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好きな人の幸せを願うということ 一
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「池上…俊樹さん、ですか?」
トシからは、亜美子が予想していなかった、名前が返ってきた。
「はい、池上俊樹です。
…どうかしましたか?」
そう訊かれた亜美子は、少しの間、自分の頭の中を整理しようとした。
「池上俊樹さん…ということは、トシさんは田上俊雄さん、つまり私のお父さんではない。
…ということは、私は、この人に恋をしていい、ってことになる。年齢なんて関係ない。もちろん、トシさんがまだ独身だったらだけど…。
もし、トシさんが結婚していたら、どうしよう?その時は、諦めるしかない。
そうだ、不倫は良くない。それは絶対にだめだ。だから、もし今のトシさんに、愛する家族がいるのなら、私は身を引こう。そうだ、好きな人の幸せを願うことだって、恋愛の一部なんだ。
でも、私はそれを確かめたい。トシさんが、今でも1人なのかどうか…。
だから、私はトシさんに逢いたい。」
「アミさん、聞いてます?どうしました?」
亜美子は、トシにそう呼ばれるまで、しばらくの間、物思いに耽った。
「え、あ、はい、すみません。…実を言うと、私、色々あって、トシさんのこと、田上俊雄さんなんじゃないかって、思ってたんです。」
亜美子は、そのことについて話す心づもりではなかったが、自然と、言葉が口をついて出てきた。
「それはありませんよ。だって、田上俊雄は、あなたのお父さんでしょ?」
「え、私のお父さんを知っているんですか?」
「もちろんです。私、池上俊樹と、田上俊雄君、そして、あなたのお母さんの、中田美香さんは、同じ○○大学の、フランス文学専攻の同級生ですから。」
『そういえば、私がトシさんのこと、お父さんじゃないか、って思ったきっかけは、この偶然からだった。冷静になって考えてみれば、トシさんが、お父さんとお母さんについて知っているのは、当然だ。』
亜美子は、心の中でそう呟いた。
そして、亜美子は、今まで、亜美子が悩んできたことを、全部トシにぶつけてみよう、そう決めた。少し迷惑かもしれないが、トシさんは優しいから、大丈夫だろう、亜美子はそう思った。
亜美子は、今までのことについて話している間、我を忘れた気持ちであった。思いが溢れ出てくるのと同時に、言葉が、溢れ出てくる。それは、地下から温泉水が溢れてくるように、とめどなく、出てくるものであった。そして、亜美子は年末から今までの時間の空白を埋めるかのように、ひたすら、しゃべり続けた。
そして最後に、亜美子は、
「私は今のトシさん、50代のトシさんに、やっぱり会いたいです。会って、直接話がしたいです。」
ということを、伝えた。亜美子のトシに対する想いについては、逢ってから伝えよう、亜美子はそう思い、あえてそのことは伝えなかった。
そしてトシは、亜美子の話を最後まで聴き終えた後、静かに口を開いた。
「なるほど。そうだったのですか。だから、アミさんは僕のことを、俊雄、アミさんのお父さんと勘違いしたのですね。
それと、お父さん、交通事故で亡くなったのですね。それは、知りませんでした。心より、お悔やみ申し上げます。
じゃあ今度は僕の番ですね。僕も、僕の知る限りのことを、アミさん、いや、亜美子さんに伝えなければいけません。
まず、僕は、亜美子さんに会うことができません。なぜなら、僕は…、
白血病なんです。」
トシからは、亜美子が予想していなかった、名前が返ってきた。
「はい、池上俊樹です。
…どうかしましたか?」
そう訊かれた亜美子は、少しの間、自分の頭の中を整理しようとした。
「池上俊樹さん…ということは、トシさんは田上俊雄さん、つまり私のお父さんではない。
…ということは、私は、この人に恋をしていい、ってことになる。年齢なんて関係ない。もちろん、トシさんがまだ独身だったらだけど…。
もし、トシさんが結婚していたら、どうしよう?その時は、諦めるしかない。
そうだ、不倫は良くない。それは絶対にだめだ。だから、もし今のトシさんに、愛する家族がいるのなら、私は身を引こう。そうだ、好きな人の幸せを願うことだって、恋愛の一部なんだ。
でも、私はそれを確かめたい。トシさんが、今でも1人なのかどうか…。
だから、私はトシさんに逢いたい。」
「アミさん、聞いてます?どうしました?」
亜美子は、トシにそう呼ばれるまで、しばらくの間、物思いに耽った。
「え、あ、はい、すみません。…実を言うと、私、色々あって、トシさんのこと、田上俊雄さんなんじゃないかって、思ってたんです。」
亜美子は、そのことについて話す心づもりではなかったが、自然と、言葉が口をついて出てきた。
「それはありませんよ。だって、田上俊雄は、あなたのお父さんでしょ?」
「え、私のお父さんを知っているんですか?」
「もちろんです。私、池上俊樹と、田上俊雄君、そして、あなたのお母さんの、中田美香さんは、同じ○○大学の、フランス文学専攻の同級生ですから。」
『そういえば、私がトシさんのこと、お父さんじゃないか、って思ったきっかけは、この偶然からだった。冷静になって考えてみれば、トシさんが、お父さんとお母さんについて知っているのは、当然だ。』
亜美子は、心の中でそう呟いた。
そして、亜美子は、今まで、亜美子が悩んできたことを、全部トシにぶつけてみよう、そう決めた。少し迷惑かもしれないが、トシさんは優しいから、大丈夫だろう、亜美子はそう思った。
亜美子は、今までのことについて話している間、我を忘れた気持ちであった。思いが溢れ出てくるのと同時に、言葉が、溢れ出てくる。それは、地下から温泉水が溢れてくるように、とめどなく、出てくるものであった。そして、亜美子は年末から今までの時間の空白を埋めるかのように、ひたすら、しゃべり続けた。
そして最後に、亜美子は、
「私は今のトシさん、50代のトシさんに、やっぱり会いたいです。会って、直接話がしたいです。」
ということを、伝えた。亜美子のトシに対する想いについては、逢ってから伝えよう、亜美子はそう思い、あえてそのことは伝えなかった。
そしてトシは、亜美子の話を最後まで聴き終えた後、静かに口を開いた。
「なるほど。そうだったのですか。だから、アミさんは僕のことを、俊雄、アミさんのお父さんと勘違いしたのですね。
それと、お父さん、交通事故で亡くなったのですね。それは、知りませんでした。心より、お悔やみ申し上げます。
じゃあ今度は僕の番ですね。僕も、僕の知る限りのことを、アミさん、いや、亜美子さんに伝えなければいけません。
まず、僕は、亜美子さんに会うことができません。なぜなら、僕は…、
白血病なんです。」
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