魔法少女まじかる★スクミィ

あきらつかさ

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02 接近遭遇!?

2-1

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 エリーが冷静な早口気味で、昇に話しかける。
「戦い方はわかる?」
「そんな、急に言われても……」
 昇は今にも逃げ出したい体勢を足腰に漂わせていた。
「悠長なこと言ってる暇はないのよ。簡単に言っておくと、この惑星は狙われているの。戦わないとどうなるかわかったもんじゃないのよ」
「そ、そうなの?」
 昇は、女子水着をまとった自分の肩のあたりにいるエリーを見ていた。
「ほら、よそ見しないの!」
 そう言われて昇は、手にしていた杖を構え直す。
「いい? 自分の中にある『魔力』の流れを感じるの。それで――」
「うわあああああっ!!!」
 エリーの声半ばで、昇は飛び出していた。
 小刻みに羽ばたいて対峙している巨蛾に向かって杖を上段に振りかざす。
「ちょっと!」
 エリーの制止も聞こえない様子で、昇は杖で巨蛾に殴りかかっていた。
 ばしゃん、と水音の跳ねたような音が微かに響く。
 杖が巨蛾の翅を叩き、蛾は羽ばたいて昇との距離を取ろうとする。
「このっ!」
 昇はその蛾を追って、なおも杖を闇雲に振り回す。
 昇が振る度に水が跳ねる。
 また、杖が巨蛾をとらえた。
 杖の、先端の石から環を成している水流が巨蛾の翅に降り注がれる。
 巨蛾が地上に落ちてじたばたと暴れる。
「このぉっ!」
 昇は杖を左右に振り、さらに巨蛾を執拗に殴る。
 杖から溢れ出す水が、水溜まりを作ってゆく。
 蛾の姿が、じわじわと縮みだしていた。
 昇が回す杖は蛾を捉えることは少ないが、蛾の表面を何度も流す。
 やがて蛾は普通のサイズにまで小さくなり、昇の作った水溜まりの中で不規則に暴れるだけとなった。
 その様子を見てとったエリーが言う。
「もういいわよ、止めなさい、ヘンタイ少年」
「へっ……あ、あぁぁ」
 水から逃げようともがく蛾の姿に昇は冷静さを取り戻した様子で、ぺたんと尻を落とした。
 内股で座り、立てた杖に体重を預ける。
 水溜まりが広がって昇の股を濡らすが、気にするだけの余力もない顔をしている。
 蛾はようやく水から脱出して、低空を弱々しく飛んで逃げて行った。
「――っ? 誰かいるのっ?」
 エリーが弾かれたように木々の間へ顔を向けるが、何かの出てくる様子はない。
 しばらくそのまま暗くなってきて奥まで見ることの難しい林を見ていたエリーは、探査を諦めたように小さく肩をすくめた。
「ま、いいか。――さて」
 と、昇の正面に回る。
「何て戦い方するのよ、まったく」
 不満たっぷり、といった態度を全身で表しているエリーを昇は見上げる。
「まあ、初めてだし、勝てたからいいけど……そういう使い方をするものじゃないのよ、それ」
「使い方?」
「自分の『魔力』を感じて、って言ったでしょ? その杖は魔力を補助するようになっていて、『魔法』を使うことができるのよ。それをあなたは……」
 言葉の最後を溜息で締め、エリーは目つきを和らげる。
「いつまでそうして座ってるつもり?」
「あ、うん」
 昇は杖を頼りに腰を上げる。
「あの、説明してくれる、って言ってたけど」
「あー、そういえばそうね」
 エリーはもう一度肩をすくめた。
「じゃあ早速――」
「待って」
 昇はエリーの言を遮った。
「場所変えていいかな。それと、この服――変身? って戻れないの?」
 初戦を制したからだろうか、昇にもいくらかの余裕が生まれている表情だった。
 エリーは無造作に杖を示した。
「変身解除でも状況終了でも何でもいいけど、杖から魔法を発動できるわ。もとの状態をちゃんとイメージして唱えるのよ」
 昇は目を丸くしつつも、杖をまっすぐに構える。
 目を閉じて数秒後、静かに言った。
「変身――解除」
 ざあああっ、と水を一気に流したような音とともに、昇はいつもの制服と眼鏡の姿に戻った。変身前は上履きだった靴もスニーカーになっている。
 どこからか現れた彼の鞄が地面に落ちる。
「も、戻れたぁ」
 昇は安堵の息を長く吐く。
 持っていた杖は携帯電話程度の大きさの、楕円形の石――杖の先端で水の円環を結んでいたもののみとなって、昇の手に収まっていた。
「ちなみに、今後変身するときはそのユニットから起動できるからね。毎度毎度水着から発動させるわけにもいかないでしょ」
「――まだ、戦うの?」
 足下の鞄を拾って中身を確認しながら言う昇の口調は不安と不満が混じっていたが、いくぶんの落ち着きも含まれていた。
「それも、あんな格好で?」
「耐衝撃も何もない状態であなたは戦う気? 相手の攻撃の全てを回避できるほど戦闘に長けているとは思えないけど」
 エリーの口調は冷静というより、冷ややかだった。
 昇は明かりに反射してきらめく石を鞄に入れる。
「そうね、言うなれば『あなたは選ばれたのよ、昇』――どう? ちょっとはドキドキしない?」
 エリーの呼び方が変わっていた。
 しかし、昇は不審の嘆息をこぼす。
「確か、浅賀さんに用意した、って言ってたよね」
「当初はね。でも変身できたんだから、昇にも適性があることは間違いないわよ」
 やや柔らかな空気をまとった調子で、エリーは続ける。
「魔法少女の資質が、ね」
「僕は男だよ……」
 すっかり日は暮れていた。
 昇は肩を落とし、裏山の山道を降りはじめる。
 エリーがゆるゆると漂って、昇の横に位置取った。
 学校敷地を通らずに裏山を降りるルートが先刻昇たちがやって来たのとは別にあり、そちらを使って昇は町へと向かっていた。
「うーん、最初びっくりしたけど、昇は女の子しても違和感ないわ」
 あっけらかんとエリーに言われた昇はさらに落胆の色を浮かべる。
「気にしてるのに……」
「いいじゃない、可愛いわよ」
 エリーはどこか楽しそうに言っていた。
「で、どこに向かってるの? 昇」
「家に帰るんだよ」
 小高い丘に隣接していることもあって、楔学園は町のやや高いところにある。
 住宅地へ続く坂を下ってゆく昇は、すぐ左に目線の高さの合っているエリーを見た。
「色々訊きたいことがあるけど――」
「そうでしょうね。何からにする? それとも私が説明はじめようか?」
 エリーは明るめの静かな調子で言う。
 住宅地は山に近い方がより新興の度合いが強い雰囲気だった。
 昇は横断歩道を渡って小さな公園の脇を通るあたりで、エリーに向かって鞄を開けて示した。
「とりあえず、見られたら恥ずかしいから、家帰るまで入っててくれる?」
 変身が解けたからか、昇の瞳の動揺も薄れていた。
 エリーは目を丸くしてから細め、笑みを浮かべる。
「そう。ま、いいわ」
 言葉とは裏腹にいかにも渋々、といった様子でエリーは昇の鞄に入った。


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