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第1章 うろうろ迷子と運命の出会い?
第033話 1人で鍛練
しおりを挟む結局その後部屋でカリンとミリアーナの襲撃を受けた。そしてメッチャ怒られた。
「全く、荷物を置きに行って疲れて寝ちゃうなんてまるで子供じゃないですか」
「私はそんなリリスちゃんも可愛いと思うから大丈夫だよ?」
「ああっ! 露骨な点数稼ぎ止めて下さい。卑怯ですよミリアーナさん!」
「ふふっ、何の事かな? かな? 私はリリスちゃんのお姉ちゃんだからそのくらいで怒ったりする訳無いじゃない?」
「むぎぎ……、リリスちゃん、私もお姉ちゃんて呼んで下さい! ズルいですよ!」
両手をカリンとミリアーナに握られて服屋に行かされひらひらした女の子用の服を3枚も買わされた。勿論傭兵用の服も同じく女の子用で2枚買わされた。30万イェン吹っ飛んだ。最悪の気分だ。
「服買うだけで何時間使うんだよ……」
昼前に来たのにもう夕方だ。疲れ切って脳が死んだようになって帰った。雑貨屋も寄ると言われた時は2人が鬼に見えたぞ。懇願したけど受け入れてくれなくて、恥を忍んで2人をお姉ちゃん呼びして何とか許して貰った。
『うーむ、オナゴのあの熱意はリリィも理解出来ないのじゃ』
心なしかリリィも疲れているように見える。精霊剣の精霊も疲れるのか?
翌朝、普段から女装しろとカリンに言われているから仕方なく昨日の服を出していくと何故か女性用下着まで入ってた。それを見ただけでどっと疲れてしまう。
けど取り敢えずひらひらしたスカートなんて着ていられないから傭兵仕事用の服に着替える。腰回りが細くなってるな。元々太っていた訳じゃないのに前のパンツは合わなくなっちゃったよ。男物も買い直さないと駄目か。
白いシャツに茶色のベスト、下は茶色に黒のチェックのズボンを履いて金髪のカツラを付けた。部屋にはギルド長が置いてくれた高級品の鏡がある。
自分の顔だけどカツラ1つでまあ女に見える、かな?
『カツラなんぞ無くとも女の子供に見えるがの』ボソッ
格好もおかしく無い……と思う。今日は剣の鞘を取りに行かないとな。でも1人で外に出るなって言われてるしどうすれば良いのか。
コンコン「リリスちゃーん、いますかー?」
「ふわぁい」
欠伸をしながらドアを開けると何故かジト目のカリンが居た。
「もう昼前ですよ? 何時まで眠そうにしてるんですか? それに欠伸をしながらドアを開けちゃ駄目ですよ? 女の子らしくしましょうね」
カリンの迫力ある笑みに思わず引き攣った笑みで返してしまう。
「その顔はショックですよ? まあ良いです。それにしても何でスカートを履いてないんですか? 仕事を受けられる訳でもないのに」
「えと…………勘、鈍らないよう……剣を…………」
「ああ、そうですか。余り人目に触れて欲しくないのですが、それなら仕方がないですね。副ギルド長に相談しましょう」
副ギルド長? ギルド長じゃなくてか? まああの人怖いから別に良いけど。
カリンに手を引かれてギルド長の部屋に向かう。いや1人で行けるんだけどね? 握られる手に圧を感じて振りほどけないんだよ?
ギルド長の部屋に行くと副ギルド長が1人で書類仕事をしていた。
「ア、――リリスさんですか。その姿、良くお似合いですね」
心なしか疲れたように見えるな。ギルド長はいないのか。
「ギルド長は今出掛けていますよ? それでカリンさん、何か用ですか?」
「あっはい、リリスちゃんが鍛練したいって言うんですけど。下の鍛練場は目立っちゃいますし、何処か良いトコないかなと思って……」
「ああ、確かに。なるべく人目に付いて欲しくないですね。分かりました、屋上を使って下さい」
「えっあっ、屋上ですか? そう言えばありましたね。柵も付いてたしこの町で1番高い建物だから確かに誰にも見られませんか」
「ええ、ただ本来は避難用の場所なので誰にも見つからないようにして下さい。後一応防音にはなってますが飛んだり跳ねたり五月蝿くすれば聞こえます。なるべく静かに使用して下さい」
そう言って副ギルド長に屋上のスペアキーを渡された。
「リリスちゃん? 私は仕事に行きますけど帽子と手袋をして鍛練して下さいね? 冬でも日差しは美容の敵ですよ?」
カリンにどうでも良い忠告を受けたけど逆らう方が面倒臭いから言われた通りにして訓練を始めた。――最近流されっぱなしだな。
けど聖女騒ぎが収まるまでは仕方ないか。寮を出て本部の休憩室に住むのもこの格好も自分の為だし受け入れるしかない。
1番高い建物と言ったけど本当は神聖教会の方が高い。とは言っても神聖教会は3階建て、屋根の上に掲げられた旗が高いだけだ。屋上から見ると教会の、人の住めない旗部分だけが此処より高くなっていて背伸びして偉ぶっている神聖教会そのものを感じて滑稽に見えてしまう。
走り込みは出来ないけど早歩きくらいなら良いだろう。それから柔軟をしてリリィに指導されながら剣を振って汗を流していく。
「ふうっ」
手足がパンパン、腹筋も痛い。今まで1人で剣を振ってても腹筋や足が痛くなるなんて無かったのにな。
『それは己の楽な剣の振り方をしておったからじゃろ。それよりも魔法の練習もしたいの』
町中で魔法の練習は無理じゃないか?
『何、回復魔法なら問題あるまい』
回復、と聞くと嫌な顔になってしまうのも無理ないだろう。
『お主の魔力でお主が使うのじゃからリリィの影響は無いのじゃ』
俺、回復魔法使えんのか?
『使い手に素養が無い魔法はリリィも使えんのじゃ。素養があるからこそ人々を癒やしてやれたのじゃ』
――成る程。
『お主の魔力をリリィがゆっくり操って、お主に回復魔法を掛けていくのじゃ。お主はそれを補助、加速させようとしてみるのじゃ』
俺の魔力がリリィに操られていく。自分の魔力が勝手に動いていく感じはちょっと変な感じ。まあ外魔力循環されるのに比べればどうでも良いレベルだけど。
おっと、今は魔力の動きに集中しないと、……けど良く分からない。取り敢えず逆らわないように、邪魔にならないようにイメージしていく。
回復魔法を使い出したな、やっぱり良く分からない。……でも身体から疲れが抜けていく気がする、そのイメージを持ちながらリリィが操る魔力をなぞるように魔力を流して行こう。
『――ここまでじゃの。どうじゃ?疲れは取れたじゃろ?』
「んっ」コクリ
『回復魔法の方も何度もお主の体を通して使っておるからの、多少は感覚が掴めたようではないか』
アレで良かったのか? 出来た実感無いんだけど……。
『上出来じゃ、その内1人でも出来るようになるじゃろ(確かに素養はある。なのにリリィの回復魔法にはあれ程弱いのは何故じゃ?やはり無理して悪ぶっているがアレが本来の姿なんじゃなかろうか?)』
その後少し魔力が余ってたから身体強化魔法の練習をした。上級者の必須技能だ。
『回復魔法と強化魔法は似ておるから、別々に覚えるより効率が良いのじゃ』
?? 似てるなら上級者は皆んな回復魔法使えんじゃないのか? 何で希少扱いなんだ?
『想像力の問題じゃな。強くなるイメージは容易くとも、どうなって回復するのか具体的なイメージが出来ぬのじゃ』
俺はリリィを通して実際に回復魔法を使って実感してるから使えるようになるって事か。上級者の奴等は回復する具体的なイメージは出来ないけど、強くなるイメージは出来てるってのか?
『掛ける時間と想いの差じゃな。魔法の才があり、強くなりたいと想い続けていれば強化魔法は発動しやすい。しかし回復魔法は怪我をした時くらいにしか治したいとは思わんじゃろ』
……確かに……。
『回復魔法を使えるようにするより強化魔法、攻撃魔法に力を注いだ方が戦う上では効率が良いしの。回復魔法は怪我した時にしか使わんじゃろ? それと回復魔法は知識がないと逆に悪化させてしまう場合があるゆえ、適切に使わねばならんのじゃ。じゃからこの事は広めるでないぞ?』
――成る程、……分かったよ。
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