89 / 278
第3章 なりきり学生生活は問題だらけ?
第012話 副都の迷宮探索へ
しおりを挟む翌朝何故か俺だけ迷宮に入る条件としてヒストロスさんに商工ギルドのダールトン様から送られた装備を身に付けさせられた。
白地に黒のラインが入ったぴっしりした軍服みたいだ。そこに膝下まである黒い靴にフードの付いた白いローブと帽子をかぶっている。膝や胸、股間とかに何かの補強素材が入ってるみたい、帽子は軽いけど金属が入ってるっぽくて頑丈そう、フードを被れば顔を隠せるようになってるのは良いかな。
「どう?(格好良いだろ)」ドヤァ
『男装しとるようにしか見えんの、と言うか良い大人がタダで高価な装備を貰って何とも思わんのかの』ボソッ
「うん、似合ってるよアイリスちゃん。ねっ、ナージャ?」
「ああ……、アイリスちゃんが癒やしです」
「!??」
何故かナージャさんが抱き付いて離れない。まあ良いか、朝食を摂って早速迷宮に行く事にする。迷宮前にある探索者ギルドに着いたけどまだ人が疎らだ。
『完全にナージャの中では幼子扱いになってしまったの』ボソッ
「今までの町だと早朝って混んでるもんなんだけど此処は違うのね」
「迷宮は基本的に全て定額の買い取りになります。早い者勝ちで依頼を取り合うと言うのはありませんからそこまで混み合う事はありません」
「成る程ねえ」
この建物は5階建ての内1、2階と3階の一部は石造りになっていて魔物対策で頑丈に出来ているそうだ。
「うわぁ、受付ばっかりねぇ」
「そうですね、下3階は全て受付になっています。あくまで此処は迷宮に出入りする人の管理と買い取りのみの施設ですから」
普通のギルドみたいな依頼受付用の個室とかも無いんだな。て言うかさっきからミリアーナの問いに何故かナージャさんが答えないでヴェルンさんが答えている。ナージャさんを見上げてみるけど起きてからずっとこんな感じなのだ。これから迷宮で戦うって言うのに大丈夫かよ。
「2人、ケンカ、……した?」コテ
「あはは……、ちょーっと夜のスキンシップの加減を間違えちゃったみたいでねぇ。ナージャ悪かったから機嫌直してよぅ」
「……アイリスちゃん、迷宮に入れば切り替えますからもうちょっとこのままでお願いしますね?」ニコッ
「お……、ん」コクリ
何したんだよミリアーナ! ナージャさんの笑顔ちょっと怖かったぞ!?
『昨日お主が見捨ててさっさと寝てもうたから怒っておるのじゃないかの?』
えっ? 何それどう言う事? 俺が怒られてんの??
『お主良い大人2人が本気で1人寝出来ずに自分と寝ようとしてたと思うておるのか?』困惑
えっ? ……ええ? 他に理由があるのか?? わ、分からんぞ??
『(ああ、これは説明しても無駄なヤツじゃな)単なるじゃれあいなのじゃ。好きにさせておくのじゃ」呆れ顔
本当か? それで大丈夫なのか? ……うーん、やっぱ女ってのは良く分からんな。
アイリスの困惑した姿を見てちょっと気まずくなった2人だったがミリアーナが反省してるかは怪しい所だろう。そしてナージャも許すとは言ってない。
『まあお主が間におれば問題無いし平気じゃないかの』投げやり
迷宮は副都を囲う壁の外にあって、隣接されたこの探索者ギルドの目の前にある。そして副都を挟んで反対側に王都があるのだ。スタンピードが起きても副都が王都の盾になっているそうだ。
王都に帰る時間を考えると3日しかないし俺とミリアーナは初めてだから全て日帰りで行き来する予定だ。受付で今日の予定を告げてから迷宮に入って行く。
「……桃月の妖精」
探索者ギルド用の新しいチーム名だ。迷宮に入る探索者が余りにも多いから区別する為に必要だそうだ。
「うんうん、アイリスちゃんのチームに相応しい名前だね」
空に浮かぶ月は2つある、薄っすらとした白銀色の大きな月と桃色の小さな月の2つだ。
「桃の月をアイリスちゃんの髪と瞳の色に、更に精霊が見えるアイリスちゃんを同じく精霊が見えると言われるエルフやドワーフ等の妖精種になぞらえているのです。良い名前でしょう」
むしろエルフやドワーフに笑われないか? 会った事無いけど。まあ聖女にされないだけマシか。
迷宮には探索者ギルドの3階から専用の階段を直接降りて行く、周りは分厚い煉瓦の壁で囲われている。
もしスタンピードが起きてもギルドから外へ降りる階段を塞げば3階の高さから飛び降りて外に出る事になる。大抵の魔物が暴れる前に大怪我をする事になる仕組みだそう。
「でも探索者が逃げ遅れたらどうするのかしら」
「そこは見捨てるしかありませんね」
まだ早朝だからか余り人はいない。その人達も迷宮に入って行くばかりで出て来る人はいない。階段を前にナージャさんが抱き付くのを止めて手を繋いで階段を降りて行く。今日は特に甘えん坊だな。
『………………』
迷宮に入ると薄暗くなっていて不気味な雰囲気がする。
「アイリスちゃん大丈夫ですよ。私達が守りますから、それにその装備もありますし」
「ええ、低階層の魔物の攻撃くらいその装備には無意味です」
うっ、ちょっと怖くなって緊張してるのがバレてしまった。
因みにその装備が非常に高価なのはアイリスだけが知らない。服に帽子や靴の一部にはアダマンタイトが使われていてそれ以外はクイーンアラクネの糸が使われていて防刃防火防寒等様々な高い効果あり金貨100枚、一千万イェンはする、庶民の平均年収6年分以上だ。
上級者の中でも中堅以上か、良い後援者がいなければ手が出ないレベルの代物だ。
迷宮に足を踏み入れると冷んやりした空気と何とも言えない圧力のようなモノを感じる。石の階段を降りて行くと階段と同じ石畳の通路が続いていた。
「なんて言うか変な感じがするわね。迷宮特有のモノかしら」
「そうですね、深く潜る程強く感じます。一説には魔物が生まれやすい魔力が集まる場所に迷宮が出来ると言われています」
『まあ概ね正解じゃの。邪素が濃いから自力で外魔力循環などするでないぞ主よ』
当たり前だ。リリィの外魔力循環でも気持ち悪いのにこんな魔物の領域で自分からやるなんて自殺行為じゃないか。
「この1階層では噛みつきネズミとスライムが出て来ます。まず私が戦いますからイケそうならミリアーナと交代しますね」
「了かぁーい」
軽い口調でミリアーナが答える。俺の前にナージャさんとミリアーナが、後ろにヴェルンさんが、――俺の戦う隙が無い。
この1階層は幅5・6m程の通路で小部屋もある迷路上になっているそうだ。高さは4m程あって圧迫感は無いけど戦うには狭い。
「キキッ、ギーー!」
暫く歩いていると噛みつきネズミが1匹襲って来た。30cmくらいかな? 思ったより大きい。ナージャさんが3歩程前に出てタイミングを合わせて細剣で横凪に斬り裂いた。
「噛みつきネズミは素早いですが獲物と見た相手に真っ直ぐ突っ込んで来ます。タイミングを合わせればこの通り。ただ、剣を早く出し過ぎると躱される事もあるので注意です。まあ飛び跳ねる事は無いので倒し易い相手ではありますが」
成る程、リリィのお陰で目が良くなってるから良く見える。タイミング合わせるだけなら簡単そうだな。
『まあ所詮1層目に出て来る雑魚じゃからの、お主でもイケるのじゃ』
……でも?
「あれ?何か素材は取って行かないの?」
「大したお金になりませんし3階層まで行ってからにしましょう」
ミリアーナの問いにナージャさんが返してる。うん、2人共引きずって無いみたいだな。きちっと切り替えてる。この辺は流石だ。そのままスライムはスルーして噛みつきネズミはミリアーナが主に倒して行った。
「スライムは粘性の液体生物で核を破壊しないと倒せませんが、その核しかまともな素材は無いのです」
「取れないのに何でその核が素材になるって分かってるの?」
「調べた方がいたそうです」
「暇な人も居るものねえ」
「研究者と言うモノはそう言うモノでしょう」
0
あなたにおすすめの小説
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる