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第3章 北の大国フェーブル
第77話 夜の約束
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「どうとはどういう意味ですか?」
あいまいなようでいて単刀直入な質問にユーベルは動揺した。
「今回の決着ですべてがうまく運ぶのか、と、言う意味じゃ」
老魔導士が付け加えた。
「ヴィオレッタ嬢が決めたことですからね。ただ、彼女がそれで幸せになれるかどうかというといささか不安な面があります。ナーレン王太子は自分の行いを何一つ反省していないようにも見受けられましたし……」
彼女が幸せになるというなら、もともと王太子と婚約関係にあったのだし、自分に出る幕はないけど……、と、言いたいところをユーベルは言葉を押し戻していた。
「それだよ、それ! ヴィオレッタ嬢の妹も婚約継続と聞いてギャンギャン騒ぎまくってたんだよな。ダメンズがどうのとか言って……」
ユーベルの言葉を聞いてヴォルフ少年が食いついた。
「ダメ……ン……?」
ユーベルが首をかしげる。
「ダメンズ。ダメな男が好きな女のことを言うらしい。自分に自信のない性格の女がなりやすいとかどうの、ぶつぶつ言ってたんだよな」
「彼女の妹と一緒にいたのか」
「ああ、外からだいたいの話は聞こえていたからな」
「えっ? ああいう部屋は外に声が漏れないように壁も硝子もかなりぶ厚いものを……?」
「ああ、でも猫が魔法で聞こえるようにしてくれたからよ」
「猫……!」
だんだんと現実離れしてきた少年の話にユーベルは引き気味となった。
「公子よ、わしらは精神の力で現実にはあり得ない事象を引き起こす魔導士じゃぞ。起こりえないことも起こりえるのじゃと理解していただきたい」
老魔導士が少年を擁護した。
「まあ、猫の話は置いておいて……、このまま順当にあのバカ……、いや、王太子が王位についたら国そのものが傾くの」
「国民にとっても迷惑な話さ」
ウルマノフ老魔導士とヴォルフ少年が続けて語った。
「そういう政治的な話に僕が関わるのは、下手をしたら国際問題になるので……」
話を打ち切って、ユーベルは二人から離れようとした。
「おお、そうか。ならば別の切り口から行こう。国民以外にいの一番に不幸になってしまうのは誰じゃ?」
「まずまちがいなくあのお嬢様だよな。ヴィオレッタ・ブラウシュテルン嬢」
再びウルマノフとヴォルフが語った。
「ここは何とか令嬢が幸せになれる道筋をつけてやるのが男というものじゃ。ふられたからどうのと言っているようでは小さい小さい。わしややるぞ!」
「ジイさん、その観点からモノ言うのいいかげんやめろや」
ウルマノフの言葉にヴォルフがシラッっとした感じで答えた。
「そなたもそう思うじゃろ、のう、公子よ」
なんか、これ、面倒なことに巻き込まれるヤツだ、と、ユーベルは思った。
彼の躊躇にはお構いなしに老魔導士は続けた。
「彼女のためになる第一歩としてな、ちょっと協力してもらいたいことがあるんじゃよ。お前さん、夜は空いてるかの?」
ウルマノフはユーベル公子の予定を聞いてきた。
「えっ、夜は今日も明日も予定がつまっておりまして、外交の一環として招待されたパーティーに出なければいけませんからね」
「深夜でも構わないんじゃがの、時間の取れる日はあるか?」
「明日なら……、それほど遅くはならないでしょうから、その後なら……、でも、深夜……?」
「おおそうか! 不安なら従者や護衛を何名か連れてきてくれてもええぞ。人出は多い方が助かる。ああ、でも口の堅いやつにしてくれよ。パーティは何時ごろ終わるんじゃ」
「かつてシュウィツアに大使として滞在し、今も我が国と強いつながりを持つマルベロ侯爵のパーティに顔を出して挨拶するだけなので、時間はかからないと思いますが確約はできません」
「マルベロ侯爵邸というと……」
「王都の西端の方です」
「そうかそうか、ならその屋敷の近辺に馬車を待機させておく。おお、連絡用の魔石を渡して置くでな。これで終わったら伝えてくれ」
すっかり老魔導士のペースにはまったユーベルはまんまと約束させられてしまった。
あいまいなようでいて単刀直入な質問にユーベルは動揺した。
「今回の決着ですべてがうまく運ぶのか、と、言う意味じゃ」
老魔導士が付け加えた。
「ヴィオレッタ嬢が決めたことですからね。ただ、彼女がそれで幸せになれるかどうかというといささか不安な面があります。ナーレン王太子は自分の行いを何一つ反省していないようにも見受けられましたし……」
彼女が幸せになるというなら、もともと王太子と婚約関係にあったのだし、自分に出る幕はないけど……、と、言いたいところをユーベルは言葉を押し戻していた。
「それだよ、それ! ヴィオレッタ嬢の妹も婚約継続と聞いてギャンギャン騒ぎまくってたんだよな。ダメンズがどうのとか言って……」
ユーベルの言葉を聞いてヴォルフ少年が食いついた。
「ダメ……ン……?」
ユーベルが首をかしげる。
「ダメンズ。ダメな男が好きな女のことを言うらしい。自分に自信のない性格の女がなりやすいとかどうの、ぶつぶつ言ってたんだよな」
「彼女の妹と一緒にいたのか」
「ああ、外からだいたいの話は聞こえていたからな」
「えっ? ああいう部屋は外に声が漏れないように壁も硝子もかなりぶ厚いものを……?」
「ああ、でも猫が魔法で聞こえるようにしてくれたからよ」
「猫……!」
だんだんと現実離れしてきた少年の話にユーベルは引き気味となった。
「公子よ、わしらは精神の力で現実にはあり得ない事象を引き起こす魔導士じゃぞ。起こりえないことも起こりえるのじゃと理解していただきたい」
老魔導士が少年を擁護した。
「まあ、猫の話は置いておいて……、このまま順当にあのバカ……、いや、王太子が王位についたら国そのものが傾くの」
「国民にとっても迷惑な話さ」
ウルマノフ老魔導士とヴォルフ少年が続けて語った。
「そういう政治的な話に僕が関わるのは、下手をしたら国際問題になるので……」
話を打ち切って、ユーベルは二人から離れようとした。
「おお、そうか。ならば別の切り口から行こう。国民以外にいの一番に不幸になってしまうのは誰じゃ?」
「まずまちがいなくあのお嬢様だよな。ヴィオレッタ・ブラウシュテルン嬢」
再びウルマノフとヴォルフが語った。
「ここは何とか令嬢が幸せになれる道筋をつけてやるのが男というものじゃ。ふられたからどうのと言っているようでは小さい小さい。わしややるぞ!」
「ジイさん、その観点からモノ言うのいいかげんやめろや」
ウルマノフの言葉にヴォルフがシラッっとした感じで答えた。
「そなたもそう思うじゃろ、のう、公子よ」
なんか、これ、面倒なことに巻き込まれるヤツだ、と、ユーベルは思った。
彼の躊躇にはお構いなしに老魔導士は続けた。
「彼女のためになる第一歩としてな、ちょっと協力してもらいたいことがあるんじゃよ。お前さん、夜は空いてるかの?」
ウルマノフはユーベル公子の予定を聞いてきた。
「えっ、夜は今日も明日も予定がつまっておりまして、外交の一環として招待されたパーティーに出なければいけませんからね」
「深夜でも構わないんじゃがの、時間の取れる日はあるか?」
「明日なら……、それほど遅くはならないでしょうから、その後なら……、でも、深夜……?」
「おおそうか! 不安なら従者や護衛を何名か連れてきてくれてもええぞ。人出は多い方が助かる。ああ、でも口の堅いやつにしてくれよ。パーティは何時ごろ終わるんじゃ」
「かつてシュウィツアに大使として滞在し、今も我が国と強いつながりを持つマルベロ侯爵のパーティに顔を出して挨拶するだけなので、時間はかからないと思いますが確約はできません」
「マルベロ侯爵邸というと……」
「王都の西端の方です」
「そうかそうか、ならその屋敷の近辺に馬車を待機させておく。おお、連絡用の魔石を渡して置くでな。これで終わったら伝えてくれ」
すっかり老魔導士のペースにはまったユーベルはまんまと約束させられてしまった。
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