柳枝✖朱希

高梨美波

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看病

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ある朝、起きると

柳ちゃんの顔が少し赤く見えた

時々咳も出てるみたい

僕は心配して声をかけた

『ねぇ柳ちゃん。風邪引いちゃった?
 熱が、あるんじゃない?
 今日はお休みして・・』

でも、柳ちゃんは強がって

平気なフリをして見せる

『大丈夫だよ、朱希
 これくらい大したことない
 別にダルくないし、熱だって多分ないから』

そう言った柳ちゃんに、僕はおでこを

コツンとしてみたら

少し、熱かった

『ないでしょ?』笑顔で言う柳ちゃんに僕は

『熱、ありそう。計って』と

体温計を差し出した

(ピピピピ・・)

体温計は、38度を表示した

『ほらぁ、やっぱり熱あるじゃない
 ちゃんと寝てなきゃ、ダメ』

そう言って、僕は柳ちゃんを布団に寝かせた

救急箱を見ると、ちょうど風邪薬だけ

切らしてしまっていた

『柳ちゃん。僕、薬買って来るけど
 他に何か欲しいもの、ある?』

『桃缶・・あと、リンゴの、擦ったの・・。
 ハチミツかけて
 あと・・ポカリ・・』

出てくる出てくる、リクエスト

『分かった。あれ、美味しいよね。
 家も僕が風邪ひくと
 母さん良く作ってくれたよ、じゃあ
 行ってくるね』

そう言って立ち上がった僕の指を

柳ちゃんの熱を帯びた手が握った

『柳ちゃん?あの、僕買い物・・』

そう言ったけど、柳ちゃんは

手を離してくれない

『朱希、オレ・・
 やっぱ、何も要らない
 桃缶も、りんごも、ポカリも薬も・・
 どこにも行かないで、そばにいて』

布団に寝たまま、上目遣いで・・

目を細めて甘える柳ちゃん

僕は、あえて心を鬼にした

『ダメだよ、柳ちゃん
 風邪の時は、よく食べて
 よく寝るに限るんだから
 すぐ帰って来るから、いい子で待ってて』

僕がそう言うと

柳ちゃんは話し疲れたのか・・

『生意気』と呟いて、眠ってしまった

柳ちゃんが寝ている間に

スーパーや薬局で買い物をして

帰ると、柳ちゃんはまだ眠っていた

僕はその間にお粥を作る

りんごは色が変わりやすいから

柳ちゃんが起きたら作ることにした

お粥が完成して、僕はそのまま

柳ちゃんの隣で様子を見る

寝顔がなんだか、子供みたい

起きてる時と寝てるときの

顔のギャップが凄いな・・

僕は柳ちゃんの寝顔を

初めて「かわいい」と思ってしまった。

暫くして、柳ちゃんが目を覚ました

『あ、おはよう、少しは楽になった?
 お粥とか、食べれる?』

そう聞いたら、体を起こそうとした柳ちゃん

僕は慌てて止めた

『急に動いちゃ、ダメだよ。
 体に障るから。こんな時くらい
 ちゃんと大人しくして?』

少し不満そうな顔をして

楽な姿勢を取る柳ちゃん

『寝たまんまだと、お粥とか
 食べらんないじゃない』と、ぼやいている

『それもそうだね・・』

僕は苦笑して、お粥を少し温め直し

りんごを擦ってハチミツと混ぜて

取り分けて冷ましながら

まずは、お粥を食べさせる

『おいしい』呟きながら食べる柳ちゃん

『良かった』

すごくあっという間に

お粥を平らげてしまった

食欲はあるみたいで、安心した

『リンゴの擦ったの、食べる?』

頷く柳ちゃんに

僕は擦りリンゴを食べさせる

『食べたら薬飲もうね』

『うん・・桃缶』

今日中に全部

食べるつもりでいたみたい・・

僕は苦笑してしまった

『桃缶もちゃんと買ってあるけど、あとでね
 そんないっぺんに食べたら
 お腹壊しちゃうよ?』

柳ちゃんはすごく不満げに

頬を膨らませてしまった

『そんな顔しても
 ダメなものは、ダメ
 あとで、ちゃんとあげるから
 桃缶と、ポカリ』

僕は、幼い子を宥める

母親のように、そう言い聞かせ

薬を飲ませた。

諦めて?ふて寝してしまった柳ちゃん

僕は、そのおでこに

熱さまシートを張って

そのまま様子を見ることにした

暫くして

夜になってから

起きた柳ちゃん

『桃缶・・』

寝起きの第1声に呆れて

苦笑するしかない僕

『はいはい
 どんだけ桃缶食べたいの』

そう言いつつ、僕は桃缶を皿に開け

フォークを刺し

ポカリを準備する

『はい、桃缶』

フォークに刺した桃缶を口元に運ぶと

柳ちゃんは嬉しそうに食べた

その様子に、僕も思わず

笑顔になって・・

柳ちゃんは少し

ご機嫌斜めな顔を僕に見せてきた

『何がおかしいの~?朱希?
 オレ、弱ってるんだよ~?』

僕は、なんとか柳ちゃんを宥めた

『ごめんごめん
 だって今日の柳ちゃん
 すごい可愛いんだもん』

宥めたつもりだったんだけど・・

『男に「可愛い」とか言うな』と

なんだか、むすっとしてしまった

僕はそれが可笑しくて、言い返してみる

『ずるいよ~。柳ちゃんは、いつも僕に
 「可愛い」って言うくせにさ?
 僕だって、男だよ?』

柳ちゃんは、屁理屈を言い出した

『オレが朱希を「可愛い」って言うのは
 別に良いんだよ。逆が気に食わない』

苦笑するしかない僕

『そういうのを、世間じゃ
 「屁理屈」っていうんだよ?』

笑い合う僕たち

良かった。

笑う元気が出てきたみたい

『熱、少しは下がったかな?
 もう1回計ってみようか?』

そういって、体温計を使うと

37.3分

『うん、まだちょっとあるけど
 随分下がったね』

柳ちゃんは笑顔で返す

『朱希の献身的な
 看病のおかげだよ~
 ありがとね』

いつもの笑顔に、僕は

少し、どきっとしてしまった

『もう・・また調子良いこと言って
 まだ寝てなきゃ、ダメだよ』

僕は、そう誤魔化して

柳ちゃんを寝かせて

自分も寝ることにした

次の日・・

僕は頭が少し痛かった

『あれ・・?』

急に視界が少し暗くなったと思ったら

柳ちゃんが、僕に

おでこを、コツンとしていた

『あれぇ?熱があるねぇ
 ごめんね、オレの風邪
 移しちゃったみたい?どうりで
 元気になったよ♪』

顔を上げて、そう言う柳ちゃんに

僕は少し

むすっとして見せた

『そ、それは良かったね』

柳ちゃんは

僕に体温計を使いながら

『むくれないの。おバカさん♪
 今度はオレが、誠心誠意、手厚く
 看病してあ・げ・る♪』

と、言った

『あ・・ありがとう。でも柳ちゃん
 お粥作れないでしょ・・?僕自分で』

立とうとしたら、押し倒されるような形で

布団に戻されてしまった

『コ~ラ。
 ちゃんと寝てなきゃ、ダメでしょ~?
 それに、バカにしてる?
 自炊、ちゃんとしてたんだから。
 朱希が来るまで。だから、お粥くらい
 作れる』

そう言って、柳ちゃんは台所で

お粥を作り始めた

『リンゴも擦ってあげるね~♪』

僕の具合、良くないのに

柳ちゃん何だか、嬉しそうだなぁ・・

暫く待っていると・・

『はーい♪朱希。
 お粥とリンゴ、お待たせ~♪』

僕は、むっとした顔で柳ちゃんに言う

『なんでそんなに嬉しそうなの?僕
 柳ちゃんに風邪移されて、具合・・
 悪くなったんだよ?』

文句を言ったのに、柳ちゃんは

平気な顔をしている

『だってさ?好きなヤツの看病できるって
 とっても嬉しいことだよ?』

『僕には分からないなぁ、だって、僕は昨日
 柳ちゃんに、早く元気になってほしくて
 ずっと心配してたんだから』

言い終えると、急に柳ちゃんが

がばっと抱き着いてきた

『!ダメだよ柳ちゃん!また
 風邪移っちゃうよ!?』

慌てる僕をよそに、離れない柳ちゃん

『そん時はそん時で、また朱希に
 看病してもらうもん♪』

僕は呆れて柳ちゃんを引き離そうとする

『「もん♪」じゃないよ柳ちゃん
 可愛く言ってもダメ。離れてよ。心配なんて
 2度としたくないんだから』

それでも柳ちゃんは

離れてくれないどころか

しがみついてきて・・

『絶対嫌。それもこれも、全部朱希が
 カワイイこと言うから悪いんだからねぇ♪』

『もー、聞き分けないこと言わないの
 僕熱上がっちゃうよ?もう寝かせて』

そうお願いすると、柳ちゃんは

お粥を冷ましながら僕の口元に近づける

お粥と擦りリンゴを食べさせてもらって

僕は、薬を飲んで、そのまま寝て・・

柳ちゃんに移すこともなく、元気になった

これで、普段通りの生活

やっぱり、元気が一番だよね

~Fin
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