98 / 117
眠り姫
178.エウリフィア
しおりを挟む雷鳴が轟く。暗雲がうねりをあげて迫ってくる。
時は耕平がこの世界に転移してくる数ヶ月前。
場所は耕平達が拠点にしている森のはるか上空。
『ひゃーーーーっ! 気ン持ちいいーーーーーっ!』
一頭の天龍が、雷が降り注ぐ雲の中で身を捩らせ舞うように翔んでいる。
上下に別れた暗雲をつなぐように何本もの雷の柱が立っている。
その隙間を縫うように身を滑り込ませる一頭の天龍。
一方、地上は嵐に見舞われていた。
『最高―――――っ!』
バリバリと天龍の体から雷が迸る。
『やっほーーーーーっ! あ、やべ』
踊るように身をくねらせていた天龍の口から極太のブレスが放たれる。
どうやら気を良くした天龍が、気の緩みで放ってしまったようだった。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオン!
腹に響くような轟音と、地震のような衝撃が森を襲う。
天龍から放たれた極太のブレスは、一本の巨木にぶち当たった。
メリメリと軋み音をあげる巨木。まるで木の悲鳴のようだ。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
巨木は轟音を立てて幹の中程から倒れた。
嵐の中、身を隠していた小動物たちが、大木からわらわらと出てくる。
森の一角にポッカリと空いたような空間が出来上がった。
『お姉ちゃん、知~らないっと……』
この惨状を引き起こした天龍は素知らぬフリで暗雲の向こうへと消えていくのだった。
倒れ伏した巨木から蛍火のような光の粒が立ち上る。
嵐も心なしか弱まってきたようだった。
まるで呼吸を続けるように光の粒たちは巨木を出たり入ったりしている。
これはこの世界では精気といわれるもので、長い時間をかけるといずれ妖精に至る。
やがて黄色く輝く光の粒の全ては、巨木全体に溶けるように染み渡るのだった。
この数ヶ月後に、この世界に飛ばされた耕平がたどり着くことになる。
巨木は耕平達の拠点へと姿を変え、宿った雷の精と巨木の精が混ざってノーナが誕生することになったのだ。
時と場所は変わって竜王国。
天龍のエウリフィアは噂になっているスタンピードの様子を見にやって来た。
場合によっては手助けしてやってもいい、と考えていた。
が、いざ来てみるとそこまで切羽詰まっていない上に、竜人の冒険者達が精強だったので見送ることにした。
自分が矢面に立たなくてもいずれ収束するだろう、と思ったのだ。
エウリフィアはしばらく冒険者達の動向を確認していると、同族の気配を感じ取る。
どうやらこの国に向かっているようだ。
この弱々しい感じ方は恐らく幼生体。すわ、虜囚の辱めに遭っているのかと殺気立つ。
ひとまず確認してからだなと思い、最高級の宿に泊った。
何日か様子を見ていると同族はとある宿に泊っているようだった。
その間にスタンピードは収束し、ダンジョンが開放されたらしい。
エウリフィアは同族が利用しているであろう宿まで赴くと、中に入った。
宿のロビーにいるらしいので、そちらに足を向ける。
そこには三人の少女と幼生体の同族、それにまだ幼いグリフォンの希少種がいたのだった。
「はいぃ、アウラちゃん葡萄ですよぉ」
「ですです~」
「ヴェルもちゃんと食べて大きくなるんだぜっ」
見ると三人の少女に甲斐甲斐しく世話をされている幼生体の同族、と幼いグリフォン。
「キュアッ」
「クルルゥ?」
どうやら無体な扱いはされていないようでホッとするエウリフィア。
金とも銀とも言えない不思議な色の長い髪をサラリと流すと、三人の少女達に声をかけた。
「あの~こちらの龍の主人はあなた達かしら~?」
「こんにちはぁ」
「ですです!」
「姉ちゃんは誰なんだぜ?」
「お姉ちゃんは~エウリフィアと言うの。フィアでも構わないわ~」
「マロンですぅ」
「リィナ、ですっ」
「エミリーなんだぜ」
「キュアッ」
「クルルゥ♪」
「こちらはぁ天龍のアウラとぉグリフォンのヴェルですぅ」
「ですです~」
「だぜっ」
あむあむと葡萄の房にかじりついているヴェルとアウラ。
それを微笑ましく見守る一同。
「それで~、この子達の主人はあなた達かしら~?」
「いぃえぇ、マロン達は子守ですぅ」
「ですです」
「あんちゃん達はダンジョンアタックでしばらく戻らないんだぜっ」
「そうなのね~、そうしたらまた顔を出すわ~」
ひとまず幼生体の無事は確認できたし、無下に扱われている訳ではないようだ。
この後エウリフィアは同族達の様子を見て回って、さらわれた子がいないか聞いて回ったのだった。
拠点の地下にあるダンジョン温泉。
今、エウリフィア以外は誰もおらず、貸し切り状態だ。
パシャッ
湯船に浸かりながらエウリフィアは温泉の縁に両腕を乗せてうつ伏せの体を伸ばす。
「う~ん、結局のところ同族達の中からさらわれた子はいなかったのよねぇ……」
エウリフィアは縁に乗せた腕の上で頭を左右に揺らしながら唸る。
「アウラはいったいどこの子なのかしら?」
考えても答えが出ないので、やがて思考の向こう側にペイっと投げるエウリフィア。
「ここの地上の広場もな~んか見覚えがあった気がするけど~。な~んだったけ~?」
ゴロゴロと湯船に寝そべりながら考えるが、これも結局思考のモヤの中に消えていくのだった。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。