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第3章 北の大国フェーブル
第70話 王妃ダリア
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乱入してきた二人はなおも言い合いをやめないで衆目を集めている。
「まったくちょっと目を離すと、すぐ突拍子もないことしやがる。ボケるにははやすぎるぜ!」
「馬鹿者、わしは正気じゃ!」
「正気ならなお悪いわ、くそジジイ! いくらこのお嬢様が今とんでもねえ目にお会いになってると言っても、ジジイが結婚申し込んでどうするんだ、だったら俺が申し込んだ方がましだろ! いや、まじで申し込んでもいいかも……」
「クソガキが! お前の方こそ色気づくのが早いわ!」
「じいさんが申し込むよりずっといいだろ! あと五年もすればそこにいるニイさんたちよりずっといい男になる予定なんだからよ」
「予定は未定じゃ!」
何ですか、この凸凹コンビは⁈
会場にいた者たちと同じくサフィニアも唖然とした。
一番狼狽しているのは、最初に求婚したノルドベルクの貴公子だろう。
せっかく、絵にかいたようなヒーローの如く、窮地に陥っていたレディを助けようとしたところ、こんな茶々入れられては……。
ヴィオレッタも言葉なく呆然としている。
どうするの?
このハチャメチャな状況?
だれもがそう思っていた矢先、今度は女性の甲高い声が会場に響いた。
「そこまでです!」
ナーレン王太子と同じ金茶色の髪にに緑色の瞳、頬骨が出ていて少しきつい感じがする美熟女が、同じような顔立ちの中年男性とともに会場に姿を現して言った。
王太子の母親であり、この国の王妃ダリアである。
傍にいる男は彼女の実兄でこの国の宰相のリスティッヒ侯爵である。
「みなさま、余興はお楽しみいただけましたでしょうか?」
表情の険しさとはうらはらな柔らかい口調で会場の人々に語りかけた。
「この寸劇に協力していただいた方々にも感謝申し上げます」
続いて王太子の周りで、婚約破棄宣言からの公爵令嬢への求愛でワチャワチャしていた面々にも笑顔で語りかけた。
「お待ちください、母上、私は……」
王太子が母親のもとに駆け寄り説明しようとしたが、
「お黙りなさい! 国王陛下が臥せっている今、その後継として建国行事を取り仕切って能力を示しなさいと言っていたのに、何ですか、この騒動は!」
「いや、その……、それは、彼女がせっつくから……」
息子の言い訳に王妃は盛大にため息をついた。
一般の来賓たちは王妃の鶴の一声に、なんだ芝居だったのか、と、納得した。
王太子と愛人、彼の婚約者の公爵令嬢と令嬢に突然求婚した隣国の公爵令息だけではそんな風にはいかなかっただろうが、さらに乱入してきた老人と子供のコントのようなやり取りがあったので、それが納得しやすい空気になったのだ。
「それにしても、かつて婚約破棄騒動で公爵令嬢が命を落としたことのあるシュウィツアの王族の方が『芝居』に参加とは、ずいぶんシャレの利いた出し物でしたな」
どこからか昔の出来事を知っている年配者の皮肉る声もちらほら聞こえてはいたが……。
その後、パーティは例年通りの流れで滞りなく進み日付が変わる少し前にお開きとなった。
ただ、王太子の婚約破棄宣言に絡んでいた面々は、自宅や宿泊先への帰還を許されず、王宮内にとどめ置かれた。もちろん賓客として手厚く遇されてはいたが。
そして翌日、この騒動の落としどころを探るために王宮内の一室に招集されることとなった。
「まったくちょっと目を離すと、すぐ突拍子もないことしやがる。ボケるにははやすぎるぜ!」
「馬鹿者、わしは正気じゃ!」
「正気ならなお悪いわ、くそジジイ! いくらこのお嬢様が今とんでもねえ目にお会いになってると言っても、ジジイが結婚申し込んでどうするんだ、だったら俺が申し込んだ方がましだろ! いや、まじで申し込んでもいいかも……」
「クソガキが! お前の方こそ色気づくのが早いわ!」
「じいさんが申し込むよりずっといいだろ! あと五年もすればそこにいるニイさんたちよりずっといい男になる予定なんだからよ」
「予定は未定じゃ!」
何ですか、この凸凹コンビは⁈
会場にいた者たちと同じくサフィニアも唖然とした。
一番狼狽しているのは、最初に求婚したノルドベルクの貴公子だろう。
せっかく、絵にかいたようなヒーローの如く、窮地に陥っていたレディを助けようとしたところ、こんな茶々入れられては……。
ヴィオレッタも言葉なく呆然としている。
どうするの?
このハチャメチャな状況?
だれもがそう思っていた矢先、今度は女性の甲高い声が会場に響いた。
「そこまでです!」
ナーレン王太子と同じ金茶色の髪にに緑色の瞳、頬骨が出ていて少しきつい感じがする美熟女が、同じような顔立ちの中年男性とともに会場に姿を現して言った。
王太子の母親であり、この国の王妃ダリアである。
傍にいる男は彼女の実兄でこの国の宰相のリスティッヒ侯爵である。
「みなさま、余興はお楽しみいただけましたでしょうか?」
表情の険しさとはうらはらな柔らかい口調で会場の人々に語りかけた。
「この寸劇に協力していただいた方々にも感謝申し上げます」
続いて王太子の周りで、婚約破棄宣言からの公爵令嬢への求愛でワチャワチャしていた面々にも笑顔で語りかけた。
「お待ちください、母上、私は……」
王太子が母親のもとに駆け寄り説明しようとしたが、
「お黙りなさい! 国王陛下が臥せっている今、その後継として建国行事を取り仕切って能力を示しなさいと言っていたのに、何ですか、この騒動は!」
「いや、その……、それは、彼女がせっつくから……」
息子の言い訳に王妃は盛大にため息をついた。
一般の来賓たちは王妃の鶴の一声に、なんだ芝居だったのか、と、納得した。
王太子と愛人、彼の婚約者の公爵令嬢と令嬢に突然求婚した隣国の公爵令息だけではそんな風にはいかなかっただろうが、さらに乱入してきた老人と子供のコントのようなやり取りがあったので、それが納得しやすい空気になったのだ。
「それにしても、かつて婚約破棄騒動で公爵令嬢が命を落としたことのあるシュウィツアの王族の方が『芝居』に参加とは、ずいぶんシャレの利いた出し物でしたな」
どこからか昔の出来事を知っている年配者の皮肉る声もちらほら聞こえてはいたが……。
その後、パーティは例年通りの流れで滞りなく進み日付が変わる少し前にお開きとなった。
ただ、王太子の婚約破棄宣言に絡んでいた面々は、自宅や宿泊先への帰還を許されず、王宮内にとどめ置かれた。もちろん賓客として手厚く遇されてはいたが。
そして翌日、この騒動の落としどころを探るために王宮内の一室に招集されることとなった。
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