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第2章 ゆるゆる逃避行は蚊帳の外?
第007話 女装(盲点)で帰郷
しおりを挟むセドナ村の村長とレイク達に付き添われながら家に向かう。今実家は次男が継いで子供が2人いるらしい。長男は村長の娘と結婚して別の街で暮らしてるって話しだった。
因みに妹のねぇね(アネモネ)も別の街で結婚しているそう。――会いたかったのに悲しい。でも幸せならそれで良いと納得するしかない。
ナージャさんに家族の近況を聞いていると家の前まで来てしまった。心の準備が出来ないな、20年振りなのに女装で再会ってどんな顔すれば良いんだよ。
コンコン
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
いや心の準備いぃいい!! 何してくれてんのナージャさぁーん!!!
「はいはぁい、――今開けますよぉ」
あわわ、どどど、どうしよう返事が来ちゃった!? 出っ、出て来るよ!? どうすんの!? 何も思い付かないよよよよよ!!?
『どうにもならんじゃろ。兎に角落ち着くのじゃ』
ギュッとナージャさんの手を握るだけで何の覚悟も付かない間に『ガラガラ』と扉が開いてしまった。
出て来たのは50代くらいに見える俺と同じ桃色の髪と目の女性、まあ俺の母親だろう。こう見ると歳取ってるなあ。
お母さんは140cm、俺よりは10cm背が高いけど女でも低い方だ。お父さんは普通だった気がするからお母さんの血を濃く受け継いだんだろうな。
ナージャさんは村長を交えてお母さんに俺を泊めるように話してさっさといなくなった。いやいや、20年振りにいきなり説明も無く女装でお母さんと2人きりってどうすれば良いの!?
イジメ? これイジメなの?? 泣きそうよ!?
「ええっと、リリスちゃんて言うのかしら? 取り敢えず座って、お茶を淹れるわね」
うん、気づいてないね。まあ今まで誰も気づかなかったし当たり前だけど。もう開き直るしかないか、どうせ正体を隠したままだと後々シャルロッテさんかミリアーナ辺りにバラされそうだしな。
「えと……お、……お母さん」
「えっ?」
母さんと目が合ってから覚悟を決めてカツラを取って母さんと同じ桃色の髪を見せる。
「「…………」えーっと……ユミルちゃん?」
「……?? んと、……アイリス」
「……ええっ!? アイリス? アイリスってあの、リリちゃん?? ウチの3男の? 20年も会ってないリリちゃん??」
「んっ、……アイリス」こくこく
うん、まあ信じてくれなかったよ。仕方ないからシャルロッテさん達に説明頼んだけど。ついでに着替えも頼んだよ。
「あらあら、それじゃあ本当にリリちゃんなのね? もう反抗期は終わったのかしら」
「ぶふぅっ!」
だっ、誰が反抗期だ。何だよそれ、俺そんな認識で出て行ったと思われてたのか!? いや確かに町に出てからは捻くれてはいたよ? けど男女問わず迫られたり襲われ掛けたらそうなるだろ!?
「あら着替えちゃうの? せっかく似合っていて可愛かったのに」
「女装趣味、違う」
俺はさっさと着替えるべく袋から服を出した。若草色の花柄ワンピースだった。――そう言えば女物しか無かったわ。……意味ねえええーー!!
いや傭兵用のパンツスタイルとかがあっただろ! ミリアーナがやりやがったな!?
床に叩き付けたくなるのを我慢して見なかった事にした。話題を変える為にお母さんに横になってもらって回復魔法をしていく。余程気持ち良いのか疲れていたのかすぐに寝入ってしまった。
『そろそろ魔力が切れるのじゃ。外魔力循環で魔力を回復させるのじゃ』
お手柔らかに……っ! うぐぐっ……気持ち悪っ。精霊剣から清浄な魔力が流れ込んでくる。ぐぐっ……負けちゃダメだ、負けたら産んでくれてありがとうとか、涙ながらに言いそうだ。
外魔力循環で魔力を補充してから回復魔法を掛ける。別々に行う事で負担を減らしてるけどキツいものはキツい。まあ緊急時には同時にやるしかないからそれに比べればマシなんだけど。
『母親の手当てはお主の望みじゃろう。ほれ、回復魔法の続きをするのじゃ』
あっ、ちょ待っ、あああぁぁあああーーーーっ!!!
「アイリス? ないない、ユミルだろ?」
「だから誰ですかユミルさんって。と言うか貴方もどなたですか?」
『聖女モードが残っておるの』
お母さんへの回復魔法を終えてしばらくすると他の家族が戻って来たのですが、自己紹介をしても信じて貰えません。
「誰ってミルちゃんよリリちゃん、忘れたの?」
「はっ? ……ミルってシュミル、兄さん? 次男の? ……でも、おじさんです」
「いやコレが普通だよ! 俺もう37だぞ! おっさんだよ、って言うかお前本当にアイリスか? 何で歳取って無いんだよ!?」
「歳は、取って……ます。――多分」
「そこは自信持とうぜ!?」
ちょっとドタバタしたけど何とか分かって貰えたようだ。けど久しぶり過ぎて間が持たない。お母さんが俺の回復魔法でご機嫌になっていたので時間稼ぎに皆んなにもしてあげる事にした。
「ふう……終わった、です。お父さん」
「ん? おお~? 体が軽くなったぞ! 凄いなアイリス!」
先ずはお父さんだね。今家にいるのは父母に次男のシュミル、その妻エイミー。娘のマリエルは今年10歳になる。もう1人兄がいるらしいけど独り立ちして家を出たそうだ。
「ふふっ、この子がリリ叔父さんなんだね」
「ヨシ、次は俺だな!」
「私ですよね? だ、ん、な、様?」
「あ、……はい」
「その次は私ぃーー!」
「えっ!?」
「何?」
「マリエルは後で良いだろ……」
「そしたらリリちゃん疲れて出来なくなっちゃうかもしれないじゃん!」
「いや、だったら余計に俺が先だろ! お前若いんだから寧ろ要らないだろ」
「要るわよ! むしろ1番要るわよ! お婆ちゃんなんてシワが消えて10歳以上若返って見えるじゃん! 美容に良いなら女の人優先でしょ!? リリちゃんが私に出来なかったらどうすんのよ!!」
「どうもしねえよ! って言うかリリちゃんって何だよリリちゃんって、俺の2コ下なんだぞ。おっさんだぞ!!」
「良いじゃない可愛いんだから! 私より幼く見えるのよ。絶対私が先にやって貰うんだからね!!」
自分より幼くってお前10歳だろ。流石に舐めるなよと言いたい。背だって俺の方が全然高いんだからな!?
『子供の言う事じゃろ。それに全然って10cmくらい誤差じゃろうに、小さいのう』
小さくない! 俺はもう伸びないんだから今しか無いんだよ!!?
『思ったより切実じゃった。――でも納得なのじゃ』
「リリちゃん、お母さん若返ったって言われちゃった? だからリリちゃんも昔みたいにママって呼んでね?」
アンタも何言ってんだよ良い歳して。
「さっ、アイリスちゃんお願いね?」
アンタの旦那と娘が言い争ってるけど良いのか? ……と思ったけど奥さんの目が笑ってないから黙って手当てしたよ。
「んっ、次」
「リリちゃん私だよね!」「アイリス、俺だよな!」
「ひっ!」
お父さんお母さんは体から毒素を出して内臓を綺麗にして父さんは腰を念入りに、お母さんは美容を念入りにしておいたんだけどそれで期待を爆上げしてしまったらしい。
「落ち着きなさい。そんな風に迫ったらアイリスちゃんも選べないでしょう」
「何よ、お母さんは終わったからって余裕ぶって……ってツルツルじゃん! もうお母さんじゃなくてお姉ちゃんじゃん!!」
「ええ? えへへぇ……そうお? お姉ちゃんって呼んでも良いわよ♪ じゃあ貴女もやって貰いなさい」
「はあい、リリちゃんお願いね?」
「いや、俺……先に……」
「「何?」」
「イエ……何でも……」
「ミル兄で」
「ええ~、何でー?」
「……不憫」
ジト目で見ると目を逸らした。自覚あんのかい。
「ミル兄、――そんな姿見たくなかった」
「くっ、俺もお前の女装姿なんて見たくなかったぞ」
取り敢えず寝かせてから頭を叩いておいた。皆んなと同じようにしてからミル兄は足が悪くなってたから手当てして腰回りからバランスを整えた。
「終わり。次は……マリエル?」
「むう……」
「凄いなアイリス! 本当に身体が軽くなった気分だ。足も痛くない!」
ご機嫌なミル兄だけどマリエルが拗ねてるぞ? ミル兄を優先したからかな。でも俺までミル兄を蔑ろにするみたいで嫌だったんだよな。
「リリちゃん、……マリエルお姉ちゃんって呼んでみない?」
真剣な顔で迫ってくるマリエル、拗ねてたんじゃなかったのかよ。て言うか俺の方が10cmも高いんだからな? 調子に乗るなよな。
『はあ、10歳の子供相手に張り合っておる時点でのう』ボソッ
スルーしてマリエルの手当てをしていった。精霊剣リリィの外魔力循環も回復魔法も精神をガリガリ削って来てる。姪っ子可愛いなあ。皆んな仲良しで世界が色付いて見えるよ。
全員の手当てを終えてグッタリしたままご飯を食べてから寝た。パジャマも入ってたんだけどパジャマまでフリフリ花柄だった。――見なかった事にして袋に戻したけどマリエルに目敏く見つけられ着せられた。
「ああー、リリちゃん可愛い可愛い可愛いぃーー!」
「本当ねー、こうして見ると貴女達姉妹にしか見えないわあ」
散々女性陣にイジられたけど父さんとミル兄は見なかった事にしてくれたよ。家族の愛を感じるね。
『そうかのう?(関わらんように逃げただけじゃないかの?)』
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