エマガーデンの雇われ管理人 ~異世界での就職先はB級ダンジョンでした~

玄未マオ

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第37話 ダンジョン組合会合へ

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 ポータルはダンジョン組合本部の一室に繋がっている。

 後から来る人のために、到着するとすぐ魔方陣から出たが目の前に上りと下りの階段があって、どちらに行っていいのかわからない。前はリンデンの店のポータルで移動し、そこから歩いて本部まで行ったからね。幸い次の人がすぐにやって来て階段を昇っていったので、そのあとに着いていった。

 よかった、当たりだ。推測した通り、その人物も会合に参加するどこかのダンジョンの責任者だったようで、昇った先は前回会合のあった部屋のある階だった。

 部屋にはいると各人が座るための椅子と長テーブル。こういうところは前世の学校や会社の会議室と変わらない。

 壁には四ヶ月間のダンジョンの売上ランキング。エマガーデンは下から数えた方が早いので、チクチク痛くて居心地が悪い。

 売上の悪いチェーン店の店長ってこんな気持ちだったのだろうか。バイト先の店長の経費節約のための指示を思い出してしまった。細かいとこまでうるさいなと当時は思っていたが、彼も切実だったのだろう。

「元気だった、ミヤ」

 前回参加したとはいえ、親しくなった人もおらず、所在なさげにしていた私にキルシュが声をかけてきた。

「お久しぶりです、その説はどうも……」

 ビジネス的に問題のないあいさつを私はしようとする。

「ねえ、ねえ! あなたのそのシャツ、胸元の刺繍って!」

 私が言い終わるのを待たずにキルシュは歓声を上げた。

「刺繍? 魔蜘蛛の糸と聞いています」

 はい、リンデンの予想通り食いついてきた。

「やっぱり! ねえ、触ってもいい?」

 キルシュがさらに興奮して私に打診する。
 まあ、別にいいけど。女同士だし、そうじゃなきゃセクハラだぞ。

「はあ、やっぱり魔蜘蛛糸だな。滑らかだわ」

 キルシュが大声を上げたので、周囲の目が集まって少々恥ずかしい。彼女の方はそれを気にせず、うっとりしたように刺繍の糸目に沿って指を滑らせる。胸元を触っている女と触らせている女、いったいどういう風に周囲には見えているのだろう。

 リョウタの事件が終わったあと、リンデンはキルシュの見境のないファッションチェックについてこう語っていた。

「彼女が服が好きで好きで仕方がないというのも本当だろうけど、それだけじゃない。補助金が適正に使用されているかチェックしているというのもあるんだな」

 以前ダンジョンの責任者に、職員のための装備の補助金を申請しては、それで装備をそろえず自分の懐に入れたヤツがいたそうだ。装備はダンジョンで働くための生命線、必要な装備をそろえてあげないなら部下を命の危険にさらしていると言ってもいい。もともと冒険者からダンジョンで雇われた者は自前の装備を持っている場合もあるが、それでも装備のために使わないのならば公金を横領していることになる。

 そういえばリョウタの装備がお粗末なのもツッコんでいたね。

 キルシュは抜き打ちでよくダンジョンを視察するらしい。普段から本人の趣味で人の衣装にあれやこれやものを言うので、視察の際も本当の狙いを見破られないというのがリンデンの見立てだ。

 なんにせよ、見かけ通りではなく一筋縄ではいかない人なんだろうな。そうでなきゃあの若さで、組合の役員なんてやってないだろう。

「はあ、いいもん見せてもらったわ、ありがとね」

 キルシュはそう言って立ち去った。

「よう、あんた。エマガーデンの新しい責任者だったけ?」

 キルシュが行った後、別の者が声をかけてきた。体格のいいいかにも冒険者の上に立つリーダーと言いう感じの男性だ。

「シアンは元気か?」

 男は聞いてきた。

「シアンをご存じなのですか?」

 私は逆に質問をする。

「ああ、ヤツは夏の大会の上位入賞の常連だからな」

 えっ、常連?
 私は首を傾げる。

「ああ、俺はこの王都にある闘技場の責任者なんだ。夏にはここら一体の猛者が集まって大武闘大会が開かれる。シアンは毎年上位にくいこんでいるが、今年ももちろん来るよな、なんか聞いてない?」

 知らなかった。
 いやいや、その前に……。

「あの、闘技場って、ここはダンジョン組合ですよね?」

 そこから理解できない。

「そんなこと疑問に思うってもしかして転生者?」

「ええ、そうですけど……」

「そっか、外見的にそんな風に見えなかったが、実は俺も転生者なんだ。ゲーム的には闘技場とダンジョンは微妙に違うわな。でもここじゃ、魔物と戦ってお宝ゲットできる施設はみんな『ダンジョン』のくくりに入れられる。補助金とか色々もらえるみたいだからねじ込んでみたらOKだったんだよ。うちでは生け捕りにした魔物を退治する興行もやってるからな」

 黒髪のガタイのいい男は説明する。顔だちがバタ臭いから、私の方もまさか相手が同じ異世界人とは思わなかった。彼の説明によるとここの世界の『ダンジョン』の定義は前世の日本よりずいぶん幅広いみたいだ。

「あ、もう始まるみたいだ。もっと話したかったけど、また会えるからいいか。おれは沢渡哲也、テツって呼んでくれ」

 闘技場責任者はそう言って私のそばを離れ席につく。私もみなにならって着席する。

 シアンのこと、もうちょっと聞いてみたかったな。

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