55 / 120
第2章 精霊たちの世界
第55話 ひとのこころは操作できない
しおりを挟む
「あなたがた精霊って人の感情も操作できるの? だってそうでしょう『溺愛』だか『熱愛』だか知らないけど、そんなものを確約できるなんて」
ロゼラインは尋ねた。
「ブルブルブル、まさか、それは魔法でも禁忌の部類に入るからね」
精霊ネイレスはかぶりを振りながら答えた。
「そうでしょうね」
ロゼラインはかつて、彼女に冷淡な家族や婚約者に対しても、頑張ればいつか自分をわかってくれる、愛してくれる、という期待にすがって生きてきた。
しかし他人の感情というものは頑張れば得られる御褒美ではない。
感情はあくまでその人自身のもので、自分がこれだけやったのだからと期待しても、望む通りの気持ちを相手が抱いてくれるとは限らない。
誰しも自分にとって重要な他者(家族、友人、あるいは恋人)から望み通りの愛に満ちた反応が返ってくるのを切望するが、相手から奪う事しか考えない愛する能力の乏しいものにそれを期待し努力するのは、穴の開いた桶に水を注ぎ入れるに等しい行為である。
ロゼラインは自らの命をもってそれをつくづく思い知った。
にもかかわらず約束された報酬であるかのように保証する精霊ネイレス。
次の人生では、これまでの人生で切望しても得られなかった、自分にとって重要な他者からの愛情を保証する彼に逆に不信感が募った。
仮にネイレスの言う通り、次こそ転生が上手くいって愛に満ちた環境で生きることができたとしても、それはそれで、ロゼラインや美華の人生が踏み台にされたみたいでどうにも納得しかねるのだ。
それを言っちゃあおしまいよって感じなんだけれどね。
終わってしまった美華やロゼラインの人生に恨みがましくこだわったって実があるわけじゃない。
そう理性ではわかっているが、感情の方がついていかないのだ。
「んにゃ~あ、うるさいわよ。ロゼラインを勝手に連れて行っちゃだめだからね……」
それまでロゼラインの足元で丸まって眠っていたクロがひとしきり伸びをしながらうなると、また体を丸めて寝てしまった。
「「「寝言……?」」」
その様子を見て精霊二人とロゼラインはつぶやいた。
「はあ、この話は終わりじゃ。気持ちの整理がつくには時間がかかるだろうし、今すぐに決めねばならぬことでもなかろう」
精霊王ティナが手を振って話を打ち切った。
「しかし、フェリ様。いつまでも猶予があるわけじゃないのですよ」
サタージュはティナに耳打ちし警告した。
わかった、わかった、と、ティナはいなした。
それからしばらくの間、ロゼラインは精霊王の御所と言われる地の周辺を散策したり、時々精霊王ティナに連れられて様々な場所を見学した。
精霊王とその配下の四柱の精霊たちは、ロゼラインのいた世界だけでなく、北山美華のいた『地球』やそのほかもろもろの異なる次元の世界に関わっていた。それぞれ違った法則で動いている各世界でも人間のやることにはさほど違いがないからだろう、と、精霊王は言った。
精霊王ティナはおしゃれが好きで、その時々の気分でロゼラインが来ていたようなドレスや、十二単、あるいは世界各地の巫女風のいでたち、さらには現代風のジーンズやミニスカートを着てみることもあった。
姿かたちも、時に立派な鹿の角が生えていたり、ウサギやキツネの耳(ロゼラインにはそう見える)がついていたり、脚も人間と同じ二本足だけでなく、蹄のある動物の四つ足やや魚のしっぽなど自在に変えられ、結局本体はどのような姿なのかさっぱりわからない。変わらないのは虹色に輝く髪と整った顔立ちだけである。
ロゼラインが一番驚き印象に残ったのは、フェリによって現代日本のとある神社に連れて行かれた時だ。日本の神社の中には精霊王の御所と繋がっているところがあり、閉ざされた本殿から参拝する人々を見ることができるのだった。
ロゼラインは尋ねた。
「ブルブルブル、まさか、それは魔法でも禁忌の部類に入るからね」
精霊ネイレスはかぶりを振りながら答えた。
「そうでしょうね」
ロゼラインはかつて、彼女に冷淡な家族や婚約者に対しても、頑張ればいつか自分をわかってくれる、愛してくれる、という期待にすがって生きてきた。
しかし他人の感情というものは頑張れば得られる御褒美ではない。
感情はあくまでその人自身のもので、自分がこれだけやったのだからと期待しても、望む通りの気持ちを相手が抱いてくれるとは限らない。
誰しも自分にとって重要な他者(家族、友人、あるいは恋人)から望み通りの愛に満ちた反応が返ってくるのを切望するが、相手から奪う事しか考えない愛する能力の乏しいものにそれを期待し努力するのは、穴の開いた桶に水を注ぎ入れるに等しい行為である。
ロゼラインは自らの命をもってそれをつくづく思い知った。
にもかかわらず約束された報酬であるかのように保証する精霊ネイレス。
次の人生では、これまでの人生で切望しても得られなかった、自分にとって重要な他者からの愛情を保証する彼に逆に不信感が募った。
仮にネイレスの言う通り、次こそ転生が上手くいって愛に満ちた環境で生きることができたとしても、それはそれで、ロゼラインや美華の人生が踏み台にされたみたいでどうにも納得しかねるのだ。
それを言っちゃあおしまいよって感じなんだけれどね。
終わってしまった美華やロゼラインの人生に恨みがましくこだわったって実があるわけじゃない。
そう理性ではわかっているが、感情の方がついていかないのだ。
「んにゃ~あ、うるさいわよ。ロゼラインを勝手に連れて行っちゃだめだからね……」
それまでロゼラインの足元で丸まって眠っていたクロがひとしきり伸びをしながらうなると、また体を丸めて寝てしまった。
「「「寝言……?」」」
その様子を見て精霊二人とロゼラインはつぶやいた。
「はあ、この話は終わりじゃ。気持ちの整理がつくには時間がかかるだろうし、今すぐに決めねばならぬことでもなかろう」
精霊王ティナが手を振って話を打ち切った。
「しかし、フェリ様。いつまでも猶予があるわけじゃないのですよ」
サタージュはティナに耳打ちし警告した。
わかった、わかった、と、ティナはいなした。
それからしばらくの間、ロゼラインは精霊王の御所と言われる地の周辺を散策したり、時々精霊王ティナに連れられて様々な場所を見学した。
精霊王とその配下の四柱の精霊たちは、ロゼラインのいた世界だけでなく、北山美華のいた『地球』やそのほかもろもろの異なる次元の世界に関わっていた。それぞれ違った法則で動いている各世界でも人間のやることにはさほど違いがないからだろう、と、精霊王は言った。
精霊王ティナはおしゃれが好きで、その時々の気分でロゼラインが来ていたようなドレスや、十二単、あるいは世界各地の巫女風のいでたち、さらには現代風のジーンズやミニスカートを着てみることもあった。
姿かたちも、時に立派な鹿の角が生えていたり、ウサギやキツネの耳(ロゼラインにはそう見える)がついていたり、脚も人間と同じ二本足だけでなく、蹄のある動物の四つ足やや魚のしっぽなど自在に変えられ、結局本体はどのような姿なのかさっぱりわからない。変わらないのは虹色に輝く髪と整った顔立ちだけである。
ロゼラインが一番驚き印象に残ったのは、フェリによって現代日本のとある神社に連れて行かれた時だ。日本の神社の中には精霊王の御所と繋がっているところがあり、閉ざされた本殿から参拝する人々を見ることができるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる