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フラティール公爵の焦り
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「いいかげんにしなさい!」
我が妻ホアナの甲高い声が響き、そのあとにパシッと何かをはたく音が……。
私は唖然呆然となった。
まさか帝国序列第四位の公女の顔を扇で叩くなんて。
「なんてことをするんだ!」
私はすぐさま妻を怒鳴り、公女に謝罪したが、時すでに遅しだ。
この様子を多くの人が目撃していた、このことは帝国中に広まるだろう。
妻の傲岸不遜な物言いはいつものことと軽く考えていた私の失態だ。
私は妻の腕を引き、家臣に帰り支度を命じた。
早く帝都まで帰って、妻の暴挙を取り繕う対策を考えねばならない。
いくら私が、序列第一位のノヴィリエナに対抗する第二位のプレトンシュ寄りといっても、ノヴィリエナににらまれるのはさすがにまずい。
ホアナは急に帰郷を決めたことを不満げだ。
君がやらかしたことが原因だろうが!
帝都に帰った私はノヴィリエナ公爵家とアレンディナ公女あてに謝罪の手紙と贈り物をおくった。
公爵家からは返事がなく、これは許していないという意思表示であろう。
公女からは、妻の暴挙についての言及はなく、贈り物をエストゥードの人々に配ると喜ばれた、と、言うことだけ書かれていた。
私がそうやってホアナの尻拭いをしている最中に、ホアナはホアナで弟のヴァカロ殿に手紙を書いたらしい。
その手紙が公女をなじり謝罪を求める内容で、それをヴァカロ殿が公女に教えた、とか。
おい、なに人の努力を台無しにすることをしてくれるんだよ!
私は頭を抱えた。
帝都の貴族同士、あるいは夫婦の間でもめてはいたが、この時期は領地の収穫時期でもあったので、私は妻を帝都に残して領地に戻った。
妻は、フラティールの領地を田舎臭いと言ってついてきてくれないのだ。
領地の収穫祭を終えて帝都に戻ると、さらに驚愕の知らせが入っていた。
「ついに生意気なアレンディア公女にわが弟が鉄槌を下したみたいですわ!」
嬉々として語る妻ホアナに、何事がといぶかり話を聞いた。
そしてその内容に耳を疑った。
収穫祭のパーティで公女に対し婚約破棄を宣言したという。
おい、ヴァカロ殿は脳の機能に障害でもあるのか?
何を考えてわざわざ衆目集まるパーティ会場でそんなことをする必要がある?
しかし、妻はそのことを嬉しそうに語っている。
弟に捨てられるかもしれないと思った公女の泣きっ面が見てみたかったとまで言うのだ。
「まさかそのことをどこかでしゃべったりしてないだろうな?」
「もちろん、お茶会で言いふらしましたわ。面目をつぶされた公女が、来年のパーティでどんな顔して参加するのでしょう、ああ、楽しみ。さすがはわが弟、すっきりしましたわ」
「最悪だ……」
「そうですわね、最悪な公女ですわね。見た目と身分が良くても夫となる弟に逆らってばかり、このくらいやらなきゃわからないようですからね」
いやいや、私が『最悪』と言ったのは、起こってしまった事柄と君の振る舞いに対してだ。
そもそも公爵家の者の結婚は、皇帝と五大公爵家の当主、計六名の話し合いで決められる。
結婚によって帝都内の力の均衡が変わるから、好き合っているからとかそんな単純なことで決められはしないのだ。
今年は我が妹のマリアンネと序列第四位のオポトニスタ家の令息フェルナンとの結婚がまず議題にあげられた。
貴族には珍しく互いに好き合っているようなので、兄としては思いを遂げさせてあげたかった。
しかし序列第三位のトリアングル家の令息もマリアンネを望んでおり、ここが反対に回るのは確実。
五大公爵家の令嬢は、我が家のマリアンネのほかは、ノヴィリエナ家のアレンディナ嬢とプレトンシュ家のリヴァル嬢しかいない。つまり公爵家の娘は売り手市場なのだ。
最終的には多数決で決められるが、当事者たるうちとオポトニスタ家は除外される。
残り四名、そのうち二名が賛成してくれればいいのだが、トリアングルは反対だろうし、他の人間をどうやって説得しようかと悩んでいたところ、プレトンシュの当主がある提案をしてきたのだ。
「私が賛成に回ります。皇帝陛下も説き伏せますのでご心配なさいますな。その代わりと言っては何ですが……」
そのかわりにアレンディナ公女の属領の王族への降嫁に賛成してほしいということだった。
プレトンシュ公爵の思惑はわかった。
皇太子の結婚相手に自分の娘のリヴァルを押したいがそのためにはアレンディナが邪魔なのだ。
「お相手は、そうですな。貴殿の義弟に当たるヴァカロ殿はたいそうな美男子ですな。帝国傘下に入ったばかりの地域を治める家ですし、重要な地域でもあります」
私の心はきまった。
妹マリアンネの結婚が決まってからまもなく、プレトンシュ公爵がアレンディナ嬢とヴァカロ殿の結婚を提案してきた。
もちろん私は賛成に回ったが、まさかヴァカロ殿があれほどの問題児だったとは!
絶対恨まれているだろうな……。
我が妻ホアナの甲高い声が響き、そのあとにパシッと何かをはたく音が……。
私は唖然呆然となった。
まさか帝国序列第四位の公女の顔を扇で叩くなんて。
「なんてことをするんだ!」
私はすぐさま妻を怒鳴り、公女に謝罪したが、時すでに遅しだ。
この様子を多くの人が目撃していた、このことは帝国中に広まるだろう。
妻の傲岸不遜な物言いはいつものことと軽く考えていた私の失態だ。
私は妻の腕を引き、家臣に帰り支度を命じた。
早く帝都まで帰って、妻の暴挙を取り繕う対策を考えねばならない。
いくら私が、序列第一位のノヴィリエナに対抗する第二位のプレトンシュ寄りといっても、ノヴィリエナににらまれるのはさすがにまずい。
ホアナは急に帰郷を決めたことを不満げだ。
君がやらかしたことが原因だろうが!
帝都に帰った私はノヴィリエナ公爵家とアレンディナ公女あてに謝罪の手紙と贈り物をおくった。
公爵家からは返事がなく、これは許していないという意思表示であろう。
公女からは、妻の暴挙についての言及はなく、贈り物をエストゥードの人々に配ると喜ばれた、と、言うことだけ書かれていた。
私がそうやってホアナの尻拭いをしている最中に、ホアナはホアナで弟のヴァカロ殿に手紙を書いたらしい。
その手紙が公女をなじり謝罪を求める内容で、それをヴァカロ殿が公女に教えた、とか。
おい、なに人の努力を台無しにすることをしてくれるんだよ!
私は頭を抱えた。
帝都の貴族同士、あるいは夫婦の間でもめてはいたが、この時期は領地の収穫時期でもあったので、私は妻を帝都に残して領地に戻った。
妻は、フラティールの領地を田舎臭いと言ってついてきてくれないのだ。
領地の収穫祭を終えて帝都に戻ると、さらに驚愕の知らせが入っていた。
「ついに生意気なアレンディア公女にわが弟が鉄槌を下したみたいですわ!」
嬉々として語る妻ホアナに、何事がといぶかり話を聞いた。
そしてその内容に耳を疑った。
収穫祭のパーティで公女に対し婚約破棄を宣言したという。
おい、ヴァカロ殿は脳の機能に障害でもあるのか?
何を考えてわざわざ衆目集まるパーティ会場でそんなことをする必要がある?
しかし、妻はそのことを嬉しそうに語っている。
弟に捨てられるかもしれないと思った公女の泣きっ面が見てみたかったとまで言うのだ。
「まさかそのことをどこかでしゃべったりしてないだろうな?」
「もちろん、お茶会で言いふらしましたわ。面目をつぶされた公女が、来年のパーティでどんな顔して参加するのでしょう、ああ、楽しみ。さすがはわが弟、すっきりしましたわ」
「最悪だ……」
「そうですわね、最悪な公女ですわね。見た目と身分が良くても夫となる弟に逆らってばかり、このくらいやらなきゃわからないようですからね」
いやいや、私が『最悪』と言ったのは、起こってしまった事柄と君の振る舞いに対してだ。
そもそも公爵家の者の結婚は、皇帝と五大公爵家の当主、計六名の話し合いで決められる。
結婚によって帝都内の力の均衡が変わるから、好き合っているからとかそんな単純なことで決められはしないのだ。
今年は我が妹のマリアンネと序列第四位のオポトニスタ家の令息フェルナンとの結婚がまず議題にあげられた。
貴族には珍しく互いに好き合っているようなので、兄としては思いを遂げさせてあげたかった。
しかし序列第三位のトリアングル家の令息もマリアンネを望んでおり、ここが反対に回るのは確実。
五大公爵家の令嬢は、我が家のマリアンネのほかは、ノヴィリエナ家のアレンディナ嬢とプレトンシュ家のリヴァル嬢しかいない。つまり公爵家の娘は売り手市場なのだ。
最終的には多数決で決められるが、当事者たるうちとオポトニスタ家は除外される。
残り四名、そのうち二名が賛成してくれればいいのだが、トリアングルは反対だろうし、他の人間をどうやって説得しようかと悩んでいたところ、プレトンシュの当主がある提案をしてきたのだ。
「私が賛成に回ります。皇帝陛下も説き伏せますのでご心配なさいますな。その代わりと言っては何ですが……」
そのかわりにアレンディナ公女の属領の王族への降嫁に賛成してほしいということだった。
プレトンシュ公爵の思惑はわかった。
皇太子の結婚相手に自分の娘のリヴァルを押したいがそのためにはアレンディナが邪魔なのだ。
「お相手は、そうですな。貴殿の義弟に当たるヴァカロ殿はたいそうな美男子ですな。帝国傘下に入ったばかりの地域を治める家ですし、重要な地域でもあります」
私の心はきまった。
妹マリアンネの結婚が決まってからまもなく、プレトンシュ公爵がアレンディナ嬢とヴァカロ殿の結婚を提案してきた。
もちろん私は賛成に回ったが、まさかヴァカロ殿があれほどの問題児だったとは!
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