あいきゃす!~アイドル男の娘のキャッチ&ストマック

あきらつかさ

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4 JD(女装大学生)生活、はじめます

4-4 女の子の水着、オトコ――特別

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◇◆◇

 蕪井さんとは、FCSの会議室で打ち合わせとなった。
 朋美さんと、朋美さんの車で局まで行く。
 先日見たことは、聞けないでいる。
 昨日――蕪井さんと横須賀で偶然会った次の日は、僕は朋美さんとデートした。
 一緒にヴェルニー公園を歩いて、イオンで買い物とお茶をした半日で、見て回ったのは女の子の服と化粧品。
 朋美さんは横浜まで行ったお土産にとネックレスとイヤリングを僕にくれた。どっちも、朋美さんとおそろいになっていた。
 控えめに見ても「女の子同士遊んだ」ような感じだったけど、朋美さんが「こういう、いいね」と言ったから、あれはデートだ。
 ユキさんとのことは、考えないように――したい。
 この日もらったネックレスをさっそく付けて行くと、朋美さんもそろえてくれた。
 ――打ち合わせそのものは滞りなく進む。
 僕と朋美さんは、蕪井さんの『フック』に所属することになって、今後の活動は蕪井さんのマネジメントが付くようになった。
 といっても『キャッチ&すとまっく』は現状のまま進めることも決まる。そこについては蕪井さんは口を挟まない。
 その合間に、楽曲リリースのためのボイスレッスンや、撮影のためのボディメイクや歯のクリーニング、など予定がグイグイ埋まってゆく。
 到底、昼間にバイトを入れられる余地はなさそうだ。
「浮かない顔してるけど、どうしたの?」
 朋美さんに聞かれる。
 ユキさんとは……なんて言えず、バイトのことを話すと、マユミさんが絡んできた。
「じゃあウチに来なさい。交通費も出してあげるわ」
「いいんですか?」
「樹ちゃんの可愛らしさと料理の腕があれば歓迎よォ」
 細かいことは追々おいおいねとマユミさんがウィンクして、朋美さんに「よかったじゃん」と後ろから抱かれる。
 そして、水着。
 僕と朋美さん、別々に採寸をしたあと、会議室に様々な水着が持ち込まれた。
 全部、女子の水着だった。
 試着してみたり、お互い見せあったりして選ぶ。
 結局、僕はピンク地のホルターネックで、胸周りのフリルと腰からの短めのスカートで、股間をゆるく隠す格好のワンピースにする。
 色とフリルが可愛いと思って、何着か試した中で一番気に入った。
 朋美さんは際どいビキニ。朋美さんの魅力的な身体のラインを魅せつける白とデニム。
 僕がそれを着てみた姿を見て腰を落とすと、朋美さんは目を細めて近付いてきた。
「あらぁ、いっちゃん、どうしたの? 立ちなよ、ポーズ合わせてみよっ」
 股間を隠して――僕も水着のままで、手で覆うしかなかった――立ち上がっても腰が引けたままでいると、朋美さんはにやりと笑う。
「いっちゃんはこんなに女の子してるのにね――」
 引っ張り上げられて、密着してくる。
 タンクトップやキャミでもじゅうぶん露出は激しいのに、なおさらいっそう肌同士が触れ合って、朋美さんの体温が伝わる。
「――ぁっ」
 ワンピの中で、僕の『男』がはちきれそうになる。
「カワイイなぁ」
 朋美さんが僕の耳元で囁く。
「あの、すみません、ちょっとトイレ、っ!」
 僕はこの日着てきていたロングカーデを羽織って会議室を飛び出した。
 男子トイレの個室に入って座り込む。
 ――しばらくすると、ノックされた。
「いっちゃん――樹くん、ここ?」
 朋美さんだった。
「えっ、ここ男子トイレ……」
「マユミさんに見張ってもらってる。
 さっきのはさすがにごめん。アタシもう着替えたから出ておいで」
 薄くドアを開けて見ると、朋美さんは私服に着替えていた。
 それでもヘソ出しビスチェとミニスカートは、じゅうぶんに扇情的だと思うけど。
「朋美、さん……」
 もう少しドアを開けると、朋美さんにガッと全開にされて引っ張り出された。
「シてく?」
 朋美さんはやっぱり、遊んでるギャルなの?
 そう思ったけど、僕を見る朋美さんの瞳は、心配そうだった。

 スケジュールを入れ、衣装を決め、番組の方針も少し話し合い、この日の打ち合わせは昼から始まって夜までかかった。
 帰り道の車の中で、僕は朋美さんに言う。
「サークル、顔出してみようと思うんですけど……」
 朋美さん以外からも、釣りのことを教えてもらえるなら。
 今のように、朋美さんにずっと頼りっ放しなのではなく。
 自分でもできることをして、朋美さんと肩を並べる――は言い過ぎだけど、足を引っ張らないようになりたい。
 考え事のような、どこかぼんやりと前を見つめていた朋美さんは、僕が呼びかけるとびくっと声を上げた。
 車がゆらりと蛇行する。
「ご、ごめん、なんだっけ」
「いや、サークルのことなんですけど……」
 もう一度言う。
「――そっかぁ」
 朋美さんは、ハンドルを握り直して優しげな微笑みを浮かべた。
「いっちゃんが釣りにハマっていってるのが、アタシは嬉しい」
 そうして、今より自信を持てるようになったら、今はまだ聞きにくいことも尋ねられるようになったり、気持ちを伝えることもできるような気がしていた。
「でも合わないと思ったら、続けることはないからね」
 僕は頷く。
「あと男には気をつけなよ」
「僕も、男ですよ」
 僕だって朋美さんを想って悶々とするし、その想像で『男』の処理をしたこともある。
 朋美さんが運転しながら、僕の頭を撫でてくる。
「樹くん――いっちゃんは別」
 別、って、男として見てないってこと?
 落ち込みそうになった気持ちが、朋美さんの一言で急上昇する。
「樹くんは、特別」
 僕たちの街が、見えてきていた。
 局を出てもっと早くこの話をすればよかったと思うけど、ふと見る朋美さんの横顔はまた、何かに意識を取られているように憂いを帯びているような気がした。


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