
 ナイアル様より頂いたリーディング能力を『自分自身』に向け施行。
 トレエンシア様から受けた助言を基に、私自身の在り方をサーチ。
 もう一人の私とでも言うべき存在、彼女との対話を試みる為です。
 ゆっくり内面世界に広がっていく探索の糸。
 楽しい想い出。
 哀しい想い出。
 心をなぞる度に揺り動かされる様々な記憶と感情の欠片。
 7年間積み上げてきた大事な大事な宝物。
 あんなこと、こんなこと。
 本当に色々ありました。
 時には母様と過ごした日々が収納されたフォルダが目前を過ぎります。
 何もかも忘れて開封したくなるのを必死に我慢。
 過去に縋っては駄目なのです。
 大事なのは未来。
 拳を握り決意を新たにし、更に深淵を目指します。
 そしてついに。
 私の心の深奥……
 いえ、ほぼ魂と重なり合う僅かな隙間。
 深く昏い意識の奥底で孤独に眠る魂。
 確かに『彼女』の存在を感じました。
 微睡む様に眠る彼女。
 私は不快に成らない様、細心の注意を払いながら語り掛けてみます。

(こんにちは……あれ、こんばんはでしょうか?)

 私の心話に対し、彼女は驚いた様に目を開きます。
 周囲をキョロキョロすると、サーチの端末を物珍しげに見てます。

(こうしてお会いするのは二度目ですね)

 問い掛けにコクコクと頷きます。

(今から直接お話ししたいと思うのですけど……よろしいですか?)
 
 束の間躊躇いを見せるものの、好奇心が勝ったのか再度頷きます。
 何とか同意を得る事に成功しました。
 無事『対面』は終わったので後は『具象化』です。
 核となるのは左手の指に嵌められた樹聖霊の指輪。
 嵌めた者の内面世界に影響された力を顕現するというこの指輪ですが、
 私の場合召喚のゲートに近い働きをするみたいです。
 無論対価は必要ですが。
 彼女を呼び出す為、身体から迸る闘気を注ぎ込みます。
 それは指輪のある一点に集約されると、想いをカタチにしていきます。
 激情に駆られていた以前は気がつきませんでしたが、指輪の中で自動形成される高度な魔術式。
 そしてついに半透明の少女が指輪から現れます。
 美しい少女でした。
 背丈は私くらいでしょうか。
 ノルン家特有の黒髪ではなく、蒼玉石のような煌めきを放つ蒼髪に紫の瞳。
 長く伸びた髪が宙に漂うように舞い、彼女が現実世界の住人では無い事を如実に語っています。
 私に似てますが、どことなく母様の幼少期を連想させらせます。
 これがユナティア・ノルン本来の容姿なのでしょう。
 あどけないその姿に、私に非はないものの若干気遅れしそうになります。
 何故なら、私が受け取っている数々の恩恵は……
 本来ならば彼女が授与されるべきものだったからです。
 ナイアル様の力で転生したとはいえ、どうしてもそんな負い目を抱きます。
 そんな私を、不思議そうに小首を傾げながら見る少女。
 やがて元気がない私を励ます様に、にっこり微笑んでくれます。
 あっ……
 そうですね。
 彼女は私であり、私は彼女です。
 共に7年間、寄り添い合い生きてきたのです。
 完全ではないものの同一に近い存在。
 言葉で語らずとも気遣いと想いが伝わります。
 グジグジ悩むのはもうやめました。
 いい加減失礼なので、便宜上彼女をティアと呼称することにしながら、
 私はティアと対話する事に心を躍らせるのでした。



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