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第3章 北の大国フェーブル
第87話 秘薬と捕縛
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「ヴァイマル伯爵、テーリング伯爵、ルイボルト侯爵、それから……、ずいぶんいろんな方々と交流を深めたのね」
王宮の自室でロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢にダリア王妃は話しかけた。
「恐れ入ります」
ロゼッタはカーテシーで王妃の賛辞に応えた。
男爵領で生産された今年の最高級の林檎酒を王妃に献上するために、彼女は部屋に訪れていた。
「これだけの贈り物をいただいたのならお返しをしなければね、ちょっと待っていなさい」
王妃は自ら立ち上がり、鍵付きの戸棚から液体の入った小さな小瓶を取り出した。
その瓶を王妃自らロゼッタの手に握らせた。
通常王侯貴族がものを贈り合う時には、渡すほうも受け取る方も使用人がするのが普通である。それを自らしかも本人に直接渡したという事でその重要性が分かるというものだろう。
「これは?」
瓶を受け取ったロゼッタが尋ねた。
「まだ若いあなたには必要ないでしょうけど、若さと美しさを保つ薬よ」
「まあ!」
「お守りだと思って取っておきなさい。この薬は昔高級娼婦の間で、若さを保つと同時に避妊薬としても使われていて、それは絶大な効果を発揮したの。あまりにも性能が良かったから、貴族の女性の間でももてはやされるようになってね。若い子に入れあげた夫の心を取り戻すために使う女や、競争相手の女が身ごもらないようにするために一服盛ろうとした女など、生々しい話がいくつも伝わっているわ」
「恐ろしい話ですわ……」
「ふふ、そうね、そもそもそれだけの量じゃ、効果が出る前に無くなってしまうでしょうね。だからお守りよ。気に入ったものにしかそれをあげないのだからね」
「かしこまりました。王妃様からの御心の証として大事にいたします」
ロゼッタは瓶を傍に控えていた侍女のゾフィアに渡し、もう一度一礼して王妃の部屋を後にした。
部屋に戻ってのち、ロゼッタに化けているネイレスとゾフィアに化けているロゼは、王妃からもらった小瓶をしげしげと観察した。
「女はこういう薬が好きだねえ。偽薬効果っていうのかな。そういうのにすがってまで若さと美を保ちたがる」
「念のために中の成分の分析はしておいた方がいいと思うわ」
「そうなの?」
「ええ、量が少なすぎてわかりにくいけど、うっすらと魔法の力も感じるのよ」
「へえ、なになに? それで効果があったらロゼも服用してみたいとか? ロゼはさ、もう精霊なんだから年を取る心配はいらないんだからさ」
「茶化さないで! ちょっと気になることがあるのよ」
「何?」
「この国の前王妃は不妊に悩みやがて病で死亡、その後ダリア王妃をはじめ複数の妃が迎えられたけど皆なかなか身ごもれない中、ダリア王妃が男児を産み今の地位に。彼女が地位を確立して以降は他の妃から次々に子が生まれたけど……」
「それにもしかしてこの薬が関わってるって? 確かに本当に効果があれば陰謀に使うことはできるかもしれないけど、ダリア王妃自身はそんなに量を持ってないんじゃ、彼女自身がそれをやるのは難しいんじゃ……」
「クロに頼んで調べてもらうしかないわね」
ロゼは念話で王妃をこっそり見張っているクロの分身体に伝えた。
するとクロからは慌てたような意外な報告が入って来た。
「大変よ、あのウルマノフの老魔導士が捕まえられたの!」
どうして、と、尋ねるロゼにクロは続けた。
「王様がさ、今朝から高熱を出してるんだって。医師団が診ても原因がわからなくって、それでダリア王妃が例の会議の後、ウルマノフ魔導士が国王を診察するって話を思い出してね。尋問をするそうなの!」
クロの説明にロゼとネイレスは顔を見合わせた。
尋問を受けたウルマノフは、
「熱が出ていても心配ない、それが正しい反応じゃからだ」
そう言い張った。
その言葉で国王の身体に何かしたのはウルマノフ魔導士であると判断され、従者のヴォルフ少年とともに王宮の地下牢に収容されることとなった。
王宮の自室でロゼッタ・シーラッハ男爵令嬢にダリア王妃は話しかけた。
「恐れ入ります」
ロゼッタはカーテシーで王妃の賛辞に応えた。
男爵領で生産された今年の最高級の林檎酒を王妃に献上するために、彼女は部屋に訪れていた。
「これだけの贈り物をいただいたのならお返しをしなければね、ちょっと待っていなさい」
王妃は自ら立ち上がり、鍵付きの戸棚から液体の入った小さな小瓶を取り出した。
その瓶を王妃自らロゼッタの手に握らせた。
通常王侯貴族がものを贈り合う時には、渡すほうも受け取る方も使用人がするのが普通である。それを自らしかも本人に直接渡したという事でその重要性が分かるというものだろう。
「これは?」
瓶を受け取ったロゼッタが尋ねた。
「まだ若いあなたには必要ないでしょうけど、若さと美しさを保つ薬よ」
「まあ!」
「お守りだと思って取っておきなさい。この薬は昔高級娼婦の間で、若さを保つと同時に避妊薬としても使われていて、それは絶大な効果を発揮したの。あまりにも性能が良かったから、貴族の女性の間でももてはやされるようになってね。若い子に入れあげた夫の心を取り戻すために使う女や、競争相手の女が身ごもらないようにするために一服盛ろうとした女など、生々しい話がいくつも伝わっているわ」
「恐ろしい話ですわ……」
「ふふ、そうね、そもそもそれだけの量じゃ、効果が出る前に無くなってしまうでしょうね。だからお守りよ。気に入ったものにしかそれをあげないのだからね」
「かしこまりました。王妃様からの御心の証として大事にいたします」
ロゼッタは瓶を傍に控えていた侍女のゾフィアに渡し、もう一度一礼して王妃の部屋を後にした。
部屋に戻ってのち、ロゼッタに化けているネイレスとゾフィアに化けているロゼは、王妃からもらった小瓶をしげしげと観察した。
「女はこういう薬が好きだねえ。偽薬効果っていうのかな。そういうのにすがってまで若さと美を保ちたがる」
「念のために中の成分の分析はしておいた方がいいと思うわ」
「そうなの?」
「ええ、量が少なすぎてわかりにくいけど、うっすらと魔法の力も感じるのよ」
「へえ、なになに? それで効果があったらロゼも服用してみたいとか? ロゼはさ、もう精霊なんだから年を取る心配はいらないんだからさ」
「茶化さないで! ちょっと気になることがあるのよ」
「何?」
「この国の前王妃は不妊に悩みやがて病で死亡、その後ダリア王妃をはじめ複数の妃が迎えられたけど皆なかなか身ごもれない中、ダリア王妃が男児を産み今の地位に。彼女が地位を確立して以降は他の妃から次々に子が生まれたけど……」
「それにもしかしてこの薬が関わってるって? 確かに本当に効果があれば陰謀に使うことはできるかもしれないけど、ダリア王妃自身はそんなに量を持ってないんじゃ、彼女自身がそれをやるのは難しいんじゃ……」
「クロに頼んで調べてもらうしかないわね」
ロゼは念話で王妃をこっそり見張っているクロの分身体に伝えた。
するとクロからは慌てたような意外な報告が入って来た。
「大変よ、あのウルマノフの老魔導士が捕まえられたの!」
どうして、と、尋ねるロゼにクロは続けた。
「王様がさ、今朝から高熱を出してるんだって。医師団が診ても原因がわからなくって、それでダリア王妃が例の会議の後、ウルマノフ魔導士が国王を診察するって話を思い出してね。尋問をするそうなの!」
クロの説明にロゼとネイレスは顔を見合わせた。
尋問を受けたウルマノフは、
「熱が出ていても心配ない、それが正しい反応じゃからだ」
そう言い張った。
その言葉で国王の身体に何かしたのはウルマノフ魔導士であると判断され、従者のヴォルフ少年とともに王宮の地下牢に収容されることとなった。
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