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古の魔王
194.ピザ
しおりを挟む相変わらず厚い雲に覆われた空の下、俺は以前作った釜の前で作業をしていた。
釜の前の作業台の上で材料を切り刻み、寝かせておいた生地を円盤状へと広げる。
俺は今、ピザを作っているのだ。
少し前にスティンガーの街に行ったときに、良さそうなチーズを買っておいたので、それを使って料理を、と考えたらピザだったのだ。
最近は寒さを忘れるような暖かい日が続き、億劫だった外での作業に勤しんでいる、というわけだ。
まだ、朝なんかは肌寒いけどな。
それに、この空模様だ。魔王だかなんだか知らんが、迷惑なことだ。
気温が上がるのも時間がかかるし、なんだか気が滅入ってくる。
噂の勇者様の頑張りに期待したいところだ。
街で買い物していたときも物の値段が軒並み上がっていたからな。
魔王の存在により強化された魔物の影響で、物流に影響が出ているのかも知れないな。
ウチの拠点の周辺に動物や魔物は近づいてこないが、少し森の奥にいけば出くわすようになる。
狩りに出かけるミーシャやガーベラ、三人娘たちからは手強い魔物の話なんて聞かないから、そこまでじゃないと思うんだけど……。
そんな考え事をしながら手を動かしていると、小屋からポテポテと小さな毛むくじゃらが出てきて俺の方にやってくる。
「ぷぽっぽ!」
ポポは小さな手を上げると、俺に挨拶らしき声を上げた。
「おう、今はピザを作っているんだ。うまいぞ」
俺は積まれた円盤状の生地の横で、大量の材料を切り刻みながらポポに返事をした。
「ぷぽ?」
ポポが不思議そうにくりくりの目を広げながら首をかしげる。
「うん、ピザというのはだな……俺の元の世界の外国の料理だ。国民食になるくらい定番でな。熱々のうちに食べるのがいいんだ」
「ぷぽー」
俺の説明に納得したのか、ポポは感心した様子で口元に指を当てて俺の作業を見つめていた。
「先に試しに一枚焼いてみるか」
俺は釜に火を入れると、積まれた生地の山から一枚取り、トマトもどきのソースを塗り拡げていく。さらに刻んだチーズをまぶす。
釜の温度が上がったのを見計らい、霧夢の腕輪からピザピールを取り出す。ピザピールとはピザを窯にいれる時に使う道具のことで、木でできている長い柄の先端に、金属製の大きいヘラのようなものがついている。そこへピザ生地をのせて窯へ投入するのだ。
――いざ! ピザの生地を釜に投入!
あたりにピザの焼ける匂いが広がる。俺は焼き加減を見ながら、釜の中のピザを回転させた。
一見簡単そうに見えるが、この作業もなかなか奥が深い。
俺はピザと対話する心持ちで焼き上げる作業に臨む。
「ぷぽぷぽ♪」
ポポがまた不思議な踊りをしはじめた。うんうん、いい匂いだものな。期待も高まるというものだ。
焼き上がりを見極めて釜からピザを取り出す。スッとな。
俺はキリッとした面持ちでピザを木の皿に移した。
更に霧夢の腕輪からピザカッターを取り出す。コレは俺が大地の力で石から自作したものだ。円盤状の刃がついているやつな。
グツグツと溶岩のように煮立っている熱々のピザを切り分ける。
一切れ取ると、チーズがミョイーンと伸びた。
――ふふっ。まるでルンみたいだな。
湯気の立つピザをポポに手渡してやった。
「まだ熱いからな。気をつけるんだぞ?」
小さな両手で受け取るポポに俺は注意を促した。
「ぷぽー!」
ポポは喜びの声を上げながら小さな口でピザをついばむ。チーズを伸ばしながらモグモグと食べるポポ。
「はふはふ、ぷぽっぽ!」
どうやら口にあったようだ。
俺は一つうなずくとピザを一切れ取り、口へと運ぶ。
――うん! 上出来じゃないか!
試しに作ったピザはシンプルにマルゲリータにしてみたんだが、上手く行ったようだ。
何と言ってもまず生地がうまい! 驚くほどにモチモチで、小麦が甘い。手間をかけて作った甲斐があるというもの。
味は、大量に塗られたトマトもどきソースの酸味と濃厚なチーズのコクが一気に押し寄せて、圧倒される。
ポポも一切れをペロリと平らげ、満足そうにお腹をさすっている。
「ぷぽぽぽっぽ!」
ポポは手を上げて挨拶すると森の奥へとポテポテ歩いていった。ご馳走様ってか?
俺は残りの積んであるピザを次々と焼き上げていった。できたてのピザはすぐに霧夢の腕輪へとしまう。霧夢の腕輪は時間経過がない、もしくは非常に遅いからな。今晩の食卓にも熱々のピザをお届けできるというもの。
俺はみんなが喜ぶ様を想像しながら黙々とピザを焼き上げる。
しばらく作業していると、今度はエウリフィアがやってきた。なんだか気まずそうだ。
「よう、フィア。どうした? 浮かない顔をして」
俺はピザピールで釜の中のピザを回転させながら声をかけた。
「う~ん、ちょっと~お願いがあるのよねぇ~」
なんだなんだ? ついこの間エウリフィアのお願いを聞いて、眠り姫のニヴァリスの夢の世界へ行ったじゃないか。
おれは訝しげにエウリフィアを見る。
「お姉ちゃんも頼まれちゃったのよぅ……」
エウリフィアはなんだか困った様子だ。形の良い眉がへにょりと下がっている。
「それで、今度はなんだ?」
俺は鼻からため息を漏らしながらエウリフィアに尋ねる。
「しばらく預かって欲しい子がいるのよぅ。こっちへ来なさい」
エウリフィアはそう言うと振り返って誰かを呼び寄せた。
そこで俺は息を呑んで固まってしまった。こ、これは――
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