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6 戦慄の身内バレ、そして彼女の秘密
6-6 そして、彼女と
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◆◇◆
数日後。
大学で、僕は朋美さんと再会した。
朋美さんはパーキングから病院に直行してから数日、入院していた。
僕は簡単な検査だけで泊まることもなく、そこからは警察に事情聴取されることになった。
男たちは僕に恨みを持っていて、そのくせ朋美さんを犯すことを目論んで、仲間を増やして品川のデイリーマンションを見張っていたのと、横須賀で拉致するのに別れて、朋美さんが一人で帰ったあの日の翌朝についに実行したらしい。
朋美さんは少し前からストーキングされていることに気付いていて、しかし自分ひとり我慢していればいいのでは……と、誰にも言わないでいたらしい。
蕪井さんはそのことで「何のための事務所だと思ってるの!」と朋美さんを叱った。
僕はこの日は、膝丈のワンピースの上にカーディガン。朋美さんはノースリーブのブラウスとミニスカート。
「樹くん……」
ちゃんと聴くのは久しぶりの、朋美さんの声。
「本当にごめんなさい。どう謝っても謝りきれないけど、でも――」
「朋美さん――いいんです」
そう思っていた。
あの時車の中で朋美さんを見た時、僕はあらためて思った。
この、真面目で不器用な、ギャルを装った彼女が――やっぱり、好きだ。
それに、研究対象になっていることは気分を害することじゃなくて――
「最初は確かに、興味本位だった。でも、前に守ってくれた時から、それだけじゃなくなってた。男の人は苦手だけど、樹くんといると安心できた」
大学の構内に人は少なく、芝生になっている広場に、僕と朋美さんはいた。
「一人でいるしかなかった私の世界に光を差してくれた樹くんには、ちゃんと研究のこと言わなきゃって思ってた――けど、樹くんに嫌われるのが怖くて、ずっと言い出せなかっ――」
「朋美さん」
止めると、朋美さんは戸惑った顔を見せる。
「樹くん?」
あの場で男に詰められた時、僕はあらためて思った。
「僕は、朋美さんの――研究の、力になりたい」
朋美さんが目を丸くした。
「最初はショックでした。でも、よく考えたらそれは怒ったり嫌がったりすることじゃなくて、一緒にやっていくことなんだって思ったんです」
聞かされてないのは確かにちょっと……と苦笑すると、朋美さんも表情を崩す。
「ありがとう、樹くん。それでね、私は樹くんのことが――」
もう一度遮る。
僕から言いたい。
「朋美さん――好きです。
僕は、ずっと怯えてたんです。僕一人、空回りしてるんじゃないかって。朋美さんはもっと、男らしい――ユキさんみたいな人がいいんじゃないか、小柄だし女装の方がいいなんて思ってる僕のことは妹みたいに見てて、僕がこんな気持ちを打ち明けたら迷惑なんじゃないか、って」
「ううん」
朋美さんが首をゆっくり、横に振った。
「どうしていても、樹くんは、樹くん――私の一番、大切な人。
私も、樹くんのことが、好き」
近付く。
「これからもずっと、朋美さんといたい。朋美さんと同じ道を、進みたい」
そう、気付いた。
『男だから』『女だから』と単純に見るのではない、朋美さんは、そのための道筋を究めようとしている。
そこに、その道に、僕も共にいたい。
「朋美さん――僕の、彼女になってください」
「ズルい。樹くん――私から言いたかった」
抱き寄せられて、泣き笑いの顔が近くなる。
「私、樹くんの彼女になりたい。こんな大女がイヤじゃなかっ――」
朋美さんの言葉を、ふさぐ。
唇で。
温かくて、柔かくて、甘い唇に、僕は少し背伸びして、自分のを届かせる。
しっかりと重ね合う。
気持ちを確かめ合う。
愛おしい人と。
数日後。
大学で、僕は朋美さんと再会した。
朋美さんはパーキングから病院に直行してから数日、入院していた。
僕は簡単な検査だけで泊まることもなく、そこからは警察に事情聴取されることになった。
男たちは僕に恨みを持っていて、そのくせ朋美さんを犯すことを目論んで、仲間を増やして品川のデイリーマンションを見張っていたのと、横須賀で拉致するのに別れて、朋美さんが一人で帰ったあの日の翌朝についに実行したらしい。
朋美さんは少し前からストーキングされていることに気付いていて、しかし自分ひとり我慢していればいいのでは……と、誰にも言わないでいたらしい。
蕪井さんはそのことで「何のための事務所だと思ってるの!」と朋美さんを叱った。
僕はこの日は、膝丈のワンピースの上にカーディガン。朋美さんはノースリーブのブラウスとミニスカート。
「樹くん……」
ちゃんと聴くのは久しぶりの、朋美さんの声。
「本当にごめんなさい。どう謝っても謝りきれないけど、でも――」
「朋美さん――いいんです」
そう思っていた。
あの時車の中で朋美さんを見た時、僕はあらためて思った。
この、真面目で不器用な、ギャルを装った彼女が――やっぱり、好きだ。
それに、研究対象になっていることは気分を害することじゃなくて――
「最初は確かに、興味本位だった。でも、前に守ってくれた時から、それだけじゃなくなってた。男の人は苦手だけど、樹くんといると安心できた」
大学の構内に人は少なく、芝生になっている広場に、僕と朋美さんはいた。
「一人でいるしかなかった私の世界に光を差してくれた樹くんには、ちゃんと研究のこと言わなきゃって思ってた――けど、樹くんに嫌われるのが怖くて、ずっと言い出せなかっ――」
「朋美さん」
止めると、朋美さんは戸惑った顔を見せる。
「樹くん?」
あの場で男に詰められた時、僕はあらためて思った。
「僕は、朋美さんの――研究の、力になりたい」
朋美さんが目を丸くした。
「最初はショックでした。でも、よく考えたらそれは怒ったり嫌がったりすることじゃなくて、一緒にやっていくことなんだって思ったんです」
聞かされてないのは確かにちょっと……と苦笑すると、朋美さんも表情を崩す。
「ありがとう、樹くん。それでね、私は樹くんのことが――」
もう一度遮る。
僕から言いたい。
「朋美さん――好きです。
僕は、ずっと怯えてたんです。僕一人、空回りしてるんじゃないかって。朋美さんはもっと、男らしい――ユキさんみたいな人がいいんじゃないか、小柄だし女装の方がいいなんて思ってる僕のことは妹みたいに見てて、僕がこんな気持ちを打ち明けたら迷惑なんじゃないか、って」
「ううん」
朋美さんが首をゆっくり、横に振った。
「どうしていても、樹くんは、樹くん――私の一番、大切な人。
私も、樹くんのことが、好き」
近付く。
「これからもずっと、朋美さんといたい。朋美さんと同じ道を、進みたい」
そう、気付いた。
『男だから』『女だから』と単純に見るのではない、朋美さんは、そのための道筋を究めようとしている。
そこに、その道に、僕も共にいたい。
「朋美さん――僕の、彼女になってください」
「ズルい。樹くん――私から言いたかった」
抱き寄せられて、泣き笑いの顔が近くなる。
「私、樹くんの彼女になりたい。こんな大女がイヤじゃなかっ――」
朋美さんの言葉を、ふさぐ。
唇で。
温かくて、柔かくて、甘い唇に、僕は少し背伸びして、自分のを届かせる。
しっかりと重ね合う。
気持ちを確かめ合う。
愛おしい人と。
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