迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流

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6日目⑤

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「――もう気付かれた!
 くそっ、少し遠いが段取り通りにいくぞ!」
「了解っす!」
「気をつけてね!」

 草原に身を伏せ近付く俺達だったが、魔狼がその巨体をゆっくり起こす。
 魔化(エンチャントウェポン)による武具の威力向上。
 加速(アクセラレート)や機敏(クイックネス)による身体の能力上昇。
 バフ系である支援魔法のみで攻撃魔法を使わないというのに多人数の隠密行動は敵対意志があると見做されたか。 
 仕方ない、ぶっつけ本番になるが――ここは仕掛けるのみ!
 先手を打って出たのは瑞希さんの魔法だ。

「轟々と吹き荒ぶ風は渦を巻き全てを掻き消さん。
 彼のモノが奏でる音を全て踏みにじれ【烈風(ブラスト)】!」

 瑞希さんが使ったのは広大な空間に作用する、風を自在に操る魔法である。
 これは通常なら暴風を叩きつけ転倒させたり上から抑え込んだりする魔法だ。
 しかし――アイに詳細を確認した瑞希さんは物騒な考え方をする。
 音を自在に操るということ――
 それはつまり魔法やスキルの施行に必要なコマンドワードなどを封ずることが出来るだろう、と。
 これがいかに重要な要因かは術師【ウイザード】にしか分からない。
 対魔法・対スキル戦は先読みと手札の交換のし合いだ。
 相手がこう来たらこう返すと、常にルールを構築し押し付け合う。
 瑞希さんが仕掛けるのはルールそのものの、盤面の崩壊である。
 空間自体に作用するその魔法は個の抵抗力など微塵も介さず世界に反映される。
 要は避けようのない致命的なデバフだ。
 現に俺達の行動に対し、遠吠え【ハウリング】で仲間を呼ぼうとした魔狼が困惑した様に喉を揺らすも……
 瑞希さんの視界にいる限りヤツは一切の音を立てられない。
 正確には音を出しても掻き消されてしまう。
 しかし敵もさるもの。
 すぐさま思考を切り替えるや四肢をブルブル震わせる。
 次の瞬間、猛スピードでこちらに突進してくる魔狼ワーグ。
 仲間を呼ぶ【遠吠え】以外の奴独自の固有能力である【突進(チャージ)】だ。
 魔法ではなくまた詠唱をしている訳でもないのでこの静寂下でも発動する特技。
 猛烈な速さに乗ったその衝撃力は危険運転の車両交通事故クラス。
 頑丈な俺ならともかく楓や瑞希さんなら瞬く間に命を奪うだろう。
 
「ヤツが来る!
 俺の背後に退避しろ!」

 険しい顔のまま奴を視界に捉え続ける瑞希さんが魔法を継続しながら頷く。
 迫るその圧力は脅威の一言。
 もはや暴走にも近い絶望的圧力に対し俺は静かにスコップの柄に手を添える。
 タイミングが全てだ。
 しくじれば俺はまだしも背後に庇う者の命はない。
 極度の集中のさなか――時間がゆっくりと流れる様な知覚能力の拡大。
 ――ここだ!

「【分身(ブリンク)】!」

 魂魄の気合いと共に生まれ出たのは俺と全くの能力を持つ分身。
 高性能だが残念ながら顕現時間は5秒も持たない死にスキル。
 しかしそれ故にこういう使い方も出来る!
 分身は真っ向から魔狼にぶち当たるや、激しく抵抗。
 凄まじい傷を負いながらも堰き止める事に成功し消滅する。
 ふう~どうにかうまくいったか。
 心臓がバクバクいってるのを強引に呼吸で抑え込む。
 本来ならば瞬間火力を増強させるこのスキルを身代わりとして扱えると教えてくれたのはアイである。
 従来の戦いにこれを組み込めばまた新しい戦法を生み出せるだろう。
 感慨深い想いに酔い掛けそうになるが、今はまだ戦闘中だ。
 まず魔狼を斃す事に集中しなくては。
 スコップを握る右手と反対の左手にずっと握り締めていたものをヤツに投げる。
 歯茎を見せ嘲る様に眼を細める魔狼。
 傲慢にも取れるヤツの態度。
 それはある意味当然の成り行きだ。
 アイの話ではヤツの体毛はしなやかでありながら剣のごとき鋭さを持ち、並半端な攻撃を弾く強靭な装甲だけでなく炎などの弱点から身を護る鎧にもなる。
 人間程度の投げる投擲物などいかようにも耐えれると思ったのだろう。
 だが、幾度も言うがそれは驕りだ。
 ヤツ自身は知らない――自らの弱点を思い知るがいい。

「キャワン!?」

 もし音が聞こえていたらそう甲高く叫んだであろう奴の悲鳴を幻聴する。
 何が起こったか分からないとでも言いたげに、駄犬のごとく周囲を転げまわる。
 その巨躯は無数の粉末に包まれていた。
 空間収納から取り出し投げ込んだ香辛料ハイグレードミックスに。
 実は辛党の俺はデスソースなどを常に持ち歩いている。
 ヤツもハバネロくらいなら耐えれただろうが……
 キャロライナ・リーパー、ブート・ジョロキアには勝てなかったようだ。
 何故ならこれらのスコヴィル値100万を超える。
 まさに化学の生み出した猛毒。
 神経毒などに耐性がある魔狼も初見の毒には対応できなかったようだ。
 遠くから俺達に気付く自慢の鼻が仇になったな。
 それでも命を奪うまではいかない。
 魔狼は憎々しげに立ち上がると俺達目掛け復讐の眼差しを向ける。
 再度突進を仕掛けようとするのだろう。
 涙に濡れたその瞳は怒りと辛さで紅く混濁していた。
 だからこそ気付かない。
 ずっと隠れ潜んでいた伏兵の存在に。
 暗殺者のように突如死角から襲い掛かってきた楓の一撃に、魔狼は最後まで気付かなかっただろう。
 狼といえど犬と構造は一緒、つまり死角も同様なのだ。
 ヤツの死角――それは長い鼻。 
 目が側面についていることと、鼻が邪魔になることで顔の正面下が死角になる。
 だからこそ地面に伏せ、腕の力だけで這い寄り近付いていた楓の存在に気付かなかった。
 あとは簡単だ。
 俺達の中でも最高の攻撃力を持つ楓の狙い澄ました一撃が顎から突き刺さる。

「死点急襲(バックスタブ)――強襲(スマッシュ)!」

 完全奇襲となった刺突からの抉り込み。
 脳幹を貫く本当の意味での致命的(クリティカル)な一撃により魔狼は絶命する。
 しかし油断はせず魔狼が動かない事を確認。
 野生動物は心臓が止まっても数秒は生きている事がざらにある。
 こいつもその例外かもしれない。
 警戒したまま数秒が経過し――やがて風化していく魔狼の巨体。
 あとに残されたのは一際大きな赤黒い魔石。
 どうやら本当に絶命したらしい。
 顔を見合わせ安堵する間もなく意識部屋に移行する俺達。
 終わってみれば何ともあっけない幕切れだった。

 
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