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第2章 精霊たちの世界
第51話 猫と人間と精霊と
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クロは人間たちに裏切られたなど露とも思わず、自分に気づいてくれる人間の姿をした精霊たちについていったのか?
夢から覚めたロゼラインは考えた。
肉体を失った魂が行くべきところに行かず、何かしら活動しているとそれだけ消耗するらしい。
彼女の毒殺事件の片がついたあと、しばらく何も考えず休むようにと言われた。
そして、クロとともに精霊の御所の奥宮で横になっているうちに寝落ちした。
幽霊でも睡眠がとれるんだ、と、感慨にふけりながら、ロゼラインの脚を枕にしてまだ眠っているクロを起こさないようにそっと上体を起こした。
夢の中の精霊たちの会話をロゼラインはもう一度思い出してみた。
「無実の人間への異端審問、猫などの動物もそのとばっちりを受けている。僕じゃなくてこれは君の管轄だよ、サタ坊。このような行いを繰り返す人間たちにははてさて一体どのような報いが正しいのかね」
「サタージュだ。報いだが私が手を下すまでもない。彼らは自らの経済活動においての重要な友を手放したのだから受けていた恩恵はなくなり、それによる『不利益』も直ちに受けることになるだろう。またこんなバカげた思考が広がっている大陸全体もいずれ…」
「いずれ?」
「猫たちが退治していたネズミは数多くの病原体も媒介する。つまり病気のもとを運んでいる。それを排除し人の役に立っている友を貶め残酷な死を与えた大陸には、いずれ残酷な死の光景が広がるだろう」
ヨーロッパで猛威を振るい人口の三分の一がそれでなくなったと言われるペストは、たしかネズミなどのげっ歯類が媒介する病気だった。
おそらくそれを言っているのかな?
「私たちはこの世界も見守っているけどできることは少ないな。いや、それは『魔力』などを司る私だけか。正しさも司る君の概念は神格化され様々な名で呼ばれるからね、サタ坊」
「だから、サタージュだって!」
ロゼラインが生きた王都に似た中世ヨーロッパ風の街並みにたたずむ二人。
しかし彼らのいるところはロゼラインたちが存在していた世界ではなく、その一つ前の北山美華が存在していた「地球」の過去の時間のとある町だという事がロゼラインにはわかった。
なぜなら北山美華がいた世界は、ロゼラインがいた世界よりモノの影が濃い感じがするのだ。それゆえ、時間や国は異なれど、クロがかつて生きそして殺された世界が北山美華と同じ次元の世界であることが理解できた。
会話の主の一人サタージュはロゼラインの毒殺事件の解決に力を貸してくれた。
しかしそれは一人の女性が理不尽に命を奪われたことへの憐みではない、と、クロの夢をみて再認識した。
私でも抑えの利かなかったあの腐れ王太子にこのまま王位を継がせれば、その被害は国中に広がり、彼が司る『正しき報い』にも支障をきたす。
私が殺された事件の解決ははっきり言ってついでだ。
クロの件でもそうだよね。
彼らは人間の蛮行がいずれきっちり人間たちの身に降りかかってくることを話していたけど、大好きだった人間に裏切られ捨てられたクロの気持ちには頓着しなかった。
まあ、そういう存在なんだろうけどね。
クロは私と違って、あの人間のことも他の人間のことも恨んでないのかな?
いまだに大好きなのかな?
クロの思いは自分のように、婚約者なのだからと「好き」になることを努力した人工物と違って自然で純粋だった。
痛ましいと思うのすら失礼かもしれない。
そもそも自分があの人間と同じ立場にいれば、どれほど猫を大事にしていても彼と同じ選択をしないとはいいきれない。人間同士の関係やこれからの生活もろもろの事情を考えれば、それらを無視して小動物の命を選択することはとてつもなく難しい。
自分にも誰にもクロを憐れむ資格も、あの街の人間をさばく資格もありはしないのだ。
夢から覚めたロゼラインは考えた。
肉体を失った魂が行くべきところに行かず、何かしら活動しているとそれだけ消耗するらしい。
彼女の毒殺事件の片がついたあと、しばらく何も考えず休むようにと言われた。
そして、クロとともに精霊の御所の奥宮で横になっているうちに寝落ちした。
幽霊でも睡眠がとれるんだ、と、感慨にふけりながら、ロゼラインの脚を枕にしてまだ眠っているクロを起こさないようにそっと上体を起こした。
夢の中の精霊たちの会話をロゼラインはもう一度思い出してみた。
「無実の人間への異端審問、猫などの動物もそのとばっちりを受けている。僕じゃなくてこれは君の管轄だよ、サタ坊。このような行いを繰り返す人間たちにははてさて一体どのような報いが正しいのかね」
「サタージュだ。報いだが私が手を下すまでもない。彼らは自らの経済活動においての重要な友を手放したのだから受けていた恩恵はなくなり、それによる『不利益』も直ちに受けることになるだろう。またこんなバカげた思考が広がっている大陸全体もいずれ…」
「いずれ?」
「猫たちが退治していたネズミは数多くの病原体も媒介する。つまり病気のもとを運んでいる。それを排除し人の役に立っている友を貶め残酷な死を与えた大陸には、いずれ残酷な死の光景が広がるだろう」
ヨーロッパで猛威を振るい人口の三分の一がそれでなくなったと言われるペストは、たしかネズミなどのげっ歯類が媒介する病気だった。
おそらくそれを言っているのかな?
「私たちはこの世界も見守っているけどできることは少ないな。いや、それは『魔力』などを司る私だけか。正しさも司る君の概念は神格化され様々な名で呼ばれるからね、サタ坊」
「だから、サタージュだって!」
ロゼラインが生きた王都に似た中世ヨーロッパ風の街並みにたたずむ二人。
しかし彼らのいるところはロゼラインたちが存在していた世界ではなく、その一つ前の北山美華が存在していた「地球」の過去の時間のとある町だという事がロゼラインにはわかった。
なぜなら北山美華がいた世界は、ロゼラインがいた世界よりモノの影が濃い感じがするのだ。それゆえ、時間や国は異なれど、クロがかつて生きそして殺された世界が北山美華と同じ次元の世界であることが理解できた。
会話の主の一人サタージュはロゼラインの毒殺事件の解決に力を貸してくれた。
しかしそれは一人の女性が理不尽に命を奪われたことへの憐みではない、と、クロの夢をみて再認識した。
私でも抑えの利かなかったあの腐れ王太子にこのまま王位を継がせれば、その被害は国中に広がり、彼が司る『正しき報い』にも支障をきたす。
私が殺された事件の解決ははっきり言ってついでだ。
クロの件でもそうだよね。
彼らは人間の蛮行がいずれきっちり人間たちの身に降りかかってくることを話していたけど、大好きだった人間に裏切られ捨てられたクロの気持ちには頓着しなかった。
まあ、そういう存在なんだろうけどね。
クロは私と違って、あの人間のことも他の人間のことも恨んでないのかな?
いまだに大好きなのかな?
クロの思いは自分のように、婚約者なのだからと「好き」になることを努力した人工物と違って自然で純粋だった。
痛ましいと思うのすら失礼かもしれない。
そもそも自分があの人間と同じ立場にいれば、どれほど猫を大事にしていても彼と同じ選択をしないとはいいきれない。人間同士の関係やこれからの生活もろもろの事情を考えれば、それらを無視して小動物の命を選択することはとてつもなく難しい。
自分にも誰にもクロを憐れむ資格も、あの街の人間をさばく資格もありはしないのだ。
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