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第5話 エメのクレクレ
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「私、図書館に行ってきていいかしら? 刺繍のデザイン画の本も探せばあるかしらね?」
ばあやの様子にバツが悪くなったメルはいったん部屋を離れたくて言った。
「ええ、どうぞ行ってらっしゃいませ。場所はわかりますか? 案内人を呼びましょうね」
ベルを鳴らして呼び出した王宮の案内人にメルを託すと、ばあやは部屋の整理をし始めた。
メルの方は王宮内の図書館で何冊か本を借りて部屋に戻ってきたが、自分が滞在する部屋の前で母と妹が不機嫌そうな顔で立っているのを見つけた。
「どこへ行っていたの?」
エメが口をとがらせながら聞いた。
「図書館よ。時間が余っているから借りてきたの」
「私たちが来るというのに」
「いつ来るのかわからない人をずっと待っていることはできないわ」
「だったら、召使に部屋に通すように言っておけばいいでしょう。この使用人はあなたがいないときに部屋に入れるわけにはいかないって言って、入れてくれなかったのよ!」
エメはばあやを責め立てるように言った。
主人に何も言われていない人間を通すわけにはいかない、と、言うのは召使なら当然で、彼女はむしろちゃんと仕事をしたと言える。
「今日来るのか、明日来るのか、来るとしたら何時ごろなのか、そういうことすら伝えてないで、部屋にいなかったことを責められたり、部屋に通さなかった使用人を責められたりするのってかなり理不尽だわ。そんなわがままが王宮で通ると思っているの?」
メルの反論に母はかっとなったが、他の人の目があるので、いつものようにひっぱたいたり髪を引っ張ったり、罵倒したりすることもできない。
メルは部屋の扉を開け部屋に足を踏み入れた。
まだ、どうぞとも言ってないうちから、母やエメも部屋に入ってきた。
エメは部屋内の調度品のすばらしさに目を見張り、勝手に置いてある花瓶や置時計を触り始めた。
「そもそも、私の部屋に入っては勝手にものを取っていく手癖の悪いエメを、私のいない間に部屋に通せるわけないでしょ」
「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「そうよ、メル。ほかの人が聞いたらどう思うか!」
母とエメが口々にメルの発言をとがめた。
「ほんとのことでしょ。あれちょうだいとかいって、私が断っても無理やり持っていかれたらたまらないわ。ここは王宮で部屋にあるものも全部王室の物よ。いつもあなたは、私の物を勝手に持って行ってはすぐ飽きてポイ。今私が身に着けているのは王宮に置いてあったものをいただいたの。王家の気遣いでいただいたものを気安くあなたにあげるわけにはいかないからね」
そこまで言われてエメはメルの身に着けている衣装の上等さとデザインの良さに気が付いた。
完全な外出着ではなく王宮内をうろつける程度の略装ではあるが、インナーのペチコートはフリルを何十にも重ねたティアードタイプで、前開きのローブはメルの瞳によく合う薄緑でレースがふんだんに使われている。
一目見ただけで上物だということがわかる。
「昨日とは違う服よね。どうしてメルのくせにそんな上等な衣装を身に着けているのよ」
「着替えを持ってきていないと言ったらくださったのよ」
エメは自分たちでもめったに仕立てることのできない高級そうなドレスをメルが身に着けているのが癪に障った。
「不公平だわ、ねえ、お母様!」
またいつもの癖が出てきた、と、メルは思った。
部屋に通さないで正解だった。
もし通していれば勝手にクローゼットの中を開けてドレスを持っていこうとしただろう。
部屋の調度品も危ないところだった。
「そ、そうね……。メル、姉妹なんだからエメにも分けて……」
エメの懇願にこれまたいつもの調子で母が言った。
ばあやの様子にバツが悪くなったメルはいったん部屋を離れたくて言った。
「ええ、どうぞ行ってらっしゃいませ。場所はわかりますか? 案内人を呼びましょうね」
ベルを鳴らして呼び出した王宮の案内人にメルを託すと、ばあやは部屋の整理をし始めた。
メルの方は王宮内の図書館で何冊か本を借りて部屋に戻ってきたが、自分が滞在する部屋の前で母と妹が不機嫌そうな顔で立っているのを見つけた。
「どこへ行っていたの?」
エメが口をとがらせながら聞いた。
「図書館よ。時間が余っているから借りてきたの」
「私たちが来るというのに」
「いつ来るのかわからない人をずっと待っていることはできないわ」
「だったら、召使に部屋に通すように言っておけばいいでしょう。この使用人はあなたがいないときに部屋に入れるわけにはいかないって言って、入れてくれなかったのよ!」
エメはばあやを責め立てるように言った。
主人に何も言われていない人間を通すわけにはいかない、と、言うのは召使なら当然で、彼女はむしろちゃんと仕事をしたと言える。
「今日来るのか、明日来るのか、来るとしたら何時ごろなのか、そういうことすら伝えてないで、部屋にいなかったことを責められたり、部屋に通さなかった使用人を責められたりするのってかなり理不尽だわ。そんなわがままが王宮で通ると思っているの?」
メルの反論に母はかっとなったが、他の人の目があるので、いつものようにひっぱたいたり髪を引っ張ったり、罵倒したりすることもできない。
メルは部屋の扉を開け部屋に足を踏み入れた。
まだ、どうぞとも言ってないうちから、母やエメも部屋に入ってきた。
エメは部屋内の調度品のすばらしさに目を見張り、勝手に置いてある花瓶や置時計を触り始めた。
「そもそも、私の部屋に入っては勝手にものを取っていく手癖の悪いエメを、私のいない間に部屋に通せるわけないでしょ」
「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ!」
「そうよ、メル。ほかの人が聞いたらどう思うか!」
母とエメが口々にメルの発言をとがめた。
「ほんとのことでしょ。あれちょうだいとかいって、私が断っても無理やり持っていかれたらたまらないわ。ここは王宮で部屋にあるものも全部王室の物よ。いつもあなたは、私の物を勝手に持って行ってはすぐ飽きてポイ。今私が身に着けているのは王宮に置いてあったものをいただいたの。王家の気遣いでいただいたものを気安くあなたにあげるわけにはいかないからね」
そこまで言われてエメはメルの身に着けている衣装の上等さとデザインの良さに気が付いた。
完全な外出着ではなく王宮内をうろつける程度の略装ではあるが、インナーのペチコートはフリルを何十にも重ねたティアードタイプで、前開きのローブはメルの瞳によく合う薄緑でレースがふんだんに使われている。
一目見ただけで上物だということがわかる。
「昨日とは違う服よね。どうしてメルのくせにそんな上等な衣装を身に着けているのよ」
「着替えを持ってきていないと言ったらくださったのよ」
エメは自分たちでもめったに仕立てることのできない高級そうなドレスをメルが身に着けているのが癪に障った。
「不公平だわ、ねえ、お母様!」
またいつもの癖が出てきた、と、メルは思った。
部屋に通さないで正解だった。
もし通していれば勝手にクローゼットの中を開けてドレスを持っていこうとしただろう。
部屋の調度品も危ないところだった。
「そ、そうね……。メル、姉妹なんだからエメにも分けて……」
エメの懇願にこれまたいつもの調子で母が言った。
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