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3巻
3-2
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翌朝、そのまま銀月亭で朝食をとってから、宿を出る。
朝の人通りの多い大通りを歩いて、ダンジョンのある建物へ向かった。
ノーナはドライの背負籠の中から顔を半分覗かせて街並みを眺めていた。
ダンジョンのある建物の入り口でチェックを済ませてから、中央にある転移石へと向かう。
この転移石を使えば、俺の家がある拠点の森までひとっとびだ。
俺は大きな荷物を背負ってついてきたクーデリアに、今さらながら疑問をぶつける。
「なぁ、クー。俺たちについてきて本当に良かったのか? 言っちゃあなんだが、うちは温泉くらいしかないぞ?」
「はい、コウヘイさん。その温泉が重要なのです! ミーシャさんもノーナも見れば髪がツヤツヤで、その美しさと言ったら……ボクももっと温泉に入りたいです!」
たしかに、ミーシャたちの髪は公爵家でも照明の光をよく反射して輝いていたな。
クーデリアの言うことも分かるが、温泉のためだけにあんな森に住むなんて、この世界でも女性の美容への執念はすごいな……
俺が遠い目をしていると、クーデリアが髪を揺らし、キョロキョロと周りを見回して言った。
「ところでコウヘイさん。こちらはダンジョンですよね? 森に帰るのではないんですか?」
「ああ、これは内緒なんだが……」
俺はそう切り出して、手を口に添えて声を潜める。
「実はここの転移石とウチの拠点は繋がっていてな。ここから家にすぐ向かえるんだ」
「そうなんですか!?」
クーデリアがアクアマリンのような瞳を丸くしながら、驚きの声を上げた。
「シーッ」
俺は人差し指を口に当てて、クーデリアの方を向いた。
「わわっ」
クーデリアが慌てて、背中の大荷物を揺らしながら両手で口を押さえた。
皆で中央に設置してある身の丈を超える大きな転移石に向かう。
俺が鈍く輝いている転移石に手を触れるタイミングで、皆が俺の肩に手を乗せた。人数が増えたから少し窮屈だな。
「じゃあ、行くぞ? 転移。森の拠点へ」
俺がそう呟くと、エレベーターが動く時のような浮遊感が一瞬襲ってきた。
目を開けると、拠点の倉庫の地下に到着した。
「すごい……本当に転移できた……」
クーデリアが水色の瞳を丸くした。
「うむ、帰ってきたな。まずは風呂だ」
ミーシャが赤い尻尾を上機嫌に揺らしながら、地上への階段を上っていく。
「あい。のーなも入るます!」
ドライの背負籠から元気よく答えるノーナ。
「さ、行くぞ」
俺は抱っこ紐の中のヴェルとアウラを撫でつつ、クーデリアを促し階段を上った。
階段を上ると、久しぶりに見る広場の光景だ。
ちょうどアインとウノ、ドスが畑の面倒を見てくれているところだった。
「アイン、ウノ、ドス、留守番ありがとうな。お疲れ様」
俺はそれぞれを撫でながら大地の力を流し込んだ。三体のゴーレムが淡く光る。
アインたちは頷くと農作業に戻っていった。心なしか元気になったように見える。
俺はそれを見届けると、玄関の扉を開けて中に入った。
「ただいまーっと」
嗅ぎ慣れた木の匂いが俺を出迎える。久しぶりの我が家だ。
「おかえりなさい、マスター。無事にお戻りできて何よりです」
メイド服を着たホムンクルスのティファが俺の前にやってきた。こいつの正体は、スティンガーの町にあるダンジョンのコアでもある。
「おう。三人娘は?」
「はい、マスター。皆さん釣りに行くと言っていました」
「そっか。そうそう、これ。お土産な」
俺は霧夢の腕輪をガサゴソと操作して銀細工の櫛を取り出し、ティファに渡してやった。
「これは……ありがとうございます、マスター」
ティファはそう言うと櫛を大事そうに胸に抱き、ツヤのある黒い髪を揺らして、ニコッと滅多に見せない笑みを浮かべた。
俺はヴェルとアウラを抱っこ紐から籠に移し、溶岩竜魚の鱗鎧を脱いで一息ついた。
ルンは俺の頭の上から降りると、ぴょんぴょんと跳ねながら家を出ていった。おそらく森のパトロールへと出かけていったのだろう。
ミーシャがノーナの手を引き風呂へと向かっていった。その後ろに、お風呂セットを持ったクーデリアもついていっている。
「ではマスター。ワタシも一風呂浴びてきます」
ティファも風呂か! そんなに入っていたらふやけちゃうぞ?
ミーシャたちの姿を見送っていると、風呂の方から誰かが入れ違いでやってきた。
「あなた様、お邪魔しております」
「うむうむ。良いお湯だったのじゃ」
エルフのアルカとゼフィちゃんだ。
二人とも、以前彼女たちの住む神樹の森で魔障騒ぎが起きて俺が助けに向かった際に知り合った。なお、ゼフィちゃんはちゃん付けで呼んでいるが、これでも女王様だ。アルカもゼフィちゃんも銀髪で目の色が赤い点は同じなので、パッと見ると歳の離れた姉妹に見える。スラリとしているのがアルカで、幼女っぽい見た目の子がゼフィちゃんだ。
「ああ。ただいま」
俺は二人に帰宅の挨拶をした。彼女たちは湯上がりでしっとりツヤツヤしていた。
「かの国はどうじゃったのじゃ?」
ゼフィちゃんがルビーのような瞳を俺に向けてきた。
「あなた様、私も聞きたいです」
後ろに長くまとめられた銀髪を揺らしながら、アルカもこちらを見た。
「おう。ドワーフの国な。まずは何と言っても飛龍便がよかったな。空の旅は快適だったぞ?」
俺はクーデリアの案内でドワーフの国に行った旅路を思い出しつつ語った。
「ぬう。飛龍とはすごいのじゃ。妾も乗ってみたいものじゃな」
ゼフィちゃんが顎に手を当てて唸る。
「叔母上は神樹の森での執務がありますからね。長旅は無理ではないでしょうか?」
アルカが赤い瞳でゼフィちゃんを見た。
「コウヘイ! アルカちゃんがいじめるのじゃ!」
ヨヨヨ、と泣き真似をするゼフィちゃん。幼い姿も相まってなんだかあざとい。
そこへ三人娘が釣りから帰ってきた。
「ああぁ、おかえりぃなさいですぅ」
「です!」
「やっと帰ってきたんだぜ!」
元気よく挨拶してくるマロン、リィナ、エミリー。三人娘の釣果はなかなかのもので、たくさんの魚を抱えていた。
「おう。ただいま」
俺はニッと笑みを浮かべた後、三人娘と魚を干物にする作業を始めたのだった。
第二話 救援要請
「杉浦せーんぱい!」
少女の鈴のなるような声が響く。
これは、元の世界の学校の景色……もしかして夢の中か?
学校の日直当番の後片付けをしている俺は、呼ばれた方を振り返った。
「なんだ、小鳥遊か」
そこにいたのは、俺より背が低い、制服姿の少女。
「むう。なんだとはなんですかー」
プンプン! という擬音が聞こえてきそうな様子で両手を腰に当てて少女が怒る。
小鳥遊夏海。俺の一個下の後輩だ。妹の陽愛とは同級生。
大きな瞳は澄んだ空のように透明で、微笑む唇は色鮮やかな蕾のようだ。端正でバランスがとれた容姿は、学校の男子の視線を引き付ける。
ショートカットに整えられた髪が、肩辺りで軽やかに揺れた。
アイドルグループにいても埋もれることは無いだろう。
「何か用だったか? これから先生に日誌を見せに職員室に行かなきゃなんだけど……」
学校を早く出たかった俺は、少しぶっきらぼうに小鳥遊に尋ねた。
「え~。用が無かったら会いに来ちゃ行けないんですか~?」
むぅ、と小鳥遊がむくれた。
「いや、別にそんな事は無いけどさ……」
俺口ごもっていると、小鳥遊が揶揄うように言った。
「杉浦先輩って付き合ってる人っていないんですか~?」
「こんな平凡なヤツを好きになるもの好きなんていやしないよ……」
夢の中でまで、こんな話かよ。
これは夢であると同時に、この世界に来る前にあった、俺の後悔の記憶だ。
この後の展開を、俺はよく知っている。
「じゃあ、その平凡なヤツを特別に想う人が居たらどうします~?」
「はっ。それはあり得ないね。へそが茶を沸かすよ」
おい! やめろ! それ以上言うな!
「ふ~ん。それじゃ、もし私が好きだって言ったら付き合ってくれますか?」
「いや、それは無いだろ」
いつもの冗談だと思って、そう返してしまった俺。
ふと顔を上げると、小鳥遊の大きな目には涙が溜まっていて……
◆ ◆ ◆
翌朝、俺は勢いよくベッドの上で起きた。
「ふぅ……」
顎に滴る汗をぐいっと拳で拭ってから、部屋を見回す。
どうすりゃよかったんだよ。
夢で見たあの時の出来事を思い返して、俺はやるせない気持ちになった。
だが、今考えても意味はない。もう俺は異世界に来てしまっているのだから。
気を取り直した俺はガサゴソと起き上がり、水差しからコップに水を入れると、それを一気に呷った。
「さ、今日も一日が始まるぞっと」
夏真っ盛りということもあり、俺はとある料理を食べたくなってしまった。
そう、〝冷やし中華〟である。
きっかけは、アルカたちの住む神樹の森の別荘に行った時のことだ。そこで、俺はエルフが麺を食べている光景を目の当たりにした。幸い麺の種類も弾力があって、ツルツルしこしこなもの。
ゆくゆくはラーメン作りもできそうだが、この暑さには不向きだ。
それらを踏まえて、夏の風物詩である冷やし中華を作ることに決めたわけだ。
麺の原料は神樹の森で分けてもらった、とある植物の実。
それをすり潰し、粉にしてから水を加えて手でまとめて、少し寝かせる。ある程度時間が経ったら麺棒で伸ばして畳む。端から均一の細さで切り分けていけば、後は茹でるだけだ。
中華そばの麺には本来は鹹水と呼ばれるものが必要なのだが、この植物の実はこねるだけで中華そばの麺になる。流石は異世界の食材だ。
トッピングのきゅうりもどきやハム、卵焼きなどを千切りにして準備する。ついでに紅生姜に似た食材も並べた。タレの準備も万全だ。醤油にみりんや酢、砂糖などを加えていき、味を調える。
茹で上がった麺は、水球と氷魔術を使って引き締めた。
そのまま皿の中央に麺を載せ、その上に千切りにした食材を盛り合わせる。
これは旨そうだ! もう一人で先に食べちゃおうかな?
そう思っていたら、いつの間にかほへぇっとした顔で、俺の作業を見つめているノーナと目が合った。合ってしまった。
「あい、コーへ。何作ってる?」
口元に人差し指を当てながらノーナが首を傾げている。アホ毛も不思議そうに曲がっていた。
「あ、あぁ。これはな、冷やし中華という料理だ」
「ひやしチューカ? おいしい?」
「ああ、美味いぞ。それに、この暑い季節にピッタリだ」
自信作だしな。俺はノーナに意気揚々と答えた。
「あい! ノーナ食べたいです!」
緑色の髪を揺らし、勢いよく手を挙げるノーナ。
「そうかそうか。ノーナにも作ってやろう」
俺はいそいそと冷やし中華の追加分を作り始める。ザザッとね。
こんなもんでいいかな?
出来上がった冷やし中華の皿を目の前に出すと、ノーナが両手を上げてキャッキャッと喜んだ。
「あい! きれい!」
さて、これで実食できるな……と思ったところで、玄関の方で声が響いた。
「おなかぁ空いたですぅ」
「ですです!」
「腹ペコだぜ!」
マロン、リィナ、エミリーが帰ってきたようだ。三人娘がかしましく入ってくる。
「ふむ。何かいい匂いがするな」
さらに、ミーシャが形の良い鼻をスンスンと鳴らしながらその後ろに続く。
「本当ですね。あなた様、今晩はどんな料理ですか?」
「マスター、お腹と背中がくっつきそうな匂いです」
「ボクもお腹ペコペコ~」
アルカとティファ、それからクーデリアもぞろぞろ部屋に入ってきた。
「みんな揃って帰宅か。もうそんな時間なのか?」
そう言いながら窓の外を覗くと、もう夕方になっていた。
かなりの時間、料理に熱中してしまったらしい。
「ノーナ。みんなで食べようか」
「あい! そうします」
一緒に住む者が増えて拡張したばかりのリビングに、人数分の冷やし中華を作って皆で運んだ。
席に着いたミーシャが鮮やかな冷やし中華を見て感嘆の声を上げる。
「うむ。彩りが良いな」
「あなた様、味が想像できません」
アルカも目を丸くして言った。
エルフは神樹の森で麺料理を見慣れているはずだと思ったんだけどな。
「マスター、早く食べましょう」
「ボクももう我慢できないよ」
まだかまだかと急かしてくるティファとクーデリアを見て、俺は皆に言った。
「じゃあ全員揃ったことだし、いただくとするか!」
こうして皆で異世界での冷やし中華を堪能したのだった。
それから数日経ったある日。
俺は収納機能がついている腕輪――霧夢の腕輪の中身を整理していた。
着替えをまとめて入れっぱなしで、モンスターのドロップアイテムなんかもそのままだったので、どこかで片付けようと思っていたのだ。
「え~っと、これは洗濯物だろ? これは倉庫行き、っと」
腕輪からものを出していたら、あっという間に部屋の中がもので溢れ返った。
足の踏み場もない中、スライムのルンが俺の頭の上でミョンミョンと上下運動をしている。
グリフォンの子供のヴェルは、クアッと小さなあくびをして籠の中から俺の作業を眺めていた。天龍の赤ちゃんのアウラは、すやすやと寝ている。
俺は洗濯物をまとめると、洗濯籠の中へ放り込んだ。早いとこ洗濯せねば。
倉庫行きの荷物は霧夢の腕輪へいったん戻して、部屋を後にした。倉庫に着くと、荷物を次々取り出して整理を再開する。そして腕輪の最後の方に入っていた石を取り出した。混沌神の欠片と呼ばれるアイテムだ。名前から察するに神様の体の一部らしいが、詳しいことは分からない。
持ち上げてみると、石は透明度が高く、反対側の景色が透けて見えた。外の光を反射してキラリと光っている。紫がかった石の角度をクルッと変えると、間の抜けた平凡な少年の顔が映って俺は苦笑する。それから石をポンポンと片手でお手玉しながら考えた。これをどうしたものか、と。
神様の体の一部ということなら神様が管理すべきじゃないか?
そう思い立った俺は倉庫を出て、拠点の家の裏へ回った。ここには俺が元いた世界でよく拝んでいたものに似ていた地蔵尊を祀っている。それから、俺をこの世界に無理やり連れてきたロキ神の像も。
小さな祠のようなものの中に台座があり、その上に像が二体置かれている。いずれも俺が大地の力で作ったものだ。
神様の方が詳しいだろうし、こっちに置けばいいよな?
ロキ神の像の前に立ち、手に持った混沌神の欠片をお供物を置く台の上に置いた。
神様のことは神様で解決してください。
俺はロキ神の像に向かってパンパンと二礼二拍手一礼をした。
像が一瞬ポワンッと光り、お供物の台の上の混沌神の欠片がフッと消える。
以前ここに供物を置いた時も思ったけど、ちゃんと相手に届いているのだろうか?
……まぁ、この場からは消えたみたいだし、これでヨシ!
俺はふぃ~っと腕で額を拭きながら息を吐く。
辺りをキョロキョロと見回してみたが、変化が起こったようにも見えない。
俺は一抹の不安を感じながらもその場を後にするのだった。
さらにまた別の日。夏もたけなわ。拠点の前の畑で、俺が麦わら帽子を被って農作業をしていると、家の中からティファがこちらに向かって駆けてきた。珍しいな、いつも落ち着いている彼女が走るなんて。
黒い髪を揺らし、メイド服のスカートをなびかせて俺の前まで来るティファ。
「マスター、マスター。大変です。一大事です」
内容にそぐわずちっとも大変そうじゃない顔でティファが言う。
普段からあまり表情が動かないからな。いや、よく見ると焦っている?
ティファの顔色は分かりにくいが、いつもと違うことだけはなんとなく察せられる。
俺はどっこいしょと立ち上がり、トントンと腰を叩きながらティファに向き直った。
「どうした? ティファ。何かあったのか?」
「はい、マスター。私の本体でもあるスティンガーのダンジョンコアに問題が発生しました。至急、管理室までお越しください」
ティファが、オニキスを思わせる漆黒の瞳で俺をまっすぐに見つめながら答える。
「なんだって!? そりゃあ大変だ!」
俺はティファに連れられて倉庫の地下室へ急いで向かう。
階段を下りると、部屋の中央の台座の上に置かれた転移石が鈍い輝きを放ちながら俺たちを出迎えた。
「マスター、お手を」
ティファが転移石に手を触れながら、俺にもう片方の手を差し伸べてくる。
俺は差し出されたティファの手を握った。柔らかく、ふっくらとした感触だ。
緊急事態かもしれないのに、そんなとりとめもないことを俺は考えていた。
一瞬の浮遊感とともに景色が変わり、俺たちはダンジョンコアがある部屋に転移した。
「……マスター。お待ちしておりました……」
俺の身長を優に超える程大きな石から声が響く。ダンジョンコアだ。
ダンジョンコアはチチチと何か機械音のような音を立てていて、その周りを何かの文字列が光を発しながら周回している。
「それで、問題ってのは? ダンジョンコアは大丈夫なのか?」
「肯定……地脈の流れから異物の力を感知。ラインを切断して流入を防いでいます……」
ダンジョンコアが抑揚のない声で答える。
「異物の力か……また邪神絡みか!?」
俺は疑問に思ったことを口にした。
つい最近救った神樹の森もドワーフの炉も、いずれも邪神絡みの異物が原因だったはずだ。
「解答……すぐに切断したので精査できていません。これ以上の接続は危険と判断……」
たしかにこれ以上関わって、ダンジョンコア自体を危険に晒すのは本末転倒だ。
「マスター。その流れ込んできた異物の力を何とかしてほしいのです。このままではダンジョンの機能に異常が出てしまいます」
ティファがそうお願いしてきた。コアは地脈から力を得ているということか? だとしたら早く解決しないとな。
この町はダンジョンありきで回っている。ダンジョンがもし使えなくなったら困る人がたくさん出てくるだろう。
「分かった。俺の力で解消できるかは分からないが、できることはやってみよう」
俺が頷くと、ダンジョンコアから無機質な声が再び響く。
「承諾……仮のラインを一時地脈に接続。マスターには異物の除去をお願いします……」
「よし、了解」
さっそくダンジョンコアに触れ、大地の力を流して異物の探査を始めた。
探査をはじめてしばらく、俺はダンジョンコアが言っていた辺りに違和感を覚えた。
これか? なんか覚えのある触り心地だな。
大地の力を強めに流し込んで、手で掴むようなイメージで握り込む。
ぐおっ。力を使った反動で胃がせり上がってくるような感覚に襲われた。
俺は汗を流しながら、手に掴んだイメージを保ったまま引っ張り上げた。
「……!!」
ダンジョンコアの驚いたような感情が伝わってきた。
「っりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ダンジョンコアの中にいつの間にかめり込んでいた俺の腕を引き抜くと、手にはドス黒い石が握り込まれていた。
こいつぁ最近見ることが増えたアレじゃないか? なんだか縁があるな。嫌な縁だけど。
俺は石を睨みつけながら、すぐさま鑑定する。
名前:邪神の欠片
説明:■■■■■
やっぱり思った通り! はた迷惑なことだ。
「ティファ、どうやらまた邪神絡みのようだぞ?」
俺はため息を漏らしながら、ティファに今さっき掴んだ欠片を見せる。
「マスター? それは……?」
ティファが訝しげな表情でドス黒い石を見つめる。
「おう、邪神の欠片らしい。これが地脈のどこかに埋め込まれていたってわけだな」
俺は異変の原因を簡単に説明した。
朝の人通りの多い大通りを歩いて、ダンジョンのある建物へ向かった。
ノーナはドライの背負籠の中から顔を半分覗かせて街並みを眺めていた。
ダンジョンのある建物の入り口でチェックを済ませてから、中央にある転移石へと向かう。
この転移石を使えば、俺の家がある拠点の森までひとっとびだ。
俺は大きな荷物を背負ってついてきたクーデリアに、今さらながら疑問をぶつける。
「なぁ、クー。俺たちについてきて本当に良かったのか? 言っちゃあなんだが、うちは温泉くらいしかないぞ?」
「はい、コウヘイさん。その温泉が重要なのです! ミーシャさんもノーナも見れば髪がツヤツヤで、その美しさと言ったら……ボクももっと温泉に入りたいです!」
たしかに、ミーシャたちの髪は公爵家でも照明の光をよく反射して輝いていたな。
クーデリアの言うことも分かるが、温泉のためだけにあんな森に住むなんて、この世界でも女性の美容への執念はすごいな……
俺が遠い目をしていると、クーデリアが髪を揺らし、キョロキョロと周りを見回して言った。
「ところでコウヘイさん。こちらはダンジョンですよね? 森に帰るのではないんですか?」
「ああ、これは内緒なんだが……」
俺はそう切り出して、手を口に添えて声を潜める。
「実はここの転移石とウチの拠点は繋がっていてな。ここから家にすぐ向かえるんだ」
「そうなんですか!?」
クーデリアがアクアマリンのような瞳を丸くしながら、驚きの声を上げた。
「シーッ」
俺は人差し指を口に当てて、クーデリアの方を向いた。
「わわっ」
クーデリアが慌てて、背中の大荷物を揺らしながら両手で口を押さえた。
皆で中央に設置してある身の丈を超える大きな転移石に向かう。
俺が鈍く輝いている転移石に手を触れるタイミングで、皆が俺の肩に手を乗せた。人数が増えたから少し窮屈だな。
「じゃあ、行くぞ? 転移。森の拠点へ」
俺がそう呟くと、エレベーターが動く時のような浮遊感が一瞬襲ってきた。
目を開けると、拠点の倉庫の地下に到着した。
「すごい……本当に転移できた……」
クーデリアが水色の瞳を丸くした。
「うむ、帰ってきたな。まずは風呂だ」
ミーシャが赤い尻尾を上機嫌に揺らしながら、地上への階段を上っていく。
「あい。のーなも入るます!」
ドライの背負籠から元気よく答えるノーナ。
「さ、行くぞ」
俺は抱っこ紐の中のヴェルとアウラを撫でつつ、クーデリアを促し階段を上った。
階段を上ると、久しぶりに見る広場の光景だ。
ちょうどアインとウノ、ドスが畑の面倒を見てくれているところだった。
「アイン、ウノ、ドス、留守番ありがとうな。お疲れ様」
俺はそれぞれを撫でながら大地の力を流し込んだ。三体のゴーレムが淡く光る。
アインたちは頷くと農作業に戻っていった。心なしか元気になったように見える。
俺はそれを見届けると、玄関の扉を開けて中に入った。
「ただいまーっと」
嗅ぎ慣れた木の匂いが俺を出迎える。久しぶりの我が家だ。
「おかえりなさい、マスター。無事にお戻りできて何よりです」
メイド服を着たホムンクルスのティファが俺の前にやってきた。こいつの正体は、スティンガーの町にあるダンジョンのコアでもある。
「おう。三人娘は?」
「はい、マスター。皆さん釣りに行くと言っていました」
「そっか。そうそう、これ。お土産な」
俺は霧夢の腕輪をガサゴソと操作して銀細工の櫛を取り出し、ティファに渡してやった。
「これは……ありがとうございます、マスター」
ティファはそう言うと櫛を大事そうに胸に抱き、ツヤのある黒い髪を揺らして、ニコッと滅多に見せない笑みを浮かべた。
俺はヴェルとアウラを抱っこ紐から籠に移し、溶岩竜魚の鱗鎧を脱いで一息ついた。
ルンは俺の頭の上から降りると、ぴょんぴょんと跳ねながら家を出ていった。おそらく森のパトロールへと出かけていったのだろう。
ミーシャがノーナの手を引き風呂へと向かっていった。その後ろに、お風呂セットを持ったクーデリアもついていっている。
「ではマスター。ワタシも一風呂浴びてきます」
ティファも風呂か! そんなに入っていたらふやけちゃうぞ?
ミーシャたちの姿を見送っていると、風呂の方から誰かが入れ違いでやってきた。
「あなた様、お邪魔しております」
「うむうむ。良いお湯だったのじゃ」
エルフのアルカとゼフィちゃんだ。
二人とも、以前彼女たちの住む神樹の森で魔障騒ぎが起きて俺が助けに向かった際に知り合った。なお、ゼフィちゃんはちゃん付けで呼んでいるが、これでも女王様だ。アルカもゼフィちゃんも銀髪で目の色が赤い点は同じなので、パッと見ると歳の離れた姉妹に見える。スラリとしているのがアルカで、幼女っぽい見た目の子がゼフィちゃんだ。
「ああ。ただいま」
俺は二人に帰宅の挨拶をした。彼女たちは湯上がりでしっとりツヤツヤしていた。
「かの国はどうじゃったのじゃ?」
ゼフィちゃんがルビーのような瞳を俺に向けてきた。
「あなた様、私も聞きたいです」
後ろに長くまとめられた銀髪を揺らしながら、アルカもこちらを見た。
「おう。ドワーフの国な。まずは何と言っても飛龍便がよかったな。空の旅は快適だったぞ?」
俺はクーデリアの案内でドワーフの国に行った旅路を思い出しつつ語った。
「ぬう。飛龍とはすごいのじゃ。妾も乗ってみたいものじゃな」
ゼフィちゃんが顎に手を当てて唸る。
「叔母上は神樹の森での執務がありますからね。長旅は無理ではないでしょうか?」
アルカが赤い瞳でゼフィちゃんを見た。
「コウヘイ! アルカちゃんがいじめるのじゃ!」
ヨヨヨ、と泣き真似をするゼフィちゃん。幼い姿も相まってなんだかあざとい。
そこへ三人娘が釣りから帰ってきた。
「ああぁ、おかえりぃなさいですぅ」
「です!」
「やっと帰ってきたんだぜ!」
元気よく挨拶してくるマロン、リィナ、エミリー。三人娘の釣果はなかなかのもので、たくさんの魚を抱えていた。
「おう。ただいま」
俺はニッと笑みを浮かべた後、三人娘と魚を干物にする作業を始めたのだった。
第二話 救援要請
「杉浦せーんぱい!」
少女の鈴のなるような声が響く。
これは、元の世界の学校の景色……もしかして夢の中か?
学校の日直当番の後片付けをしている俺は、呼ばれた方を振り返った。
「なんだ、小鳥遊か」
そこにいたのは、俺より背が低い、制服姿の少女。
「むう。なんだとはなんですかー」
プンプン! という擬音が聞こえてきそうな様子で両手を腰に当てて少女が怒る。
小鳥遊夏海。俺の一個下の後輩だ。妹の陽愛とは同級生。
大きな瞳は澄んだ空のように透明で、微笑む唇は色鮮やかな蕾のようだ。端正でバランスがとれた容姿は、学校の男子の視線を引き付ける。
ショートカットに整えられた髪が、肩辺りで軽やかに揺れた。
アイドルグループにいても埋もれることは無いだろう。
「何か用だったか? これから先生に日誌を見せに職員室に行かなきゃなんだけど……」
学校を早く出たかった俺は、少しぶっきらぼうに小鳥遊に尋ねた。
「え~。用が無かったら会いに来ちゃ行けないんですか~?」
むぅ、と小鳥遊がむくれた。
「いや、別にそんな事は無いけどさ……」
俺口ごもっていると、小鳥遊が揶揄うように言った。
「杉浦先輩って付き合ってる人っていないんですか~?」
「こんな平凡なヤツを好きになるもの好きなんていやしないよ……」
夢の中でまで、こんな話かよ。
これは夢であると同時に、この世界に来る前にあった、俺の後悔の記憶だ。
この後の展開を、俺はよく知っている。
「じゃあ、その平凡なヤツを特別に想う人が居たらどうします~?」
「はっ。それはあり得ないね。へそが茶を沸かすよ」
おい! やめろ! それ以上言うな!
「ふ~ん。それじゃ、もし私が好きだって言ったら付き合ってくれますか?」
「いや、それは無いだろ」
いつもの冗談だと思って、そう返してしまった俺。
ふと顔を上げると、小鳥遊の大きな目には涙が溜まっていて……
◆ ◆ ◆
翌朝、俺は勢いよくベッドの上で起きた。
「ふぅ……」
顎に滴る汗をぐいっと拳で拭ってから、部屋を見回す。
どうすりゃよかったんだよ。
夢で見たあの時の出来事を思い返して、俺はやるせない気持ちになった。
だが、今考えても意味はない。もう俺は異世界に来てしまっているのだから。
気を取り直した俺はガサゴソと起き上がり、水差しからコップに水を入れると、それを一気に呷った。
「さ、今日も一日が始まるぞっと」
夏真っ盛りということもあり、俺はとある料理を食べたくなってしまった。
そう、〝冷やし中華〟である。
きっかけは、アルカたちの住む神樹の森の別荘に行った時のことだ。そこで、俺はエルフが麺を食べている光景を目の当たりにした。幸い麺の種類も弾力があって、ツルツルしこしこなもの。
ゆくゆくはラーメン作りもできそうだが、この暑さには不向きだ。
それらを踏まえて、夏の風物詩である冷やし中華を作ることに決めたわけだ。
麺の原料は神樹の森で分けてもらった、とある植物の実。
それをすり潰し、粉にしてから水を加えて手でまとめて、少し寝かせる。ある程度時間が経ったら麺棒で伸ばして畳む。端から均一の細さで切り分けていけば、後は茹でるだけだ。
中華そばの麺には本来は鹹水と呼ばれるものが必要なのだが、この植物の実はこねるだけで中華そばの麺になる。流石は異世界の食材だ。
トッピングのきゅうりもどきやハム、卵焼きなどを千切りにして準備する。ついでに紅生姜に似た食材も並べた。タレの準備も万全だ。醤油にみりんや酢、砂糖などを加えていき、味を調える。
茹で上がった麺は、水球と氷魔術を使って引き締めた。
そのまま皿の中央に麺を載せ、その上に千切りにした食材を盛り合わせる。
これは旨そうだ! もう一人で先に食べちゃおうかな?
そう思っていたら、いつの間にかほへぇっとした顔で、俺の作業を見つめているノーナと目が合った。合ってしまった。
「あい、コーへ。何作ってる?」
口元に人差し指を当てながらノーナが首を傾げている。アホ毛も不思議そうに曲がっていた。
「あ、あぁ。これはな、冷やし中華という料理だ」
「ひやしチューカ? おいしい?」
「ああ、美味いぞ。それに、この暑い季節にピッタリだ」
自信作だしな。俺はノーナに意気揚々と答えた。
「あい! ノーナ食べたいです!」
緑色の髪を揺らし、勢いよく手を挙げるノーナ。
「そうかそうか。ノーナにも作ってやろう」
俺はいそいそと冷やし中華の追加分を作り始める。ザザッとね。
こんなもんでいいかな?
出来上がった冷やし中華の皿を目の前に出すと、ノーナが両手を上げてキャッキャッと喜んだ。
「あい! きれい!」
さて、これで実食できるな……と思ったところで、玄関の方で声が響いた。
「おなかぁ空いたですぅ」
「ですです!」
「腹ペコだぜ!」
マロン、リィナ、エミリーが帰ってきたようだ。三人娘がかしましく入ってくる。
「ふむ。何かいい匂いがするな」
さらに、ミーシャが形の良い鼻をスンスンと鳴らしながらその後ろに続く。
「本当ですね。あなた様、今晩はどんな料理ですか?」
「マスター、お腹と背中がくっつきそうな匂いです」
「ボクもお腹ペコペコ~」
アルカとティファ、それからクーデリアもぞろぞろ部屋に入ってきた。
「みんな揃って帰宅か。もうそんな時間なのか?」
そう言いながら窓の外を覗くと、もう夕方になっていた。
かなりの時間、料理に熱中してしまったらしい。
「ノーナ。みんなで食べようか」
「あい! そうします」
一緒に住む者が増えて拡張したばかりのリビングに、人数分の冷やし中華を作って皆で運んだ。
席に着いたミーシャが鮮やかな冷やし中華を見て感嘆の声を上げる。
「うむ。彩りが良いな」
「あなた様、味が想像できません」
アルカも目を丸くして言った。
エルフは神樹の森で麺料理を見慣れているはずだと思ったんだけどな。
「マスター、早く食べましょう」
「ボクももう我慢できないよ」
まだかまだかと急かしてくるティファとクーデリアを見て、俺は皆に言った。
「じゃあ全員揃ったことだし、いただくとするか!」
こうして皆で異世界での冷やし中華を堪能したのだった。
それから数日経ったある日。
俺は収納機能がついている腕輪――霧夢の腕輪の中身を整理していた。
着替えをまとめて入れっぱなしで、モンスターのドロップアイテムなんかもそのままだったので、どこかで片付けようと思っていたのだ。
「え~っと、これは洗濯物だろ? これは倉庫行き、っと」
腕輪からものを出していたら、あっという間に部屋の中がもので溢れ返った。
足の踏み場もない中、スライムのルンが俺の頭の上でミョンミョンと上下運動をしている。
グリフォンの子供のヴェルは、クアッと小さなあくびをして籠の中から俺の作業を眺めていた。天龍の赤ちゃんのアウラは、すやすやと寝ている。
俺は洗濯物をまとめると、洗濯籠の中へ放り込んだ。早いとこ洗濯せねば。
倉庫行きの荷物は霧夢の腕輪へいったん戻して、部屋を後にした。倉庫に着くと、荷物を次々取り出して整理を再開する。そして腕輪の最後の方に入っていた石を取り出した。混沌神の欠片と呼ばれるアイテムだ。名前から察するに神様の体の一部らしいが、詳しいことは分からない。
持ち上げてみると、石は透明度が高く、反対側の景色が透けて見えた。外の光を反射してキラリと光っている。紫がかった石の角度をクルッと変えると、間の抜けた平凡な少年の顔が映って俺は苦笑する。それから石をポンポンと片手でお手玉しながら考えた。これをどうしたものか、と。
神様の体の一部ということなら神様が管理すべきじゃないか?
そう思い立った俺は倉庫を出て、拠点の家の裏へ回った。ここには俺が元いた世界でよく拝んでいたものに似ていた地蔵尊を祀っている。それから、俺をこの世界に無理やり連れてきたロキ神の像も。
小さな祠のようなものの中に台座があり、その上に像が二体置かれている。いずれも俺が大地の力で作ったものだ。
神様の方が詳しいだろうし、こっちに置けばいいよな?
ロキ神の像の前に立ち、手に持った混沌神の欠片をお供物を置く台の上に置いた。
神様のことは神様で解決してください。
俺はロキ神の像に向かってパンパンと二礼二拍手一礼をした。
像が一瞬ポワンッと光り、お供物の台の上の混沌神の欠片がフッと消える。
以前ここに供物を置いた時も思ったけど、ちゃんと相手に届いているのだろうか?
……まぁ、この場からは消えたみたいだし、これでヨシ!
俺はふぃ~っと腕で額を拭きながら息を吐く。
辺りをキョロキョロと見回してみたが、変化が起こったようにも見えない。
俺は一抹の不安を感じながらもその場を後にするのだった。
さらにまた別の日。夏もたけなわ。拠点の前の畑で、俺が麦わら帽子を被って農作業をしていると、家の中からティファがこちらに向かって駆けてきた。珍しいな、いつも落ち着いている彼女が走るなんて。
黒い髪を揺らし、メイド服のスカートをなびかせて俺の前まで来るティファ。
「マスター、マスター。大変です。一大事です」
内容にそぐわずちっとも大変そうじゃない顔でティファが言う。
普段からあまり表情が動かないからな。いや、よく見ると焦っている?
ティファの顔色は分かりにくいが、いつもと違うことだけはなんとなく察せられる。
俺はどっこいしょと立ち上がり、トントンと腰を叩きながらティファに向き直った。
「どうした? ティファ。何かあったのか?」
「はい、マスター。私の本体でもあるスティンガーのダンジョンコアに問題が発生しました。至急、管理室までお越しください」
ティファが、オニキスを思わせる漆黒の瞳で俺をまっすぐに見つめながら答える。
「なんだって!? そりゃあ大変だ!」
俺はティファに連れられて倉庫の地下室へ急いで向かう。
階段を下りると、部屋の中央の台座の上に置かれた転移石が鈍い輝きを放ちながら俺たちを出迎えた。
「マスター、お手を」
ティファが転移石に手を触れながら、俺にもう片方の手を差し伸べてくる。
俺は差し出されたティファの手を握った。柔らかく、ふっくらとした感触だ。
緊急事態かもしれないのに、そんなとりとめもないことを俺は考えていた。
一瞬の浮遊感とともに景色が変わり、俺たちはダンジョンコアがある部屋に転移した。
「……マスター。お待ちしておりました……」
俺の身長を優に超える程大きな石から声が響く。ダンジョンコアだ。
ダンジョンコアはチチチと何か機械音のような音を立てていて、その周りを何かの文字列が光を発しながら周回している。
「それで、問題ってのは? ダンジョンコアは大丈夫なのか?」
「肯定……地脈の流れから異物の力を感知。ラインを切断して流入を防いでいます……」
ダンジョンコアが抑揚のない声で答える。
「異物の力か……また邪神絡みか!?」
俺は疑問に思ったことを口にした。
つい最近救った神樹の森もドワーフの炉も、いずれも邪神絡みの異物が原因だったはずだ。
「解答……すぐに切断したので精査できていません。これ以上の接続は危険と判断……」
たしかにこれ以上関わって、ダンジョンコア自体を危険に晒すのは本末転倒だ。
「マスター。その流れ込んできた異物の力を何とかしてほしいのです。このままではダンジョンの機能に異常が出てしまいます」
ティファがそうお願いしてきた。コアは地脈から力を得ているということか? だとしたら早く解決しないとな。
この町はダンジョンありきで回っている。ダンジョンがもし使えなくなったら困る人がたくさん出てくるだろう。
「分かった。俺の力で解消できるかは分からないが、できることはやってみよう」
俺が頷くと、ダンジョンコアから無機質な声が再び響く。
「承諾……仮のラインを一時地脈に接続。マスターには異物の除去をお願いします……」
「よし、了解」
さっそくダンジョンコアに触れ、大地の力を流して異物の探査を始めた。
探査をはじめてしばらく、俺はダンジョンコアが言っていた辺りに違和感を覚えた。
これか? なんか覚えのある触り心地だな。
大地の力を強めに流し込んで、手で掴むようなイメージで握り込む。
ぐおっ。力を使った反動で胃がせり上がってくるような感覚に襲われた。
俺は汗を流しながら、手に掴んだイメージを保ったまま引っ張り上げた。
「……!!」
ダンジョンコアの驚いたような感情が伝わってきた。
「っりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ダンジョンコアの中にいつの間にかめり込んでいた俺の腕を引き抜くと、手にはドス黒い石が握り込まれていた。
こいつぁ最近見ることが増えたアレじゃないか? なんだか縁があるな。嫌な縁だけど。
俺は石を睨みつけながら、すぐさま鑑定する。
名前:邪神の欠片
説明:■■■■■
やっぱり思った通り! はた迷惑なことだ。
「ティファ、どうやらまた邪神絡みのようだぞ?」
俺はため息を漏らしながら、ティファに今さっき掴んだ欠片を見せる。
「マスター? それは……?」
ティファが訝しげな表情でドス黒い石を見つめる。
「おう、邪神の欠片らしい。これが地脈のどこかに埋め込まれていたってわけだな」
俺は異変の原因を簡単に説明した。
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