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3日目⑤
しおりを挟む「ここは――」
周囲を見渡した楓が不思議そうに呟く。
俺にとっては慣れ親しんだ意識空間だが楓は初めてだ。
当惑するのも無理はない。
最初はワープでもしたのかと思ったしな。
それに既に訪れて入っている家とはいえ、実際に住んでいる俺とは違い今自分がどこにいるかなんて内装からはすぐに該当しないだろう。
なので俺は助け舟を出すことにした。
「あのな、楓。ここは――」
「ここが噂の意識空間!
通称【レベルアップ部屋】っすね!
ネットでもめっちゃ話題になってるっすよ♪
うあ~マジで自分が来れるなんて、夢みたいっす!」
俺の厚意は興奮した楓の声に遮られた。
こいつは人の善意をなんだと……
まあ、いい。
ならば俺もふざけながら合わせてみるまで。
「知っているのか、〇電?」
「うむ。聞いたことがある。
意識空間……零辺留圧風(れべるあっぷ)。
それは【探索者】の意を受け自在に変動する究極のヴァーチャルリアリティ。
正しく望めばいかなる欲望も叶うという。
まさに魅惑の桃源郷よ……本当に実在していたとは」
「いや、なんだよソレ。
そんな事してる奴いんの?」
「うーん……
正確には本人も意識してない深層心理が作用するらしいっす。
破壊衝動を隠し持つ人なら世紀末風。
性的衝動を抑え持つ人なら桃色肉林。
その人の本性というか性癖が垣間見えるみたいです。
――でも、安心しました」
「何がだ?」
「先輩の事を、っすよ。
深層心理でも田舎の家がベースになっているなんて……
素朴で朴訥で無骨で頑固。
うん、やっぱ臥龍先輩は臥龍先輩っす♪」
「褒められているのか、貶されてるのかよく分からんのだが……」
「もちろん、褒めてるんっすよ?」
「それは光栄だな。
ただ――お前は一つ、勘違いをしてるぞ」
「えっ?」
「ここにいるのは俺とお前だけじゃない。
俺達の他に――」
「臥龍、こちらでしたか。
その娘が貴方を支える【探索者】候補なのですね」
奥座敷からアイが姿を現す。
その姿を見た楓が硬直する。
なんていうか、蛇に睨まれた蛙というより――メデューサの視線で石化した様な表情をしている。
そしてしばしの間の後、ギリギリ首が動くと俺とアイを見比べ口を開いた。
「め、メイド……美人」
「ん? 何を言って――」
「隷属……調教……ツンデレ」
「かっ……楓さん?」
「朝の献身! 夜のご奉仕!
即ち――背徳的インモラルシチュエーション!
う、裏切ったっすね、臥龍先輩!
純情無垢なウチの乙女心を弄んだっすよ~~~!!」
喚き散らし泣き真似をし始める楓。
さすがのアイも呆気に取られ声を掛けられずに固まっている。
っていうか、純情無垢な奴はそんな単語を知らんだろうが。
何やらロクでもない事をロクでもなく誤解している楓を前に――
俺は自由が利くはずの意識空間だというのに痛み始めたこめかみを抑えながら、盛大な溜息をつくのだった……トホホ。
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