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第1章 うろうろ迷子と運命の出会い?
第034話 初チームは女装で
しおりを挟む汗をかいたから1階のシャワー室に行くと受付の中から見知った顔の少女達がテーブルで何か話し合っているのが見えた。村で一緒に寝泊まりした冒険者のコレット達だ。何で傭兵ギルドにいるんだ? ……移籍でもするのかね?
まあ良いか、構わずシャワーを浴びて着替えてから受付の中を通るとカリンが手招きして来た。
「んっ、……何?」
「服、鍛練終わったんですよね? 町中用の可愛い服を着て見せて下さいよ」
シカトシカト、仕事中に何言ってんだ全く。客も待ってるぞ?
「あっ、ちょっと待って下さいリリスちゃん! これから剣の鞘を取りに行くんですよね? 休憩時間に付き合いますよ。だからちゃんと可愛い服着て来て下さいね?」
そう言って俺の返事も聞かずに足速に戻って行った。……はあ、スカートなんてマジな女装じゃねえか。流石に自分から履くのは抵抗あるんだぞ? 何で当然のように要求してくるかね。
『――似合ってしまうからのう』
肩を落とし、身に覚えの無い罰ゲームをさせられる気分のまま部屋に着替えに戻って行く。
『まあ、可愛いオナゴにしか見えんし誰にもバレんから大丈夫なのじゃ』
それ慰めてんのか?
クソ、本当の罰ゲームなら逃げるのに女装しなきゃ外出も出来ないって何だよ。それもこれもクソ教会が回復魔法使いを無理矢理囲ってるからだ。滅べば良いのに、何が神だクソバカ野郎め。
諦めて若草色のワンピースに茶色のベストとパンツを着て待つ事1時間。
「来ましたよー。リリスちゃん行きまっ、きゃー可愛いー! 良いっ! 良いよリリスちゃん! 清楚系お嬢様!!」
テンション高いなオイ。コートと帽子を羽織らされ、まるで人攫いにあったかのようにギルドから連れ出されて武器屋に行った。
「おう、出来てるぞ嬢ちゃん。合わせるから嬢ちゃんの剣を出してくれ、仕上げをするからよ」
「んっ」
リリィを渡して周りを見渡す。ベルトとナイフを買っておくかな。一般的な茶色いベルトと良さげなナイフを手に取っていく。
「リリスちゃん剣のベルトですか? ちょっとゴツ過ぎませんか? 他に可愛いの無いですかね?」
「雑貨屋で普通のベルトを買って来て此処で加工したりとか、高く付くけど仕立て屋で一から作って貰ったりする奴もいるな」
「残念ですけど休憩時間短いんですよねぇ。ゆっくり楽しめないですけど仕方ありません。て言うか腰ベルトじゃなくてせめて肩掛けタイプにしましょうよ。これならワンピースの上からでもイケますし」
やや小さめ、軽い一般的なナイフとベルトはカリンの言う通りの物を選ばされた。
「うーん、でもリリスちゃんには無骨過ぎますね。圧倒的に似合いません。今度他で可愛いのを探しましょう!」
「1人でも……」
可愛いって何だよ。おかしな物を買わす気だろう。
「絶対ダメですぅ!! 1人じゃナンパされたり誘拐されたりトラブルに巻き込まれますよ!?」
「確定!?」
「当たり前です! 私が声を掛けられないように忙しそうにしたり目立たないようにリリスちゃんを隠したりしてるから何とかなってるんですよ?」
「ナイフは8万イェンだ。良いヤツだからベルトはオマケしてやるよ。確かに嬢ちゃんは危なっかしそうに見えるな。1人で出歩くのは止めた方が良いだろ」
マジかよ、2人を見るとマジっぽい。チラッと奥さんを見ても頷かれた。これから先1人歩きも出来ないのか? どうすりゃ良いんだよ。
ベルトを肩に掛けて付けた剣を持ち武器屋を出る。周りを見渡すと確かにチラチラと見られている。
「――男も女も見てる?」
「リリスちゃんが可愛い過ぎるからですよ」
「うう……」
帽子を深くかぶって俯き気味にギルドに帰って行った。
目立たないように裏口から入ると鍛練場が見えて来る。さっき見た村で一緒だったコレット達が剣を振っていた。
「あの娘達がどうかしたんですか?」
「あぅ、村で――――――」
「成る程ぉ、ちょおーっとそこで座って待っていて下さいねリリスちゃん」
そう言うとコレット達の所に行ってしまった。取り敢えず言われた通り近くのベンチに座って待っておくか。
暫くコレット達と話してるのを見てたら俺にまだ待つように合図して上に行ってしまった。コレット達にバレないように顔を隠して待っている。チラッと見るとコレット達も何が何だか分かってないようだ。何なんだ一体?
「リリスちゃーん。そっちの娘達もちょっと来て下さぁーい」
暫くするとカリンが戻って来て呼ばれた。顔を見られないように先に歩いて付いて行くとギルド長室に連れて行かれた。コレット達は相当緊張しているようだ。
「成る程、その娘達ですか」
「あの~、何で私達連れて来られたんでしょうか?」
「ああ、ごめんなさいね。私は副ギルド長のレーナよ。冒険者から此方に来て貰えて嬉しいわ」
「あっ、はっはい、私達も嬉しいです!」
「冒険者のランクは事情があって反映されないけど許してね?」
「いえ、大丈夫です!」
「そうです。元々低かったですし、寮もあるから生活がとっても楽になりそうです!」
「がっ、頑張る」
「ええ、無理しないように頑張ってね。それでね、貴女達に聞きたい事があるんだけど……」
「「「……ゴクッ」」」
「聖女様と言われてる人について貴女達はどう聞いてるのかしら?」
「「「っ……知りません!」はい!」ん!」
「ああ、――サージェスさんから口止めされていたわね。でも良いわ、それで貴女達の誠実さが分かったから」
「?? えっ? サージェスさん!?」
「実はね、貴女達にそこの人のサポートをして貰えないかと思っているの。どうかしら?」
「えっ!? ……サポート??」
ん? サポート??
「リリスさんはどうですか? この子達にお世話されていたと聞いてますが」
「お世話?? リリス……さんを?」
コレット達が此方を見てくる。そこでカリンが帽子とカツラを取って俺の正体を明かしてしまった。
「うええぇーっ! アイリスちゃん!?」「何でそんな格好……」「可愛い」
うぐぐ……。女装は俺の趣味じゃないのに、――なんて罰ゲームだ。
「今はリリスさんと名乗っていますからリリスさんでお願いします。それでどうですかリリスさん」
「ふえっ?」
何? 何がなんだか付いて行けてないんだけど?
「サポートって具体的に何をすれば良いんですか?」
「全てです。外出からギルド内の移動も貴女達に紛れれば目立ちませんし、カリンも仕事が出来るようになりますから」
「アイ、リリスちゃんそんなに危うい立場なんですか?」
「神聖教会の圧力がキツくなって来ています。冒険者からのスパイも否定出来ませんし、傭兵ギルド内でも安心出来ません」
「「「「うわぁ……」」」」
「って何でリリスちゃんも同じ反応!?」
いや俺も知らんし。てかマジでそんな状況なの!?
「貴女達にはリリスさんの生活面でのサポートと女性らしさを身に付けさせて欲しいです。代わりにリリスさんは傭兵としてのイロハを教えてあげて下さい。受けて頂けるなら貴女達にはギルドの依頼としてお金も出しますよ?」
「「「受けます!」」」
「イロハ? ……えっ……ええ? ……」
「リリスさん。――いえ、そうね。貴女には無理そうね。そこはカリンに聞くと良いわ。それにしても皆んなは簡単に決めたわね。もうちょっと考えるようにした方が良いわよ?」
副ギルド長に何か可哀想な子を見るように言われた。何か納得いかないけど進んで人と話すなんて無理だから仕方ない。
『この娘等相手なら少しは慣れたんじゃないかの? 抱き枕にして一緒に寝とったくらいじゃし』
「ルルの、仲間の命の恩人ですから!」「恩、返すです」「リリスちゃん可愛いしねー?」
「宜しくね。えーっと、リリスちゃん」「また一緒だねー」「ふふっ、嬉しい」
「カリンは引き続きサポートしてあげて、危険が無いようにね」
「はい、任せて下さい! 兎に角可愛い女の子に仕上げてみせます!!」
「――程々にね」
「……そのお金、俺が出す?」コテン
「「「「言葉使い!」」」」
「リリスちゃん直す気あります?」
「……ご、……ごめんなさい?」
皆んなとカリンがジト目で迫ってきた。つい出ちゃうんだよな。女言葉を使うのに納得いってないってのもあるし。
「お金はギルドが出すのでリリスさんは負担する必要はありませんよ」
「ギルドがお金を出してリリスちゃんを守るんですか?」
「私達もあの教会の言いなりになる訳にはいかないのよ。まあ教会も確証が無いのでこれ以上強引な手段には出たくても出れないでしょうけどね」
こうして仮にとは言え初めて俺はチームを組む事になった。
――――こんな女装姿じゃなければ喜べたのに。
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