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第1章 山岳国家シュウィツアー

第10話 キレイな理由はいらない

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 ロゼラインのため息に精霊はかける言葉を考えあぐねていた。

「それで、あなたとしてはまずどうしたいのかな?」
 黒猫の方が声をかけた。

 ロゼラインは息を大きく吸いきっぱりと答えた。

「やりたいことは、さっき言ったことと変わらない。真実を白日の下にさらして関係者にしかるべき罰を受けさせる。あと殺害にかかわりのなかったとしても、さっきのゲスな会話に参加していた愚連隊もどきの連中にもしっかりお灸をすえてやりたいと思っているわ」
 しかるべき罰とは反逆罪なのだから死刑の可能性もあるが、ロゼラインはもはや躊躇しなかった。

 彼らの愛を切望しても得られずロゼラインは苦しんだ。

 そして図らずも殺害にかかわった者たちは、彼女の死をいたんだり、ふるまいを後悔したりするでもなく、何事もなかったようにのうのうと生きようとしている。そのことへの返礼として法に照らした裁きを望んでいるだけなのだが、それでも人はそれを「復讐」とよぶのだろうか?

 いや、法に照らしたという大義名分があったとしても、復讐心があることをこの猫は見抜いてああいう言い方をしたのかもしれない。

「動機が『復讐』でもいいのよ。理不尽に人を踏みつけにするバカにお灸をすえることにきれいな理由はいらない。あなたが目的を達するまで私がそばについてサポートするわね」
 黒猫は励ました。

「ありがとう、えっと、名前は?」
 ロゼラインは黒猫の名前を尋ねた。
「名前……、好きに呼んでいいわよ」
「じゃあ、クロで」
「クロ!まったく人間っていうのはどうして私の毛並みの色から名前を付けるやつが多いのかしら?」
「気に入らなかった?」
「別に気に入らないなんて言ってないし……、好きに呼んでいいって言ったんだしね……」
 クロと呼ばれた猫は遠い目をした。
 彼女がまだ肉体を持っていた時に、彼女を『ノワール』(フランス語で黒という意味)と呼んだ人の声を思い出していた。

「では私からもサポートとして魔力を注入しておこう」
 精霊の方もロゼラインにはよくわからぬが何らかの力のサポートを与えた。
「……?」
「霊体である君が視えるのは霊視など特殊な力を持ったものに限られる。それの幅を広げたのだ。君の死を心から惜しんでいる者、そういう人間たちには君の姿が視えるようにした。話もできるはずだから、そういう者たちの力も借りて目的を達成するが良い」
 精霊は説明した。

 自分の死を本気で惜しんでくれる者、本当にいるのだろうか?
 力を与えた、というけど、ハードモードなのに変わりはないような気がする。

「ありがとう」
 しかし、ロゼラインはとりあえず礼を言った、そして、
「ええっと、あなたの名前は?」
 正しく報いを与える者では呼びにくい、そもそもロゼラインが受けた仕打ちはとても『正しい報い』とはいえず、それは本人、いや本精霊も認めている。
「名前?わたしの方もな……」
 精霊もクロと同じく口ごもった。
「サタ坊! 仲間の精霊たちはそう呼んでいるわ!」
 クロが教えてくれた。
「サタ坊?」
 ロゼラインは吹き出した。
「おいこら! なんでよりによってその呼び名なんだ! ユピテルでも、エリーニュでもいろいろあるだろ、そもそもサタ坊というのもサタージュが元名だ!」
 『正しい報い』の精霊が文句を言った。
「いいじゃん、仲間内ではそれが一番よく呼ばれてるんだし!」
 クロはからかうように言った。ロゼラインは笑いをこらえている。
「サタ坊ですね。ちゃんと覚えました」
 ロゼラインはことのほか柔らかく言った。
「いや、ちょっと……」
 名前の件でサタージュがまだもごもご言っていたが、クロはすでに気持ちを切り替えロゼラインに声をかけた。
「それじゃあ、行きましょう。まずどこに向かいましょうか?」
 
 ロゼラインはしばらく思案した。そして決めた。
「まずはアイリスの様子を見に行きましょう。彼女、思いつめてなければいいけど……」
 
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