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はじまり
本当のはじまり
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「えーでは、調子に乗って羽目を外さないように。しっかり体を休めるんだぞ」
12月24日。担任の先生の言葉で2学期は締め括られた。その解放感からかクラス全体の緊張の線がパッと溶けた。
「よしゃー!みんなで遊ぶぞ~!」
「今日5時から焼肉だよね」
そう、今日はクラスの打ち上げと言う大イベントもあるのだ。そして風子にとってはこれが未来と関係を良好にするための最後のチャンスだと思っていた。
未来とは1ヶ月ほど前、空き教室でお互いに唇を重ねてから疎遠になっていた。風子の想いとは裏腹に未来自身は遠くに行ってしまっている様に感じられた。
「ふーこふーこ」
風子の席に友里と香菜が寄って来た。
「それぞれ家で着替えて、打ち上げまで遊ばない?買い物とか」
「あー、いいじゃん!行こー」
3人で遊ぶ約束をして、それぞれ帰路に至った。
「んー…どうゆう服装にしようかな」
「焼肉だし白はないよねー」
一人、部屋の中で今日着ていく服を吟味する。
相原さんはどんな服着て来るんだろうな…。きっと清楚なんだろーなー。いや、もしかしたらバッチリクールで決めてくるかも⁉︎
未来を想像して口元が閉まらなくなる。やはり風子は未来のことが好きなのだと改めて実感する。
風子は結局黒ニットを着ることに落ち着き、慌てて約束の場所へ向かった。
「お待たせー!」
「おう、遅いぞー!」
待ち合わせのショッピングモールの入り口に二人は既に着いていた。どうやらいくつか行きたいお店の絞り込みをしているようだった。二人の服も本当に可愛かった。ギャルらしい奇抜さも出ていて、しっかりTPOにあった服装になっている。
香菜がスマホの画面を見せて来た。
「風子、まずはこのショップに行きたいんだけどー」
「いーじゃんいーじゃん、オススメのとこいろいろ連れてってよ」
「よーしきたー!香菜行くよー」
友里が香菜の手を引っ張って走り出す。風子もセットした髪が崩れないように追いかけた。
まずは小物雑貨のお店にやって来た。
アクセから実用品まで揃っている大型店だ。
「まじこのピアスかわいくない⁉︎」
「あっちの財布に付いてるクマもめちゃかわなんですけど!!」
3人で店内の物色ではしゃいでいると、風子の視界の端に白い手袋が映った。
猫の髪のようにさらさらとした生地で、とても暖かそうであった。
風子は目を輝かせた。
絶対これ、相原さんに似合う…!
黒髪の彼女に白の手袋。そのなんとも萌えるような姿を想像して、風子は少し身体に熱を帯びてしまった。
「どしたんふーこ。それ買うの?」
「ぅわっ⁉︎」
次の店に行こうとする二人のことを差し置いて、手袋に夢中になってしまっていた自分に気づく。
「それ可愛いね。いーじゃん似合うよふーこ」
「え?」
「自分へのクリプレってかー」
香菜は眉毛を下げて笑う。
確かにそれなら本当に悲しいやつだけど!!
その時、風子は何故か衝動に駆られた。
「…やっぱり、買っちゃおっかなー!可愛いし、荷物にならないもんね」
風子は手袋に手を伸ばした。
「あ、こっちこっちー!香菜ちゃん達今日は一層かわいいねー」
5時少し前。目的地の焼肉店に着いた3人を、打ち上げを提案してくれた女の子が案内してくれた。
「今日の打ち上げ、提案してくれてありがとな~!」
「いや、こちらこそ皆参加してくれて超嬉しい!楽しもーねー!」
すると、4人用のBOX席に着いた。一人分余った席を見て、その子はんー、と考えた。
「ちょっと待ってもらっててもいい?」
しばらくすると、今日の買い物の話に花を咲かせていた3人のもとに、未来を連れてやって来た。その子は未来を置いて、よろしくーと戻って行った。
「…っ⁉︎」
「おー、相原さんじゃーん」
「相原っち、うちらと相席ー??」
風子を見て、一瞬動揺した感じを見せた未来だったが、スン、と持ち直し、よろしくお願いしますと頭を下げた。
未来はよそよそしく風子の向かいに座った。
いや、まさかこんなにいきなり急接近とか、聞いてないんですけどー…。
やばい、心臓がうるさいっ…!
「4人分のお水を入れてくるわ」
「おっ、ありがと~」
ひとまず注文を取り終え、未来は席を立った。
風子は気づかれないように、じっと未来を観察する。未来は薄いピンク色のセーターを着て、黒いロングスカートを履いていた。風子は唾をゴクッと飲んだ。
「あ、私も手伝うよっ」
「!別にいらな…、……お願いするわ」
4人分のコップは確かに持てないと思った未来は、断るとおかしいと思ったのだろう。少し渋ったが、その協力を承諾した。
「あのー、相原さん…?」
「…何かしら…?」
風子は氷を入れ、未来は水を注ぐ中、ついに風子は未来に話しかけた。
「1ヶ月くらい前の話なんだけど…」
「……」
心臓の高鳴りがうるさい。
「放課後にキス、したよね?私に…」
「水を入れ終わったわ、先に席に戻るわね」
未来は水が並々入ったコップを二つ持ち、早々に立ち去ろうとした。
「ちょ、待ってよ相原さん!まだ話が…」
風子は咄嗟に未来の腕を掴む。コップの水が未来の手に溢れ、袖口まで湿っていく。未来は足を止めて、こちらを向いた。
「あのことは、忘れて。もうその話をしないで…!」
それだけ言い残して、未来は無言で溢れたコップを風子に押しつけ、立ち去って行った。
その時の未来の顔が、辛く、苦しそうな顔をしていた。グッと心が押し縮められるような感覚がした。風子は、その表情が頭にこびりついて離れなかった。
……相原さん、何か隠してない…?
「あ、ふーこお疲れじゃん!」
「相原さんに水溢したんだってー?やっちまってんなぁ!」
友里と香菜はこっちを見ながら笑う。未来はこっちを見ず、濡れた袖をまくっていた。
相原さん、そう言って説明したんだ…。
ーあのことは、忘れて。ー
風子は未来の言葉を頭の中で反芻する。
気の迷いだったとでも言うのだろうか。
恥ずかしいことをしたと自分を悔いているのだろうか。
分からない。分かるわけない。だって私は、相原さんじゃないんだから…。
「ふーこ!早くお肉焼こーよ!」
「あ、うんごめん!トング取ってー」
その後、向かいの席に座っているのにも関わらず、一度も未来と目が合わなかった。それもそのはず、未来はほとんどずっと下を向いたままだったからだ。友里も香菜も未来に話しかけたが、大した反応を見せることはなく、2人も痺れを切らしたようだった。
風子も、地に足がついているような感じがなく、打ち上げを心から楽しむことは出来なかった。
「二次会行く人ー!」
結局2時間が経ってしまい、一次会はお開きとなった。ほとんどの人が二次会に向けて、荷物をまとめたり、財布からお金を出したりしている。
未来は、当然といえば当然なのだが、みんなの輪から離れて帰ろうとしていた。
風子はその未来の姿を目で追いかける。
これで…良かったのかな…?
もう全部無かったことにして、年が明けたら何も無かったように接する。そっちの方が楽だよなー…。
風子は諦めかけていた。
そもそもあの時、キスをしようとした自分がいけなかったのだ。ハグをした自分がいけなかったのだ。仲良くなりたいと声をかけ続けたことが、いけなかったのだ。
本当にそうなのか…?
未来に近づこうとする自分が、相原さんにとって本当に害だったのか?
話しかける度に、相原さんの口数はどんどん増えていかなかったか?嬉しそうでなかったか?
ふと、あの時の辛そうな未来の表情を思い出す。
相原さんの何か隠しているようなあの顔。私は、あのままにしてていいの⁉︎
「!ふーこ⁉︎」
「えっ、風子二次会行かないの⁉︎」
気づけば、私の足は勝手に走り出していた。未来が消えた道へ足を進める。
もう、どうなっても良い!!当たって砕けてもいい。相原さんの心の深淵を知るために、私の気持ちを伝える…!
しばらくして、人通りの多い道に、未来を見つけた。風子は嬉しくて、なりふり構わずその姿に抱きついた。
「…んっ!な、何⁉︎」
「…相原さん!お願い待って!」
「あなた、やっていることがストーカーよ?」
未来は絡みつく風子の手を払い除けた。風子はめげずに未来の目を見て、続けた。
「話があるの!あの時、あのキスした日!それよりずっと前から、私は…!」
未来は目を大きくする。そして、その続きを制した。
「…待って」
「……え?」
「ここは人が多いわ。近くに公園があるからそこまで行きましょう」
未来に連れられて、小さな公園にやってきた。そして近くにあったベンチに2人は腰掛けた。
しんしんと雪が降り始めた。
「ここ、私が小さい頃よく使っていたの」
未来が独り言のように話し始めた。未来の目は天を仰ぐように真っ暗な空を見つめている。風子はその姿をじっと見守っていた。
「仲が良かった友達がいたの。その子と小学生の頃ずっとここで遊んでいたわ。中学生になっても、辛いことがあれば2人でここにきて、涙を流したこともあった」
未来はそのまま続ける。
「私はその子のことが大好きだった。お互いに大親友だと思っていたわ。けどある日、その子がある男の子と付き合い始めたの」
未来は息をするのを一瞬止めた。しかし一息吐くと、口を開けた。
「その日から私は、ドロドロした感情に押し潰されたわ。仲のいい2人の姿を見ると、辛くなって目頭が熱くなるなんてことが何度もあった」
そして未来は視線を空から風子に目を向けた。風子も未来の訴えるような目から視線を逸さなかった。
「気付いてしまったの。私、女の子が好きだって。恋愛対象として同性を見てしまうことに…」
「…!」
相原さんが、女の子が好き…?レズだってこと…?
「…その後、どうなったの…?」
風子は続きを促した。頬に滴が伝う未来の顔を見れば、もう答えは分かりきっていたのだが。
「告白したわ。…もちろん、振られたけれど。それから、避けられるようになってしまったわ」
風子は息を飲んだ。未来の目から溢れる滴の勢いが増す。
風子はいてもたってもいられなくなり、ぎゅっと未来を抱きしめた。未来の震えが全身に伝わる。
「…小川さん?」
「…相原さん。さっきの私の話の続きになるけどいい?」
「……」
鳴り止むことのない心臓。それでも、もうこの体を離そうとはしなかった。
「私は相原さんが好き!恋愛対象として、好き…!だから…」
「私と付き合ってくれない…?」
「…!」
未来は固まったままだ。風子は背中に積もった雪を溶かすようにゆっくり背中を撫でてあげた。
すると、耳元でふぇっと嗚咽音が聞こえた。
「私もっ、今まで好きな人とか出来たことなくて!初めて相原さんを好きになったの!だから、別に女の子が好きだから変ってことは絶対ないよ!好きになったのがたまたま同性だったってだけだから!!」
「……っ、うぅっ…」
グスッ。相原さんの涙と自分の行動に何故だか私まで涙出てきちゃったじゃん…!
風子は抱きしめていた手を緩め、そっと未来と向き合った。赤みを帯びた顔に透明の滴が伝わっている。
「ねぇ、相原さん。私のこと好き?」
優しくはに噛んで、未来に問うた。未来は涙を拭って、少し笑った。
「ええ、好きよ。大好き…」
それを聞いたのと同時に、風子からキスをした。チュッとリップ音が鳴る。未来の冷たい唇が、少し紅潮した。
「っいきなりね…」
「ごめんごめんっ!…あ!」
風子は思い出したように鞄からプレゼントを取り出した。
「これ、手袋なんだけど!もし良かったら!クリスマスプレゼント!!」
「そんな…私何も用意してないわ」
「わ、私だってまさか本当に渡せるとは思ってなかったし…!」
風子はぜひ!と未来の前に差し出した。
未来はふぅっとため息をついた後、それを受け取った。
「次のデートの時に付けてくるわ…」
「え⁉︎デート⁉︎」
「しないの?」
するに決まってんじゃん!
やった!また話したり遊んだり出来るんだ…!!
すると、未来は風子の顎に手を添えた。
「クリスマスプレゼントはないけれど…」
2人の唇が近づく。そして、未来は風子の唇を甘噛みした。
そのプレゼント代わりとも言えるキスは、ホワイトクリスマスにふさわしい聖なる甘い味だった。
12月24日。担任の先生の言葉で2学期は締め括られた。その解放感からかクラス全体の緊張の線がパッと溶けた。
「よしゃー!みんなで遊ぶぞ~!」
「今日5時から焼肉だよね」
そう、今日はクラスの打ち上げと言う大イベントもあるのだ。そして風子にとってはこれが未来と関係を良好にするための最後のチャンスだと思っていた。
未来とは1ヶ月ほど前、空き教室でお互いに唇を重ねてから疎遠になっていた。風子の想いとは裏腹に未来自身は遠くに行ってしまっている様に感じられた。
「ふーこふーこ」
風子の席に友里と香菜が寄って来た。
「それぞれ家で着替えて、打ち上げまで遊ばない?買い物とか」
「あー、いいじゃん!行こー」
3人で遊ぶ約束をして、それぞれ帰路に至った。
「んー…どうゆう服装にしようかな」
「焼肉だし白はないよねー」
一人、部屋の中で今日着ていく服を吟味する。
相原さんはどんな服着て来るんだろうな…。きっと清楚なんだろーなー。いや、もしかしたらバッチリクールで決めてくるかも⁉︎
未来を想像して口元が閉まらなくなる。やはり風子は未来のことが好きなのだと改めて実感する。
風子は結局黒ニットを着ることに落ち着き、慌てて約束の場所へ向かった。
「お待たせー!」
「おう、遅いぞー!」
待ち合わせのショッピングモールの入り口に二人は既に着いていた。どうやらいくつか行きたいお店の絞り込みをしているようだった。二人の服も本当に可愛かった。ギャルらしい奇抜さも出ていて、しっかりTPOにあった服装になっている。
香菜がスマホの画面を見せて来た。
「風子、まずはこのショップに行きたいんだけどー」
「いーじゃんいーじゃん、オススメのとこいろいろ連れてってよ」
「よーしきたー!香菜行くよー」
友里が香菜の手を引っ張って走り出す。風子もセットした髪が崩れないように追いかけた。
まずは小物雑貨のお店にやって来た。
アクセから実用品まで揃っている大型店だ。
「まじこのピアスかわいくない⁉︎」
「あっちの財布に付いてるクマもめちゃかわなんですけど!!」
3人で店内の物色ではしゃいでいると、風子の視界の端に白い手袋が映った。
猫の髪のようにさらさらとした生地で、とても暖かそうであった。
風子は目を輝かせた。
絶対これ、相原さんに似合う…!
黒髪の彼女に白の手袋。そのなんとも萌えるような姿を想像して、風子は少し身体に熱を帯びてしまった。
「どしたんふーこ。それ買うの?」
「ぅわっ⁉︎」
次の店に行こうとする二人のことを差し置いて、手袋に夢中になってしまっていた自分に気づく。
「それ可愛いね。いーじゃん似合うよふーこ」
「え?」
「自分へのクリプレってかー」
香菜は眉毛を下げて笑う。
確かにそれなら本当に悲しいやつだけど!!
その時、風子は何故か衝動に駆られた。
「…やっぱり、買っちゃおっかなー!可愛いし、荷物にならないもんね」
風子は手袋に手を伸ばした。
「あ、こっちこっちー!香菜ちゃん達今日は一層かわいいねー」
5時少し前。目的地の焼肉店に着いた3人を、打ち上げを提案してくれた女の子が案内してくれた。
「今日の打ち上げ、提案してくれてありがとな~!」
「いや、こちらこそ皆参加してくれて超嬉しい!楽しもーねー!」
すると、4人用のBOX席に着いた。一人分余った席を見て、その子はんー、と考えた。
「ちょっと待ってもらっててもいい?」
しばらくすると、今日の買い物の話に花を咲かせていた3人のもとに、未来を連れてやって来た。その子は未来を置いて、よろしくーと戻って行った。
「…っ⁉︎」
「おー、相原さんじゃーん」
「相原っち、うちらと相席ー??」
風子を見て、一瞬動揺した感じを見せた未来だったが、スン、と持ち直し、よろしくお願いしますと頭を下げた。
未来はよそよそしく風子の向かいに座った。
いや、まさかこんなにいきなり急接近とか、聞いてないんですけどー…。
やばい、心臓がうるさいっ…!
「4人分のお水を入れてくるわ」
「おっ、ありがと~」
ひとまず注文を取り終え、未来は席を立った。
風子は気づかれないように、じっと未来を観察する。未来は薄いピンク色のセーターを着て、黒いロングスカートを履いていた。風子は唾をゴクッと飲んだ。
「あ、私も手伝うよっ」
「!別にいらな…、……お願いするわ」
4人分のコップは確かに持てないと思った未来は、断るとおかしいと思ったのだろう。少し渋ったが、その協力を承諾した。
「あのー、相原さん…?」
「…何かしら…?」
風子は氷を入れ、未来は水を注ぐ中、ついに風子は未来に話しかけた。
「1ヶ月くらい前の話なんだけど…」
「……」
心臓の高鳴りがうるさい。
「放課後にキス、したよね?私に…」
「水を入れ終わったわ、先に席に戻るわね」
未来は水が並々入ったコップを二つ持ち、早々に立ち去ろうとした。
「ちょ、待ってよ相原さん!まだ話が…」
風子は咄嗟に未来の腕を掴む。コップの水が未来の手に溢れ、袖口まで湿っていく。未来は足を止めて、こちらを向いた。
「あのことは、忘れて。もうその話をしないで…!」
それだけ言い残して、未来は無言で溢れたコップを風子に押しつけ、立ち去って行った。
その時の未来の顔が、辛く、苦しそうな顔をしていた。グッと心が押し縮められるような感覚がした。風子は、その表情が頭にこびりついて離れなかった。
……相原さん、何か隠してない…?
「あ、ふーこお疲れじゃん!」
「相原さんに水溢したんだってー?やっちまってんなぁ!」
友里と香菜はこっちを見ながら笑う。未来はこっちを見ず、濡れた袖をまくっていた。
相原さん、そう言って説明したんだ…。
ーあのことは、忘れて。ー
風子は未来の言葉を頭の中で反芻する。
気の迷いだったとでも言うのだろうか。
恥ずかしいことをしたと自分を悔いているのだろうか。
分からない。分かるわけない。だって私は、相原さんじゃないんだから…。
「ふーこ!早くお肉焼こーよ!」
「あ、うんごめん!トング取ってー」
その後、向かいの席に座っているのにも関わらず、一度も未来と目が合わなかった。それもそのはず、未来はほとんどずっと下を向いたままだったからだ。友里も香菜も未来に話しかけたが、大した反応を見せることはなく、2人も痺れを切らしたようだった。
風子も、地に足がついているような感じがなく、打ち上げを心から楽しむことは出来なかった。
「二次会行く人ー!」
結局2時間が経ってしまい、一次会はお開きとなった。ほとんどの人が二次会に向けて、荷物をまとめたり、財布からお金を出したりしている。
未来は、当然といえば当然なのだが、みんなの輪から離れて帰ろうとしていた。
風子はその未来の姿を目で追いかける。
これで…良かったのかな…?
もう全部無かったことにして、年が明けたら何も無かったように接する。そっちの方が楽だよなー…。
風子は諦めかけていた。
そもそもあの時、キスをしようとした自分がいけなかったのだ。ハグをした自分がいけなかったのだ。仲良くなりたいと声をかけ続けたことが、いけなかったのだ。
本当にそうなのか…?
未来に近づこうとする自分が、相原さんにとって本当に害だったのか?
話しかける度に、相原さんの口数はどんどん増えていかなかったか?嬉しそうでなかったか?
ふと、あの時の辛そうな未来の表情を思い出す。
相原さんの何か隠しているようなあの顔。私は、あのままにしてていいの⁉︎
「!ふーこ⁉︎」
「えっ、風子二次会行かないの⁉︎」
気づけば、私の足は勝手に走り出していた。未来が消えた道へ足を進める。
もう、どうなっても良い!!当たって砕けてもいい。相原さんの心の深淵を知るために、私の気持ちを伝える…!
しばらくして、人通りの多い道に、未来を見つけた。風子は嬉しくて、なりふり構わずその姿に抱きついた。
「…んっ!な、何⁉︎」
「…相原さん!お願い待って!」
「あなた、やっていることがストーカーよ?」
未来は絡みつく風子の手を払い除けた。風子はめげずに未来の目を見て、続けた。
「話があるの!あの時、あのキスした日!それよりずっと前から、私は…!」
未来は目を大きくする。そして、その続きを制した。
「…待って」
「……え?」
「ここは人が多いわ。近くに公園があるからそこまで行きましょう」
未来に連れられて、小さな公園にやってきた。そして近くにあったベンチに2人は腰掛けた。
しんしんと雪が降り始めた。
「ここ、私が小さい頃よく使っていたの」
未来が独り言のように話し始めた。未来の目は天を仰ぐように真っ暗な空を見つめている。風子はその姿をじっと見守っていた。
「仲が良かった友達がいたの。その子と小学生の頃ずっとここで遊んでいたわ。中学生になっても、辛いことがあれば2人でここにきて、涙を流したこともあった」
未来はそのまま続ける。
「私はその子のことが大好きだった。お互いに大親友だと思っていたわ。けどある日、その子がある男の子と付き合い始めたの」
未来は息をするのを一瞬止めた。しかし一息吐くと、口を開けた。
「その日から私は、ドロドロした感情に押し潰されたわ。仲のいい2人の姿を見ると、辛くなって目頭が熱くなるなんてことが何度もあった」
そして未来は視線を空から風子に目を向けた。風子も未来の訴えるような目から視線を逸さなかった。
「気付いてしまったの。私、女の子が好きだって。恋愛対象として同性を見てしまうことに…」
「…!」
相原さんが、女の子が好き…?レズだってこと…?
「…その後、どうなったの…?」
風子は続きを促した。頬に滴が伝う未来の顔を見れば、もう答えは分かりきっていたのだが。
「告白したわ。…もちろん、振られたけれど。それから、避けられるようになってしまったわ」
風子は息を飲んだ。未来の目から溢れる滴の勢いが増す。
風子はいてもたってもいられなくなり、ぎゅっと未来を抱きしめた。未来の震えが全身に伝わる。
「…小川さん?」
「…相原さん。さっきの私の話の続きになるけどいい?」
「……」
鳴り止むことのない心臓。それでも、もうこの体を離そうとはしなかった。
「私は相原さんが好き!恋愛対象として、好き…!だから…」
「私と付き合ってくれない…?」
「…!」
未来は固まったままだ。風子は背中に積もった雪を溶かすようにゆっくり背中を撫でてあげた。
すると、耳元でふぇっと嗚咽音が聞こえた。
「私もっ、今まで好きな人とか出来たことなくて!初めて相原さんを好きになったの!だから、別に女の子が好きだから変ってことは絶対ないよ!好きになったのがたまたま同性だったってだけだから!!」
「……っ、うぅっ…」
グスッ。相原さんの涙と自分の行動に何故だか私まで涙出てきちゃったじゃん…!
風子は抱きしめていた手を緩め、そっと未来と向き合った。赤みを帯びた顔に透明の滴が伝わっている。
「ねぇ、相原さん。私のこと好き?」
優しくはに噛んで、未来に問うた。未来は涙を拭って、少し笑った。
「ええ、好きよ。大好き…」
それを聞いたのと同時に、風子からキスをした。チュッとリップ音が鳴る。未来の冷たい唇が、少し紅潮した。
「っいきなりね…」
「ごめんごめんっ!…あ!」
風子は思い出したように鞄からプレゼントを取り出した。
「これ、手袋なんだけど!もし良かったら!クリスマスプレゼント!!」
「そんな…私何も用意してないわ」
「わ、私だってまさか本当に渡せるとは思ってなかったし…!」
風子はぜひ!と未来の前に差し出した。
未来はふぅっとため息をついた後、それを受け取った。
「次のデートの時に付けてくるわ…」
「え⁉︎デート⁉︎」
「しないの?」
するに決まってんじゃん!
やった!また話したり遊んだり出来るんだ…!!
すると、未来は風子の顎に手を添えた。
「クリスマスプレゼントはないけれど…」
2人の唇が近づく。そして、未来は風子の唇を甘噛みした。
そのプレゼント代わりとも言えるキスは、ホワイトクリスマスにふさわしい聖なる甘い味だった。
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