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第3章 北の大国フェーブル
第94話 消えたお嬢様たち
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ヴィオレッタが応接室に顔を出し挨拶を交わした後、二人はそのまま庭園を散策し始めた。
ユーベルの突然の訪問という無礼にヴィオレッタもにこやかに応対していた。
しかし、彼からの意外な情報と進言には顔を曇らせ躊躇した。
「本当のことよ、お姉さま」
衝撃を受け判断をしかねているヴィオレッタの前に、木立の影から妹のサフィニアも顔を出し証言した。
サフィニアがさらに詳しく説明するのを周囲に聞かれたくなかったので、クロが『暗幕』の術で彼らの姿を見えなくした。
木が立ち並ぶ庭園の散策ができるようユーベルが会話を誘導したのも実はそのためだった。
屋敷内の人々は最初、木立の中に見え隠れする彼らの姿を仕事をしながらでも確認できていた。しかし、お茶会の準備でいつも以上に忙殺されている使用人らの目の前から二人の姿が消えても、しばらくは誰も気に留めなかった。
そして数時間経ち日が傾きかけても、客人のユーベルと案内役のヴィオレッタが邸内に戻ってこないことにカルミアはいぶかった。疑念を抱きながら邸内を歩き回り、使用人に質問しまわるが庭を散策し始めて数十分以降の彼らのことを知っている者が全く出てこない。
どういうこと?
じりじりしながらカルミアは使用人たちの報告を待った。
「奥様、わかりました。馬車を管理している者がお嬢様たちを見たとのことです。その者が言うには客人とお嬢様二人が外出のために馬車を借りていったと」
ようやくカルミアのもとに入った報告である。
「『お嬢様二人』ってサフィニアも一緒なの?」
カルミアは報告に来た使用人に尋ねた。
「はい、彼が言うには、お嬢様二人が一緒に来てそうおっしゃるから、てっきりお客人と一緒にどこかに行くんだろうと思い馬車を用意したと」
「どうしてサフィニアまで……? とにかく旦那様にこのことをお知らせして」
公子の対応をヴィオレッタにさせるよう言いつけた後、カルミアは本邸東隣別館の騎士長の執務室を訪れていた。
現在ブラウシュテルン家の騎士長を務めているマース・ヴェルトは、昔カルミアが働いていた娼館の用心棒だった男だ。
ヴィオレッタの祖父と母が立て続けになくなった後、古参の使用人たちをけん制するために婿養子だった父は自分の意のままになる子飼いの部下を必要とした。マースもそれで引き抜かれ、公爵代行となった彼の後押しもありあっという間に公爵家保有の騎士団の長に上りつめた。
今すぐに公子とヴィオレッタの二人を亡き者にできるかというカルミアの問いに彼は渋い顔をした。
「ユーベル・ノルドベルクの剣士としての評判はこのフェーブルにも届いています。少なくとも五人以上の手練れが必要で、その人選を今行っているところでした」
「難しいの?」
「襲撃自体は数で押せば何とかなるかもしれません。ただ、この家には旦那様に忠実な者ばかりではなく、先代や先々代に心を寄せ顔や言葉には出さぬが旦那様のやり口を批判的にみている者もいる。そんな者たちにとって、公爵家唯一の直系ヴィオレッタお嬢様の殺害なんてとても許せることではないし、うっかりそういった者を仲間に引き入れてそこから情報が洩れたら終わりですからね」
「……」
「人選は慎重に行わねばならんので、それがまだ……」
「何名くらい決まっているの?」
「五人。それでぎりぎり、やってやれないことはないかもしれませんが、安全策を考えると後二名くらいほしいところです」
できればやはりお茶会の日にした方が、と、いうマースの申し出を受け入れ、この日の襲撃はあきらめた。そして、本邸に戻ってきてしばらくは使用人に指示を出したり、自身の業務に忙殺されていた。そして日が傾きかけ、二人が邸内に戻ってこないことにようやく気付いたというわけだ。
カルミアは必死に頭を巡らせた。
消えたのがヴィオレッタ一人なら、ノルドベルク公子からなにかそそのかされついていった可能性もあるが、サフィニアも同行したというのが解せない。
もう一つの可能性としては、ヴィオレッタが危機を察知して訪れた公子に助けを求めたというのもあるかもしれないが、そちらの方でもサフィニアがついていったのが同じく解せない。
いずれにしてもしてやられた、と、言えるだろう。
ユーベルの突然の訪問という無礼にヴィオレッタもにこやかに応対していた。
しかし、彼からの意外な情報と進言には顔を曇らせ躊躇した。
「本当のことよ、お姉さま」
衝撃を受け判断をしかねているヴィオレッタの前に、木立の影から妹のサフィニアも顔を出し証言した。
サフィニアがさらに詳しく説明するのを周囲に聞かれたくなかったので、クロが『暗幕』の術で彼らの姿を見えなくした。
木が立ち並ぶ庭園の散策ができるようユーベルが会話を誘導したのも実はそのためだった。
屋敷内の人々は最初、木立の中に見え隠れする彼らの姿を仕事をしながらでも確認できていた。しかし、お茶会の準備でいつも以上に忙殺されている使用人らの目の前から二人の姿が消えても、しばらくは誰も気に留めなかった。
そして数時間経ち日が傾きかけても、客人のユーベルと案内役のヴィオレッタが邸内に戻ってこないことにカルミアはいぶかった。疑念を抱きながら邸内を歩き回り、使用人に質問しまわるが庭を散策し始めて数十分以降の彼らのことを知っている者が全く出てこない。
どういうこと?
じりじりしながらカルミアは使用人たちの報告を待った。
「奥様、わかりました。馬車を管理している者がお嬢様たちを見たとのことです。その者が言うには客人とお嬢様二人が外出のために馬車を借りていったと」
ようやくカルミアのもとに入った報告である。
「『お嬢様二人』ってサフィニアも一緒なの?」
カルミアは報告に来た使用人に尋ねた。
「はい、彼が言うには、お嬢様二人が一緒に来てそうおっしゃるから、てっきりお客人と一緒にどこかに行くんだろうと思い馬車を用意したと」
「どうしてサフィニアまで……? とにかく旦那様にこのことをお知らせして」
公子の対応をヴィオレッタにさせるよう言いつけた後、カルミアは本邸東隣別館の騎士長の執務室を訪れていた。
現在ブラウシュテルン家の騎士長を務めているマース・ヴェルトは、昔カルミアが働いていた娼館の用心棒だった男だ。
ヴィオレッタの祖父と母が立て続けになくなった後、古参の使用人たちをけん制するために婿養子だった父は自分の意のままになる子飼いの部下を必要とした。マースもそれで引き抜かれ、公爵代行となった彼の後押しもありあっという間に公爵家保有の騎士団の長に上りつめた。
今すぐに公子とヴィオレッタの二人を亡き者にできるかというカルミアの問いに彼は渋い顔をした。
「ユーベル・ノルドベルクの剣士としての評判はこのフェーブルにも届いています。少なくとも五人以上の手練れが必要で、その人選を今行っているところでした」
「難しいの?」
「襲撃自体は数で押せば何とかなるかもしれません。ただ、この家には旦那様に忠実な者ばかりではなく、先代や先々代に心を寄せ顔や言葉には出さぬが旦那様のやり口を批判的にみている者もいる。そんな者たちにとって、公爵家唯一の直系ヴィオレッタお嬢様の殺害なんてとても許せることではないし、うっかりそういった者を仲間に引き入れてそこから情報が洩れたら終わりですからね」
「……」
「人選は慎重に行わねばならんので、それがまだ……」
「何名くらい決まっているの?」
「五人。それでぎりぎり、やってやれないことはないかもしれませんが、安全策を考えると後二名くらいほしいところです」
できればやはりお茶会の日にした方が、と、いうマースの申し出を受け入れ、この日の襲撃はあきらめた。そして、本邸に戻ってきてしばらくは使用人に指示を出したり、自身の業務に忙殺されていた。そして日が傾きかけ、二人が邸内に戻ってこないことにようやく気付いたというわけだ。
カルミアは必死に頭を巡らせた。
消えたのがヴィオレッタ一人なら、ノルドベルク公子からなにかそそのかされついていった可能性もあるが、サフィニアも同行したというのが解せない。
もう一つの可能性としては、ヴィオレッタが危機を察知して訪れた公子に助けを求めたというのもあるかもしれないが、そちらの方でもサフィニアがついていったのが同じく解せない。
いずれにしてもしてやられた、と、言えるだろう。
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