エメラルド TSUTSUJI

壱(いち)

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第三者からの手を借りて棋王学園に中等部から入学し、兄弟からの音沙汰もなく平穏無事に全寮制なところだけど自炊も覚えて高校二年へと進級できた。

「おい幸村。お前人の話聞いてた?」
「ごめん、聞いてませんでした」

校舎にいる大半が利用する食堂で運良く空いていた席をみつけて椅子に座り、テーブルを挟んだ向かい側に座る如何にも悪ぶってますの貼り紙を背中に付けた青山に苦笑いし、謝る。

「一年に来た転校生、生徒会の奴らに気に入られて大騒ぎらしいじゃん。なんか聞いてねえの?」
「・・・・・全く聞いてない」

所詮下っ端の風紀。委員会で伝えられること以外こっちに流れる情報なんて微々たるもの。転校生が来たことすら知らないし。

「飯島に聞いてみれば?」

生徒会ほど扱いは良くないけど飯島は委員長のパシリ的存在だ。あいつなら詳しそう。

「お前が知らなきゃあいつも知らねえだろ」

分かってねえなぁ。とか言って呆れてため息吐く青山にそうなの?と聞く。
定食に付いてきたどっさりフルーツ入りゼリーをスプーンで掬って食べる。白桃、ミカン、パイナップル。どれも美味しい。

「生徒会役員を蹴って、風紀になっちまって後悔しねぇの」
「ねぇ、そのプリンデカすぎない?カミコップより大きいよ」
「せーいーとーかーいー」
「あーハイハイ。そそられる特権も合ったけど・・・あんな風に騒がれるのは御免だよ」

食堂の二つある内の一つ、出入り口をチラリと見る。
わーわーキャアキャア、歌謡曲が流行った頃の親衛隊みたいな男たち。バンドのビジュアル系ならまだしも女もどきな化粧品臭い男に囲まれるのは神経が磨り減って身が保たない。女やお姉系、ニューハーフの人を見習ってメイクの一つも覚えて欲しい。化粧してるのってゴテゴテしてて舞台メイクみたいなのばっかだし。顔がゴツイのまで化粧してたり、他の男子校までがこんなのばっかりだとは思いたくない。

食堂の出入り口から来たのは元気のいい怒鳴り声にも似た声を出しながら、遠慮を知らない行動と自己自慢を牽けらかした言葉の羅列を後ろや腕を掴んで連れてきた生徒に野球選手も真っ青な変化球並みに投げかける、見た目が青山に少し似た悪ぶった生徒が一人。後ろにいたのは生徒会か。
生徒会がわざわざ専用の食堂を使わずにくるなんて天変地異の前触れ?

「あれは一種の宗教だな。それに比べてここは静かだねぇ」

冷めた目で騒がしい方を見る青山はこっちを見るとニヤニヤしだす。

「何が言いたい」
「お前いりゃ昼寝も静かにやれそうだ」
「サボリに使うな」

まあ、確かに。どっちかっていえば白けた感じの静寂がここにはある。

「お前が凄んだからじゃない、この静かさ」
「馬鹿言え。この清々しさはお前が座った時点で始まってんの。試しにあっち歩いてみろ、同様になる」
「それは嫌」

関わるみたいで。俺は黄門様じゃありませんから。
はぁ。ゼリーも食べ終わったことだし、教室に戻ろうか。

「棋王一の美貌は伊達じゃない。転校生の容姿が跳ねっ返りのじゃじゃ馬で、天使みたいだって言ったところで敬語も社交辞令も理解できない粗野な喋り口、セレブん中じゃ捕獲寸前の外来種だぞ。お粗末すぎて玩具にもならない。お前を前にしたらただの引き立て役だな、あれじゃ」

自惚れも度が過ぎればピエロにもなれない、か。
漸く最後の一口を食べ終わった青山がスプーンを置いて椅子の背にもたれかかる。どんな恰好、仕草をしても様になる奴だ。さすが次期美化委員長候補。

「海外の有名な映画監督、巨匠もいたな。俳優ですらお前の容姿を一目見て絶賛し、虜。」
「なんか変態クサイこと言ってない」
「幸村」

静かなスペースで語りかけてくる。言われたことも見たこともないことを言われ、椅子の上で若干逃げ腰になるのは正常の反応。
自嘲気味に入るかな、やけに男くさい笑みをして俯き加減になったあとにこっちを見た青山に一瞬、息が詰まる。

「俺と付き合え」
「・・・・・・懲りないね、相変わらず」

欲情を覚えたばかりの肉食動物に似た目をして告げる言葉は、毎年といっていいほど告げられたもの。毎度断ってるのに諦めが悪い。
それにしても言ってくる場所のバリエーション増えてきたな。寄りによって食堂とか公衆の面前なんだけど。教室で言われるより質が悪い。

「生徒会には高嶺の花。性欲の捌け口には目立ちすぎる。なぁ、相沢」

なんとも生々しい言葉のあとに出た聞き覚えのある名前。不意に気付く気配にゾッとした。

「アンタには月とスッポン。豚に真珠でしょ」
「お前がジェラシーとか笑えるな」
「どーせ無理矢理相席したんでしょ。ねぇ、幸村」

書記がなんでこっちにいるとか、訳の分からないことを言い出した青山がテーブルに頬杖して人の前髪を一房くるくる指で遊びだして地味に痛いとか、頭の中は混乱してはきたけど、この場所での温度差は隠しようもない。

「無理矢理って、会長やお前じゃあるまいし」
「青山、髪引っ張るな。こいつが無理矢理なんてしないよ」

過去、現在一度も無理矢理何かを仕掛けられたことなんてない。強いて言えば告白めいたことか。

自分の横に立つ相沢を見れば双方が睨み合っていて疲れてきた。人をダシに使うな。

「先戻るわ」
「幸村?」
「おい」
「ヨシトー!そんなとこで何やってんだよっ、早く来いよ!」
「呼んでるぞ」

デカイ声で相沢を呼ぶ声にコレ幸いと立ち上がる俺と青山。極力顔を覚えられないよう食堂のテラスから出ることにする。
転校生ってあれか。嫌そうな顔して聞いてきた青山の心情が分かってくる。あれは親の都合のいいように一切の外野をシャットアウトし泡銭で物を与え、使用人たちに疎まれて育ったお子様だ。世間知らずで甘えん坊。今まさに食堂内でその兆候が見ていて分かる。
中学を卒業したばかりとはいえ、誰だ?あいつに不幸自慢の仕方まで教えたのは。

「相沢」
「なぁーに?」
「自分の都合で俺を巻き込むな。迷惑だ」

騒がしい方を背に、人好きな笑みを浮かべて侍らす親衛隊の男に話しかけるような甘えた声をだす相沢にはっきりと伝える。
世界が自分を中心に回ってるって本気で思ってそうな生徒会だ、言わなきゃ伝わらない。サッと顔色が変わる相沢に意外とポーカーフェイスが下手なんだなと思えば、近くにいた青山が忍び笑う。

「ドンマイ、相沢」
「テメェ」

二人を置いて食堂にいるウエイターにトレイを渡し、ごちそうさまと言ったあと、先に食堂から出る。
今日は委員会もないし、寮に帰って早く寝たい。










20160215.
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