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第2章 ゆるゆる逃避行は蚊帳の外?
第003話 神聖教会とトラブル
しおりを挟む「ギルド長、今朝の4人の回復終わりました」
「そう、アイリスちゃんの様子はどう?」
「変わりありません」
「……本当に回復特化なのね。素晴らしいけど頭の痛い問題だわ」
「目ざとい傭兵からも探りを入れられていますが……」
「そっちは濁しておいて、もう日が無いし流石に手が回らないでしょ。これ以上の情報漏洩も怖いしね」
「はい、そうですが後々の事が怖いですね」
「それは考えてあるわ。私はこれからまた冒険者ギルドに行って来るわね」
ドンドンッ
「ギルド長っ! 大変です! 教会がっ、神聖教会が神兵を連れて乗り込んで来ました!!」
「――はあ……。全く、この忙しい時に」
ギルド長と副ギルド長が1階ロビーに降りるとゴテゴテした神官長のデブが神聖教会の兵士を連れて来ていた。
「やれやれ、漸く来ましたか」
「仰々しいお出迎えね。何の用かしら?」
「ふん、知れた事。その方等が監禁してる聖女様を出して貰おうか!」
「何の事かしら? 謂れのない非難を間に受けてギルドの仲間を売るような真似は出来ないわよ」
神聖教会は王族貴族並みの権力を有していると言うのに、何でこの人はこの状況で楽しそうに話せるんだろうか。副ギルド長のレーナは1年程の付き合いだけど、このギルド長の機嫌の良し悪しくらいは分かるようになっていた。
「お前達の事など知るか! おい、さっさと探し出せ!!」
「抜剣許可っ! 好きにさせないで仲間を守りなさい!!」
ギルド長の命令に職員達が取り囲み剣を抜いて行く。神聖教会の悪辣さと強大さを知っているだけにレーナはこの状況に軽く目眩がしていた。
職員達はシャルロッテが連れて来た間者は勿論だけど、それ以外の職員達もアイリスちゃんの回復魔法を受けて、皆感謝の念を持っていて協力的になっているようね。
対して神聖教会では何十倍ものお金を支払っても大した効果を得られない場合が多々あり、普段から態度の悪い神聖教会に対して皆が不信感も募らせていた事もこの状況に拍車を掛けているのでしょう。
職員は一部病弱な家族を内密に治して貰ったりしているし、中にはアイリスちゃんに心酔してる人達もいるのだ。そのアイリスちゃんが狙われているとなれば剣呑な空気にもなるでしょう。
そして職員が神聖教会と言う巨大組織からギルドを守ろうとする事に傭兵達も胸を熱くさせ次々と剣を手に取っていった。これもギルド長の狙いかしらね。
「ギルド長、余り前に出ないで下さい」
「――レイクだ。戻って来てたんだな」
「おお、天剣のレイクか」
「ここに残ってたんだな」
「ははっ、アイツ等死んだんじゃねえ?」
ああ、レイク君まで入って更にイケイケな雰囲気に。
「貴様ら神聖教会に逆らう気か! ただで済むと思うなよ!! この町で生きていられないようにしてやるぞ」
「あらあら、居もしない人間を出せと言ったり他人の建物で暴れ回ろうとしたり、そして今度は脅迫かしら? 貴方こそ教会の権威を失墜させたいの?」
「居もしないだと~。居ると言っておるだろうがっ!!」
「私達は居ないと言ってるじゃない」
「ふんっ、惚けたって無駄だ! こっちは証人もいるんだからな!!」
そう言って出て来たのは、マット? ランクを落とされて罰金を支払わされたって言うのに何やってるのよ!
「アイリスが傭兵なのは俺が証人だ。俺はスタンピードの時も一緒だったんだからな!」
「――へえ」
「どうだ! これでも居ないと言うつもりではないだろうな!?」
神官長がニヤニヤしながら迫ってくる。証人がいたから強引に兵を率いて来たのか、ギルド長はどうするつもりかしら。
「貴方はクビよ、二度と傭兵ギルドに関わらないでちょうだい」
「ふっ、ふん、それがどうした。俺はこれから神聖教会で神兵として雇って貰う約束なんだからな!」
「あら、そうなの?」
神兵などと言っているが神聖教会の兵士と言うだけで只の人間なのよね。まともに鍛練もしない、弱い癖に態度がデカい町の嫌われ者。但し給料が高く威張り散らせる為働く場所としては人気があるのが頭が痛い所でしょうか。
「神聖教会に貢献する信徒にはその資格があるのだ! さあ分かったらさっさと聖女様をだせ!!」
「その男は妄言を吐いて傭兵ギルドを混乱させようとした人間よ? そんな人間の言う事を信じるなんてあり得ないわね。どうしてもと言うのなら領主様から命令書でも貰って来るのね?」
「なっ、何だとぉ! 神聖教会にケンカを売る気か貴様ぁ!!」
「別に売って無いわよ。正式な手順を踏んでって言ってるだけじゃない。得意の祝福とやらで頭を癒やして貰ったらどうかしら?」
「ぐっ、くう~……、あくまで神聖教会に歯向かうつもりか、許さん! 許さんぞ貴様等!! 覚えてろよ! 後で吠え面かかせてやるからな! 行くぞお前達!!」
――どうにか引いてくれたわね。まあ神聖教会側は逆らわれるなんて思っても無かったでしょうから剣を向けられて臆したのでしょうけど。
実際に神聖教会の人間を手に掛けていたら後々どうなる事か、引いてくれて助かったわ。もし領主の名令書なんて貰って来てもその頃にはアイリスちゃんはレンリート伯爵領に行ってるでしょうしね。
「それでギルド長、これからどうしますか?」
「ちょっと冒険者ギルドに行って彼、マットを受け入れないように言ってくるわ」
「? ……教会は彼を雇わないと?」
言われてみるとアイリスちゃんが手に入らなければ実績も無く、雇う理由が無くなるわね。
「さあどうかしら? でも仮に雇わなかったらどうなるかしらね? 傭兵にも冒険者にもなれなくて、仲間を売った卑怯者なんて噂まで広がって」
「そんな人間誰も雇おうとしないでしょうね。お金も無い筈ですし、それこそ犯罪にでも走らないと……」
「ふふっ、そうなったら彼を雇うと騙した教会の所為よね? 雇ったとしても教会の兵士は仲間を売る卑怯者しかなれないなんて噂が立っちゃうかも知れないわ」
――そう噂を流せって事ですね?
「それに、これでアイリスちゃんが町に残れなくなったのを完全に神聖教会の所為に出来るわね」
――その噂も流せって事ですね?
アイリスちゃんの回復魔法を受けられなかった人達の恨みを神聖教会に押し付けるんですか。傭兵達の恨みがどれ程になるか……、自分が恩恵を受けてしまっているだけに考えるだけでも恐ろしいです。
神聖教会が乗り込んで来たと聞いて皆んなと屋上に避難していたら片付いたからとギルド長室に呼ばれた。レイク達もいるな。
「――と言う訳です。まだ安全ではないですから気をつけて下さい」
何故か疲れが見えるレーナさんから説明を受けた。いや、話しを聞く限り疲れて当たり前か。
「にしてもマットの奴~、全然懲りて無かったのね~~……」
ミリアーナ激おこです。
「その彼の資産は差し押さえました。退職準備金と合わせて530万イェン、内424万イェンを慰謝料としてリリスちゃんの口座に入れておくわ」
「「「おおー」」お金持ち」
スタンピードから金運爆上げだな。でもアイツ結構貯め込んでたな。節約するタイプに見えないしやっぱりランク3から一人前って言われるだけあるんだな。
「教会に目を付けられた事と比べたら割に合わないわよ。まあ彼がギルドを裏切らなくてもこうなるのは時間の問題だったから、リリスちゃんはタダでお金が入ったようなモノだけどね」
「バカに感謝」
「「「ぶふっ」」」
「それで良いのリリスちゃん? 何なら私がボコボコにしてくるよ?」
「止めなさいミリアーナ。教会がまた乗り込んで来るかも知れないでしょう?」
ミリアーナは不満そうだ。まあ元チームメンバーって事で個人的に許せないんだろうな。
「ん?」
レイクが無駄にキラキラした笑顔を向けて手を握ってきた。
「ええっと、今はリリスさんでしたね。レンリート伯爵領にはギルド長の護衛依頼を受けているので俺達と一緒になります。全力で守るので安心して下さい」キラッ
「「「きゃーー♡」」」
近い近い、そして何故かコレット達が顔を赤くしてる。だがコイツの戦闘力は頼もしいか、取り敢えず笑顔で返しとくか。
「んっ、……頼もしい」コクリ
「……っはい、任せて下さい」
ガバッ! 「ひゃうっ!?」
「リリスちゃんは私の、アンタには渡さないわよ!」
ミリアーナにいきなり後ろから抱きしめられて変な声を上げてしまった。けど俺は俺のモノなんだけど??
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