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第12話 逢魔の森とクローディアの真実(2)

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 一刻ほど進むと、急に開けた場所に出てレンガつくりの建物が立っているのが見えた。

 その建物に近づいていくと、急に空気が変わった。
 理屈ではなくシエラはそう感じた。

「この建物の周辺は結界が張られています。魔物は入ってこれないから安心してください」

 アルベルトがシエラに言った。

 外で数名、アルベルトと同じいでたちをした騎士?が作業をしていて、近づいてくるシエラたちに気づいた。

「あっ、お帰りなさい!」
「おおっ、美人さんだ!」
「ほんとだ、きれい!」

 彼らは口々に声をかけた。

 気さくに好意的な態度を示してもらった経験が、シエラにはほとんどないので少し戸惑った。

 アルベルトが頭部を覆う防具を取ると、深緑色の髪が現れた。

 シエラが目を見張ってそれを見つめているのに気づき、クローディアが説明した。

「我が国の貴族のほとんどはエルフの血を引いている。ちなみに私の長男は紺色の髪をしているよ。私が思うに持ってる魔力が多いと、髪は通常とは違う変わった色になりやすいみたい。エルフは森の一族。だからエルフの血の影響で強い魔力を持っているものは、植物に似た色に髪がなるんじゃないのかな」

「僕の髪は森の中では保護色、と、よく言われますよ。防具をかぶるよりそのままの方が、森に溶け込んで姿を隠せるからいいんじゃないか、とも」

 アルベルトが笑いながら説明した。

 シエラは彼らの話を聞いて、この人たちの中なら自分の変わった髪色も気にせずに済むのかしら、と、思った。

「そろそろ日が暮れるし、中に入って話しましょう。おなかすいたでしょう。食事を用意させますよ。クローディア殿が生まれた国の味に近いように工夫したスープもあります。お口に合うといいんだけど」

 アルベルトが建物の中へとシエラをいざなった。

 クローディアも軽くシエラの背中を押した。

「さて、そちらもいろいろ聞きたいことがあるだろうし、どこから話そうかな?」

 三人がテーブルに着席したのち、クローディアが言った。

 シエラとしても聞きたいことは山ほどあるけど、どこから尋ねたらいいのか、考えあぐねていた。

「じゃあ、とりあえず、私たちが生まれ育った国を含む、森の北にある国々が誤解している逢魔の森の話をしましょうか」
「誤解?」
「ええ、この森は魔物を生み出し、瘴気をまき散らす草を周辺にはやして土地を侵食していく恐ろしい森、それが人々の認識でしょ」
「違うのですか?」

「あなたは、瘴気というものがどうやって生まれるか知ってる?」

 シエラの疑問にクローディアは逆に問い返した。

「魔物が……? いえ、森そのものが……」

 シエラは口ごもりながらも一生懸命考えた答えを言った。

「あのさ、森そのものが瘴気を生み出しているなら、私たちが森に入ったときに口あてもせず平気でいられるのっておかしくない?」

 クローディアの言葉にシエラは、そういえば、と、森に入ってからのことを思い返した。

 瘴気の原から壁の門を抜け、いったん森へはいるとその空気は清浄で、どの場所にいるよりもすがすがしく体が軽くなるのを感じた。

「エルフの一族が教えてくれたことですが、瘴気の元は人間の負の感情だそうです」

 アルベルトが答えを教えてくれた。

「負の感情……」

「怒りや悲しみ、妬みや恨みなど、本人にとっても相手にとっても気持ちの良くない類の思い、それらを集めてこの森は浄化をしてくれているのだと、彼らは教えてくれました」

 アルベルトは説明した。
 
 だったらこの森は人間にとってとてもやさしい森ではないのか。

「森がどんなに浄化しようとも、人の悪しき思いは尽きることなく、その浄化しきれなかった瘴気が森の中にある動植物や人間の落とし物とくっつくと魔物が生まれる。外に漏れだすと瘴気の原が生まれるってエルフの王がおっしゃっておられました」

「じゃあ、人間は恩人ともいえる森のことを、恐ろしがって避けていたの?」

「ええ、とはいえ、あふれ出す瘴気から生まれたものを放置するはいかないから、僕たちは定期的に魔物を狩ります。エルフと協力して、森にいくつもの拠点を作りました。僕たちはあなた方のいた国から森を抜けて反対側にある国から来たのですよ」

 アルベルトの説明にシエラは驚きを隠せなかった。

 逢魔の森の反対側にも人々の住まう国がある。

 そう伝説のように語られてはいたが、実際に森の反対側にたどり着いて帰ってきた人はシエラがいた国にはいなかったのだから。

 
 
 
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