柳枝✖朱希

高梨美波

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甘えと思い出

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ある日、朱希は普段通り

夕食の支度をしていた

ご飯を炊くため、米を研いでいた朱希に

柳枝はそっと近づいて

その腰に抱き着いた

驚いて、ビクンと一瞬小さく跳ね上がる朱希

『ひゃっ!り、柳ちゃん・・何?どうしたの?』

柳枝は体勢を変えずに答える

『ん~?別に、なんとなく甘えてるだけ』

照れて頬を染める朱希

『そ・・そう・・』

暫くして気が済んだのか

柳枝は朱希から離れて

台所を出て行った

それから暫くして、炊飯をしながら

鍋で玉ねぎを炒めていて

バターの準備を忘れていたことに気づいた朱希

『あ・・バター・・どうしよ・・
 ねぇ柳ちゃ~ん』

呼ばれた柳枝は、台所に入る

『どうしたの~?』

朱希は柳枝に頼みごとをする

『冷蔵庫の1番上の段にバターがあるから、取って
 10g..えっと、2.3cmくらいのサイコロサイズに
 切ってくれる?そこのイスに乗れば
 自分でも取れるんだけど‥僕今目離したら
 タマネギ焦げちゃうから・・』

『ん、オッケー♪』

指示通り、バターを用意し
会話を始める柳枝

『できたよ
 今日の夕飯、何?』

『バターチキンカレー』

その答えを聞いて、少し驚きながら話をする

『おー。結構本格的だね』

少し照れた様子の朱希

『ちょっと・・作ってみたくなって・・
 作り方、調べてみたら・・
 簡単に作れそうなのが、あったから』

『そっかぁ。他に何か手伝うことない?』

『うん、とりあえず・・もう大丈夫』

微笑む柳枝

『そう。じゃ、また何かあったら
 呼びなよ。カレー、楽しみにしてるからね』

そう言って、くしゃっと朱希の頭を撫で

台所から出て行った

ドキッとして、思わず頬を染める朱希だったが

慌てて我に返って、調理を続けた

無事完成したバターチキンカレーを食べる2人

『美味しい。ね、また作ってよ♪』

「美味しい」の一言に純粋に喜び、微笑む朱希

『うん。
 自分でも、美味しく作れて
 ちょっとビックリ。だって・・初めてだったから
 こういうカレー作るの』

そんな朱希を見て

柳枝も微笑みながら話す

『朱希は、元々料理上手なんだし
 筋がいいんだから、もっと自信をもって
 色んなのいっぱい作ってみたらいいんじゃない?』と

深く考えずに誉めた

照れて頬を染める朱希

『そう・・かな?それは嬉しいけど・・
 うん、気が向いたら・・色々
 チャレンジ・・してみる』

褒められて悪い気がする人間は

おそらく世界中どこを探しても

稀な方だろう。

当然朱希のモチベーションも高まった

柳枝は、その様子に笑顔になる

『その意気だよ
 何事もチャレンジ、チャレンジ♪
 朱希なら出来るよ』

その言葉に朱希も笑顔になり答える

『うん、ありがとう♪』

ところで

柳枝は、こんな風に

他人を持ち上げる技術が

学生時代から高かった

だからこそ、彼の周りには

自然と人が集まっていた

物知りで、優しく

困っている相手は放っておけない上に

頼まれごとは断りにくい性格故に

頼り甲斐がある為だ

学生時代、朱希は柳枝を見かけて

声をかけたくても

かけられないことの方が

多いくらいだった

理由は、前述のとおり

常に、その時々で

男女どちらか、あるいは両方に囲まれていたからだ

誰にでも優しく対応する彼は

大体常に誰かしらに頼られていた

そんな彼を見るたびに

朱希は、焼きもちを妬いていた

恋人は、頼られているだけで

モテているわけではない

もちろん、簡単に浮気をするような相手ではないことも

理解はしている

それでも、自分以外に優しく接している恋人を見ると

朱希は、やるせない気持ちを抱えてしまって

そんな、心の狭い自分に

苛立ちさえ覚える時もあった

信じているのに、なぜこんなにも

胸が痛むのだろう・・と

当時の気持ちを思い出しながら

朱希は話し始めた

『・・でもさ、本当柳ちゃんって
 変わらないよね』

突然そんなことを言われ

キョトンとして答える柳枝

『え、何が?
 っていうか朱希、急にどうしたの?』

当然の疑問だ

朱希は苦笑しながら答える

『ううん、大したことじゃないんだ
 学生時代の事思い出したの
 柳ちゃん気づいてかは分かんないけど
 僕、話がしたくても
 ほとんど声をかけられなかったんだよ』

『どうして?』

『だって・・柳ちゃんの周りには
 常に人がいたから
 優しいし、物知りだし
 誰にでも親切だったから
 頼られてるだけっていうのは
 ちゃんと分かってた。でも・・
 ちょっと・・辛かったんだ・・自分がね
 信じてたのに・・そんな風に、妬いちゃうのが
 嫌で・・』

話しながら俯く朱希に

柳枝は隣に移動し、そっと抱き寄せた

『そうだったんだ。もう今更だけど・・
 ごめんね。時々感じた視線は、朱希だったんだね』

見られていた、と気づいた朱希の頬は

かあっ・・と赤く染まっていった

『見・・てたの?』

『あー・・時々ね
 「見えた」っていう方が正解かも
 朱希、隠れてたし?』

思い出して耳まで真っ赤になる朱希

『そ・・そうだったね・・
 なんか、ずっと見てたら僕
 ストーカー・・みたいじゃない?
 だから・・』

笑う柳枝

『そんなことないと思うけど・・
 それにしても、朱希ってば
 相変わらず可愛いなぁもう♪』

そう言って、柳枝は朱希を

ぎゅ~っと抱きしめた

その腕の中で、高鳴る心臓を抑えるのに

朱希は必死になっている

(どきっどきっどきっどき・・・)

柳枝は意地悪っぽく笑う

『ははは、すごい心臓の音』

笑われて恥ずかしくなり、柳枝の肩を

無言でバシバシと殴る朱希

『痛い痛い。ごめん朱希
 もう怒んないでよ。降参』

そう言って、いつのまに

こしらえたのか・・

柳枝は白旗を上げて見せた

殴る手を止める朱希だったが

今度は涙目だ

『酷いよ柳ちゃん・・僕今大変な時なのに・・
 意地悪なとこも変わってない・・』

少し困惑する柳枝
朱希の頭を撫でながら謝る

『ごめんね。あんまりカワイイから
 つい、ね・・』

落ち着くどころか、さらに高まる鼓動に

朱希は戸惑い始めた

『どうしよう・・・ねぇ柳ちゃん
 僕・・苦しい・・どうしたらいいの・・』

本気で心配する柳枝

『大丈夫?いったん落ち着こう、朱希
 そうだ深呼吸
 困ったときは、深呼吸。ね?』

静かに頷く朱希

何度も、深呼吸をしてみる

『・・・ふぅ。僕・・いつか柳ちゃんに
 殺されるかもしれない・・』

縁起でもないことを口走った朱希に
柳枝は文句を言った

『ちょ、朱希。そういうこと
 冗談でも言わないでよ
 オレ、人殺しになんか
 なりたくないからねぇ?まして
 朱希を殺すなんて冗談じゃない』

謝る朱希

『ごめん・・そうだよね
 僕なんてことを・・』と、反省を始める

その様子に気づいた柳枝は微笑む

『もういいよ
 怒って、ごめんね』

首を振る朱希

『柳ちゃん悪くないから・・
 謝らないで・・』

再び朱希を強く抱きしめようとして

柳枝は慌てて手を引っ込める

『抱きしめてあげたいけど・・そんなことしたら
 せっかく落ち着いたのに、またドキドキしちゃうもんね・・
 今日は、もう風呂入って寝ようか』

『うん・・そうだね。ごめん・・』

きょとんとする柳枝

『なんで謝るの?』

『え?だって・・僕がさっき
 あんなこと言ったから柳ちゃん
 遠慮したんでしょ・・?だから・・』

その一言で、柳枝は衝動を抑えられなくなってしまった

『・・ごめん朱希。君ってやつは可愛すぎる・・
 せっかく、我慢してたのに・・ドキドキしても
 自業自得だからね』

そう言って、抱きしめた

ドキドキする朱希だが

不思議と、さっきのような息苦しさはない

『・・なんか・・大丈夫みたい』

朱希を撫でながら微笑む柳枝

『大丈夫?それなら良かった
 スキンシップは大事だもんね』

『うん///』

照れて頬を染める朱希

赤面は、治まりつつあった

柳枝の腕の中で、幸せそうに目を閉じる朱希

一報の柳枝も、幸せそうな顔で

朱希の頭を撫でている

『よし、風呂入って寝よ』

『うん』

離れる2人

それから暫くして

『おやすみ』と言って

唇を重ねてから

眠りについた

~Fin.
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