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第8話 王妃の逆恨み
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王妃はメルに声をかけるのをすっかり忘れていたことを思い出した。
「これは異なこと? お披露目パーティの主役はベネット様とメル様でございますよね。それなのにそのお二人がいないなんて?」
続けてサモワは王家の人間に疑問をぶつける。
「メルさまの妹君まで同席してらっしゃるのにこれはどういうことなのでしょうか?」
久しぶりに財務大臣の顔色を見ずに豪奢なモノを購入できる機会として、王太子夫妻のお披露目パーティをダシにしていた王家の面々は気まずそうに顔を見合わせた。
「そ、その……、ベネットたちは特別枠なのじゃ……。主役の二人は別に予算を組んでいるからの。そうであろう大臣」
国王が苦し紛れに後ろに控えている財務大臣に声をかけた。
「かしこまりました。では、お二人の装飾品などに関する予算はこれくらいで」
財務大臣は即座に計算して国王に示した。
「おお、それで頼む」
「かしこまりました。それではサモワ殿、ベネット様にお伝えいただけますか?」
財務大臣はサモワに数字を示して伝言を頼んだ。
「まあ、そうでございましたか。これはとんだ失礼を。では、早速ベネット様とメルさまにお伝えいたしますね」
ばあやのサモワは嬉々として部屋を後にした。
邪魔が入ったが丸く収まったようなので、再び王家の面々は宝石選びの話に戻った。
「このピンクダイヤモンドを二つ買うわ」
「いや三つですよ、エメの分も」
「クレール様、うれしい!」
王妃が注文をし、第三王子が訂正をし、エメがそれに歓声を上げた。
「それはなりません」
大臣が待ったをかけた。
「事情が変わりました。王家の装飾品のために使うことのできる全予算から王太子夫妻の予算を引くと、この大きさのピンクダイヤモンド三つは予算オーバーです」
「そんな!」
「そうですな、これよりも二ランクほど質の悪いダイヤモンドを三つか、あるいは品質はそのままでもう少し小さいものを一つだけか。予算からするとそれでいっぱいいっぱいです」
「だったら満足のいく新しい装飾品なんて作れないじゃないの!」
王妃はヒステリックに声を荒げた。
王女やエメも不満げな表情をした。
「予算の数字に関しては先ほど国王陛下が許可を出したではありませんか」
「あなた、だったら取り消して!」
「そんなこと今さらできるわけないだろう……」
王妃の要求に国王はうろたえた。
「ドレスは新調したのだし、アクセサリーは手持ちのものを合わせればいいだろう」
「お気に召すものが作れないのならば、今回の予算はプールして次の機会にという手もあります」
国王と大臣の言葉に先ほどの盛り上がりとは打って変わった白けた雰囲気が広がった。
宝石商の方は、これは早く王太子夫妻の元に行かなきゃな、と、心はすでに別の商売相手の元に向いていた。
サモワの報告を受けたベネット王太子は王妃のところにくぎを刺しに行った。
「メルは現在、私の婚約者という立場なのでまだ王家の人間ではありません。その彼女に女官と同じ仕事をさせていたそうですが、だとしたら、女官たちと同じくメルにも報酬はちゃんと支払っているのでしょうな」
「そんな、家族になるのだし、他人行儀な……」
「私は母上から他人行儀以外の態度を示していただいたことはありませんが?」
ベネットの追及で、王妃はメルをこき使うのをやめざるを得なくなった。
「これは異なこと? お披露目パーティの主役はベネット様とメル様でございますよね。それなのにそのお二人がいないなんて?」
続けてサモワは王家の人間に疑問をぶつける。
「メルさまの妹君まで同席してらっしゃるのにこれはどういうことなのでしょうか?」
久しぶりに財務大臣の顔色を見ずに豪奢なモノを購入できる機会として、王太子夫妻のお披露目パーティをダシにしていた王家の面々は気まずそうに顔を見合わせた。
「そ、その……、ベネットたちは特別枠なのじゃ……。主役の二人は別に予算を組んでいるからの。そうであろう大臣」
国王が苦し紛れに後ろに控えている財務大臣に声をかけた。
「かしこまりました。では、お二人の装飾品などに関する予算はこれくらいで」
財務大臣は即座に計算して国王に示した。
「おお、それで頼む」
「かしこまりました。それではサモワ殿、ベネット様にお伝えいただけますか?」
財務大臣はサモワに数字を示して伝言を頼んだ。
「まあ、そうでございましたか。これはとんだ失礼を。では、早速ベネット様とメルさまにお伝えいたしますね」
ばあやのサモワは嬉々として部屋を後にした。
邪魔が入ったが丸く収まったようなので、再び王家の面々は宝石選びの話に戻った。
「このピンクダイヤモンドを二つ買うわ」
「いや三つですよ、エメの分も」
「クレール様、うれしい!」
王妃が注文をし、第三王子が訂正をし、エメがそれに歓声を上げた。
「それはなりません」
大臣が待ったをかけた。
「事情が変わりました。王家の装飾品のために使うことのできる全予算から王太子夫妻の予算を引くと、この大きさのピンクダイヤモンド三つは予算オーバーです」
「そんな!」
「そうですな、これよりも二ランクほど質の悪いダイヤモンドを三つか、あるいは品質はそのままでもう少し小さいものを一つだけか。予算からするとそれでいっぱいいっぱいです」
「だったら満足のいく新しい装飾品なんて作れないじゃないの!」
王妃はヒステリックに声を荒げた。
王女やエメも不満げな表情をした。
「予算の数字に関しては先ほど国王陛下が許可を出したではありませんか」
「あなた、だったら取り消して!」
「そんなこと今さらできるわけないだろう……」
王妃の要求に国王はうろたえた。
「ドレスは新調したのだし、アクセサリーは手持ちのものを合わせればいいだろう」
「お気に召すものが作れないのならば、今回の予算はプールして次の機会にという手もあります」
国王と大臣の言葉に先ほどの盛り上がりとは打って変わった白けた雰囲気が広がった。
宝石商の方は、これは早く王太子夫妻の元に行かなきゃな、と、心はすでに別の商売相手の元に向いていた。
サモワの報告を受けたベネット王太子は王妃のところにくぎを刺しに行った。
「メルは現在、私の婚約者という立場なのでまだ王家の人間ではありません。その彼女に女官と同じ仕事をさせていたそうですが、だとしたら、女官たちと同じくメルにも報酬はちゃんと支払っているのでしょうな」
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ベネットの追及で、王妃はメルをこき使うのをやめざるを得なくなった。
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