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花びら占いは、好きですか?
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花火大会から1週間後、容態が安定していた悠馬は、病院のベッドに、横たわっていた。そして、その日は美月が、悠馬のお見舞いに来ていた。
「美月さん、久しぶりですね。」
「お久しぶりです、悠馬さん。
…って、そんなに久しぶりでもないんですが、本当に、『久しぶり』って感じがします。」
「…そうですね!」
こう言って2人は、笑った。
「でも、先生から少し聞いたのですが、美月さん、僕が倒れた時、かなり取り乱していたそうですね。」
「え、いや、その、はい…。
先生が、そんなこと言ってたんですか?」
「はい。先生、若干笑ってましたよ。
『虫垂炎なのに、『死んでしまうかもしれない』は大袈裟だなあ。でも、プロの医師でない人が見たら、そう見えるか。』
…ってね。」
「いや、恥ずかしいです。」
美月は、心底恥ずかしい、そういう素振りを見せた。
「でも、どうして僕が、死んでしまう、って思ったんですか?僕も、それが気になりました。
まあ、急に人が倒れたら、そう思うのが普通かもしれませんが…。」
「ち、違うんです。それは、私があるウワサを聞いたからであって…。」
そして美月は、花火大会が終わってしまった今なら、もう話してもいいと思い、美月が真由から聞いた、ウワサの一部始終を、悠馬に話した。
「…なるほど。それで美月さんは、僕が死ぬ、と思ったわけですね。
そのウワサ、根も葉もないただのウワサです…と言いたい所ですが、あながち間違ってもないのが怖いです。」
「えっ、どういうことですか?」
「…もう時効かな。
美月さん、今から話すこと、よく聞いてくださいね。」
「は、はい、分かりました。」
そして悠馬は、美月に語りかけた。
―まず始めに、美月さんに質問ですが、美月さんは、僕がどうして未来から来たのか、気になりませんでしたか?
「はい、気になってはいたんですが、以前、悠馬さんが、
『未来のことを訊くのは、止めてくださいね。』
と言われていたので、訊いてはいけないのかな、と思いまして…。」
―そうですか。やっぱり、気にされていたのですね。
その時は答えることができなかったのですが、今なら答えることができます。では、僕が未来で見てきたこと、かいつまんで話します。
僕たちは、2017年の4月に、美月さんの今通っている、○○大学の、大学院で出会いました。美月さんは、試験を受けて合格して、そのままその大学の院に進み、日本文学に興味のあった僕は、他大学から、○○大学の院の入試を受けて合格し、そこで初めて、出会ったというわけです。
そして、僕は美月さんから、声をかけられました。その時の美月さんは、初対面であるとは思えないような話し方で、僕はいささか困惑しました。なぜだか、美月さんは僕のことを、よく知っているような口ぶりだったので…。
でも、今考えれば当然ですね。美月さんはこうして、「現在」、2017年から見れば「過去」に、僕と会っているのですから。
そうしているうちに、僕たちは意気投合して、付き合うことになりました。ちなみに、先に告白をしたのは、美月さんの方です。告白の言葉は、
「私、こういうの苦手なんですが、ここで言わないと後悔すると思うので、はっきり言います。私、悠馬さんのことが、大好きです。私と、付き合ってください!」
というものでした。その時、僕も美月さんに惹かれていたので、
「はい、僕も美月さんのことが好きです。」
と答えて、2人は付き合うことになりました。
でも、その時僕は、美月さんの告白の仕方が、何か、
「ずっと前から、僕のことが好きだった。」
というような感じだったので、少し違和感を覚えました。でも、その理由も、これで分かるような気がします…。
おっと、美月さんの気持ちを、僕はまだ聞いていなかったですね。
美月さん、僕はあなたのことが、大好きです。美月さんは、どうですか?
「はい、私も、悠馬さんのことが好きです。大好きです。」
―ありがとう。これで、「現在」でも「未来」でも、2人は両想い、ってことになりますね。
というわけで、これからは「美月」って呼んでいいかな?
「うん、分かった。私も、『悠馬』って呼ぶね!」
―ありがとう、美月。
それで、僕たちは付き合い始めたんだけど、2017年の8月辺りから、美月の様子が、おかしくなりはじめたんだ。何か、体調も良くないようだし、それより何より、美月がこのまま、消えてしまうような感じがして…。
それで、病院に行っても、
「体調は、特に問題ないですね。風邪も、ひいていないようですし、気のせいではないですか?」
って言われて、もしかしたら重い病気かもしれない、って思って、大きな病院に通院に行ってもらったんだけど、それでも、
「特に異常ないです。」
の1点張りで…。
でも、僕には分かったんだ。虫の知らせ、って言うのか、何と言うのか…。このままだと美月は、僕の前からいなくなってしまうんじゃないか、ってね。
それで念のため、僕は美月には内緒で、ある占い師の所へ行ったんだ。その占い師は、よく当たる、って評判だったけど、行く時には誰にも言わずに、1人で行った方が効果がある、ってウワサだったから…。
そこで、美月のことを相談すると、ある答えが、返って来たんだ。
「それは、時空の乱れから来るものだね。」
ってね。
ここから先は、その時に言われたことを、話すよ。
「時空の乱れ、ですか?」
「ああそうだ。時空の乱れだよ。こういうことは、たまに起こるものなんだが、あんたの彼女ほどのことは、珍しいね。
どういうことかというと、今、あんたの彼女は、『生きる』運命にある。でも、その運命が、時空の乱れで変わって、『死ぬ』運命になっているんだ。
どれどれ、もう少し詳しく見てみようか。
えー、そうだね。この辺りで、納涼花火大会が、毎年開催されているだろう?」
「はい、毎年7月らしいですね。今年僕も、美月、今話している彼女と、見に行きました。」
「それだよそれ。それでその彼女、時空の乱れから来る変化によって、2016年7月の、納涼花火大会で、『死ぬ』、そういう運命になっているよ。」
「え、はい?そんなことがあるんですか?」
「ああ、ごく稀にではあるが、こういうことも、なくはない。」
「そんな…。
僕、何とかして彼女を、助けたいです。
…何とかなりませんか?」
「1つだけ、方法があるよ。」
「それはどんな?」
「それは、あんたが2016年にタイムスリップして、彼女に会いに行くことだ。それで、彼女と仲良くなって、納涼花火大会に行くことを、止めるんだ。
今、あたしの見立てでは、彼女がどうやって死ぬのかまでは、分からない。もしかしたら、花火大会に行く途中で事故に巻き込まれるかもしれないし、暴漢に刺されるかもしれない。申し訳ないが、そこまでは分からないんだ。
ただ言えることは、彼女は、急に消えたりすることはなく、現実世界で起こり得るようなことで、死ぬということ、あと、その花火大会に行きさえしなければ、時空の乱れが元に戻って、彼女の運命は、『生きる』に戻るということだ。」
「…分かりました。では、タイムスリップを、お願いしたいです。」
「分かったよ。明日身支度を整えて、もう1度ここに来るんだね。
ちなみに、タイムスリップに都合のいい行き先は…、
2016年、4月だよ。
いいかな?」
「分かりました。」
―そこまで聞いた後、僕はあることを、思い出したんだ。
「ところで占い師さんは、花びら占いは、専門ですか?」
「専門というかなんというかねえ。あれは、偶数、奇数で決まるものだからねえ。」
「そうですね。
ちなみに僕の彼女、美月は、昔、小さい頃は花びら占いが好きだったそうですが、そのことに気づいて、しなくなったそうです。
でも、実は僕、マジックが趣味で、得意なんです。マジックの世界では、偶数を奇数に変えることなんて、できますよね?」
「何が言いたいんだい?」
「今回の件を花びら占いに例えると、
『生きる』、『死ぬ』、『生きる』…、ってなって、『生きる』が奇数、『死ぬ』が偶数です。そして、今花びらは、偶数になっています。」
「…まあ、その通りだねえ。」
「でもこれから僕は、得意なマジックで、美月の運命を、『死ぬ』から、『生きる』に変えてみせます。
美月の偶数、僕が奇数に変えてみせますから!」
「おお、頼もしいねえ。
ようしその意気だ。必ず、あんたの彼女を、助け出すんだよ。
ちなみに、あんたがタイムスリップした目的を、彼女に気づかれたら、失敗だ。そうなれば運命は変えられないよ。あくまで自然に、彼女を花火大会から遠ざけるんだ。2016年4月から7月までの4ヶ月間で、あんたにそれができるかい?」
「…もちろんです!」
「あと、未来から来たことは、あんたの彼女には伝えていいが、未来の情報を不必要に伝えることは、できないよ。あと、2016年、『過去』の他の人間には、あんたが『未来』の人間だってことは、伝えちゃいけないよ。」
「…分かりました。」
―それで、僕は頑張ったんだ。美月の態度や性格から、美月が、簡単に僕の誘いに乗ってくるとは、思えなかった。だから、僕は賭けを思いついたんだ。この賭けなら、美月は乗ってくれるんじゃないか、ってね。
それで案の定、美月は賭けに乗ってくれた。一応、これは計算通りだったんだけど、もしかしたら、失敗していたかもしれない。ここで失敗したら、その時点でアウトで、僕は未来に帰らないといけない。つまり、美月の運命を変えられない。僕はその時、そう思いながらだったから、賭けをする時は、いつになく緊張したよ。でも、成功して、美月とこれからも逢えることになって…、
僕は、泣いちゃった。
美月、あの時、
「何で泣くの?」
って顔、してたよね?それには、こういう理由があったんだ。決して、僕が泣き虫だから、ってことではないよ。
…まあ、泣き虫、ってのもあるかもしれないけどね。
それで、何とか美月と仲良くなって、僕は美月を、例の納涼花火大会から、遠ざけようとした。したんだけど…。
「じゃあ、私、1人でも花火大会に行きますから。」
って美月、言ったよね?正直、あれには参ったよ。
『何で美月は、そんなにあの花火大会にこだわるんだろう?』
って思ったんだけど、それにはそんな理由が、あったんだね。
で、僕はその瞬間、決心した。美月は、現実世界にはない方法で、死ぬことはない。なら、花火大会に行っても、僕が美月の側から離れずに、美月を守り通せたら、問題ない。
そうだ、僕が美月を守るんだ。
ってね。
それで僕は美月に、
「絶対に僕から、離れないようにしてくださいね。」
って、言ったんだ。そして、美月を守ろうと思ったんだけど…、
途中で、盲腸で倒れちゃった。
僕は病院で目が覚めたら、真っ先に美月のことを心配したよ。それで、先生に、
「すみません、僕と一緒にいた彼女は、大丈夫ですか?」
って、訊いたんだ。すると、
「ああ、彼女なら、ひどく取り乱していましたが、
『虫垂炎です。』
って私が伝えると、安心しておられましたよ。」
「命に別状は?」
「え、彼女、重い病気か何かなんですか?
とりあえず、今日は家に帰ってもらいましたが…。」
「そうですか。ありがとうございます。ところで、花火大会は、どうなりました?」
「ああ、あの納涼花火大会なら、とっくに終わってますが…。彼女、花火大会終了後も、お見舞いに来てくれましたよ。」
「そうか、助かったのか…。
ありがとうございます!」
「は、はあ…。」
先生は、僕の質問にかなり困惑してたみたいだけど、とりあえず、僕は美月の無事を聞けて、ホッとしたよ。まあ、結果的に、僕が倒れて、美月は途中で花火大会を抜けることになったのが、よかったのかもね。そう思うと、盲腸に感謝だね。
だから、美月が聞いたウワサ、あながち間違ってはいないんだ。
「未来から来た人は、周りの人間の生死に、関わっている。」
「納涼花火大会で、何かが起こる。」
っていうのが正しいかな?
ウワサはどこかで、間違って広まったみたいだね。―
美月はそこまで悠馬の話を聞き、涙が止まらなくなった。
「ありがとう、悠馬。私のために、そこまでしてくれて…。本当に、ありがとう。」
「いいよ。大好きな美月のためだから。
さあ、これで一旦、お別れだ。実は占い師の先生からは、
『あんたの作戦が成功して、花火大会が終わったら、あんたの彼女には、本当のことを伝えていいよ。そして、それを伝え終わったら、タイムスリップ終了だ。あんたは『過去』の世界から消えて、2017年の『現在』に戻って来るんだ。
いいね?』
って、言われてるんだ。」
「え、そんな…。私、悠馬ともっと、一緒にいたい。悠馬ともっと話をして、いろんな所に行って、もっと、もっと…。」
「大丈夫。2016年、『現在』の時間では、逢うのはこれで最後だけど、2017年以降、『未来』の世界では、僕たちは付き合ってるんだ。だから、いくらでも、どこへでも、僕たちはいけるよ!
だから、それまでの辛抱だ。ただ、今回みたいな、大きな「時空の乱れ」は、ごく稀にしかないみたいだけど、小さな「時空の乱れ」、例えば、美月が院の受験に失敗したり、なんかはあるみたいだから、美月は、一生懸命、勉強をするんだよ。」
「…じゃあ、もしかしたら、私が悠馬に逢えなくなる、ってこともあるのかな?」
「それはないと思うけど…。
でも、これだけは言っておくね。偉そうなことは言えないけど、未来は、与えられるものじゃない。これから、作っていくものなんだ。
そして、その先に、僕たちの『未来』が、待っている。
だから、それまでの間、さよならを言わなきゃいけない。
でも、永遠の別れじゃないから…、
『未来』で、待ってるよ!
あと、一応言っておくけど、僕、本当は、美月みたいな、イタズラ好きな人はタイプじゃないんだ。だから…、
今度は美月が、頑張る番かな?」
美月は、目から溢れ出る涙を拭いながら、こう言った。
「…分かった。
じゃあ今度は私が、悠馬の『嫌い』を『好き』に変える番。
私が、悠馬の偶数を奇数に変える番だね!」
「そうだね。じゃあ僕、先に行くね!
またね!」
そう言い残した悠馬の体が、自然と消えていく。美月は、悠馬が話している間に、自然と握っていた悠馬の手の感触が、少しずつなくなっていくのを、感じた。そして、しばらくした後…。
悠馬は、消えた。
「こういう時、昔の人なら、何て句を、詠むんだろう?」
美月は、悠馬との思い出に浸りながら、そんなことをふと思った。
※ ※ ※ ※
2017年4月。今日は美月の大学院の、
入学式の日だ。美月は、2016年7月の終わりに、悠馬と別れてから、必死で勉強し、大学院の試験に、合格することができた。
そして、美月はその日、ある人を探していた。それは、長身で、イケメンの男性…。
そして、ちょっとナルシストで、キザな青年…。
そして美月は、その青年を見つけた。その青年も、どうやら大学院の入試に合格し、今日は入学式に来ているらしい。
美月はその青年を見た瞬間、泣きそうになったが、初対面で泣かれると、相手もびっくりするだろうと思い、何とか我慢した。
「すみません、隣、いいですか?」
美月はその青年の顔をはっきりと見て、こう言った。
「はじめまして、私、谷山美月、って言います。」
(終)
「美月さん、久しぶりですね。」
「お久しぶりです、悠馬さん。
…って、そんなに久しぶりでもないんですが、本当に、『久しぶり』って感じがします。」
「…そうですね!」
こう言って2人は、笑った。
「でも、先生から少し聞いたのですが、美月さん、僕が倒れた時、かなり取り乱していたそうですね。」
「え、いや、その、はい…。
先生が、そんなこと言ってたんですか?」
「はい。先生、若干笑ってましたよ。
『虫垂炎なのに、『死んでしまうかもしれない』は大袈裟だなあ。でも、プロの医師でない人が見たら、そう見えるか。』
…ってね。」
「いや、恥ずかしいです。」
美月は、心底恥ずかしい、そういう素振りを見せた。
「でも、どうして僕が、死んでしまう、って思ったんですか?僕も、それが気になりました。
まあ、急に人が倒れたら、そう思うのが普通かもしれませんが…。」
「ち、違うんです。それは、私があるウワサを聞いたからであって…。」
そして美月は、花火大会が終わってしまった今なら、もう話してもいいと思い、美月が真由から聞いた、ウワサの一部始終を、悠馬に話した。
「…なるほど。それで美月さんは、僕が死ぬ、と思ったわけですね。
そのウワサ、根も葉もないただのウワサです…と言いたい所ですが、あながち間違ってもないのが怖いです。」
「えっ、どういうことですか?」
「…もう時効かな。
美月さん、今から話すこと、よく聞いてくださいね。」
「は、はい、分かりました。」
そして悠馬は、美月に語りかけた。
―まず始めに、美月さんに質問ですが、美月さんは、僕がどうして未来から来たのか、気になりませんでしたか?
「はい、気になってはいたんですが、以前、悠馬さんが、
『未来のことを訊くのは、止めてくださいね。』
と言われていたので、訊いてはいけないのかな、と思いまして…。」
―そうですか。やっぱり、気にされていたのですね。
その時は答えることができなかったのですが、今なら答えることができます。では、僕が未来で見てきたこと、かいつまんで話します。
僕たちは、2017年の4月に、美月さんの今通っている、○○大学の、大学院で出会いました。美月さんは、試験を受けて合格して、そのままその大学の院に進み、日本文学に興味のあった僕は、他大学から、○○大学の院の入試を受けて合格し、そこで初めて、出会ったというわけです。
そして、僕は美月さんから、声をかけられました。その時の美月さんは、初対面であるとは思えないような話し方で、僕はいささか困惑しました。なぜだか、美月さんは僕のことを、よく知っているような口ぶりだったので…。
でも、今考えれば当然ですね。美月さんはこうして、「現在」、2017年から見れば「過去」に、僕と会っているのですから。
そうしているうちに、僕たちは意気投合して、付き合うことになりました。ちなみに、先に告白をしたのは、美月さんの方です。告白の言葉は、
「私、こういうの苦手なんですが、ここで言わないと後悔すると思うので、はっきり言います。私、悠馬さんのことが、大好きです。私と、付き合ってください!」
というものでした。その時、僕も美月さんに惹かれていたので、
「はい、僕も美月さんのことが好きです。」
と答えて、2人は付き合うことになりました。
でも、その時僕は、美月さんの告白の仕方が、何か、
「ずっと前から、僕のことが好きだった。」
というような感じだったので、少し違和感を覚えました。でも、その理由も、これで分かるような気がします…。
おっと、美月さんの気持ちを、僕はまだ聞いていなかったですね。
美月さん、僕はあなたのことが、大好きです。美月さんは、どうですか?
「はい、私も、悠馬さんのことが好きです。大好きです。」
―ありがとう。これで、「現在」でも「未来」でも、2人は両想い、ってことになりますね。
というわけで、これからは「美月」って呼んでいいかな?
「うん、分かった。私も、『悠馬』って呼ぶね!」
―ありがとう、美月。
それで、僕たちは付き合い始めたんだけど、2017年の8月辺りから、美月の様子が、おかしくなりはじめたんだ。何か、体調も良くないようだし、それより何より、美月がこのまま、消えてしまうような感じがして…。
それで、病院に行っても、
「体調は、特に問題ないですね。風邪も、ひいていないようですし、気のせいではないですか?」
って言われて、もしかしたら重い病気かもしれない、って思って、大きな病院に通院に行ってもらったんだけど、それでも、
「特に異常ないです。」
の1点張りで…。
でも、僕には分かったんだ。虫の知らせ、って言うのか、何と言うのか…。このままだと美月は、僕の前からいなくなってしまうんじゃないか、ってね。
それで念のため、僕は美月には内緒で、ある占い師の所へ行ったんだ。その占い師は、よく当たる、って評判だったけど、行く時には誰にも言わずに、1人で行った方が効果がある、ってウワサだったから…。
そこで、美月のことを相談すると、ある答えが、返って来たんだ。
「それは、時空の乱れから来るものだね。」
ってね。
ここから先は、その時に言われたことを、話すよ。
「時空の乱れ、ですか?」
「ああそうだ。時空の乱れだよ。こういうことは、たまに起こるものなんだが、あんたの彼女ほどのことは、珍しいね。
どういうことかというと、今、あんたの彼女は、『生きる』運命にある。でも、その運命が、時空の乱れで変わって、『死ぬ』運命になっているんだ。
どれどれ、もう少し詳しく見てみようか。
えー、そうだね。この辺りで、納涼花火大会が、毎年開催されているだろう?」
「はい、毎年7月らしいですね。今年僕も、美月、今話している彼女と、見に行きました。」
「それだよそれ。それでその彼女、時空の乱れから来る変化によって、2016年7月の、納涼花火大会で、『死ぬ』、そういう運命になっているよ。」
「え、はい?そんなことがあるんですか?」
「ああ、ごく稀にではあるが、こういうことも、なくはない。」
「そんな…。
僕、何とかして彼女を、助けたいです。
…何とかなりませんか?」
「1つだけ、方法があるよ。」
「それはどんな?」
「それは、あんたが2016年にタイムスリップして、彼女に会いに行くことだ。それで、彼女と仲良くなって、納涼花火大会に行くことを、止めるんだ。
今、あたしの見立てでは、彼女がどうやって死ぬのかまでは、分からない。もしかしたら、花火大会に行く途中で事故に巻き込まれるかもしれないし、暴漢に刺されるかもしれない。申し訳ないが、そこまでは分からないんだ。
ただ言えることは、彼女は、急に消えたりすることはなく、現実世界で起こり得るようなことで、死ぬということ、あと、その花火大会に行きさえしなければ、時空の乱れが元に戻って、彼女の運命は、『生きる』に戻るということだ。」
「…分かりました。では、タイムスリップを、お願いしたいです。」
「分かったよ。明日身支度を整えて、もう1度ここに来るんだね。
ちなみに、タイムスリップに都合のいい行き先は…、
2016年、4月だよ。
いいかな?」
「分かりました。」
―そこまで聞いた後、僕はあることを、思い出したんだ。
「ところで占い師さんは、花びら占いは、専門ですか?」
「専門というかなんというかねえ。あれは、偶数、奇数で決まるものだからねえ。」
「そうですね。
ちなみに僕の彼女、美月は、昔、小さい頃は花びら占いが好きだったそうですが、そのことに気づいて、しなくなったそうです。
でも、実は僕、マジックが趣味で、得意なんです。マジックの世界では、偶数を奇数に変えることなんて、できますよね?」
「何が言いたいんだい?」
「今回の件を花びら占いに例えると、
『生きる』、『死ぬ』、『生きる』…、ってなって、『生きる』が奇数、『死ぬ』が偶数です。そして、今花びらは、偶数になっています。」
「…まあ、その通りだねえ。」
「でもこれから僕は、得意なマジックで、美月の運命を、『死ぬ』から、『生きる』に変えてみせます。
美月の偶数、僕が奇数に変えてみせますから!」
「おお、頼もしいねえ。
ようしその意気だ。必ず、あんたの彼女を、助け出すんだよ。
ちなみに、あんたがタイムスリップした目的を、彼女に気づかれたら、失敗だ。そうなれば運命は変えられないよ。あくまで自然に、彼女を花火大会から遠ざけるんだ。2016年4月から7月までの4ヶ月間で、あんたにそれができるかい?」
「…もちろんです!」
「あと、未来から来たことは、あんたの彼女には伝えていいが、未来の情報を不必要に伝えることは、できないよ。あと、2016年、『過去』の他の人間には、あんたが『未来』の人間だってことは、伝えちゃいけないよ。」
「…分かりました。」
―それで、僕は頑張ったんだ。美月の態度や性格から、美月が、簡単に僕の誘いに乗ってくるとは、思えなかった。だから、僕は賭けを思いついたんだ。この賭けなら、美月は乗ってくれるんじゃないか、ってね。
それで案の定、美月は賭けに乗ってくれた。一応、これは計算通りだったんだけど、もしかしたら、失敗していたかもしれない。ここで失敗したら、その時点でアウトで、僕は未来に帰らないといけない。つまり、美月の運命を変えられない。僕はその時、そう思いながらだったから、賭けをする時は、いつになく緊張したよ。でも、成功して、美月とこれからも逢えることになって…、
僕は、泣いちゃった。
美月、あの時、
「何で泣くの?」
って顔、してたよね?それには、こういう理由があったんだ。決して、僕が泣き虫だから、ってことではないよ。
…まあ、泣き虫、ってのもあるかもしれないけどね。
それで、何とか美月と仲良くなって、僕は美月を、例の納涼花火大会から、遠ざけようとした。したんだけど…。
「じゃあ、私、1人でも花火大会に行きますから。」
って美月、言ったよね?正直、あれには参ったよ。
『何で美月は、そんなにあの花火大会にこだわるんだろう?』
って思ったんだけど、それにはそんな理由が、あったんだね。
で、僕はその瞬間、決心した。美月は、現実世界にはない方法で、死ぬことはない。なら、花火大会に行っても、僕が美月の側から離れずに、美月を守り通せたら、問題ない。
そうだ、僕が美月を守るんだ。
ってね。
それで僕は美月に、
「絶対に僕から、離れないようにしてくださいね。」
って、言ったんだ。そして、美月を守ろうと思ったんだけど…、
途中で、盲腸で倒れちゃった。
僕は病院で目が覚めたら、真っ先に美月のことを心配したよ。それで、先生に、
「すみません、僕と一緒にいた彼女は、大丈夫ですか?」
って、訊いたんだ。すると、
「ああ、彼女なら、ひどく取り乱していましたが、
『虫垂炎です。』
って私が伝えると、安心しておられましたよ。」
「命に別状は?」
「え、彼女、重い病気か何かなんですか?
とりあえず、今日は家に帰ってもらいましたが…。」
「そうですか。ありがとうございます。ところで、花火大会は、どうなりました?」
「ああ、あの納涼花火大会なら、とっくに終わってますが…。彼女、花火大会終了後も、お見舞いに来てくれましたよ。」
「そうか、助かったのか…。
ありがとうございます!」
「は、はあ…。」
先生は、僕の質問にかなり困惑してたみたいだけど、とりあえず、僕は美月の無事を聞けて、ホッとしたよ。まあ、結果的に、僕が倒れて、美月は途中で花火大会を抜けることになったのが、よかったのかもね。そう思うと、盲腸に感謝だね。
だから、美月が聞いたウワサ、あながち間違ってはいないんだ。
「未来から来た人は、周りの人間の生死に、関わっている。」
「納涼花火大会で、何かが起こる。」
っていうのが正しいかな?
ウワサはどこかで、間違って広まったみたいだね。―
美月はそこまで悠馬の話を聞き、涙が止まらなくなった。
「ありがとう、悠馬。私のために、そこまでしてくれて…。本当に、ありがとう。」
「いいよ。大好きな美月のためだから。
さあ、これで一旦、お別れだ。実は占い師の先生からは、
『あんたの作戦が成功して、花火大会が終わったら、あんたの彼女には、本当のことを伝えていいよ。そして、それを伝え終わったら、タイムスリップ終了だ。あんたは『過去』の世界から消えて、2017年の『現在』に戻って来るんだ。
いいね?』
って、言われてるんだ。」
「え、そんな…。私、悠馬ともっと、一緒にいたい。悠馬ともっと話をして、いろんな所に行って、もっと、もっと…。」
「大丈夫。2016年、『現在』の時間では、逢うのはこれで最後だけど、2017年以降、『未来』の世界では、僕たちは付き合ってるんだ。だから、いくらでも、どこへでも、僕たちはいけるよ!
だから、それまでの辛抱だ。ただ、今回みたいな、大きな「時空の乱れ」は、ごく稀にしかないみたいだけど、小さな「時空の乱れ」、例えば、美月が院の受験に失敗したり、なんかはあるみたいだから、美月は、一生懸命、勉強をするんだよ。」
「…じゃあ、もしかしたら、私が悠馬に逢えなくなる、ってこともあるのかな?」
「それはないと思うけど…。
でも、これだけは言っておくね。偉そうなことは言えないけど、未来は、与えられるものじゃない。これから、作っていくものなんだ。
そして、その先に、僕たちの『未来』が、待っている。
だから、それまでの間、さよならを言わなきゃいけない。
でも、永遠の別れじゃないから…、
『未来』で、待ってるよ!
あと、一応言っておくけど、僕、本当は、美月みたいな、イタズラ好きな人はタイプじゃないんだ。だから…、
今度は美月が、頑張る番かな?」
美月は、目から溢れ出る涙を拭いながら、こう言った。
「…分かった。
じゃあ今度は私が、悠馬の『嫌い』を『好き』に変える番。
私が、悠馬の偶数を奇数に変える番だね!」
「そうだね。じゃあ僕、先に行くね!
またね!」
そう言い残した悠馬の体が、自然と消えていく。美月は、悠馬が話している間に、自然と握っていた悠馬の手の感触が、少しずつなくなっていくのを、感じた。そして、しばらくした後…。
悠馬は、消えた。
「こういう時、昔の人なら、何て句を、詠むんだろう?」
美月は、悠馬との思い出に浸りながら、そんなことをふと思った。
※ ※ ※ ※
2017年4月。今日は美月の大学院の、
入学式の日だ。美月は、2016年7月の終わりに、悠馬と別れてから、必死で勉強し、大学院の試験に、合格することができた。
そして、美月はその日、ある人を探していた。それは、長身で、イケメンの男性…。
そして、ちょっとナルシストで、キザな青年…。
そして美月は、その青年を見つけた。その青年も、どうやら大学院の入試に合格し、今日は入学式に来ているらしい。
美月はその青年を見た瞬間、泣きそうになったが、初対面で泣かれると、相手もびっくりするだろうと思い、何とか我慢した。
「すみません、隣、いいですか?」
美月はその青年の顔をはっきりと見て、こう言った。
「はじめまして、私、谷山美月、って言います。」
(終)
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