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6日目⑦
しおりを挟む「クラスチェンジ……?」
「――ええ。
貴方達がアイと名付けた存在から伺っている筈です。
基本職を極めた先に辿り着くモノ。
即ち――発生上級職というクラスについて」
「確かに聞いてはいた。
ただ……それは根本的にどういう意味なんだ?」
「クラスチェンジとは【魂の昇華】という行為です。
蓄積された業を重ね合わせ鍛造し直す末に生まれ出る可能性。
まあ砕けて言えば、より強力なクラスを得ることが出来るだけですが」
「なあ、質問いいか?
そんな事をして――アンタらに何の得がある?」
「損得の問題ではないのです。
人類全体の早急な進化と強化。
それは我々にとって何にも勝る至上命題。
だからこそ惜しげもなくリソースを注ぎ込んでいるのですから」
「理由は?」
「今は――まだ語れません。
意地悪ではないのですがね。
時が経つのを、もうしばしお待ち下さい」
「そこはアイと一緒か。
うん、分かった。
なら早速で悪いが……皆の上級職へのクラスチェンジを頼む」
「詳しく話せと――ねだらないのですね」
「何らかの事情が裏にあるのは理解しているさ。
それが感情的なものによる理屈などでない事も。
ならば事情を知らぬ俺達がしゃしゃり出る幕じゃないと思う」
「恐喝・懇願・泣き落とし……
貴方達人類は交渉事が実に多種多様です。
けど、臥龍――貴方は面白い。
知ろうとしない事でよりアクティブに動こうとするのですね」
「世の中、知ってしまえば無関係ですと言えない事が多過ぎる。
ならば無責任でも自由に動ける方が気楽だ」
「諦観にも似た達観というか――物事にドライなのか。
いいでしょう。
ではクラスチェンジの儀を執り行います。
まずは、臥龍」
「おう」
「新しく得るクラスチェンジ先は、侍【サムライ】でよろしいですね?」
「ああ。それでいい」
「……分かりました。
なら目を瞑りなさい」
「こうか?」
「ええ……そのままで」
閉眼した俺に近寄るアリシア。
無言で俺の頬を挟むとその顔を――って、ちょっと待て!
「せ、先輩!?」
「臼汰くん!?」
その光景を目の前で見せられた楓や瑞希さんから悲鳴が上がるのを聞くよりも早く――慌てて開眼し離れようとした俺だったが、目の前に口元を抑え笑うアリシアの姿があった。
こ、こいつまさか……
「――キスされそうになったと思ったんですか?
本人に断りもなくそんな無礼な事はしませんよ。
でも、私がこれをすると――何故か皆さん慌てるんですよね」
「そりゃあ……誰だって、な」
神秘的な美貌を持つ麗人に迫られたら男女問わずドキドキするわ!
そんな俺の様子がおかしいのか、まだ笑いが収まらないアリシア。
楚々たる物腰に今まで騙されてきたが……
こいつ、意外と性格が悪いのかもしれない。
だから俺の声が荒くなるのは仕方がないと思う。
「それで――いつクラスチェンジできるんだ!?」
「――もう終わりましたよ?」
「はあっ!?」
「七色の光が乱舞するとか……高らかにファンファーレが鳴り響くとかの演出があった方が良かったですか?
物足りないかもしれませんが、私が直接貴方に触れた段階でクラスチェンジは済みました。クラスチェンジは魂の昇華ですからね。あとは通常空間に復帰した瞬間から貴方は【侍】の職に就く様になります」
「……盛り上がりも何もないんだな。
今までの苦労や気構えはいったい……」
「そういう仕様なので。
現実は得てしてそういうものですよ、臥龍。
貴方は苦労に見合った力を手に入れました。
とはいえクラスチェンジで大きく何かが変わった訳じゃない。
ただ……可能性という枠が外れたのは自覚して下さい」
「枠が外れた?」
「ええ。貴方が可能としてきた多くの事――
それがクラスチェンジにより昇格したという自覚です。
皆が羨む強力無比なスキルを覚えて無双するのではありません。
今の貴方は誰よりもほんの少し速く――ほんの少しだけ強い。
人にして人の可能性を超える存在なのですから」
「よく分からないが……精進するさ」
「結構。
それではお二人とも」
優しく繊手を伸ばすや楓と瑞希さんに触れるアリシア。
別段、光り輝くとかのエフェクトもなくこれで終わりらしい。
「はい。これでクラスチェンジの儀はつつがなく終了しました。
ご協力、感謝致します」
「こちらこそ感謝っす!」
「お礼を言うべきなのはわたし達ですわ」
「まったくだ。
ありがとう、アリシア」
「何かをして貰ってそれを当然と思わず、常に感謝の心を忘れない――
人類の美徳の一つですね。
ふむ、よろしい。
貴方達の心意気を汲んで一つ助言しましょう」
「助言?」
「ええ……
備えなさい、三人とも。
大いなる破局の時は間近に迫っています。
己を鍛え、物資を蓄え、仲間を作る。
それこそがいずれ訪れる終末への……」
アリシアが告げる全ての言葉を聞き終えず――
俺達は覚醒していく。
新しいクラスを――新たなる力をその身に宿しながら。
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