王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ

文字の大きさ
7 / 51

第7話 あざとい王妃

しおりを挟む
「王太子教育といっても、王家の一員として恥ずかしくない教養と作法を身に着けてもらうだけ、難しく考える必要はないわ。仮の王太子との仮の婚姻といっても、お披露目のパーティは開かなきゃならないのだしね」

 翌日、王妃の部屋でメルは言われた。

「それから私の書類仕事も少し手伝ってほしいの。ああ、大丈夫よ。そんなに難しい仕事ではないし、他の女官もやっていることだからね。これらのことをやったから離婚できなくなるってことはないから心配しないで頂戴」

「はい……」

 王妃の屈託ない様子にメルは小さくうなづくしかなかった。

 その日から午前中は家庭教師と王妃による教養や礼儀作法の授業。
 午後は他の女官たちと一緒に書類仕事をメルはこなすようになった。

 メルは王妃の書類仕事を手伝うのに疑問を持たなかったが、実はこれも王妃のあざとい計算でいいように使われていただけだった。

 仕事を手伝う女官たちは王妃に振り分けられた予算の中で雇っている。

 予算を別のことに使いたいのなら、女官を減らして自分で仕事を片付けていけばいい。そこは予算と労力との兼ね合いだが、王妃はメルをタダで使える便利な労働力として利用しようとした。
 
 通り一辺倒の行儀作法などの教育で体裁を整えた後は書類仕事。
 その合間にウエディングドレスの仮縫いや試着もあり、メルはなかなか忙しい日々を過ごしていた。


 四日目の午後、王妃や女官と一緒に書類を片付けていると大臣の一人が部屋に入ってきた。

「恐れ入ります、王妃殿下。宝石商が来ております。お披露目パーティ用の装飾品の相談を王家の皆々様が相談するため、すでに集まっておりますゆえ」

「まあ、そうだったかしら。すぐに行くわ」

 王妃は立ち上がった。

 お披露目パーティ。
 自分にも関係ありそうだが、王妃が声をかけず部屋を出て行ったので、メルは引き続き部屋にとどまった。

 王妃は久しぶりに国内外の要人を招いてのパーティのため新しいドレスやアクセサリーを作れるので浮かれていた。言われた部屋に足を運ぶとすでに、王太子ベネットを除いた子供たちと国王がそろっていた。

 二人の王子の間にはなぜか、王太子妃となるメルの妹のエメが座っている。

「やはりこのピンクダイヤモンドがいいと思いません、お母様」

 マティエ王女がカタログを開いて言った。

 この世界の宝石や美術品などのカタログは、ページを開けるとその色や大きさなど実物そっくりのホログラムが浮かび上がり、確認することができる。

「お目が高いですな。今年は色も大きさも素晴らしいものがいくつか取れましてね」

 宝石商が売り込みをかける。

「そうね、同じ宝石をお揃いでというのもいいわね」

 王妃がつぶやきマティエが歓声を上げる。

「素敵ね、私もあんなのが欲しいわ」

 エメは隣に座っていた第三王子のクレールに声をかけた。

「そうだな、母上やマティエが買うなら僕の予算からも買ってもいいはずだよな」
 
「おい、彼女はまだ王家のメンバーじゃないんだぞ。王太子妃になる方ならともかく……」

「わかってますよ、兄上」

 第二王子のオーブリーは少し堅物だわ、と、エメは思った。

 話が盛り上がってきた矢先、ドアをノックして入ってくる者がいた。

 ベネット王太子の乳母のサモワである。

「失礼、こちらにメルさまが……、おや、いらっしゃらない? おかしいですね。今日はずっと王妃様とご一緒ということなので、お披露目パーティ用の装飾品を購入する集まりに一緒にいらしているとばかり……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...