柳枝✖朱希

高梨美波

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恋↔愛

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僕は、相楽朱希
20歳、大学2年
事情があって
夫婦別姓だけど
一応結婚している
普段は、僕が先に帰って
夕飯の支度をしながら
帰りを待つ生活
この日もいつも通り
過ごしていたら
「カチャッ」と扉が開いて

『ただーいま♪』

と、入ってきた

『あ、柳ちゃんおかえりー』

この人が、僕の旦那さんで
この家の主…渋澤柳枝
僕は昔から『柳ちゃん』って
呼んでる。高校からの
1コ上の先輩で、初恋の人
高校3年間と去年1年
4年付き合って
半月前に、結婚したばかり
帰るなり柳ちゃんは
また黙って僕の背中に
抱きついてきた

「…!(ドキッ)」

まぁ…これは、いつものことで
僕もずっと流してたんだけど
気になったから聞いてみた

『ねぇ柳ちゃん
これ…何してんの?』

柳ちゃんは目を閉じて答えた

『んー?栄養補給♪』

僕は、その答えじゃ
なんだか納得できなくて
つい……

『えっと…僕別に…柳ちゃんの
栄養剤とかじゃ…ないんだけど…』

と、言ってしまった
すると柳ちゃんは「ん~」と
少し考える素振りの後で…

『じゃあ…言い方を変えようか
オレは、いつもこうして
朱希から、元気を
分けてもらってるんだよ~』

その答えで、ようやく
納得出来たけど、僕は今
火を使っているわけで….

『そ、そうなんだ…あ、ねぇ
柳ちゃん。もう、ご飯出来るから
手洗ってきてほしいな?今は
ちょっと離れて…』

「離れて」って言ったのに
柳ちゃんは、さらに強く
僕を抱きしめて…

『どうして、そういう
冷たい事言うの~?』と

聞いてきた

『ごめん…えっと…見て…
分かると思うけど
僕今火使ってて…危ないから…』

そう言ったら、やっと
納得してくれたみたいで
僕を解放してくれた

『それならそうと、ちゃんと
言ってくれなくちゃ。冷たい奴って
思われちゃっても
仕方ないんじゃない?』

(ドクン ドクン)

…柳ちゃんは、昔から
こういうところが、すごく
意地悪なんだ。

『…ごめん』

謝った僕は柳ちゃんに
背中を向けて…

『とにかく、手…洗ってきて』

そう言って皿を出す

『はーい♪』

返事をした柳ちゃんは
洗面所の方へ

(ドクン ドクン ドクン ドクン…)

まただ…なんでもない事で
僕はドキドキしてしまって…
柳ちゃんは、僕を
すごく愛してくれている
それは…普段から本人が
時々言ってくれるし
それに態度でも
示してくれている
でも…僕は…どうなんだろう…

『…き…朱希!』

『え?あ、ごめん、何?』

いけない、ボーっとしてた …

『何じゃないよ。さっきから
呼んでたのに。ご飯、出来た?
…大丈夫?なんか、あった?』

僕は笑顔で…

『なんでもない。ちょっと…
疲れただけかな。大丈夫だよ
さ、食べよ』

そう言って
二人で食卓につき
いつものように
ビールで乾杯する

『今日も一日、お疲れ様』

…ご飯中、なんか柳ちゃん
ずっと僕の方気にしてる…

『り…柳ちゃん?』

『ねぇ朱希、本当に大丈夫?
なんか無理してない?』

先に食べ終わった柳ちゃんは
すぐ前に来て、そう言いながら
僕の顔を覗き込んだ

『…!!ど…どうして…?
大丈夫だよ』

柳ちゃんは、じっと
僕を見つめている

(ドクン ドクン)

…あ…また
柳ちゃんは、凄く
余裕そうなのに僕は…
未だに、こういう
ちょっとしたことで
心臓が…鼓動が……
きっと…僕はまだ
柳ちゃんに「恋」を
してるんだと思う…
4年も付き合ったのに…
半月とはいえ、もう夫婦なんだから
一体いつまで
恋人気分でいるんだって
思ったりもする… 

『…嘘。だって朱希
顔、赤いよ。熱は?』

(ゴチン)

『……ない…』

(ドキンドキン ドキンドキン)

おでこで熱を測られて…
僕の心臓…凄い音…
柳ちゃんのことは好き
でも、きっと今はまだ
「愛」より「恋」の方が
大きいんだと思う
いつかはちゃんと「愛」に
変わる日が来るのかなぁ

『疲れてるなら…今日は
早く寝なきゃね』

『そ…そうだね』

僕は、バカみたいに
1人でドキドキしながら
ご飯を全部食べて
食器を洗う
家事をしてると…
少しは、落ち着く
それなのに…柳ちゃんが
後ろに立って…僕の腰に
手を回してきて

『なんかあったら
1人で抱えないで言うこと
いいね?朱希』

『うん…分かった』

僕は柳ちゃんの
顔が見れなくて後ろに回って
大きな背中に抱きついた

『…僕にも分けて
柳ちゃんの元気』

柳ちゃんは「いいよ」と言って
僕を撫でてくれる。いつもの
優しい手で

僕が先にお風呂に入って…
柳ちゃんが入ってる間に
布団を敷く

『朱希、今日はもう寝る?』

上がった柳ちゃんが

髪を拭きながら聞いてきた

『うん…そろそろ
寝ようかな…』

お風呂上がり…
好きな人の声
僕は色々重なって
眠くなってしまった

柳ちゃんが僕に近づいて

『おやすみなさいのチュー…
しない?』

(ドキ)

『あ…あの…する……』
『おっけー』

僕達は、唇を重ねた

『ん…ふ…』

暫くして離れる

『柳ちゃん…おやすみ…』

いつも柳ちゃんは
僕に優しい顔をする
今も、いつも通り

『おやすみ』

次の日、2人とも休講になって
休みのタイミングが
久しぶりに合った

『どっか行く?映画とか』

そう聞いてきたのは
柳ちゃんだった

『うん、そうだね
たまの休みだから、家で
のんびりするのも良いけど
天気も良いしね』

そう言って僕は
出かける準備を始めた
2人で出かけるのは
実は結構久しぶり

映画を見て…外食して
商店街を歩いていたら
ガラス細工のお店があって…
僕は、つい窓ガラスに張り付いて
色々じっくり見てしまっていた

『中に入る?朱希、そんなに
窓にベッタリしてたら
不審者だよ?笑』

(カァァ…) 

柳ちゃんに笑われて
僕は身体が熱くなるのを感じた
恥ずかしい…気づいたら
僕街ゆくみんなに
笑われてたみたい…

『い!いいよ!ちょっと
見てただけだから
帰ろう柳ちゃん』

僕は慌ててそう言った
一緒にいるのに
柳ちゃんに
いらない恥を
かかせてしまった自分が
何だか情けなくて…

『…ごめん…柳ちゃん…
恥ずかしいよね…』

そういうと、僕の頭に
手を置いて、聞いてきた

『どうして?綺麗な物に
見とれるのは普通だろうし
それに…欲しいものがあったら
買ってあげるよ?』

僕は、ますます
自分が情けなくなって…

『どうして…って
こんな街中で僕…
変…なことして…みんなに
笑われて…きっと…僕だけじゃなくて
一緒にいた柳ちゃんも笑われた
そう思ったら…僕…』

何も見れずに俯く僕から
柳ちゃんは、離れなかった

『朱希。オレは気にしないよ
笑いたい奴には
笑わせておけば良い
さ、中に入ろっか』

『…うん』

店の中に入って
色々じっくり見て
僕は熊から
目が離せなくなっていた

『それ、欲しい?』

聞きながら柳ちゃんが
手に取って渡してくれた

『…じゃなくて、こういうの
木彫りではよく見るけど
ガラスって珍しいな…って』

本当は、すごく欲しい…でも
この熊はすごく高くて…

『言われてみれば、そうだね
…もしかして朱希、遠慮してる?』

(どきっ)

見透かされてる…柳ちゃん
こう言うの昔から
鋭いからな…

『し、してないよ僕…
珍しいから見てただけで
欲しくな…』

急に柳ちゃんが、軽く僕の
口を塞いで…

『シー。お店の中で
そんな事言わないの』と

…怒られちゃった

『…ごめん…でも僕』

言いながらガラスの熊を
元の場所に戻して…

『帰ろう、柳ちゃん』

一緒に店を出ようとする
けど柳ちゃんは動かなくて…

『朱希、遠慮も我慢も
オレにはいらないよ、オレが
買ってあげたいから』

『ダメだよ…僕が嫌…
柳ちゃん、もう3年生だし
これから就活とか、いっぱい
お金かかるのに…』

「こんな物」なんて言ったら
また柳ちゃんに怒られちゃうし
僕はそれ以上言えなくて…
柳ちゃんの、ため息が聞こえた

『…あのね朱希
それはソレ、これはコレ
自分で稼いだ金の使い道は
オレの自由でしょ?オレは朱希の
欲しいものは買ってあげたい』

『ありがとう…でも、いい…
柳ちゃんのお金だから…もっと
自分のことに、大切に使って
僕は欲しいのは…自分で稼いで
買うから…』

いつも柳ちゃんは、そうだった
バイトの給料入っても
僕が何かを物欲しそうに見てると
何でも買ってくれて…僕は
それが苦しかった…
柳ちゃんに、はっきり
伝わっちゃったみたい
少し悲しそうな顔をしてる

『…オレは、朱希の苦しみに
気づいてやれてなかったかな
ごめんね。重荷だった?
プレゼント』

僕は慌てて首を振った

『それは違うよ柳ちゃん
プレゼントは嬉しかった
でも…僕は…もっとお金を
大切にして欲しいだけ…ガラスは
すぐに壊れちゃうから……』

僕は素直に欲しいって
言えない理由を話した
柳ちゃんは僕の頭を撫でて…

『大丈夫。2人で、大切にしよう
朱希?人の好意は、素直に
受け取るもんだよ?』

『……』

結局買ってくれるみたい
また僕は柳ちゃんに甘えちゃう
ガラスの熊を買って
僕達は一緒に帰る

『…ねぇ柳ちゃん、ありがとう
でも、本当に…これっきりにしてね
柳ちゃんの大事なお金は
僕に使って良いお金じゃなくて
これから柳ちゃんに、必要な
お金だから…』

手が離れたと思ったら
鼻をつままれた

『オレの稼いだ金の使い道は
自由って、さっき
言わなかったっけ~?
遠慮しないの』

『え、遠慮とかじゃなくて…
お金は、大切だから…僕は、その
柳ちゃんが一緒にいてくれたら
もう…何もいらない』

柳ちゃんは、優しく微笑んでる

『そっか。オレも朱希がいるから
何もいらないんだ。約束する
ずっと一緒』

そう言って家に入ると
柳ちゃんは、僕をぎゅっと
抱きしめて…

『好きだよ、朱希
愛してる』

と、言ってくれた

(ドキ ドキ)

『ありがとう、僕も
柳ちゃんが好き…大好き』

抱きしめ返す僕
柳ちゃんの腕は優しくて
温かい…
僕達は、見つめあって…
目を閉じて、唇を重ねた

今は「恋」でもいい
柳ちゃんが愛してくれてる
「確か」が、あるから
~Fin.
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